メイド・イン・メイド~機械仕掛けの恋人~

ゴサク

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メイドアンドロイドの「アミィ」です!

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 …………

 私がこうなってからどれ程の時が経ったのだろうか。脳裏に浮かぶのはあの人の笑顔、あの頃の記憶がとても懐かしい。
 
 それは気を緩めれば千切れて消えそうなおぼろげな記憶。私は必死に記憶を繋ぎ止めるよう意識を巡らせる。

 私は大海原を彷徨う浮舟のよう、行く宛もなく、目指す目標もなく、ただただ波に翻弄される。

 誰もいない、何も見えない、何も聞こえない、誰かの返事を求めて叫びだしたくなる、叫んだって答える声は無いのに。

 それでも私は待っている、いつか来る再開の時を信じて。信じる心を忘れなければ必ず会える、私が愛した、あの人に。

 あの人は元気にしてるだろうか。あの人は笑って日々を過ごしているだろうか。あの人は私を待っていてくれているだろうか。いや、待っていてくれなくてもいい、あの人が幸せなら、それでいい。

 それでも一度だけ、ただ一度だけ、この想いだけは伝えたい。その時のためだけに私はずっとになってまで生きてきた。

 だから私は待っている。あの人とまた会える日を、待っている。

 …………

 『アンドロイド』。それは人間と同じように自分でものを考え、行動することができる人造機械生命体。
 
 時は2xxx年。現代社会は人間とアンドロイドが当たり前のように共存し、労働、娯楽、教育などの多分野でアンドロイドが人間と同じように社会に溶け込む時代になった。

 所有者に依るところではあるものの、アンドロイドの社会的な権利も保証されており、アンドロイドは、もはや『第二の人類』と言ってもいいだろう。

 そんななか、世は空前絶後のメイドアンドロイドブーム! 今や『一家に一人、メイドアンドロイド』といっても過言ではない。

 現代は家事の必要もないくらい専用のマシンが普及しているんだけど、ここ数年では人間味に特化した家事専門のメイドアンドロイドに世話をしてもらうのが巷で大人気になっている。全く、いつの世も何が流行るかなんて解らないものだな。

 かくいう俺も、そんな流行の波に押されてようやくメイドアンドロイドを購入することができた。俺のような一般的なサラリーマンからしたら相当の出費だけど、思いきってローンを組んで買ってしまった。

 最近のメイドアンドロイドは、自分好みにカスタム出来るっていうから堪らない。もちろん俺も自分の欲望のままカスタムしまくった。それなりの料金は取られたけど、欲望を小出しにするのはよくない。

 自分好みのメイドさんにあれやこれやお世話してもらえるなんて、本当にいい時代になったものだ。欲望に忠実な男達が増え、出生率が下がったなんて話もあるけどそれはそれ、どうせ俺には無縁な話だ。

 配達予定は今日の15時。現在時刻、15時38分53秒。待ち遠しくて俺は玄関で正座待機中だ。

 しばらくすると、玄関の外からチャイムの音がした。ようやく来たか! 俺は勢い良く立ち上が……れない。

「ぐわぁああ!!」

 正座で足がしびれてその場で悶える。何をやってるんだ、俺。宅配員が不在票をぶちこむ前に立ち上がらなくては。

「はいはい、今出ますよ~」

 何とか小鹿の様に立ち上がった俺は、宅配員から荷物を受け取った。妙な動きをする俺を、配達員は怪訝そうな目で見ていた。

 …………

 俺は縦長の大きな段ボールをリビングまで運び、床に置いた。その神々しいまでの佇まいに、否が応にも期待が高まる。

「さて、これより開封の儀に入る」

 俺は段ボールを継ぎ目に合わせてカッターナイフでぶったぎる。中のメイドさんを傷付けないように、慎重に、慎重に。ついにメイドさんとのご対面の時、俺のテンションはかつてない程高まっていた。
 
