王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。(完結)

薄明 喰

文字の大きさ
320 / 427
第4章

タシターニさんは慣れてない

ぶっぱな事件の翌々日



今日は僕達が中央へ帰還する日である。


「では、報告書の件は貴方達にお願いする。それからタシターニ、南の地の料理を知ってもらう貴重な機会だ。よろしく頼んだ」


「っはい」



銃についての報告書をラプラス様から預かり、僕達は肉屋のおじ様…タシターニさんを連れて馬車に乗り込む。

タシターニさんは僕達と同じ馬車に乗り込むことを最初ひぃひぃ言いながら拒絶していたけれど、そんなに馬車を何個も用意しては面倒だし、移動に時間が掛り危険度が増すのだと説明しなんとか大人しく馬車に乗り込んでもらった。



タシターニさんには絶対に南の地の料理を中央へ…まずはウォード家に広めてもらわなくてはいけないので絶対に守る所存である。






タシターニさんは屈強な体つきをしているが戦闘経験は店で売るための魔獣討伐くらいで、対人との戦闘経験はないとのこと。

昨日どれくらいの戦闘力があるのか念の為に僕の護衛と模擬戦をしてもらったのだけど、人に向かって剣を向けることに躊躇いがあるようで終始剣を握る手が震えていて全く戦いにならなかった。



試しに人とは見た目が少し違う獣人の護衛や鬼神であるガンナーとも手合わせをさせてみたが、タシターニさん惨敗。




まぁ、僕に付いている護衛が強すぎると思うので負けるわけはないのだけど…それにしても、であった。








なのでそんな彼を騎乗させて移動するのは逆に危ないってことで馬車に同乗してもらうことが決定したのである。








「ラプラス様。またノヴァのお父様が会いに来られたら「あなたの息子はルナイス・アーバスノイヤーが貰ったので」とお伝えください」



「分かった。必ず伝えよう」




南の地に居る間にもしかしたらノヴァの父であるマモンが現れるかなっと思っていたのだけど、結局彼は姿を見せなかった。

滅多に来ないとも最初に聞いていたので可能性は低いと思っていたけれど、会ったら言っておかねば!と思っていたことがあったので、ラプラス様に伝言をお願いすることにした。

ラプラス様は面白そうだと言って不敵に笑い伝言を預かってくれた。
絶対マモンをおちょくる気でいるのだ。



僕の言葉に隣のノヴァは体を少し揺らしたので、たぶん照れくさい気持ちを必死に抑えているのだろう。

僕の夫はクールに見えて可愛いところのある人なのだ。







ラプラス様に手を振り馬車が出発。

緊張してカチコチに固まっているタシターニさんに闇市で出会ったヨンギの話をしてみると、タシターニさんはヨンギの事を知っていた。


何でも仕入れたお肉の取引先らしく、お肉を受け取るのはあの店でヨンギの役目だったみたいで、世間話もする仲なのだとか。




ヨンギの可愛さについて話していると段々とタシターニさんの体から力が少しずつ抜けていき、中央まであと少し、っという所まで来るとタシターニさんは随分と気楽に話してくれるようになっていた。




コツコツ


「お帰りなさいませノヴァ・ウォード様、ルナイス・ウォード様。」


馬車の窓が叩かれ、数センチほど窓を開けると門番さんが胸に手を当てて恭しく帰還への挨拶をしてくれた。

僕達にとっては見慣れている光景で、当たり前のことなのだけれどタシターニさんにとっては慣れない光景に再び体を硬直させて大きな体を少しでも隠そうと身を隅に寄せているが、当たり前にその巨体は隠せていない。




「そちらの御仁が料理人講師のタシターニ殿ですね。失礼ですが、推薦書のご提示をお願いしてもよろしいでしょうか。」

門番は馬車の中をさっと見渡してタシターニさんを見つけるとニコっと笑みを浮かべた。

事前に料理人講師を連れ帰ることは伝令していたので、推薦書を見せるだけで門を通過できるのだけどタシターニさんはこういうのが初めてで、とても緊張しており…



「ぁ…は…っ!」


慌てて鞄から取り出そうとした推薦書を落としてしまい、拾おうと伸ばした手の風圧で推薦書がひらりと飛びタシターニさんの手をすり抜けて更に慌てるタシターニさんの動きで馬車がぐわんぐわん揺れる。




酔いそうな揺れに慌てて僕は手を伸ばし推薦書を人差し指と中指の間で挟み取り、ノヴァが魔法でタシターニさんの動きを止めたことで、何とか悲惨な場を作らずに済んだ。



これには門番さんも苦笑いで…何事もなかったですよーっと推薦書をすいっと差し出す僕にのっかってくれ、何も見てませんよーって感じで門番さんは推薦書を受け取ってくれた。






ノヴァによって静かにゆっくりと席に座り直されたタシターニさんをチラリと見れば、先程の自分の行動が余程恥ずかしかったようで、頬と言わず体全体が真っ赤に染め上げていた。

それを指摘するのも見るのも彼には酷だろうと、すぐに視線を逸らし見なかったことにして門番から返された推薦書を受け取り馬車を出発させた。



「タシターニさん、推薦書お返しします。この後は直接我が家に向かいますので推薦書は出すことはありませんが、明日の挨拶回りの際には必要になる場面があるかと思います。取り出しやすいよう折ってあっても構いませんので、服の内ポケットに入れておいてください」


「…はい」



ちょっと言い出しにくいなっと言葉を選びながらタシターニさんに推薦書を返す。

面倒だけれど、僕が先ほどのように代わりに出してもいいのだけど推薦書が出てくるのはタシターニさんからの方が余計な詮索がされなくて済むので気の毒だけど彼に持っていてもらわないと。



それに、ないとは思うが万が一僕達と離れて動くことになった際にその推薦書が彼の身分証明書となるので、タシターニさんには推薦書を取り出すのに慣れてもらうしかない。






感想 59

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。 【無断転載・AI利用禁止 / No Unauthorized Use or AI Training】 本作品の無断転載・複製・AI学習利用を禁じます。 Unauthorized reproduction or use for AI training is strictly prohibited. © 魯恒凛 / RoKourin

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

推しの運命を変えるため、モブの俺は嫌われ役を演じた

月冬
BL
乙女ゲームの世界に転生した俺は、ただのモブキャラ。 推しキャラのレオンは、本来なら主人公と結ばれる攻略対象だった。 だから距離を置くつもりだったのに―― 気づけば、孤独だった彼の隣にいた。 「モブは選ばれない」 そう思っていたのに、 なぜかシナリオがどんどん壊れていく。 これは、 推しの未来を知るモブが、運命を変えてしまう物語。

事なかれ主義の回廊

由紀菜
BL
大学生の藤咲啓嗣は通学中に事故に遭い、知らない世界で転生する。大貴族の次男ランバート=アルフレイドとして初等部入学前から人生をやり直し、学園で出会う無愛想で大人顔負けの魔法の実力者であるヨアゼルン=フィアラルドと親友になるが、彼に隠された力に翻弄され次々と襲ってくる災難に巻き込まれる。終いには、国家の存続を揺るがす大事件にまで発展することに・・・