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第六章 【二つの世界】

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「さ、サヤ様!?」

「どどど、どういうことでしょうか!?」


二人は予測していなかった出来事に、驚きを隠せなかった。

確かにサヤと出会って初めの頃に、そういう話を流れの中でしたことはある。
しかし、ほんのわずかな数週間の中で、それらを忘れてしまうほど仕える主との時間は二人にとっては今までに経験をしたこのない程の楽しさがあった。


そのため、自分たちが忘れてしまっていたことを、自分たちが仕える主人から思い出させてくれたことへの驚きも含まれていた。
反対に、自分たちがその問題を忘れてしまっていたということに対しても恥じる思いもあり、そのような意識から外れた感情のままに声が出ていた。




「二人とも……おめでとう。良かったわね」



二人を指導してくれていたメイドから、そのような言葉を掛けられ、二人はようやく自分たちの起きたことに対して理解し始めていた。

そうして二人は崩れた顔を見合わせ、抱き合い声を抑えながら泣き合った。



この場において、その姿を批判する者は誰もいない。
通常であるならばメイドという立場で、いまも業務中であるにもかかわらず、感情を表に出すことなど許されることではない行動だった。
だが、ここにいる者たちは二人の事情を知っており、今までの苦労を知っている者たちからすれば、その二人の反応を叱ることができる者はいなかった。


二人の感情が落ち着き、周囲を見回すと自分たちに視線が集まっていることに気付いて、顔を真っ赤にしてサヤたちに詫びた。
それを、制したのは指導員のメイドではなく、ステイビルだった。

「二人の状況は、よく聞いている。そのような環境をつくってしまったのは、この国の問題なのだ。二人には、辛い思いをさせてしまったな。これでそなたらの母上にも恩返しができよう」


「す、ステイビル様……」

「ありがとう……ございます。サヤ様……」


二人の顔は再び涙に濡れたが、今度は他のメイドが二人の傍に近付いていきその涙を拭った。
そして、二人の問題が片付いたと判断したサヤは、ステイビルにこの場に来た理由を告げる。



「ちょっと”向こう”に戻ってくるから、何かあったら教えて」


「かしこまりました……その間の調査はわたくしにお任せください。ということは、次のお戻りはまた二週間後辺りでしょうか?」


ステイビルは、サヤがこの世界に訪れてから今日までの間を思い出し、その間隔を提示する。


「そうだね、その間に何もなければいいんだけど……」


サヤはこの世界に来て、何事も無かったことに対して不思議に感じていた。
もしかするともう一つの世界において、何かが起きているのではないかとも感じている。
こればかりは剣の創造者でさえ、実際に行ってみなければわからないという。
しかも一度移動すれば、数週間は移動できない……できなくはないが、実際にはサヤ自身が役に立たないことを考えれば、迂闊に行き来できない状況であった。

とはいえ、サヤにしかこの問題が対応できる者がいない状況で、片方だけの世界を監視するのは危険であった。


こうして、サヤは居心地のよかったこの世界を離れることを決めた。









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