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第二章 調停者。
【第一話】 もう一つの、始まりの、はじまり。
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──しろうさぎさん達が魔女子さんに真実を伝えて一週間が過ぎた頃。
ここは人間達の暮らすとある街の中です。
人の行き来が多いこの街では街のあちこちから商売人達の元気な声が聞こえています。
そんなとある街の一角、街のギルドの中からこの物語は始まります。
「──と、いう訳なんですよ。お願い、出来ますかね?」
「ああ、構わない。引き受けよう」
クエストカウンターで会話を交わすのはこのギルドの店主と綺麗な金色の髪をした一人の女性。彼女はその身を白いドレスのような鎧で包んでおり、そんな彼女を他の冒険者達は憧憬の眼差しで見つめていました。
「あああ、ありがとうございます!! さすが、調停者様、助かります!! いえね、最近もっぱら駆け出し冒険者達の出来がすこぶる最悪で。この街まで来たって言うのにまだ新米の域から脱してないんですよ。レベルはそこそこ普通なんですがねぇ。お陰でクエストの消化も進まず依頼は溜まる一方、こちとら商売上がったりです」
「そうなのか?」
「ええ。なんせ最近の駆け出し冒険者達と来たら──」
もの凄い勢いで話をする店主。そんな店主の話によると最近の冒険者達の出来の悪さには一つの共通点のようなものがあるという事なのでした。
「心の、病い?」
「まぁ、大袈裟に言えばそんなとこですかね。これも時代の流れ、なんでしょうかねぇ? 自分に自信がない、自分には出来ない、もう少し簡単なクエストはないのかとせびる奴もいれば、こんな筈じゃなかった、やっぱり自分に冒険者はむいていないと諦める奴までいる始末。もう少し根性見せろってもんなんです、なりたくてなった冒険者なんだろって……なぁ!!」
店主の怒号がギルド内に響くと冒険者達は我先にそそくさと視線を外します。
「まぁ、そう言ってやるな店主。彼等にも彼等なりの事情がきっとあるんだろう。そうやって一方的に頭から怒鳴り散らすのはかえって逆効果だ。店主は冒険者達に強くあって欲しいのだろう? ならば、時にはその声に耳を傾けてあげる事も必要な事だ。時代が流れ人が変わるのなら、店主、あなたも変われば良い。必要なんだろ? 冒険者達が。このギルドのクエストを回す為にもな」
「へ、へい。仰る通りで……さすがは調停者様、私程度の器じゃてんで相手になりやしません……」
「いや、そうでもないさ。私もその話は今日初めて聞いたからな。実際にこうやって生の声を直接店主から聞けたことは収穫だ。『心の病い』……か。わかった、このクエスト達を片付けたら私もその件について調べてみよう。簡単に彼等に耳を傾けられないのは店主の威厳もあるのだろうからな」
「……全くで。全てお見通しとはまだ若いのに大したお人だ」
「では、私はクエストに行って来るよ。報告は全て片付けたらまとめて行う。それで良いな?」
「へい、構いません。要らない心配でしょうが、どうかご無事で、クエストの成功を祈っております」
「ああ、ありがとう」
そう言うと颯爽とギルドを後にする調停者と呼ばれていた女性。彼女はギルドを出ると立ち並ぶ家の間を入り口の方へと歩きながら誰も居ない筈の空間に向かって呼びかけます。
「行こう、クロエ。近くに居るんだろう?」
するとその言葉に反応する様に街の家の屋根の方から彼女の元へと向かって降りてくる黒い影。その影は歩く彼女の横に丁度降り立つとそのまま同じく歩き出します。
「──それで、アナスタシア。今回のクエストは一体どんな感じなんだい?」
「今回のクエスト? それは……うん。後で話すよ」
「そうかい。それで大体わかったよ。今回もアナスタシアは掛け持ち沢山って事だね」
「……まあ、そんなところだよ……」
先程までの凛々しさはどこへやら。
アナスタシアと呼ばれた若い女性はその口調と表情を緩めます。
そして、その横にはしろうさぎさんと似た本をその手に持った、長い耳の真っ黒い動物。
