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犯罪者
②
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精神科に入院することになった三上はそこで自分を担当した関田という医師から告白を受けた。
三上はまさか親を殺そうとした自分を好きだという人間がいる等とは微塵も思っていなかったので驚いた。
それから告白した関田は同性である男だった為、更に驚いた。
三上は人を好きになったことがなかった為、自分が異性愛者だとか同性愛者だとかを考えたことはなかったが、関田からの告白に拒否感は抱かなかった。
だからと言って自身が同性愛者なのかと問われたら…それは少し違うような気がする。
しかし、自分は両親を殺そうとした犯罪者であり、自殺に失敗し精神科に入院するような不良物件。
そんな自分を好いてくれる人がいるということは素直に嬉しいが受け入れられなかった。
こんな人間として欠陥まみれの自分と一緒になったところで相手が傷つくことになることは目に見えていたし、何よりもこんな自分を好きだと言ってくれる人を自分はもしかしたら殺してしまうかもしれない可能性を想像すると恐ろしかった。
断っても断っても関田は何度も色んな方法で三上に愛を囁いた。
偶に死へ向かってしまう三上を何度も止めて、一生懸命に自分を生かそうとする関田に三上は段々と心を許すようになった。
そして、三上が病院を退院する日関田は私服で三上を迎えた。
戸惑う三上を車に乗せ、自宅に招き、そして鍵を渡した。
「僕と一緒にこの残酷な世界を生きてほしい」
そう言って、関田は三上の唇に優しくキスをした。
三上はどんな反応をしたらいいのかも、どんな言葉を返したらいいのかも分からなかった。
でも、目からはぽろぽろと涙が零れ落ち今すぐ目の前の自分よりも大きく逞しい体に抱きつきたくなった。
半年ほど2人は共に過ごし、パートナーシップ制度を導入している所へ転居した。
日本という国はもっと深刻な問題を沢山抱えているだろうに、同性婚という些細な事に意味が分からないほど慎重だ。
出生率が低下する?
そんなもの、同性婚を認めていない今でも低下しているというのに何を言っているのか?と三上は首を傾げざるおえない。
三上にとってこの世界は小さい頃からそういう世界だ。
大きな問題に目を向けず、些細なことに過剰に反応して、訳の分からないことで騒いでいる。
意味が分からなさすぎて腹が立ち、そして全てを壊したくなるような衝動を抑えこみ虚無になる。
パートナーであり医師である関田はそんな三上をとても利口で繊細な神の使いだと大げさなことを言う。
もちろん、神の使いなんて言葉は冗談なのだが、関田は繊細すぎる三上は愚かな人間の進退を見極める為に神が下した化身なのでは?と考えたことがある。
関田自身も救いのない人間社会にうんざりしている人間であった為、三上の世界へ向ける怒りの感情に共感できた。
関田も三上も結婚という形をとれないことに何も思わないではないが、そんなことは些細なことだとも思っている。
書面上の勝手に人間が作った制度だ。
他の生き物達は、そんな紙切れなんてなくても好きな者と番っている。
恋人であることを少しも隠さない二人を指さす者はいるが、そんな奴の言葉と態度に傷つく必要も構う必要もない。
しかし繊細な三上は定期的に悪感情を向けられていることに強いストレスを抱え爆発するので、関田はもう少し人の少ない地で暮らすことを選んだ。
田舎すぎては逆に注目の的になって陰湿ないじめを受ける可能性もあったため、都心から少し離れている静かな所にした。
そこはパートナーシップ制度が取り入れられており、再申請もスムーズに行えた。
程よい人口密度にそういった制度があることから引っ越した土地には同性のカップルが多くいるように見られたし、そこに住まう人々も同性カップルに対して過剰に反応する様子もなく、三上の状態も次第に安定していった。
