押し倒す前に言え!

綿毛ぽぽ

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 数分硬直した後、呆れたように大きくため息を吐き、じろりと僕を半目で見据えた。
 
「ただの惚気?心配して損したわ」
「の、惚気!?なんでこれが惚気に」
「だってガディウス見たら照れちゃって胸ドキドキするんでしょ?惚気じゃない。新婚なんだし普通の事でしょ」
 
 カトリンはさっさと席を立って出て行ってしまった。僕はカトリンの言葉に雷を受けたような衝撃を感じた。
 
 の、惚気?僕がガディウスの事を恋愛的に見ているということか?あの筋肉マッチョでいい加減な男を、す、好き……。
 確かに辻褄は合うけど信じられない。僕の好みはもっと可愛らしい女の子だったはずなのに、可愛いとかけ離れた大男に恋をするなんて思いもしなかった。だが、頭の中で僕とガディウスの姿を思い浮かべる。溶けそうな甘い笑顔のガディウスは、徐々に僕へ顔を近付けて唇を合わせる。
 
 瞬間、沸騰したみたいに顔が熱くなる。
 や、やばい。全然嫌じゃない。寧ろ心臓が痛いくらいに激しく鼓動して、ときめきを覚える。これが恋?今まで好きな子ができたことはあったが、何となく良い人だと思い焦がれていた。告白する勇気が出る前にガディウスに奪われる為、深く想いを寄せたことは無かったが、ここまで劇的に惹かれるのは初めてだ。
 
 僕、ガディウスの事本気で好きってことなのか……。
 思いもよらぬ恋にうつつを抜かし、僕はまともに仕事も出来なかった。集中しようとしてもガディウスが脳の片隅に残る。
 家に帰ってもガディウスの顔をまともに見れず、急いでご飯を食べて風呂へ入り逃げるように自分の部屋へ籠った。
 
 
 そんな生活を続けていると、ある日噂を聞いてしまった。家で雇っている使用人が小声で「倦怠期だ」なんて言ってるのをつい耳にしたのだ。
 
 やばい。そういえば僕達って一応結婚してたんだった!
 
 恋心に意識が完全に向いていたあまり、すっかり忘れていた。告白する前から既に結婚してるなんて都合の良い状態である。否、良くはないかもしれない。だってもうこれ詰んでないか?恋愛意識向けられる事ないし、ガディウスは女好きである。僕の事なんて好きになってくれるはずがない。
 
「最悪過ぎる……」
 
 喉の奥で押し潰されたような声が零れる。すると、後ろから突然肩を掴まれた。
 
「なんだぁ?へズ。何が最悪なんだ?」
 
 振り向くと怪訝な表情を浮かべたガディウスがいた。
 近すぎる。距離感がおかしいだろ。生の彼の顔を見た途端に心臓をぎゅっと掴まれたような衝撃を受け、僕の足が崩れ尻もちをつく。

 ガディウスが僕の情けない姿を見て、手を伸ばしてきた。だけどまた心臓が跳ねて、思わず手を振り払ってしまった。当然ガディウスは僕の態度を見て、眉を下げ困った表情に変わる。
 
 ま、まずい。動揺し過ぎてまた嫌な態度をとってしまった。慌てて謝ろうとしたが、緊張して口をぱくぱくと開閉しても喉を声が通らない。
 ガディウスはそんな僕の様子を見て吹き出す。

「ふっ、へズ、どーした?鯉の真似か?」
 
 餌付けしてやる、とガディウスは冗談のつもりで僕の口の中にチョコを放り込むが、そんな冗談ですら心が踊る。
 
 このチョコ、僕が前美味しいって呟いたやつだ。偶然だろうけどくれるなんて嬉しい。
 完全に僕は恋愛脳になっている。これ以上ガディウスを見たら頭がお花畑どころか頭の中の隅々まで莫大な量の花で埋まってしまう。
 
 僕はガディウスを見ないように視線を移した。
 
「わ、悪い。僕なんだか体調が悪いみたいで」
「大丈夫か?」
「うん。診療所で聞いたけど暫く治らないみたいだ。気にしないでくれ」
 
 僕は咄嗟に嘘をついた。言い訳に聞こえるかもしれないが一応事実には近い。恋という不治の病にかかっていると教えてもらったし。
 
 本当は嘘なんてつきたくないが、本人に好きだなんて言える訳が無い。そして理由をはぐらかしてもガディウスは執拗に理由を問い詰めるだろう。

 だが、僕の適当な嘘は通用せず寧ろガディウスは目を剥き、怒気を孕んだ声に変わった。
 
「はっ?んなことあるか?何の病気だ。王都のでかい診療所なら治るかもしれねえ。行くぞ」
「ちょ、まてまてまて!そんな大病じゃないしほっといたらいつか治るって言ってた」
 
 だめだ!病院に行って症状を伝えたとしたらカトリン以上に呆れられるに違いない。僕の腕を掴み馬車を手配するガディウスを慌てて引き止めた。
 ガディウスの声は変わらず怒気が混ざっている。
 
「重症化すっかもしんねえだろ。今すぐ行くぞ」
「大丈夫だ!あの、なんだ。アレルギーみたいなものだ!そう。赤いものがちょっと苦手になって、だから暫くガディウスに近付けない!ごめん!」
 
 頭を地に落とす勢いで、深く下げる。我ながら無理のある説明だ。
 暫くの間ガディウスは言葉を失い、沈黙が落ちた。
 
「……分かった」
 
 声が耳に届き僕は顔を上げる。軽く微笑むガディウスがいて僕は胸を撫で下ろした。
 
 

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