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第5章
美しいその人は
ラプラス様は改めて国王様に礼を取り、そして扉の方へ手を差し伸べた。
「今日は国王様のお望みのお方をお連れ致しました」
そう言ってラプラス様のエスコートを受けて現れたのは見たこともない真っ黒な長い髪のすごく綺麗な人。
ラプラス様の手に乗せられた手の指先まで美しいと感じさせるその人物からは見惚れると同時に背中がひんやりとしてぞっとするような本能的な恐ろしさを感じさせる圧がある。
数名が圧に耐えれずしゃがみこんだ。
「魔王様、抑えてくださらないと敵意があるとみなされますよ」
「うむ…これでも大分抑えてるのだがな」
ラプラス様に言われて困ったような顔をする御仁を見ると、あの人を悩ませていることを解決して、早く憂いを無くしてあげたいという気持ちになる。
そう思ったのは僕だけじゃないようで、何とか立っていた貴族の数名がふらっと前に出たのを近くの近衛騎士が止めている。
「……これでどうか?アーナンダの国王よ。」
「ご配慮感謝いたす。立っておけない者は別室へ」
国王様が近くの騎士に命令して、立てなくなっている数名の貴族や近衛騎士が退出していくのを見送った。
その間の魔王様と呼ばれた方の顔は無。
しかし、退出して行く者へ向けられている瞳からは気遣うような気持ちを感じる。
魔王様と呼ばれているから、あの美しすぎる御仁が魔界のトップであるのだろう。
魔力が桁違い過ぎて圧が凄く、無表情であるせいで更に威圧感が凄まじいが、優しそうな人だな…というのが、今僕が抱いている魔王様に対する印象だ。
国王様は高いところから降りてきて、魔王様の前に立つとすっと手を差し伸べた。
そこに魔王様が手を乗せると国王様がその手を自身の額に当てる。
国王様の態度に貴族達だけでなく騎士達も動揺し、ざわつく。
「異界の地まで御足労頂いたこと、心より感謝申し上げる」
そう言った国王様はそっと魔王様の手を離し、魔王様はそんな国王様にほんの少し口角を上げ、目をすっと細めた。
ほんの少しの表情の変化で人の心を動かすのだから本当に凄いと思う。
国王様と魔王様は並べられた椅子に腰を掛けると、すっとこちら側に視線を向けてきた。
「ルナイス・ウォード。君の話はそこのラプラスから聞いている。こうして対面してみて…確かに面白い魂の歪さである」
不意に魔王様から掛けられた声に胸に手を当てて礼を取りながら、ラプラス様は一体僕のことをなんと言っていたのだと心の中でため息をこぼす。
「ノヴァ・ウォード。貴殿の話も聞いている。マモンの息子だとか」
「はい」
魔王様からの質問に一瞬コメカミをピクリと動かしたノヴァだが、静かに肯定してじっと魔王様を見つめている。
半魔であるノヴァからすると、僕とはまた違ったように魔王様を感じているのかもしれない。
「うむ。大切な部下の息子だ。何か困ったことがあればいつでも我を頼ってくると良い」
「とんでもない。代わりに差し出せるものがありませんよ」
ニコッと今まで見たことがないくらいの胡散臭い笑顔でそう言ったノヴァに対して、周りの者がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえてきた。
しかし、魔王様はノヴァの態度を気に止める様子もなく
「部下の息子なんだ。死者蘇生なぞという禁術等を頼んでこん限りは対価など求めぬ」
「それこそ、禁術くらいのことでなければ魔王様に頼ることなどないでしょう」
「む…それもそうだな」
「魔王様。そろそろ本題に入りませんと、魔界を何時までも離れているわけにはいきませんよ」
まだまだマイペースに話しそうな魔王様にラプラス様が声をかける。
「そうであったな。久々の界渡りに少し浮かれておった」
魔王様はそう言った次の瞬間には空気がガラリと変わった。
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