その名を『クロエ』と呼ばれた黒いうさぎ。
しろうさぎさんと瓜二つの姿をした、くろうさぎさんの姿があったのでした。
ここは人間達の暮らすとある街の中です。
人の行き来が多いこの街では街のあちこちから商売人達の元気な声が聞こえています。
そんなとある街の一角、街のギルドの中からこの物語は始まります。
「──と、いう訳なんですよ。お願い、出来ますかね?」
「ああ、構わない。引き受けよう」
クエストカウンターで会話を交わすのはこのギルドの店主と綺麗な金色の髪をした一人の女性。彼女はその身を白いドレスのような鎧で包んでおり、そんな彼女を他の冒険者達は憧憬の眼差しで見つめていました。
「あああ、ありがとうございます!! さすが、調停者様、助かります!! いえね、最近もっぱら駆け出し冒険者達の出来がすこぶる最悪で。この街まで来たって言うのにまだ新米の域から脱してないんですよ。レベルはそこそこ普通なんですがねぇ。お陰でクエストの消化も進まず依頼は溜まる一方、こちとら商売上がったりです」
「そうなのか?」
「ええ。なんせ最近の駆け出し冒険者達と来たら──」
もの凄い勢いで話をする店主。そんな店主の話によると最近の冒険者達の出来の悪さには一つの共通点のようなものがあるという事なのでした。
「心の、病い?」
「まぁ、大袈裟に言えばそんなとこですかね。これも時代の流れ、なんでしょうかねぇ? 自分に自信がない、自分には出来ない、もう少し簡単なクエストはないのかとせびる奴もいれば、こんな筈じゃなかった、やっぱり自分に冒険者はむいていないと諦める奴までいる始末。もう少し根性見せろってもんなんです、なりたくてなった冒険者なんだろって……なぁ!!」
店主の怒号がギルド内に響くと冒険者達は我先にそそくさと視線を外します。
「まぁ、そう言ってやるな店主。彼等にも彼等なりの事情がきっとあるんだろう。そうやって一方的に頭から怒鳴り散らすのはかえって逆効果だ。店主は冒険者達に強くあって欲しいのだろう? ならば、時にはその声に耳を傾けてあげる事も必要な事だ。時代が流れ人が変わるのなら、店主、あなたも変われば良い。必要なんだろ? 冒険者達が。このギルドのクエストを回す為にもな」
「へ、へい。仰る通りで……さすがは調停者様、私程度の器じゃてんで相手になりやしません……」
「いや、そうでもないさ。私もその話は今日初めて聞いたからな。実際にこうやって生の声を直接店主から聞けたことは収穫だ。『心の病い』……か。わかった、このクエスト達を片付けたら私もその件について調べてみよう。簡単に彼等に耳を傾けられないのは店主の威厳もあるのだろうからな」
「……全くで。全てお見通しとはまだ若いのに大したお人だ」
「では、私はクエストに行って来るよ。報告は全て片付けたらまとめて行う。それで良いな?」
「へい、構いません。要らない心配でしょうが、どうかご無事で、クエストの成功を祈っております」
「ああ、ありがとう」
そう言うと颯爽とギルドを後にする調停者と呼ばれていた女性。彼女はギルドを出ると立ち並ぶ家の間を入り口の方へと歩きながら誰も居ない筈の空間に向かって呼びかけます。
「行こう、クロエ。近くに居るんだろう?」
するとその言葉に反応する様に街の家の屋根の方から彼女の元へと向かって降りてくる黒い影。その影は歩く彼女の横に丁度降り立つとそのまま同じく歩き出します。
「──それで、アナスタシア。今回のクエストは一体どんな感じなんだい?」
「今回のクエスト? それは……うん。後で話すよ」
「そうかい。それで大体わかったよ。今回もアナスタシアは掛け持ち沢山って事だね」
「……まあ、そんなところだよ……」
先程までの凛々しさはどこへやら。
アナスタシアと呼ばれた若い女性はその口調と表情を緩めます。
そして、その横にはしろうさぎさんと似た本をその手に持った、長い耳の真っ黒い動物。
その名を『クロエ』と呼ばれた黒いうさぎ。
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