押し倒す前に言え!

綿毛ぽぽ

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 いや、良くはない。結局これじゃあ何も解決してない。結婚してるのに顔も合わせられないとかもっと悪い噂が広がりそうだし、最悪イレネ様みたいな人がガディウスに言い寄り、離婚になるかもしれない。想像するだけで血の気が引く。
 
 何とかしなくては。でもガディウスは男の僕とどうこうなんて考えてないかもしれない。しかも僕は別に可愛い要素は一つも無いし優れた所も無い。こんなの誰が惚れるんだ。
 いや、思い出せ僕。結婚するからには一途だと言っていたガディウスを。だけどその台詞と同時に一週間くらいで彼女を取っ替え取っ替えしていたガディウスも同時に脳裏を過ぎる。
 
 ……何故、僕はガディウスに惚れてしまったんだ。
 
 だけど良い方向に考えたら僕でも一週間くらいなら好きになって貰えるかもしれない。ガディウスは嫌がらせもしてくるけど同性婚に協力してくれたり僕を庇ってくれたり、僕のことを嫌ってはないと思う。
 
 可能性はゼロではない。それなら当たって砕けるのも有りだと思う。今までは僕が行動する前にガディウスが全て終わらせたが、今回は違う。
 
 僕から素敵な告白をして、ガディウスを振り向かせるぞ!

 だけど告白って、どんな風にしよう。大きな花束を渡して告白?何かプレゼントをあげるのが定番だよな。輝く夜景をバックにガディウスの髪のように真っ赤な百本の薔薇をプレゼント。悪くない。めちゃくちゃ格好良い僕。だけどガディウスがこのシチュエーションを好むかと聞かれたら頷けない。
 
 幼馴染なのにガディウスの好みはさっぱり分からない。いつも飄々としているし何かに執着しているところは見た事が無い。掴み所の無い男だ。
 
「え?ガディウスが私に告白してきたシチュエーションを知りたいって?」

 夕暮れのお客さんが少ない時間帯に聞いてみると、カトリンは苦虫を噛み潰したような顔になった。元彼の話なんてしたくないだろうが、どうしても気になる。参考にするつもりもないけどガディウスの告白と被っても嫌だし、聞くだけ聞きたい。

 顔を引き攣らせたままカトリンは話してくれた。
 
「口止めされてるんだけどね、ヘズエルは悩んでる様子だし言った方がいいかしら。普通に付き合ってくれって言われたわ」
「どんな感じで?」
「うちの診療所の近くで突然言ってきたの。一週間でいいからって。私は全く好みじゃないし断ったけど好きな物買ってやるって言われたから付き合ったわ」
 
 そ、そんな理由!?あまり二人の関係を詮索しなかったが、まさかそんな馴れ初めとは知らなかった。
 ガディウスはよく気障な台詞を吐くから、てっきりロマンチックな告白を想像していたが、余りに適当な告白だ。アイツ、ほんとにカトリンの事好きだったのか?

 カトリンは買ってもらったという分厚い薬草の辞典を持ってきた。僕も薬師を目指していた時にガディウスに貰ったものだ。これを買ってもらうためにガディウスも付き合うなんてカトリンは余程お金に困っていたのかと思いきや、辞典の値段を聞いて僕は失神しそうになった。孤児院の子供全員が一年食う物に困らない程度の額だ。恐ろしい……。たった一週間付き合う為にこれを軽く買ってくるなんて凄い男だ。しかも僕にも無償でくれたし、アイツ金の使い方がよく分からないところで大胆だな。
 
「へズエルったら前からよく分からないことを言ってるわね。何かあったの?」
「え、ああ、いや、ガディウスに改めて告白しようかなぁって」
「どうして?」

 カトリンの言葉に言い淀む。彼女から見たら既に結婚している状態にも関わらず、告白するというよく分からないものだ。
 僕は彼女の澄んだ瞳と合わせられず目を伏せたまま答えた。
 
「えっと、ガディウスから告白されたけど、僕からは何もしてないからしようかなって」
「へえ熱烈ね」
 
 カトリンは楽しそうに頬を緩めた。僕はそれに曖昧に微笑んだ。
 結局どんな風に告白しようかは全く思い付かなかった。僕はガディウスの事があまりよく分からないし彼が何をしたら喜ぶのか分からない。僕は彼と違ってお金や美貌、権力、何も勝るところは無い。何をあげられるんだろう。
 
「でも、ガディウスはなんでも持ってそうだし、僕から何かしても困るかな」
「そんな事ないわよ。大事なのは想いよ」
 
 カトリンの言葉に暗い心に光が射し込む。ガディウスもルクンパンについて語っている時に似たことを話していた。想いが嬉しかった、と。
 
 そうだ。くよくよするな、僕。何も出来ないけど想いは人一倍ある。堂々と告白し、本当の夫婦になってみせる!
 胸の内に燃え上がるような気力が漲る。僕は力こぶを作る素振りをするが、お客さんが現れ急いで仕事へ戻った。






「ヘズエル兄ちゃん、またきたのー?」
「遊んで遊んで!」

 膝ほどの身長しかない孤児院の子供達が僕の周りを囲む。僕はまず近くにいた子を両手で抱えて、飛行機のように走り回った。子供はきゃっきゃと笑い、周りの子達も僕を追いかける。
 
 決して現実逃避で孤児院へ来たわけではない。最近は仕事帰りにガディウスを避けるためについ来てしまうが、今日は別の用件で来たのだ。
 
 子供達全員と遊んだ後、僕は孤児院に隣接する教会へ訪れた。
 白い外壁は黒ずんで、人の気配も全く感じない寂れた教会だ。中も簡素な作りで、装飾はほとんど無く静まり返っている。かつては結婚式などで使用されていたようだ。しかし財政難により今では空き家のような状態になっている。祭壇へと真っ直ぐ進むと、虹色の光が降り注いでいた。天井の色鮮やかなステンドグラスはいつ見ても色褪せず美しい。
 
 昔、孤児院を抜け出してたまに訪れていた。この虹色の光に包まれると夢の中にいるような、非現実的な気持ちになる。
 
 ここで、告白が出来たらなぁ。
 僕達は愛のない結婚だし結婚式は挙げなかった。ガディウスはやたら挙げたがっていたが、予算も勿体ないしする必要は無いと思っていた。しかし、今となれば好きな人としておけばよかったと後悔してる。でも、ここで僕がプロポーズして結ばれたらめちゃくちゃロマンチックじゃないか?ガディウスからは既に貰ってしまったけど、結婚指輪も僕から改めて渡して本当の夫婦になりたい。

 そうとなれば、今すぐ準備しないと!
 心臓が早鐘を打ち無意識に口角が上がる。僕はその後恐ろしい事件が起こるとは知らず、鼻歌交じりで子供達へ別れを告げた。
 
 

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