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それでも君と(旧:君が僕から離れても)
⑨
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(一汰side)
初めて人を好きになった。
同性だったけれど、独特の雰囲気を持っていて優しい人。
水族館なんて定番のデートスポットだけど、透鯉と一緒だと凄く綺麗に見えたし楽しかった。
始めの告白は断られて、だけどリベンジした告白で受け入れてもらえて浮かれていた。
キス以上にはなかなか踏み込めなかいけど、キスするだけでとんでもなく気分が高揚した。
こんな誰かを好きだと…愛おしいと思える人間だったのかと自分自身に驚いたし何だか安心した。
卒業しても、ずっと死ぬまで仲良く一緒に人生を過ごしていくと自然と思っていた。
「ねぇ一汰君。私のパパがどういう人かっていうのは知ってるよね?私の恋人になってくれないって言うならこの子、不幸な人生になっちゃうけど…どうする?」
放課後…透鯉と一緒に帰ろうと思っていたらクラスの香坂に呼び止められて空き教室へと連れてこられた。
そして隠し撮りされた透鯉の写真を俺に見せながら香坂はにんまりと笑って俺を脅した。
ひらひらと揺らされる透鯉の写真に怒りと悔しさが込み上げてくる。
香坂の家はそっちの道で有名なところで、組長である父親が彼女を特別溺愛している話はここらじゃ有名で、はっきりと言葉にされずともこいつに逆らえば透鯉に危害が加えられることは容易に想像できた。
俺自身に香坂の家に対抗できるような力はないし、両親も普通の社会人だ。
そういった伝手もないし短い間に香坂の企みに対抗する術を考えたけど一つも思い浮かばなかった。
「ふふ…じゃ、スマホ出して」
はいっと差し出される手を切り落としてやりたい気持ちになりながら、ポケットからスマホを取り出し香坂の掌に置く。
どうやって知ったのか、香坂は俺のスマホのパスワードを知っていて、俺に聞くことなく楽しそうにスマホを弄りしばらくしてからはいっとスマホが返された。
予想していた通り連絡先から透鯉が消されていて、代わりに香坂の連絡先が追加されていた。
しかもロック画面は香坂の加工された顔に変わっていて、変えたら分かるよねっと脅された。
「あの子と話してるの見たらお仕置きするから…じゃ!今日から私が一汰の彼女ね!」
香坂は楽しそうに笑いそう言うとぐいっと俺に抱き着いてきた。
「抱きしめて」
抱きしめ返さない俺にそう命令して笑う香坂をぐっと拳を握ったまま背に腕を回した瞬間、吐き気が込み上げてきた。
あれから透鯉に話をすることもなく学校でも放課後も休日も香坂と過ごす日々が続いた。
学校で遠目から透鯉が俺を見ていることには気が付いていたが、事情を説明することもできないし別れを告げることもできなかった。
一度嵐と平ノ助がどういうつもりだと言いに来たけれど、教室内で香坂の監視の目もある中本当のことは何も言えず冷たく突き放すしか手がなかった。
どうにか、どうにか隙を突いて透鯉と話ができる機会がないかと思っていたが香坂の監視の目は思いの外強く、またタイミング悪く家の用事なども入ったりで話ができないまま時が過ぎてしまった。
一日の内一度は視界の端に透鯉を見つけていたのだが、ある日から見かけなくなり運よくトイレで会った嵐に聞いてみた。
嵐はあからさまに顔を顰めて俺と話すのも嫌だという気持ちを隠すことはなかったが、そういう顔をされて当たり前のことを自分が透鯉にしているって自覚があるから仕方ない。
「風邪」
嵐はそれだけ言うとさっさと出て行ってしまい、もう少し最近の透鯉について聞きたかった俺は残念に思いながらも風邪で休む透鯉が早く治るように心の中で祈り教室に戻った。
再び透鯉を学校で見かけるようになったが、以前までは感じていた透鯉からの視線が全くなくなったことに気が付いた。
