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しおりを挟むえ?なんで急にガディウス?そして何故僕に話の矛先が向くのか。
イレネ様の悲痛な声で、静寂に包まれる。僕が何か喋るべきなのかもしれないが、全く話の辻褄が分からず頭が混乱して何も話せない。
イレネ様よりも僕を選ぶ?も、もしかして、イレネ様ってガディウスが好き、とか?
何でこんな可愛い女の子がガディウスに惚れるんだ。僕が素敵だと感じた女性は皆ガディウスへ心惹かれる。あのいい加減野郎、まさかこんな純粋なイレネ様まで誑かしていたなんて、許せない。
「ヘズエルさんはどうやって射止めたの?ガディウス様のこと。今後の為にもぜひヘズエルさんの恋愛術を教えて欲しいわ」
イレネ様にそう微笑まれても、僕は全く恋愛経験ゼロ。今まで好きな女の子一人も射止められていないのにどうやってアドバイスしろと言うのだ。しかもこんな可愛い女の子に。
「い、いや、イレネ様ほど可憐な女性ならどんな殿方もきっとお好きになると」
「でもガディウス様は貴方を選んだもの。それとも、もしかして私に教えたくないの?」
「いえいえ!そんなことないです」
「良かった!じゃあ聞かせてくださる?」
花が咲いたように笑うイレネ様を前に滝汗を流す。イレネ様を囲むご令嬢の方々も目を輝かせて僕の方を見る。
ど、どうしよう。ガディウスを惚れさせる方法なんて知るわけが無い。アイツ多分女の子なら誰でも良さそうだし。喜ばせる方法も、あ、あれなら……。
「ガディウスは、その、パンを作ったら喜びました」
「パン……それはヘズエルさんの手作り?」
頷くと、イレネ様は目を丸くした。
「凄いわね!自分で作れるなんて、ヘズエルさんって器用ね」
「全然!そんなに難しくないので」
「どんなレシピなの?教えてくださらない?私も殿方を射止めたいの」
イレネ様が顔を僕に近寄らせてくる。
ど、どうしよう。ルクンの乳を使ってるなんて知られたらきっと引かれるに違いない。でもこの流れ、言わないと僕は逆にケチで新入りのくせに生意気だと後ろ指を指される。でも、イレネ様は孤児院のことも好意的に見てくれてるし、ルクンの乳も引かないだろうか。
そのまま流れに負けた。
「えっと、硬いパンと水とルクンの乳で作ります」
その瞬間、場が再び静まり返った。
イレネ様の瞳が翳り、口許が僅かに引き攣った。そして周りのご令嬢の侮蔑を帯びた視線が、僕を酷く刺した。この目は見覚えがある。孤児院へ訪れる貴族のまるで吐瀉物を見るような目。
「貴方、冗談で仰ってるの?ルクンって魔物でしょう?魔物の乳をパンに入れてガディウス様に食べさせたなんて、本当だったら罰せられでもおかしくないわよ」
「いえ、私聞いたことあるの。ガディウス様の奥様がルクンの乳を探しているって。まさか食用だったなんて思わなかったけど」
「も、申し訳ございません!でもルクンの乳は孤児院にいた頃から僕が作っててガディウスも美味しいって」
頭を下げると、上から何か温かい液体が頭に落ちてきた。視線の先の足元に、ぽたぽたと雫が落ちる。侍女の慌てる声が遠くから聞こえた。
「あら、ごめんなさい。手が滑っちゃったわ。驚いちゃって。ふふ、すぐメイドに服を用意させるから安心して?」
顔を恐る恐る上げると、変わらず笑みを浮かべたイレネ様がいた。僕は侍女が持ってきたタオルで拭きながら席に縮こまる。周囲からは「魔物の乳なんて……」「これだから平民は……」と囁く声が耳に入る。
絶対間違った。僕がレシピにルクンの乳の話なんてしなければこんなことにならなかったのに。
僕がどう言われようといいけど、孤児院やガディウスの評判に関わる。ど、どうしよう……。
「孤児院にいた頃から作っていたってことは他の子供達にも食べさせていたと言うの?なんて恐ろしい!」
「子供達に万一のことがあったら、どう責任を取るおつもりだったの??なんて野蛮なの……」
「で、でも、本当に大丈夫でした。みんな美味しいって言ってましたし、あの頃は食糧が底を尽きていたので……」
「だからといって魔物の乳は有り得ないわよ!それなら他の市民に助けを求めて安物のミルクでもスープでも貰うべきよ」
金切り声で責められる。
その頃は周囲の市民も貧しく孤児院なんかに渡すものなんて無かった。ミルクもスープも高価で、水自体が手に入れることが厳しかった。多くの子供達は小さく非力で孤児院の職員も高齢者が多く、僕やガディウスのような男児が遠くの井戸から水を汲んでいた。
だから、少しでも味を変えて楽しんでもらいたくて、ルクンの乳を混ぜた。みんな喜んでいたのに、僕がしていたのはやっぱり間違えだったか。
「ああ、これなら最初から無理にでもガディウス様に直接イレネ様を推薦すべきだったわ」
「イレネ様は貴方と違って孤児院に寄付を惜しみなくして、一緒に遊んだり、魔物の乳ではなくお菓子や洋服をプレゼントしますもの。孤児もそのパンよりも、イレネ様からいただいた物の方が喜びますわ」
「そうそう!なんたって王室御用達のケーキを差し入れしたり、普通の平民でも食べられない品物ですもの」
流石イレネ様!と周囲が褒め称える。僕も笑顔を作って褒めるべきだ。だけど、胸が苦しくて目頭が熱い。僕は髪の毛を拭くタオルを顔に当てた。
すると、聞き馴染みのある声が聞こえた。
「へえ、王室御用達ってどこのケーキですか?」
「が、ガディウス様!いらしてましたの!?」
驚いてタオルを顔から離すと、いつも通り飄々としたガディウスがいた。
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