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I can't stand myself
⑦
しおりを挟む侯爵side
長男のタオレットからあの子が酷い怪我と高熱で倒れたと聞いて、私は己の卑小さに吐き気がした。
妻は国で一等美しい人物と言われており、幼い頃から周りの欲望に振り回されていた。
結婚し、無事にタオレットも生まれ、妻に手出する者も減ってきていたことから警備の手をゆるめた途端に妻は下郎に攫われた。
やっと見つけた時には1年の時が流れていて、妻は下郎の子供をその身に宿していた。
始めは妻も私も子に罪は無しと、生まれた子供をタオレットと変わりなく愛するつもりだった。
しかし、生まれてきた子供を見た時、妻のでも私のでもない瞳の色を見て耐えようのない嫌悪感を覚えた。
妻は日に日に弱り、精神的にも子供を傍に置くことは出来なかった。
生まれて間もない子を離れ追いやって、私はあの子の存在が見えないように目を背けた。
その結果
13年もの間、目の前の子は自分の名前すら知らずに…人に触れられたことを驚くような子になっていた。
自分が私達に受け入れられなくて当然だと思っているようで、抑えきれず溢れる罪悪感のまま頭を下げ懺悔する私をリスィは不思議そうに首を傾げて見ている。
何故私がリスィに謝るのか、心底分からないという様子に胸の痛みが増していく。
リスィからしてみれば、今更だ。
13年間放置され、周りから悪意を向けられる日々をたった一人で耐えてきた。
助けてくれる手など、どこにもなく…赤黒く変色し腫れ上がる怪我をしても泣くことも出来ない…そんなリスィに今更私が謝ったとこらで、この子の今までがなくなる訳ではない。
「ぅぅ…僕、何も…僕、僕がごめんな、さい!僕が、僕が生まれて…ごめんなさい!」
頭を下げる私にどうしたらいいのか分からなかったのだろうリスィは、シーツの中から飛び出て、床に蹲り何度もごめんなさいを繰り返す。
人との関わりが少なかったリスィがこの様な格好で謝るのは、きっと過去にそうするように教えられたからだ。
まるで、重罪人のように。
「リスィ…リスィ、すまない…すまない」
情けなく涙を流す私をリスィは困った顔で首を傾げて見ていて…そんなリスィを見て溢れる涙が止まらない。
この子は愛されることどころか、優しさすら知らないのだ。
「リスィ…私と一緒に暮らそう。侯爵家には戻らず、街に家を借りて二人で暮らしてみよう」
「?なぜ、ですか?侯爵様、と僕?」
侯爵様と呼ばれて、ぐっと下唇を噛む。
「リスィ、私のことは今後父上と呼ぶように。そして、私はこれからリスィの事をもっと知りたい。だから一緒に暮らしたいんだ」
小さい何も知らない子供に教えるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「父、上?僕は…罪人の、混血です。侯爵様、を父、上…呼んだら、駄目、です…折檻を受けます」
リスィの口から出てきた言葉に言葉を失った。
今までこの子は、何度も叩かれてきたのだ。
そうなるようにしてしまったのは、間違いなく私が原因。
「折檻は受けない。リスィ、私からのお願いだ。私を父上と呼んでくれ」
「…は、ぃ」
納得はしてなさそうだが、私がお願いだと言うと渋々頷いた。
首を何度も傾げて、「父、うえ?」と確認するように口にする。
今更なのは分かってる。
遅すぎることも。
だけど、何もしなければ何も変えられない。
今更だとしても、私はリスィと向き合わなければならない。
Side end
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