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33話  おいていかないで

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やっぱり…前世を思い出させるなんて

無理だったんだろうか…?



作戦も何もなくなって

絶望すら感じ始めて、諦めかけていた時


それは起こった!!





『陽向っ!!』


突然の事で、気が付いたら俺は大声を上げていた。


その日は、新曲のフリ入れがあって、メンバー全員でダンスをしていた。


いつもとなんか違う陽向を目で追っていた時だった。

陽向が突然倒れて、俺は大声で叫んでいた。


その場にいた全員の視線が俺に集まって

その後、陽向に移る。


いつもよりキレのないダンス…


それは、体調の悪いサインだった


『陽向っ!ひなたっ!!』


『あっ…ごめんっ…なんかっ…力…入らなくて…』

おでこに触れると、熱くて…


熱があるのが直ぐにわかった。


『誰かっ!救急車呼んでっ!!』

陽向を抱きかかえたまま、俺は叫んで


翔吾が
『わかったっ!』
直ぐに電話をかけていた


そのあと、マネージャーやスタッフが駆けつけて

レッスン場はバタバタとしていた


そんな事お構いなしに

俺は、ひたすら陽向の手を握って、陽向に呼び掛けた。


『ひなたっ!わかる?…だいじょうぶ?…陽向っ!』

俺の声とスタッフがバタバタと走り回る音が、レッスン場に響いていた。


しばらくして、救急車が到着して陽向は担架で運ばれて

翔吾にその場を任せて


俺も陽向と一緒に救急車に乗り込んだ


額や顔は驚くほど熱いのに…

握った手はどんどん冷たくなっていって


前世のあの状況とリンクする


病で死んでいくその手を握っていたあの状況とリンクして

俺は


『ひなたっ!…俺を…おいていかないでっ…』

『もうっ…おいていかないでっ!!』


って、その手にすがりついた


陽向は一瞬瞳を開いて


俺を見た


俺を見つめて…


力なく俺の手を握り返した


…っ…いつもみたいに…馬鹿力で握り返してよっ…

痛いって思うくらいに…握り返せよ…


じゃなきゃ…

俺…


陽向のその手を両手で包んだ


頭の中はフラッシュバックされた前世の記憶に支配されて

前世と今世が入り乱れた、混乱状態だった



俺が、正常な判断をできる様になったのは

真っ白なシーツと真っ白な壁

陽向の腕には点滴がされていて、酸素マスクがされていた病室だった



眠ったままの陽向の手をぎゅっと握りしめた


『なにかあれば、ナースコールでお知らせください』
そう言って、看護師は病室を去っていった


ふたりきりになった病室で

俺は
『また…俺を…おいていくの?』

小さな声で呟いた。


もう…俺を置いていかないで…

やっと思い出したのに…


何一つ陽向としていない!!

思い出もっと作らなきゃ…次にまた出逢えるように…



『おいて…いかないで…』


もう二度とあんな思いはしたくない。


前世の記憶が鮮明に蘇る。


握った手に力が入って…

大粒の涙が溢れ出す


次から次へと、頬を伝って、拭う暇なんて無いくらいに溢れ出す。




『もう…二度と…あんな思いは…したくない…』


『おいていかないで…』


ブツブツとひとり呪文の様に唱えてた。



すると、

『……ひー…く…んっ…泣か…な…いで…。』

掠れた声が、微かに聞こえた。


酸素マスクの中に籠った陽向の声が微かに聞こえて


『ひなたっ!!』


俺はその手をぎゅっと握った。


『…ひー…くんは…泣き虫…なんだから…笑ってた方が…いいな…』

『わかったっ。笑ってるからっ!…俺を泣かせないで…くれよ…』


『…今日の…ひー…くん…。素直…だね…。』


『いつも素直だって!!』


そんな会話さえ嬉しかった。



例え、陽向が前世を思い出せなくても

生きていてくれれば…もう…それだけでいいと思った。


もう…陽向を…失いたくないっ!!


『ほんとに…良かったっ…うっ…』

涙が言葉を遮って

何も伝えられないけど…


それでもいい。


陽向がここに生きていてくれれば…それで…いい。

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