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第六章 【二つの世界】
6-489 不安
しおりを挟む「エレーナも……?」
「そうよ。ハルナをあの場所で見つけた時は、ハルナと同じで自分の仲の良かったウェンディアがいなくなったことに落ち込んでいたのよ」
ハルナも久しぶりに聞くその名に、意識が引っ張られて先ほどまでの悲しみの波が引いて行った。
落ち着きを取り戻したような顔つきになったハルナを見て、エレーナは自分のその時の心情を初めてハルナに語った。
昔話の物語のように語るエレーナの話しを、ハルナは夢中で聞いていた。
自分の中にある悲しい気持ちを隠すためと、今のハルナにとって心地のよいエレーナの声を聞くと安心していた。
「……そうなんだ。あの時は、エレーナも大変だったんだね」
ハルナは、いま聞いた内容とそこから二人で対応したスプレイズ家の問題も思い出していた。
それを見たエレーナは、ハルナが迷惑をかけていたという表情をしていると感じ、そのハルナの不安を払しょくしようとした。
「ううん……でも、あの時は、本当に助かったのよ。ハルナのおかげで……家の問題も王選の問題も、東の王国だってハルナがいなかったら今頃どうなっていたか……」
これまで起きたことが、エレーナの頭の中に沸き上がってくる。
その記憶には自分が役に立ったことと、自分たちの力ではどうにもできなかったことも浮かんできた。
だけど、いまこうして何事もなく、自分自身が生きていられるのはハルナとサヤのおかげだという気持ちは変わらない。
それは昨夜の食事後、ステイビルたちと話し合って、再認識したことだ。
その時、エレーナはサヤに対する態度をアルベルトに注意されていた。
そのことを思い出すと、恥ずかしさのあまりに胸が苦しくなるが、サヤが姿を消してくれたことに対して、エレーナはほっとしている。
エレーナは両手でハルナの二つの手を重ねて包み込む。そして、その手の上に、エレーナは自分の額を付けた。
「……ほんと、ありがとう。ハルナ……」
「……エレーナ」
ハルナは、エレーナの後ろ頭を上から見下ろす。
そこには自分のことを、心配してくれていることと、これまでの感謝の気持ちが込められているのがわかった。
「だからお願い……があるんだけど」
「なに?」
「お願いだから、私の前から突然いなくならないで……ね?
「エレーナ……」
ハルナは、エレーナの願いに答える前にその包まれている手を解いた。
「――!?」
エレーナはそのハルナの行動に、身体が一瞬揺れてしまう。ハルナなら、この願いを聞き入れてくれると思っていた。
だが、その答えが返ってくることは無く、自分とつないだ手を離してきた。
そのため、エレーナは下げた頭を中々上げることができなかった、ハルナからお願いを拒否されるのが怖かった……
ハルナは、中々身体を起こさないエレーナの肩に手を当てて、身体を引き起こすように促す。
それを感じたエレーナも、観念してハルナの動きに合わせてゆっくりと身体を起こした。
「ハルナ……」
「……大丈夫。よほどのことが無い限り、エレーナの傍にいるよ。私だって、できればずっとエレーナと一緒にいたいもの……でも……」
「……でも?」
「きっと私はずっと、一人で生きていくんでしょ?……私……それが……怖くって……」
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