短編集【5話執筆中】

薄明 喰

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I can't stand myself

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ヴィル王子は、侯爵家の近くの大きめの家に滞在しているらしく、ほぼ毎日侯爵家へとやって来た。


僕もヴィル王子が滞在している期間は婚約者としてヴィル王子に付き合わないといけないみたいで、侯爵家にお泊まりしてて、父上達はよく「ヴィル王子さえいなければ良い状況なのに!」と歯をぎりぎりとさせている。




父上は僕とヴィル王子の婚約を勧めた本人であるのに、何故ヴィル王子の滞在を良く思わないのか謎である。







ヴィル王子はよく僕に何が好きで何が嫌いなのかと問うてくる。

好きなものの話で、僕はこっそりと母上や父上、兄上やレオレイルの声を聞くのが好きだと話した。



侯爵家に泊まっている今でも、僕は時々、僕が居た離れに行って庭の草や木の影に隠れて母上達の穏やかで優しい声を聞くのが好き。

そうする度に皆に探されて、あの穏やかで優しい声の中に僕を引いていこうとするのだけど…僕はそれが嫌だという話もした。




僕はあの心地の良い世界を壊したくない。
僕が入ると壊れてしまうから行きたくないのに、母上や父上達はそれを理解してくれない。



「リスィの誰にも譲れない大好きなものなのだね」

「譲れない…大好き」


譲れないっていうのは、どうぞって出来ないってこと。


そう。

僕はあの声が聞こえる時間を誰にも邪魔されたくないし、壊れて欲しくない。




うんうんと頷く僕にヴィル王子はニコニコ笑う。


「じゃあ、今度私も一緒にその時間を過ごさせて。絶対に邪魔しないし、リスィが連れて行かれないようにする」

「…うん。いいよ」



一緒には嫌だなって思ったけど、絶対に邪魔しなくて、僕があの空間に引っ張って行かれそうになったら止めてくれるっていうなら、とヴィル王子に頷く。







その後、何度か僕の大切な時間にヴィル王子が着いてきたけど、約束通りヴィル王子は僕に話をかけてきたり騒がしくしたりしないでいてくれたし、僕を連れ出そうとする父上達を止めてくれた。


ヴィル王子とは兄上やレオレイルがいなくても一緒にお茶をするようになって、僕は気がついたらヴィル王子の膝の上に座ってお話するくらいには仲良しになった。





婚約者が仲良しなのはいいことだって聞いてたのに、僕とヴィル王子が仲良しだと何故か父上達が顔を顰める。

何でだろう?とヴィル王子に聞いてみたら「皆リスィと仲良しになりたいのに私が皆よりもリスィと仲良しになったからだよ。これを嫉妬って言うんだ」って教えてくれた。




嫉妬っていうのが、どういう気持ちか分からないと言うと「私がレオレイルばかりを可愛がったらリスィはどう思う?」と尋ねられて、僕は首を傾げた。


ヴィル王子がレオレイルと仲良しなのが想像出来ないくらい、2人は仲良しではないと思う。

何故かレオレイルが凄くヴィル王子を怖がってるんだ。



だけど、本を読む時のように、ヴィル王子とレオレイルが仲良しなところを想像してみる。



「…何だか、喉がぎゅってなる」


「あぁ…ごめんよリスィ。君は寂しくなってしまうんだね」


「寂しく?」



想像して現れた体の変化をヴィル王子に伝えるとヴィル王子は僕を更に強くぎゅっと抱きしめて、ちゅっちゅと頬にキスをしてくる。


されるがままになりながら、遥か昔に同じように喉がぎゅっとして呼吸が苦しい時があったことを思い出す。




これが『寂しい』って感情なんだ。







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