一度どこからか三上の居場所を突き止めた三上の元両親が、後遺症の治療費を請求してきたことがあったが、関田はそのことを三上には告げず、黙って請求額を支払った。
そして弁護人を通じて、再度接触や手紙をよこしてきた場合には社会的報復をしてやると圧をかけた。
関田はまだ若いが、人脈が広かった。
医師として沢山の人と対話する中で、患者の中には大きな権力を持った者も居た。
その者達は自分の苦しみを聞き、献身的に支え治療してくれた関田の力になりたいという者が多く、関田はその人脈を三上を護るためならば躊躇うことなく使った。
過去に犯罪者である三上をパートナーとしたのは何故だと問うてきたものがいた。
そいつに関田はこう答えた。
「他者を全く傷つけずに生きていく者などいません。彼は外面的に殺人を犯し犯罪者と呼ばれるようになりましたが、世の中には内面的な殺人をし、それに罪悪感を抱くこともなくのうのうと生きている者は多くいます。私だって心を治す側の立場にありますが、今まで言葉を誤り心を傷つけてしまった人が多くいます。担当していた患者が命を絶ってしまったこともある。皆誰かにとって犯罪者であると私は考えています」
fin
__________
長編の修正をちょっとずつしながら、短編をぼちぼち更新しています。
新たな話も少しずつ進んでいますので更新まで楽しみにしていただけると嬉しいです。
さて、今回の短編はだいぶ短い話になりました。
本当は一ページで終える予定だったのですが…足りませんでしたw
重たい題材の多い短編ですが、もう少し甘いだけの話も書きたいものです。。。
じゃあ書けよと言われると難しいのですが…どうしても癖がでてしまいますね。
最近テレビで「いじめる側が100%悪い」という言葉をよく耳にします。
いじめで命を絶っている人がいるのだから悪くないとは思っていませんが、100%と言われると首を傾げてしまいます。
いじめられた側ももしかしたらいじめる側を酷く傷つけたという経緯があるかもしれないでしょ?
物理的じゃなくて言葉で。言葉っていつまでも心にささってなくならないんですよね。
だから私は人を傷つけてない人間なんてこの世に存在しないと思ってます。
皆誰かにとっては最悪な加害者なのではないかなっと。
持論です。
このことも少し話にしたくて、そんな思いもこめた短編でした。
三上はまさか親を殺そうとした自分を好きだという人間がいる等とは微塵も思っていなかったので驚いた。
それから告白した関田は同性である男だった為、更に驚いた。
三上は人を好きになったことがなかった為、自分が異性愛者だとか同性愛者だとかを考えたことはなかったが、関田からの告白に拒否感は抱かなかった。
だからと言って自身が同性愛者なのかと問われたら…それは少し違うような気がする。
しかし、自分は両親を殺そうとした犯罪者であり、自殺に失敗し精神科に入院するような不良物件。
そんな自分を好いてくれる人がいるということは素直に嬉しいが受け入れられなかった。
こんな人間として欠陥まみれの自分と一緒になったところで相手が傷つくことになることは目に見えていたし、何よりもこんな自分を好きだと言ってくれる人を自分はもしかしたら殺してしまうかもしれない可能性を想像すると恐ろしかった。
断っても断っても関田は何度も色んな方法で三上に愛を囁いた。
偶に死へ向かってしまう三上を何度も止めて、一生懸命に自分を生かそうとする関田に三上は段々と心を許すようになった。
そして、三上が病院を退院する日関田は私服で三上を迎えた。
戸惑う三上を車に乗せ、自宅に招き、そして鍵を渡した。
「僕と一緒にこの残酷な世界を生きてほしい」
そう言って、関田は三上の唇に優しくキスをした。
三上はどんな反応をしたらいいのかも、どんな言葉を返したらいいのかも分からなかった。
でも、目からはぽろぽろと涙が零れ落ち今すぐ目の前の自分よりも大きく逞しい体に抱きつきたくなった。
半年ほど2人は共に過ごし、パートナーシップ制度を導入している所へ転居した。
日本という国はもっと深刻な問題を沢山抱えているだろうに、同性婚という些細な事に意味が分からないほど慎重だ。
出生率が低下する?
