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第六章 【二つの世界】

6-341 女性

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「私は、幸い……いえ。恥ずかしいことに、逃げることができました。ですが、隊員たちの存在が……わからないのです」


「”わからない”……だと?それは、一体どういうことだ?」



ステイビルの言葉には怒りは無いが、ガレムに対して厳しさの色を含ませた。
それは、騎士団における隊をまとめる者として、現場の把握や緊急時の際の判断の能力が問われることになる。
これは騎士団の中でも、隊長クラスには特に求められる資質だった。

それらに合格して得た隊長という地位の者から、”わからない”という報告を聞かされたことに対し、ステイビルは違和感を覚えた。



「それが、よくわからないのですが……お預かりしていた部下たちがいなくなったのは確かなのです」


「……どういうことだ?」



表情を変えずに、アルベルトはガレムにその先を更に説明するように求める。


ガレムは、自分の部下であるその隊員たちのことを”覚えていない”と告げた。
だが、ディヴァイド山脈から逃げ戻った際に、ガレムはすぐに拠点となる施設へと逃げ込んだ。
そこには、自分の部下であった者たちのプレートが壁に掲げられており、そのプレートを見て自分には”知らない”部下がいたのだと認識する。

この世界のガレムは、アルベルトからも部下を大切にしている人物であると評価されていた。
故に、自身の記憶にない部下がいてもプレートという存在で、忘れ去ってしまった部下がいると推測で来た。

このプレートは当日の職務に就く際、決められた場所に掛けていくように部下たちに命じていた。
それは、出退勤の管理の意味もあったが、”何か”起きた際にその存在を確認するために行っていた。
当然その性格上、ガレムは自分に関わりのある部下のことは全員認識していた。

しかし、そのことを何一つ覚えていないということ自体が異常なことだった。
ガレムはその事実を自分以外の者たちにも確認をしたが、”知らない”という返答ばかりだった。



「……以上のことから、私は部下が”消えてしまった”と判断したわけでございます」

「……そうか。ともかくガレムが無事でよかった」



アルベルトは、つい先ほどサヤから聞いた事例と似ている点が多いことから、その原因は共通したものであると考えた。
しかもその直前に見た”女性”……これはきっとアルベルト自身にも身に覚えのある人物であるはずだと。





「ふーん……まぁ、色々と判ってきたことがあるねぇ」


「判ってきた……ですか?」


サヤの言葉にステイビルが、反応するもサヤは腕を組んで目を閉じたまま考えごとをする。
ガレムを含め、その周囲の者たちはこの時間の邪魔をしてしまうと、大きな問題になることもわかっていたため、ただサヤが自分の時間から戻ってくるのを待っていた。

「思い出した……モイス、ラファエルを呼んで」

『は!畏まりました!』


ガレムは、サヤがモイスに対して命令をしていることに驚くも、周囲がそれに対して何も言わないことから、この場に存在している中で最上位のぞんざいであることを認識した。


『……お呼びでしょうか。サヤ様』


そうして、この場に光の塊が人の姿を映し、その中からラファエルの姿が浮かび上がった。






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