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僕のヒーロー、田丸君。
③
お腹いっぱい食べてのんびりしている所で、はっと我に帰った。
そういえば…僕、死のうとしてたんだ。
でも、お腹いっぱいにご飯を食べたからなのか死ぬ気は遥か彼方に飛んでいってしまっている。
死ぬつもりだったからバイトも全部辞めた。
そこまで考えてどうしようかと頭を悩ませる。
だけど、何だかそこまで深刻に思っていない自分がいて、それに驚いている。
「三大欲求を満たすって大切なことなんだなぁ」
「ふっなにそれ。カレー食ってそんな感想言った奴はじめて」
無意識に口にしていた僕の言葉に皿洗いを終え、近くに座った田丸君が笑った。
お皿洗いをすると言ってみたが、田丸君は他人にキッチン立たれるの嫌なんだって。
「河中さ…一人暮らしだよな?」
「え?…あぁ、うん」
二人で会話もなくテレビを見ていたら突然田丸君がそう聞いきた。
何の確認?と思いながらも返事をすると、田丸君は体を僕の方へ向けて真剣な顔で僕を見てくる。
ただならぬ雰囲気に僕も姿勢を正して田丸君の方に体を向けた。
「此処で一緒に暮らさね?1人じゃ広いし、誰かと同居してみたくてさ」
「え…」
人生でそんなことを言われるなんて思ってもいなかったから驚いて声が出てしまった。
同じ学校に通っててお互いに存在を認識していたにしても、今日始めて喋ったような僕を同居に誘う意味ってなんだろう?とつい疑ってしまう。
しかし、田丸君にどんな意図があったとしても僕は彼と同居することは出来ない。
何故なら僕は多額の借金を抱えていて、悪質な借金取りに取り立てられている身だ。
何をされるか分からない状況で、田丸君と同居するのはあまりに危険すぎる。
あ、もしかして…
「あの…もしかして、僕の所に来てる人達のこと知ってるの?」
「…知ってる」
田丸君の答えに僕はやっぱりと恥ずかしくて情けない気持ちになると同時に、気にかけてもらえたことが素直に嬉しいとも感じた。
僕を気にかけてくれる人なんて、今までどこにもいなかった。
「田丸君。気にしないで。どうにかするし、同居なんてしたら田丸君が危ないよ」
「大家さんが言ってた。河中の借金じゃないのにって…でも危険だから」
「うん。僕は大家さんを恨む気持ちなんかないよ。他の住民さんのことを考えたらあまりに危険すぎるもん。あの人達、平気で他人の物を壊すし汚すから。気にして声かけてくれたんだね。ありがとう」
このアパートの大家さんは施設出身者を積極的に受け入れているくらい良い人だ。
だから今の僕の状況はとても申し訳なく思ってる。
でも、どんなに良い人でも所詮他人だ。
「僕、帰るね」
「死ぬつもりなのか」
聞こえてきた声に、動きを止めてじっと田丸君の目を見つめた。
「僕のことは忘れなよ」
どう返事をしたらいいのか分からなかった。
どうして、僕が死のうとしてるって分かったんだろう?
色んなことを考えたけど、最終的にはどうでもよくなった。
僕のことを気にかけるくらいお人好しの田丸君だから、死のうとしてる僕を引き止めたくて仕様がなかっただろう。
あぁ、でも田丸君のおかげで僕はアパートに迷惑をかけないで良かった。
帰ったら
他の死に方を考えなくちゃ。
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