そんなもの、同性婚を認めていない今でも低下しているというのに何を言っているのか?と三上は首を傾げざるおえない。
三上にとってこの世界は小さい頃からそういう世界だ。
大きな問題に目を向けず、些細なことに過剰に反応して、訳の分からないことで騒いでいる。
意味が分からなさすぎて腹が立ち、そして全てを壊したくなるような衝動を抑えこみ虚無になる。
パートナーであり医師である関田はそんな三上をとても利口で繊細な神の使いだと大げさなことを言う。
もちろん、神の使いなんて言葉は冗談なのだが、関田は繊細すぎる三上は愚かな人間の進退を見極める為に神が下した化身なのでは?と考えたことがある。
関田自身も救いのない人間社会にうんざりしている人間であった為、三上の世界へ向ける怒りの感情に共感できた。
関田も三上も結婚という形をとれないことに何も思わないではないが、そんなことは些細なことだとも思っている。
書面上の勝手に人間が作った制度だ。
他の生き物達は、そんな紙切れなんてなくても好きな者と番っている。
恋人であることを少しも隠さない二人を指さす者はいるが、そんな奴の言葉と態度に傷つく必要も構う必要もない。
しかし繊細な三上は定期的に悪感情を向けられていることに強いストレスを抱え爆発するので、関田はもう少し人の少ない地で暮らすことを選んだ。
田舎すぎては逆に注目の的になって陰湿ないじめを受ける可能性もあったため、都心から少し離れている静かな所にした。
そこはパートナーシップ制度が取り入れられており、再申請もスムーズに行えた。
程よい人口密度にそういった制度があることから引っ越した土地には同性のカップルが多くいるように見られたし、そこに住まう人々も同性カップルに対して過剰に反応する様子もなく、三上の状態も次第に安定していった。
一度どこからか三上の居場所を突き止めた三上の元両親が、後遺症の治療費を請求してきたことがあったが、関田はそのことを三上には告げず、黙って請求額を支払った。
そして弁護人を通じて、再度接触や手紙をよこしてきた場合には社会的報復をしてやると圧をかけた。
関田はまだ若いが、人脈が広かった。
医師として沢山の人と対話する中で、患者の中には大きな権力を持った者も居た。
その者達は自分の苦しみを聞き、献身的に支え治療してくれた関田の力になりたいという者が多く、関田はその人脈を三上を護るためならば躊躇うことなく使った。
過去に犯罪者である三上をパートナーとしたのは何故だと問うてきたものがいた。
そいつに関田はこう答えた。
「他者を全く傷つけずに生きていく者などいません。彼は外面的に殺人を犯し犯罪者と呼ばれるようになりましたが、世の中には内面的な殺人をし、それに罪悪感を抱くこともなくのうのうと生きている者は多くいます。私だって心を治す側の立場にありますが、今まで言葉を誤り心を傷つけてしまった人が多くいます。担当していた患者が命を絶ってしまったこともある。皆誰かにとって犯罪者であると私は考えています」
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長編の修正をちょっとずつしながら、短編をぼちぼち更新しています。
新たな話も少しずつ進んでいますので更新まで楽しみにしていただけると嬉しいです。
さて、今回の短編はだいぶ短い話になりました。
本当は一ページで終える予定だったのですが…足りませんでしたw
重たい題材の多い短編ですが、もう少し甘いだけの話も書きたいものです。。。
じゃあ書けよと言われると難しいのですが…どうしても癖がでてしまいますね。
最近テレビで「いじめる側が100%悪い」という言葉をよく耳にします。
いじめで命を絶っている人がいるのだから悪くないとは思っていませんが、100%と言われると首を傾げてしまいます。
いじめられた側ももしかしたらいじめる側を酷く傷つけたという経緯があるかもしれないでしょ?
物理的じゃなくて言葉で。言葉っていつまでも心にささってなくならないんですよね。
だから私は人を傷つけてない人間なんてこの世に存在しないと思ってます。
皆誰かにとっては最悪な加害者なのではないかなっと。
持論です。
このことも少し話にしたくて、そんな思いもこめた短編でした。
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