押し倒す前に言え!

綿毛ぽぽ

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 目の前に光る宝石。太陽の光を集めたような輝きを放つ。僕は宝石に手が触れないようにそっと指輪をケースに仕舞った。

 か、買ってしまった……。僕の給料3ヶ月分の結婚指輪。教会で告白するなら、指輪なんて渡したりして、と思ってたけども流石に重いかもしれない。でもガディウスから貰った指輪はガディウスの色だし折角なら僕の色も良いよな。
 
 なかなか榛色に近い宝石なんてなかったけど、カトリンに良いお店を教えて貰ったお陰で無事見つけることが出来た。いつも高級店なんて入ることも無いから緊張したけど、店主も良い人だったし僕の予算でも買える物を用意してもらえて大満足である。ただ、やはり僕の予算で買える宝石は小粒で小さい。ガディウスから貰った宝石と並べると、全然大きさが違う。ま、まあ、良いよな。想いが大事だ。そもそも受け取ってもらうことが第一優先だし!
 
 さて、準備は整った。あとはガディウスを誘うだけだ。玄関へ向かう足取りは重い。赤いものアレルギーとか言ったのに今更僕から近寄るなんてバツが悪い。最近は一緒にご飯も食べず顔を合わせてなかったから、どんな顔で近寄ったら良いのやら。
 自分の家なのに不審者の如く玄関前でガディウスを待ち伏せた。早朝の冷たい風が肌に触れる。寒さか緊張か分からないが手先が震え、暖を取るように手を擦って仕事へ向かうガディウスを待っていると、ついに扉が開かれた。
 
「がっ、ガディウス!」
「んぁ?」
 
 ガディウスは僕を見つめるが、直ぐに目を逸らして馬車へと向かう。
 ちょっと待て。なんで無視するんだ。
 慌てて追いかけてガディウスのコートを摘んで引っ張った。
 
「ガディウス!待って」
「なんだよ。アレルギーなんだろ?」
「うっ、それは悪かった。でももう治ったんだ」
 
 そう言うとガディウスの足が止まり、僕へ視線を寄越す。ガディウスは普段と違い怒っているのか呆れているのか、口をへの字にしていた。今から仕事だろうし余り長く引き止めてはだめだ。早く言わないと。
 
「今日の夜暇?良かったら、一緒に孤児院の方行かない?」
「孤児院?良いけどよ、どうした急に」
「いや、その、ちょっとその後大事な話もしたくて」
 
 口をもごつかせる僕にガディウスは怪訝な表情を浮かべるが、仕事まで時間が無いのか深く探らずそのまま馬車に乗り職場へ向かった。
 
 ガディウスにはなんだか凄く怪しいヤツだと思われてそうだ。だけど告白のためには仕方ない。よし、僕も早く仕事を終わらせて準備をしよう!
 そして馬車から背を向けた。
 
 
 職場へ着くと、いつもと違いカトリンや店主が既に席に着いている。カトリンは僕を見て明るく手を振ってくれた。
 
「いよいよじゃない?告白」
「うん。ガディウスにも無事誘うことが出来た」
「良かったわね」
 
 胸が躍る。緊張と高揚。ガディウスはどう答えてくれるんだろう。胸の鼓動に意識が取られないよう仕事に没頭していると、あっという間に空は茜色に焼かれる。夕日の光が窓から差し込み、手に持つ投薬瓶までもが赤で染まる。
 
 も、もう少し!もう少しで告白!どうしよう。やっぱり別日にしようかな。いやいやいや、そんな事したらますます僕らの仲が拗れてしまう。頭を悩ませていると、カトリンが僕を呼ぶ。
 
「ヘズエル、ダーリンの登場よ」
「ハニー、迎えに来たぜ」
 
 えっもう来たのか!?本当は僕がガディウスを迎えに行って格好良くリードするつもりだったのに。
 壁に凭れかかりながら微笑を浮かべるガディウス、流石モテる男だ。イケメン過ぎる。隣に並ぶカトリンも美人で正に大人っぽいお似合いのカップルに見える。ガディウスはカトリンに告白したなら、カトリンのような美人系が好みなのか?それなら僕と正反対じゃないか。地味男系は恋愛対象に入れてもらえないだろうか。いや、卑屈になるなヘズエル。美人は三日で飽きるっていうし顔じゃなくて何か他の所で勝負しよう。料理とか!うん。そうだ。ガディウスの胃袋は掴んでるみたいだし自信を持て。

