トクソウ最前線

蒲公英

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お会いしました

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 区立経谷中学校に呼ばれたのが、春から初夏にかけての定期イベントの幕開けだ。いたちごっこの作業だが、放っておくと目も当てられなくなる場所、校庭だ。桜のはなびらが盛大に舞うのは美しいが、そのあとにガクが盛大に落ちる。学校ってのは桜の木が多いから、通常の掃き掃除だけでも結構な仕事量だ。プラスして冬に枯れた芝生の古い葉が抜けると同時に、雑草がはびこりはじめる。校庭内のグラウンドの大外、プールの裏、校門横の植え込みの中、果ては野球のバックネットの内側まで。自宅ならば除草剤を撒きたいところだが、化学物質アレルギー等への配慮から、教育機関では使えないことが多い。雑草が多ければ虫の発生も多くなり、隠す場所ができることでゴミの不法投棄が頻発する。学校の同意が得られれば、授業に差し支えなくかつ美観を著しく損ねない場所ならば、防草シートを敷設することもあるが、それはある程度長さと幅のある場合に限られる。
 ってわけで、人海戦術である。三人一組になって、助けてコールのあった現場をまわる。庭仕事のプロの植田さんに、効率的な竹箒の使い方や植物の種類による除草の違いを教えてもらって、作業開始だ。片岡さんが刈払機を使っている音がする。風は冷たいけれど、日差しが強い。ときどき腰を伸ばしながら草を引いていると、刈込鋏で植え込みを整えている植田さんが、教室の窓を指差した。
「あの人、和香ちゃんのこと見てるみたいだけど」
「可愛い子がいるって思ったのかな」
 そんな返事をできる程度には、植田さんとは打ち解けている。

 あれ、水木先生じゃない? 和香がそう気がついたのと、窓から手が振られるのはほぼ同時だった。授業中の時間で、当然声は出せない。次のチャイムで二十分休みのはずだが、こちらから理科室に訪ねていくのは違う気がする。仕方なくまた下を向いて除草作業に戻ると、朝のルーティン作業を終えた用務員さんたちが加わった。そうなると、自分から抜けるわけにもいかない。水木先生を気にしながらも時間は過ぎ、約束の午前中の作業が終わるころ、四時間目開始のチャイムが鳴った。

 腰を伸ばしながら主事室に戻ろうとする和香に向かって、白衣が歩いてくる。新しい赴任地がここだと知って来たわけじゃないのに、わざわざ追いかけて来たように見えるのではないかと余計な心配をしてしまうが、それこそ杞憂である。
「榎本さん、こちらに異動なんですか。また一緒なんですね」
 一瞬ぽかんとしてしまったが、すぐに勘違いに気がついた。
「えっと、違います。私はなんていうか、日常清掃のサポートをする仕事になりました。常駐じゃないんです」
 トクソウの存在を、どう説明したら良いのかわからない。
「じゃ、舘岡中のときみたいに、理科室の清掃って頼めるんですか。ここは清掃してもらえなくて」
「それは、私にはお返事できないです」
 校内を見れば、ここの用務員の仕事が行き届いていることはわかる。本来ならば特別教室は仕様外だから、用務員は清掃しない。ここで、ふと金子さんに言われたことを思い出した。
 時間が空いたからと和香が厚意でしていた特別教室の清掃は、水木先生には『してもらって当然なこと』になっちゃっているのだ。たった一年で、自分が考えるべきこと(この場合、自分が管理する教室の美化)が他人に投げても良いことに変化してしまっている。それを考えると、確かに自分は余計なことをしていた。自分が動けるからって、他人の仕事を増やして良いことにはならない。

「榎本さん、週末はお暇ですか」
 いきなりの質問に、どきどきする。
「土日はお休みです」
「南文化センターで、区内で見かける鳥の展示会をやるんですが、僕も主催者側なんです。よろしければ来ていただけると嬉しいです」
 なんだ、個人的に誘われたのかと思った。この赤面の言い訳がつかない。
「時間があれば、うかがいます」
 無難な返事をして、主事室に入った仲間を追いかけた。勘違いしかけて上がったり下がったりした気分で、すっかり疲れてしまう。

 週末その展示会に行けば、水木先生が展示について説明してくれたりするんだろうか。それともただの社交辞令で、客寄せに声をかけただけなのか。こんなことで揺れる自分にうんざりして、無口になる。
「さて、本社に戻って次に行こうか」
 刈払機を車に積みながら、植田さんが声を掛けてくる。
「コンビニ寄ってください。カップ麺食べたい」
 太るぞぉと笑われながら、膝の土を払った。ほら、こんな格好してて、誘おうとか思ってもらえるわけないじゃない。
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