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第六章 【二つの世界】

6-305 あの日の出来事4

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「それで、そのフォールスメモリがどうしたの?」


「そうだね……まぁ、回りくどいこと言ってもアンタには伝わんないだろうから。要は、アタシがこの世界に来るときに持っていた記憶が、”それ”だった可能性があるってことを言いたかったんだよ」


「え?間違った記憶だったってこと?」


「そういうこと……だけど、アタシたちはあっちの世界にいた時、こんな世界があるなんて知らなかったじゃない?」


「うん」


「だからさ……」


そう言ってサヤは、自分がこの考えに至った原因とそれまでの思考についてハルナに説明をする。




フォールスメモリとは、いわば”なかったことがあったかのように頭が記憶している”という状態。
だがそれも、まったくの無から創りだされるものではなく、その記憶にベースとなるものがある。

例えば、『近所の公園に池があり、幼い頃自分はそこに落ちて溺れかけ、そこから水が怖くなった』という誤った記憶だったとする。
これはその時のことを自分が記憶が発達していない時期のことを知っている家族からそう告げられ、この誤った情報を与えられた人物はそれを実際には体験をしていなくても、それが起きた記憶だとして認識してしまうのが、フォールスメモリと呼ばれる記憶。


この誤った記憶の中で、”近所の公園”や”公園の中にある池”も実際に存在しているし、自身も体験から認識をしている。もしかすると、自分自身で記憶を持っている年代においても、”本当に”何度か池に落ちかけたこともあるかもしれない。
だが、実際には”池に落ちたことはない”はずなのに思い込んでしまっているのは、公園や池が確かにそこにあるために実際の事実として記憶されているからだった。


そこで、サヤの頭の中にある記憶について考えた。
”――実際に見たことのない場面や存在に対して誤った記憶として覚えていることがあるのか”ということを。
ある考え方をすれば、予知夢などの非現実的な現象とも考えられなくはない。
それとは別に、元の世界で死にかけた――実際には死んでいた――自分の身体に、何が起きたもしくは何かを”された”という考えにサヤは辿り着いた。



「……だから、一番怪しそうな奴に聞いてみるのがいいんじゃないかって思ったわけ」


「怪しそうな……ひと?」



ハルナは、これまでのサヤの話が分かったようなわからないような状態だった。
それでも、ハルナはこの話のこの先のことについて、聞くことが怖いような感じがしている。
それは、何かさらに大きなことになりそうな気がして……

そんなハルナの気持ちを他所に、サヤはさらに先に進める。




「そう。アンタもアタシも、その存在が近くにいるって話なんだよ、いま」


そう言ってサヤは背中に手を伸ばして、かけている剣の柄を握りしめた。

ハルナはまだ何が起きるかわからないため、背中にかけた盾を直接触ることはせず、それを下げている皮のベルトに手を触れた。


「で……だ。この剣のヤツは、世界を創る能力に長けているんだそうなんだよ」

「こっちの盾は……生き物を創る能力……」


「そう。だからこそ、人の頭の中を覗いて弄るなんて、簡単なことじゃないのかなって考えたんだよ」





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