たぶんあの後に連絡をくれたりしただろうが、返事をせず、話す気もない俺に呆れてしまったのだろう。
同性同士で想いが通じたことが奇跡なのに…こんなことで俺と透鯉の関係を壊されてしまった。
きっと突然突き放した俺に透鯉は深く傷ついたはずだ。
今更ながらに香坂に対する強い嫌悪感と怒りが込み上げてきて、俺は頻繁に唯一監視の目が緩むトイレへ向かい嵐か平ノ助に会える機会を待った。
行動を起こしてから一ヶ月ほどで、やっと嵐と会うことが出来て、向こうは俺のことを視界に映そうともしなかったが、腕を掴んでどうにか話を聞いてもらえないかと声をかけた。
「おっまえさぁ!!自分が透鯉に何やったか自覚ねーのかよ!!」
「ある!最低なことしてるって分かってる」
「俺はお前のこと許すつもりねーから」
「あぁ…許してもらいたくて声をかけたんじゃない。頼みがあるんだ」
掴んだ腕を振り落とされて声を荒げる嵐に必死に話を聞いてもらえるようにと振り払われた手をまた伸ばした。
そんな俺の態度に嵐は顔を顰めながらも話を聞いてくれる気になってくれたみたいで、ぶっきらぼうに話せって言ってくれた。
「透鯉を守ってほしい。今度の休みの時にどうにか透鯉を連れて県外へ行ってくれ。頼み事をしておいて詳しいことを話せないっていうのがどんだけお前達の怒りを買うかなんてことは承知の上だが、今は安全が保障できないから話せない。どうか頼みを聞いて欲しい。頼む!」
そう言って頭を下げる俺に嵐の視線が向けられているのが分かる。
嵐からは困惑した感情が伺えたが深いため息のあと、俺の頭をペシンっと少し痛いくらいの強さで叩いた。
「安全が保障できないっていう事は、お前はなんらかのトラブルに巻き込まれてて透鯉が危険ってことなんだな。それで今まで冷たくあたるしかできなかったし、透鯉に連絡を取ることもできなかった」
「あぁ」
「そんで、その理由は俺らも危険に巻き込む可能性があるから言えないってことでいいな?」
「あぁ」
嵐からの質問に答えると嵐は再び大きなため息をついた。
初めて人を好きになった。
同性だったけれど、独特の雰囲気を持っていて優しい人。
水族館なんて定番のデートスポットだけど、透鯉と一緒だと凄く綺麗に見えたし楽しかった。
始めの告白は断られて、だけどリベンジした告白で受け入れてもらえて浮かれていた。
キス以上にはなかなか踏み込めなかいけど、キスするだけでとんでもなく気分が高揚した。
こんな誰かを好きだと…愛おしいと思える人間だったのかと自分自身に驚いたし何だか安心した。
卒業しても、ずっと死ぬまで仲良く一緒に人生を過ごしていくと自然と思っていた。
「ねぇ一汰君。私のパパがどういう人かっていうのは知ってるよね?私の恋人になってくれないって言うならこの子、不幸な人生になっちゃうけど…どうする?」
放課後…透鯉と一緒に帰ろうと思っていたらクラスの香坂に呼び止められて空き教室へと連れてこられた。
そして隠し撮りされた透鯉の写真を俺に見せながら香坂はにんまりと笑って俺を脅した。
ひらひらと揺らされる透鯉の写真に怒りと悔しさが込み上げてくる。
香坂の家はそっちの道で有名なところで、組長である父親が彼女を特別溺愛している話はここらじゃ有名で、はっきりと言葉にされずともこいつに逆らえば透鯉に危害が加えられることは容易に想像できた。
俺自身に香坂の家に対抗できるような力はないし、両親も普通の社会人だ。
そういった伝手もないし短い間に香坂の企みに対抗する術を考えたけど一つも思い浮かばなかった。
「ふふ…じゃ、スマホ出して」
はいっと差し出される手を切り落としてやりたい気持ちになりながら、ポケットからスマホを取り出し香坂の掌に置く。
どうやって知ったのか、香坂は俺のスマホのパスワードを知っていて、俺に聞くことなく楽しそうにスマホを弄りしばらくしてからはいっとスマホが返された。
