短編集【5話執筆中】

薄明 喰

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幸運な奴隷

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俺もノワール様も動かないのを見てユキ様は困った顔で笑う。

「僕には味方が沢山いる。あんな人だけど父上は絶対に僕を危険に晒さない。家族にだけは情の厚い人だから…だからお前たちは一足先に行くんだ」


確かに旦那様は家族愛がとても強い方で、ユキ様が困っていたら過剰な手助けをするお人だ。

きっと此処に隠れていることも旦那様は把握されていて、この後一緒に国外に上手いこと移動するのだろうけれど…



「ユキ様」

「…アデリクス、昔から言ってる通り喋ることに僕の許可を得る必要はないんだよ」


ユキ様の言葉に俺は頷くことは出来ない。
話すことに許可を得るのは、ユキ様の元に買われる前から習慣づけられた、僕にとっては当たり前のことで…自由に話してもいいと言われても俺にはどうすればいいのかよく分からない。



「ふぅ…言ってごらん」

「はい。ユキ様を1人には出来ません。少しでも、ダメです」


「どうして?アデリクスが捕まれば僕たちが危険を犯して助けた意味がなくなっちゃうでしょ」


「なら俺一人で逃げます。ユキ様を1人残すのは絶対ダメ、です」



ユキ様とノワール様が驚いたような顔をして僕を見てくる理由は何となく分かる。

僕がこんなに主人に対して強くものを言うことが今までなかったからだろう。
僕もユキ様以外の主人なら生涯こんな風に言ったりしなかったと思う。




「ユキ様に何かあったら、俺は助かっても意味がない。ユキ様がいなかったら俺が存在してても意味が無い」


今の俺はユキ様が望んでくれるから生きて生かされているだけ。
ユキ様が居ない世界は俺に優しくない。

たぶん無惨に死ぬだけ。


折角ユキ様が危険を犯してまで俺を生かしてくれたのにそんな死に方をしてはユキ様に申し訳がない。




「ユキ様だけが俺を望んでる」


「っ!そんなことない!ノワールだってアデリクスのこと大切に思ってる!」


「なぜ?」



ユキ様の言葉が本当に理解できなくて首を傾げる。

そんな俺をユキ様とノワール様が渋い物でも召し上がった時のような顔で見てきたが、何故2人がそんな顔で俺を見てくるのかはさっぱりだ。





「アデリクスのことが大切でなければ、ユキ様に協力していないし、処刑台であのようにはしなかったし、愛馬にも乗せてない」

ノワール様の言葉に驚く。

だって小さい頃のユキ様はあまりに傷まみれで穢らしい俺に同情して構いまくっていたが、ノワール様はいつも離れた所で静かに見ているだけだった。



自分の主人の傍にこんなのが居て、心底不快な思いをしているに違いないと思っていたのにまさか大切に思われていたなんて驚きでしかない。



「ほらだから言ってたでしょ?ノワールは表情筋が仕事してないから言葉とか態度で示さないとアデリクスに伝わらないって」


ユキ様が何故か得意げにノワール様に言うが、ノワール様は完全に無視していてじっと俺を見てくる。



「私もユキ様を1人残しては行けない。しかし、お前が1人で国の追手から逃げられるとは思えない」

「…戦闘奴隷だったことがあります」

「え?」


ノワール様の言葉に、本当はユキ様に知られたくなかったことを伝えた。
買われた時に恐らく旦那様は知っていることだろうけど、ユキ様には伝えていないと思っていた。

じゃなければ、ユキ様が俺にあんなに過保護だったはずがないから。


予想通りユキ様は知らなかったようで、俺の言葉に目を見開いて驚いている。




「戦闘、奴隷?アデリクスが?」

「はい。そこで負けて足を切られました。早くは移動出来ないですが、気配を消すのは得意です。どこを攻撃したら動けなくなるかもしってます」


獣と戦わされた後に、筋肉で出来てるような改造人間と戦わされて、ボロボロに殴られ負けた。
その時の主人はこの試合に大枚はたいていたようで大層ご立腹だった。


足を切られた後に捨てられたけど、寒い日だったことや、すぐに面白がって拾ってくれた人がいたから何とか生き延びたのだ。






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