 そして、キレイに切断された段ボールが開かれる。そこには真っ白な緩衝材に包まれた少女型のメイドアンドロイドが横たわっていた。その姿はまるで純白の雪の中で静かに眠っているようだ。

「……ビューティフル」

 思わず声が出た。それほどまでにそのメイドさんの姿は俺の心を鷲掴みにした。

 そのメイドアンドロイドはおかっぱ頭で髪は薄い青色。その透き通るような青はまさに地中海のオーシャンブルー。メイドさんといえばおかっぱ頭、これだけは譲れない。

 身長は140センチ程のちっちゃいメイドさんだ。

 『ちっちゃいことはいいことだ』

 これは俺の人生哲学、誰にも曲げることはできない。

 その肌は、段ボールに詰まっている緩衝材に負けないほど白く、そのきめ細かさといったらまるで眠りに落ちた白雪姫だ。

 服はもちろん王道を往くクラシカルなメイド服。最近は様々なアレンジを加えたメイド服があるようだけど、俺に言わせればあんなものは邪道だ。シンプルイズベスト、素晴らしい言葉だと思う。

 これよ、これですよ。まさにこれが俺の理想のメイドさん。今すぐ抱きつきたい。頭をなでくり回したい。そんな逸る気持ちを押さえながら、俺は取扱い説明書を取り出した。

「え~っと、取り敢えず、起動は……」

『起動スイッチは胸の鳩尾辺りにあるよ』

 何か気さくな取扱い説明書だな。いきなりメイドさんをまさぐるのは気がとがめる。しかし、ここで引いては男じゃない。

「それでは、御免!」

 俺はメイドさんをまさぐる。やましい気持ちはない、これは仕方のないことなんだ。もう一度自分に言い聞かせる。やましい気持ちは、ないんだ。
 
 ちなみにメイドさんのスリーサイズはバスト72、ウエスト52、ヒップ77。吟味に吟味を重ねた俺の珠玉の黄金比だ。スリーサイズってのは何もデカければいいってもんじゃない。いや、むしろ小さいからこそ感じることが出来る『侘び』の精神って奴があるってもんだ。

 俺が起動スイッチを押すと、メイドさんが目を見開いた。その目は深いブルーのくりくりおめめ。その輝きはまさにサファイア……あぁ、堪らんぜよ。

 そして、メイドさんが段ボールから体を起こし、二本足で立ち上がった。そして体に付着した緩衝材を払い終え、メイドさんがこちらを向いて、ニッコリと笑いながら言葉を発した。 

「はじめまして! ご主人様! 私は『MID-0796型 アミィ』と申します!」

 メイドさんの淡いピンク色の唇から発せられるその声は、甘えるようなソプラノボイス。これからはこの声で毎朝起こしてもらえるのか。あぁ、耳が幸せでとろけてしまいそうだ。

「ご主人様のお名前を入力してください!」

「俺の名前はひびき 恭平きょうへい!! 宜しく!!」

 そりゃ声もデカくなりますとも。これで俺は正式に『ご主人様』になった訳だ。

「ユーザー登録完了しました! これから末長く宜しくお願い致します! ご主人様!」
 
 これが俺とアミィとの出会いだった。さあ、今日が俺の人生の再スタートだ。俺は目の前に笑顔で立つアミィを眺めながら、これから始まるアミィとの共同生活に希望を膨らませていた。

 ………

 こうして出会った恭平と『一人目』のアミィ。二人の運命はこの出会いをきっかけに大きく動き出すことになる。

 これから二人を巻き込んでいく出来事は、恭平が生きてきたなかで一番辛かった思い出を精算する出来事であり、世界を強大な危機から救う出来事であり、二人の男と一人の女の因縁にけりをつける出来事でもあった。

 しかし、今の二人にはそのような出来事に自分達が巻き込まれていくことなど知る由もなかった。しかし、その片鱗は近い将来、とある偶然によって現れることになる……
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