予想していた通り連絡先から透鯉が消されていて、代わりに香坂の連絡先が追加されていた。
しかもロック画面は香坂の加工された顔に変わっていて、変えたら分かるよねっと脅された。
「あの子と話してるの見たらお仕置きするから…じゃ!今日から私が一汰の彼女ね!」
香坂は楽しそうに笑いそう言うとぐいっと俺に抱き着いてきた。
「抱きしめて」
抱きしめ返さない俺にそう命令して笑う香坂をぐっと拳を握ったまま背に腕を回した瞬間、吐き気が込み上げてきた。
あれから透鯉に話をすることもなく学校でも放課後も休日も香坂と過ごす日々が続いた。
学校で遠目から透鯉が俺を見ていることには気が付いていたが、事情を説明することもできないし別れを告げることもできなかった。
一度嵐と平ノ助がどういうつもりだと言いに来たけれど、教室内で香坂の監視の目もある中本当のことは何も言えず冷たく突き放すしか手がなかった。
どうにか、どうにか隙を突いて透鯉と話ができる機会がないかと思っていたが香坂の監視の目は思いの外強く、またタイミング悪く家の用事なども入ったりで話ができないまま時が過ぎてしまった。
一日の内一度は視界の端に透鯉を見つけていたのだが、ある日から見かけなくなり運よくトイレで会った嵐に聞いてみた。
嵐はあからさまに顔を顰めて俺と話すのも嫌だという気持ちを隠すことはなかったが、そういう顔をされて当たり前のことを自分が透鯉にしているって自覚があるから仕方ない。
「風邪」
嵐はそれだけ言うとさっさと出て行ってしまい、もう少し最近の透鯉について聞きたかった俺は残念に思いながらも風邪で休む透鯉が早く治るように心の中で祈り教室に戻った。
再び透鯉を学校で見かけるようになったが、以前までは感じていた透鯉からの視線が全くなくなったことに気が付いた。
たぶんあの後に連絡をくれたりしただろうが、返事をせず、話す気もない俺に呆れてしまったのだろう。
同性同士で想いが通じたことが奇跡なのに…こんなことで俺と透鯉の関係を壊されてしまった。
きっと突然突き放した俺に透鯉は深く傷ついたはずだ。
今更ながらに香坂に対する強い嫌悪感と怒りが込み上げてきて、俺は頻繁に唯一監視の目が緩むトイレへ向かい嵐か平ノ助に会える機会を待った。
行動を起こしてから一ヶ月ほどで、やっと嵐と会うことが出来て、向こうは俺のことを視界に映そうともしなかったが、腕を掴んでどうにか話を聞いてもらえないかと声をかけた。
「おっまえさぁ!!自分が透鯉に何やったか自覚ねーのかよ!!」
「ある!最低なことしてるって分かってる」
「俺はお前のこと許すつもりねーから」
「あぁ…許してもらいたくて声をかけたんじゃない。頼みがあるんだ」
掴んだ腕を振り落とされて声を荒げる嵐に必死に話を聞いてもらえるようにと振り払われた手をまた伸ばした。
そんな俺の態度に嵐は顔を顰めながらも話を聞いてくれる気になってくれたみたいで、ぶっきらぼうに話せって言ってくれた。
「透鯉を守ってほしい。今度の休みの時にどうにか透鯉を連れて県外へ行ってくれ。頼み事をしておいて詳しいことを話せないっていうのがどんだけお前達の怒りを買うかなんてことは承知の上だが、今は安全が保障できないから話せない。どうか頼みを聞いて欲しい。頼む!」
そう言って頭を下げる俺に嵐の視線が向けられているのが分かる。
嵐からは困惑した感情が伺えたが深いため息のあと、俺の頭をペシンっと少し痛いくらいの強さで叩いた。
「安全が保障できないっていう事は、お前はなんらかのトラブルに巻き込まれてて透鯉が危険ってことなんだな。それで今まで冷たくあたるしかできなかったし、透鯉に連絡を取ることもできなかった」
「あぁ」
「そんで、その理由は俺らも危険に巻き込む可能性があるから言えないってことでいいな?」
「あぁ」
嵐からの質問に答えると嵐は再び大きなため息をついた。
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