流星

蒲公英

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教室の中で

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 その夜、僕の目には白いコートの背中が焼き付いて眠れず、翌朝に学校に着いたら教室の女子が僕を酷いヤツだと言い募るのはないかと不安で、憂鬱を感じさせた田中に、また腹を立てた。女子はしょっちゅう他人の噂話をしているし、きっと朝には田中が教室で僕に傷付けられたと被害者ぶった顔をしているだろうと想像したので、登校途中の僕は、普段に増して苛つき神経を尖らせていた。
 結果的には田中は触れ回ったりせず、ただ僕のほうをちらりと怯えた表情で見ただけで、いつもと変わらない物静かで落ち着いた様子でいる。たいしたことではなかった、あのくらいのことは誰でも言うだろう、そう思うと前夜の後姿が浮かび、落ち着かなかったのは僕のほうだった。

 着席した時に、机の上に鉛筆で薄く書いてある文字に気がついた。
―きのうはごめんなさい たなか―
教室の隅で、女子の声が聞こえた。
「さゆり、眠そうじゃない?」
「うん、お母さんが昨日帰ってきたのが十二時過ぎだったから。」
 彼女は昨晩、あの表情のまま暗い部屋に入り、そんな時間までひとりでいたのだろうか。少しだけ罪悪感を持ちながら、僕は消しゴムで机の上の文字を消した。
 
 さて、二月に入るとすぐに、学校から渡されたプリントは「第一回進路希望調査用紙」である。まだ高校受験などまったく遠いことで、高校のレベルなど塾からの情報をナナメ読みするくらいの切迫感のまるでない生徒たちがざわめくと、教師は家で相談して来い、と話を切った。
 その中でひとり、即座に提出した女子がいた。田中だ。教師は用紙を見て、少し驚いた顔をした。
「ここは、遠いぞ。学区外だ。レベルも県内ダントツだが、親と相談しているのか。」
 間髪をおかず、田中は答える。
「そこに、行きます。」
 どこだって? 県立K高だってさ、どこ? そこ、頭いいヤツは違うねーと教室がまた少しざわめき、教師がプリントを戻そうとしながら言った言葉を、田中は遮った。
「行きますって言っても、決めるのは高校のほうだから。まあ、希望は希望だが親ともう一度」
「私は、その学校にしか行きません。」
 普段の存在感の薄い、どちらかと言えば控えめな田中には珍しい、強い口調だった。
 
 その週の土曜日、部活帰りに友達とスーパーマーケットの休憩所で鯛焼を頬張りながら、最大のレクリエーションである教師の悪口と女子の品定めについて、盛大に語り合っていたときの事だ。進路希望をどの学校で出したのか、ひとしきりまた盛り上がった時、成績がトップクラスにある一人が思い出したように言った。
「お菊ってさ、自分で頭イイと思ってるんじゃない? 行きたい、じゃなくて行きますだってさ。すごい自信だよな。」
 僕は進路についてなんか考えたこともなかったので、塾の点数と照らし合わせて行けそうで無難な受験先を記入しただけで、他の学校に関する知識は無かった。
「お菊の言ってた学校って、そんなにすごいの?」
 そう聞いてからはじめて、その学校が明治から伝統のある有名校で、僕の家からだと通学に2時間近くかかることを知ったくらいだ。ただぼんやりと、通学時間が大変な学校をわざわざ選ぶ理由はランクだけではなく、他の何かがあるのだろうなと思ったが、何か理由があるんじゃないのか、なんて言ったらヒヤカシの嵐だ。
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