押し倒す前に言え!

綿毛ぽぽ

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 あの日を境に僕はおかしくなった。主に、胸元と目が。何故かガディウスを見ると胸が高鳴りキラキラして見える。腕で目元を擦ってもキラキラは消えない。寧ろ輝きが増して見える。
 
 病気か?でも何の病気だ?
 今もいつも通り長い髪を括っているガディウスが目の前にいるが、異様に格好良く見える。服の袖から見える上腕二頭筋は血管が浮き、セクシー。燃えるような緋色の瞳も見ているとどくんどくんと激しい動悸を感じる。
 ……うん。やっぱり病気かもしれない。
 
 頭を悩ませていると、悩みの種のガディウスが徐々に迫ってきた。やばい、僕の病気に気付かれた!?違う意味で心臓が煩くなるが、ガディウスはそっちではなく、僕の手元へ指した。
 
「へズ、それ焦げてね?」
「え?」
 
 見下ろすと、フライパンの中にあったオムレツになるはずだった卵が、ぷすぷすと黒い煙を出している。
 す、すっかり忘れてた。高い卵なのにもったいないことをしてしまった。この黒いのは僕が食べよう。慌ててフライパンから皿に移し、卵を避難させる。
 
「ご、ごめん」
「全然いいって。それ俺食うから。ほら」
「いや僕が食べる!お前は、ど、どっか行ってろ!」
「えー腹減ったから食わせてよぉ。へズママぁ」
「お前みたいなでかい子供産んだ覚えは無い」
 
 そう言うと漸くガディウスは観念して離れてくれた。お陰で僕の心臓も落ち着き、激しい鼓動の音も静かになったため、料理へ戻った。
 
 卵を割ってフライパンに入れるだけ。そう、簡単なことだ。だが、頭の中でガディウスの事ばかりが浮かぶ。優しい笑みを浮かべ僕の耳許で愛を囁く姿。男らしい腕に抱えられてそのまま……。
 
 心臓が限界まで高鳴り、顔が真っ赤になる。頭が沸騰して僕は思わず卵を全力で投げた。
 
「うおおお、へズどうした!何怒ってんだ?」
「お、怒ってない!ほっといて!」
「いやいやほっとけないに決まってんだろ?」
 
 ガディウスは再び近付いてきて、僕の額に手を添えた。僕はあまりの距離の近さに目を見開く。
 
「熱か?」

 ガディウスは真剣に心配してくれている。だが、そんなことをされたらもっと体調がおかしくなる。
 肩を跳ねさせて大きく後退ると、後ろの棚に頭をぶつけてしまった。痛みに頭を押さえて蹲る。
 
「ヘ、へズ、どうした?やっぱり熱なんじゃね?料理はいいから部屋で寝ろよ。会社には俺が連絡しとくし」
「い、いい。大丈夫だって」
「ほんとかぁ?」
 
 ガディウスは心配そうに見つめるが、僕はそれどころではない。急いで片付けをして、玄関へ向かった。ガディウスの事を少しでも見たら気が散ってしまう。急いでここから離れなければ。
 
「ごめんご飯は使用人にお願いして!僕は仕事行く!」
「え、早くね?」
「早く行って仕事したいんだ。じゃあ行ってきます!」
「急に社畜か?」
 
 そして僕は困惑するガディウスを置いて、勢いよく家を飛び出し、診療所へと向かった。
 
 
 診療所に営業時間より大幅に早く着いてしまったため誰もいない。風の音がやけに耳に響く。
 はあ、やってしまった……。ここ最近調子がおかしい。それもガディウスが僕を泣き止ませるためとはいえ、キスなんてするからだ。だけどキスなんかに動揺している僕も恥ずかしい。しかも唇同士ならまだしも、頬へのキスだぞ。
 
 僕は一体どうしちゃったんだ。このままだとガディウスと過ごすのも一苦労である。あいつの顔を見るだけで情緒が不安定になってしまうなんて絶対おかしい。
 弱々しく嘆息を漏らすと同時に、カランコロンと鈴の音が遠くから聞こえた。音の先を見ると、藍色のコートを羽織るカトリンと目が合った。
 
「あらへズエル。今日は一段と増して早いわね」
「おはよう、カトリン」
「顔色も悪いわ。貴方病気?それなら帰って治さないとダメよ。お客に移るわ」
 
 カトリンが眉を顰める。僕だって病気だと思うけど、こんなの病院で相談出来るわけない。ガディウスが格好良くて胸がドキドキします、なんて。
 いや、相手がカトリンなら同僚だし相談しやすいかな?博覧強記で頼りになる。
 意を決してカトリンに真っ直ぐ眼差しを向ける。
 
「カトリン、相談があるんだ」
 
 彼女は呆気にとられ一瞬動きを止めたが、直ぐに頷いた。診療所の奥にある小さな一室に入る。そして僕らは机を挟んで向き合って座った。部屋は薄暗く、机上のランプだけが僕らを照らす。
 
 静かな空気の中、張り詰めた空気が漂う。僕はゆっくり口を開いた。
 
「実は最近、胸の動悸と頬の火照りが酷くて」
「大丈夫?何か重い病気なんじゃない?」
「僕も思ったんだ」
「どれくらいの頻度で起きるの?時間によって症状の変化はあるの?」
 
 カトリンは心配そうに顔を歪めて、病気の原因を探る。薬師だからカトリンは病気に関する知識は豊富で今も脳内の記憶を手繰りながら原因を探してくれている。
 僕は事情を話すのがなんだか照れるから目を伏せた。そして胸元を手で押さえる。
 
「ガディウスを見ると、なんだか頬が火照るんだ。動悸も激しくなる」
 
 何の病気かな、と尋ねると、カトリンはぽかんと口を開けたまま石のように固まった。


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