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しおりを挟む予想外の反応に僕は呆気を取られていると、ガディウスは目をぱちぱちと瞬かせながら口を大きな手で抑える。
だが、手越しでも声は抑えきれず、室内にガディウスの大きな声が響いた。
「ヘズが俺のために!?嘘じゃねえよな?俺に?」
「も、もううるさい!どっか行け!川にでも指輪捨てろよ!」
指輪を取り返そうとしたが、ガディウスは頑なに外そうとせず、後退った。そして、まるで生まれたての小鳥を包み込むように大事に指輪を掴んで、啄むような口づけを指輪に何度も落とす。
「いやいや、俺のなんだろ?ちゅっちゅっちゅっ」
「やめろ!汚い!」
折角高い宝石なのに汚れてしまう。
てか豹変し過ぎだろ。さっきまでは殺意に満ちた眼つきで指輪を睨みつけていたのに、今は慈愛に満ちた眼差しを向けている。
ガディウスは喜びを噛み締めるように声を漏らした。
「やっべえ。めっちゃ嬉しい」
満面の笑みで見られると、さっきまで苛立っていた気持ちもなんだか飛んでいきそうだ。
だが、この程度で許せるレベルでは無い。正気に戻れ、ヘズエル。こんなもので許しちゃダメだ。
胸の内で自分に言い聞かせ、なるべくガディウスと目を合わせないようにそっぽを向く。
「ふん、でもいらないんだろ」
「いやいやいやめっちゃいる!一生の宝物にする。ありがとう。俺もへズのこと愛してる!」
勢いよく厚い胸板に抱き締められる。肩に顔を埋められ、腕の力がぎゅうぎゅうと強まった。
く、苦しい。こいつ感情表現が激しすぎるだろ。さっきまではあんなに冷淡な態度だったのに、突然手のひらを返したようにそんなことを言われても信じられるわけがない。
「どうせ嘘だろ。昨日あんなことしてきたし、こんな意味不明なもの嵌めてくるし」
「悪かった!ヘズがカトリンと結婚まで考えてんのかと思って、我慢できなくなっちまって。それに、拘束しておかねえとヘズは逃げちまうだろ」
ガディウスは拗ねた子供のように口を尖らせる。
確かに何も無かったら直ぐに逃げ出していたかもしれない。その可能性を否定出来ず、口を噤んだ。
強い抱擁が解け体は解放されたが、空気は重く、沈黙だけが残る。ガディウスは、僕の前で頭を深く下げた。
「悪かった。ヘズの気持ちなんも聞かなくて、傷つけてごめん」
いつもヘラヘラしてるガディウスらしくない真摯な謝罪だ。揺れそうになった感情を必死に胸の奥へ押し戻す。
「……でもいつから好きだったんだよ。告白だって全然されてないし」
「孤児院の時だから、んー、十五年とかは経ってるか?」
「じゅ!?お前流石にそれは盛りすぎだぞ!大体何人か元カノいただろ」
衝撃の発言に思わず目を見開く。
ガディウスは反応など意に介さぬ様子で、鍵を取り出し、手枷や足枷を丁寧に外した。
身体は解放されたが、釈然としない。あんなに外してほしいと願っていたが、今ではどうでもいいと思えてしまうほど、ガディウスの発言の真意ばかりが気になる。
「別にアイツらのこと好きじゃねえし。ヘズが好きだったから付き合っただけだ」
「嘘つけ!あんなに可愛い子達と付き合ってたら、あ、あんなことやこんなことしてたんだろ!本当は僕より好きになってたに違いない」
「いや、俺は好きな奴以外に勃たない」
ガディウスは胸を張るが、最悪な発言である。
全然信じられない。惚れていたとはいえ、一般的に見てもガディウスの元カノの女の子達は可愛らしい子ばかりだった。
元カノ以外にも色んな女の子から好かれていた。孤児院にいた時も、騎士になってからはもっとモテている。高貴な令嬢からも言い寄られているほど。以前会ったイレネ様以外にもきっと華奢で素敵な人から交際を申し込まれていたに違いない。
例え昔、僕が好きだったとはいえ一度くらい目移りしているだろう。
「アイツらに一切触ってないし第一ヘズがあの女どものこと好きって思い返すと全然殺意の方が湧く。カトリンには若干気付かれてやばかった」
「何したんだよお前」
「まあ、色々な。とにかく俺はお前が好きだ。これは断言する」
その色々ってなんだろう。そういえばカトリンもガディウスと付き合ったことを黒歴史のように語っていた。気にはなるが、聞いてカトリンと更に気まずくなるのも困る。
それに、ガディウスの様子を見る限り嘘をついているようには思えない。
そもそも長年顔を合わせていたが一度もイチャついてる姿は見たこともない。カトリンから告白の演出を聞いた時も本当に好きなのかと疑問に感じた。
そう考えると、ガディウスの話は辻褄が合う。
まあ、好きでもないのに付き合うのはどうかとは思うが。カトリンは欲しいものを買ってもらったみたいだし利害の一致というやつなのかもしれない。
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