 拳を握り締め、ガディウスの横に並んだ。ゆったりとした足取りで孤児院へ進む。職場から孤児院は近くだから馬車を使わなくても直ぐに着ける。
 孤児院へ入ると、いつも通り子供達が出迎えてくれた。
 
「ヘズエル兄ちゃん、また来たのー?」
「ヘズエル兄ちゃんに、ガディウスだ!」
「ガディウス!?なんでいるの?」
「なんで俺だけ呼び捨てなんだぁ?」
 
 ガディウスは不満そうに声を漏らしながらも、抱きついてくる子供たちを抱えた。子供達も大きなガディウスに肩車をしてもらったりして嬉しそうにキャッキャと声を上げている。微笑ましい光景に僕も自然と口角が上がる。
 
 暫く子供たちと遊んで過ごすと、茜色の空は闇に溶け、光の一つも見えないほど真っ暗になった。子供達もそろそろ寝る時間で、寝室へ向かう。僕は、今だと思いガディウスの裾を引っ張る。
 
「ちょっといいか?」
 
 ガディウスは真剣な様子の僕に、静かに頷き着いてきてくれた。

 
 冷えた夜道を通り抜け、教会の重い扉を開き中に入る。寂れた教会だが、扉を閉めた途端、外の冷たい風は遮られ嘘のように消えた。

 月の明かりに照らされた天井のステンドグラスは夜でも淡く光りを落とす。いつもはその美しさに目を奪われてしまうが、今日ばかりはそれどころではない。心臓の鼓動が激しくて胸が痛い。向かい合って見えるガディウスの顔はいつも通りに見えるが、僕へ向ける視線に意識してしまい胸が早鐘を打つ。深呼吸を繰り返し、ごくりと生唾を飲んだ。
 
「その、なんだ、その……」
「ん?」
 
 緊張で唇が震えて言葉が詰まる。そんな僕をガディウスは急かさず待ってくれる。
 格好良く告白しようと思っていたのに体は上手く動かないしまともに目も合わせられない。ぎゅっと服の端を握る。ええい、早く言っちゃえ!
 
「すっ、好きになっちゃったんだ!」
 
 僕の大声が教会に木霊する。
 そのまま勢いに乗せて、言葉を続けようとした。指輪ケースをポケットから取り出し、ガディウスへ向ける。
 
「だから僕とけっ」
 
 最後まで声を出すことはできなかった。突然ガディウスが僕を抱き締めたからだ。まるで僕を閉じ込めるようにそのまま腕を背中へ回す。
 
 な、なんだ急に。予想もしない行動に声が出ず、体も硬直してしまう。
 
「ヘズ」
 
 行動とは反対に、いつも通り甘い声が耳朶を撫でる。だが、何故だろうか。身の毛もよだつような恐怖が背中を巡る。
 
「俺は悲しいよ。一途だって言ってたのに」
 
 まあ、へズが先に裏切ったもんな。
 ガディウスの地を這う様な言葉が耳に入る。どういう意味かと聞く前に、僕は頭を後ろから引き寄せられ唇を奪われていた。

 唐突すぎて状況が飲み込めない。目を白黒させる僕に対し、ガディウスは構いもせず口付けを深める。口内へ侵入したガディウスの肉厚な舌は逃げる僕の舌を追い掛けては絡め、味わうように歯列を撫でる。まるで捕食されるような口付けだ。唾液が混じり合い、息が上手くできない。
 力が抜け、手から指輪のケースが落ちる。ガディウスは漸く唇を離したが、一滴でも逃さないとばかり僕の口の端から垂れる唾液すらも舐めた。
 
「……カトリンはいねえのか。折角見せつけてやろうと思ったのに」

 ガディウスの低い声が響く。理解ができない言葉に何か言ってやりたいが、酸欠でまともに声が出ない。
 ガディウスは「まあいいか」と言いながら抱き締めていた僕を持ち上げ、礼拝堂の奥まで続く長椅子の一つに降ろした。ガディウスはそのまま無言で僕の体に跨る。ずっしりとした重みが足の方へかかり逃げ場が無い。僕はガディウスを睨み付け、声を振り絞った。
 
「な、んだよ」
「不倫した悪い嫁にやる事ったら、一つしかねえじゃん」
 
 不倫?
 ガディウスは、砂糖を煮詰めたような、甘く濁った目を細めた。
 
「セックス♡」

 

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