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しおりを挟むそうしてガディウスの提案に乗り、そのまま服屋へ向かった。
僕は憂鬱だ。何故なら新居の家具選びの時を思い起こさせるから。浮かれたガディウスに振り回され、初めての貴族街に緊張していた僕が馬鹿だったようなあの日。
『これ良いんじゃね?二個のコップをくっつけたらほら、ハートマークになる。しかも俺とへズの瞳の色がちょうどある!あ、でもあっちのコップも良いな。よし、どっちも買おう』
『予算外だ。どっちかにしろ』
『俺のポケットマネーで買うから気にすんな。この皿も良いな、榛色が可愛い。へズの瞳にそっくり。形もどこか似てるぜ』
『頭イカれてんのか』
『あー、でも小さい皿も良いな。8歳くらいのへズの手と大きさが一緒だ。大きい皿も勿論良いし、あー、こりゃあ全部買い占めるしか……』
ガディウスは棚の前で屈んで、永遠と何が呟きながら吟味している。その後、コップや皿等食器だけでなく寝具や家具も同じようなくだりをした。
長々と時間をかけて選ぶあの時間、とてつもなく苦痛だった。周りの貴族が不審な目でこちらに視線を寄越し、後ろに立つ店員の目も死んでいた。
そしてまた地獄の時間が始まった。腕に大量の服を抱え、喜びを顔にみなぎらせ試着室に三着の衣装を置いてきた。
「よし、へズ。まずはこれを着てくれ」
「はいはい……いつの間に選んできたんだよ」
適当にこの一番右の服とかで良いのでは?しかしそんなことを言ったら、他の服の魅力を長々と語ってきそうだ。面倒臭いことになる前に黙って着替えよう。
まず一着目の無難な服を着て試着室を出ると、ガディウスが嬉しそうに笑って立っていた。
「おー似合うな!やっぱりへズに似合うと思ったんだよ」
「そう?ありがとう。じゃあこの服にしよう。よし、レジ行こう」
「任せろ!これは俺が買っとく。へズは他の服試着してて」
何でだよ、この服で良かったんだろ。
止める間もなく、ガディウスは笑顔で店員に服を渡して試着室から離れてしまった。どうしようもなく、僕は仕方なく次の服に袖を通した。試着室を出ると瞬間移動したのかと思うほどの瞬足でガディウスが姿を現す。
「おお、良いな!この服も買うか。次はこっちの服を着てくれ」
「二着も買ったならもう良いだろ」
「いいや、まだお前の良さを最大限に引き出せてない」
そうしてガディウスの暴走は続いた。次へ次へと渡される衣装。衣装を着替えるのも楽じゃないのに、ガディウスはいつまで続ける気だ。試着した服全て買い取るとはいえ、店員もうんざりしているだろう。試着室を出る度に奥にいる店員の冷たい目が突き刺さる。
「おい、いい加減にしないとお前の小遣い無くなるぞ」
「これで無くなるなら本望だぜ。次はこれだ」
僕は苦虫を噛み潰したような顔で受け取った。いつまでする気なんだ?てかこの服なんだ?着にくい……って、何だこの馬鹿みたいな服!
何故かフードに猫耳が着いていた。襟元にまで繊細なレースが施されていたり、やたら可愛らしい装飾がある。
絶対女向けだ。こんなの着たくないんだけど!でもこれが婦人会で定番の服なのか?うう、こんな服着たくないけど仕方ない……。
「着替えた」
「かっっ、めっちゃ可愛い……」
消えたい。
ガディウスは目を輝かせて僕の頭の天辺から足の爪先までじっくり見つめる。今すぐその目を潰してやりたい。
「こんな服、イレネ様の前で着たら一生の恥……」
「はあ?他の奴に見せるわけないだろ」
「え?」
「こんな可愛いへズは俺だけしか見ないぜ。つかこんな格好茶会で着たらマナー違反だし。よしこれも買おう。次はこのーー」
「おいお前」
僕を見たガディウスの表情が一変する。視線を行き来させ、口角が引き攣っている。
僕はそのままゆっくりガディウスの元へ近付き首を掴んだ。怒りの余り唇が微かに震える。
「脱いだらすぐ帰る。家でゆっくり話さないとな」
「へ、へい……ごめんなさい、へズにゃん」
「今すぐ殴られたいのか!?この馬鹿ガディウス!」
そうしてガディウスを引き摺りながら帰途についた。
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