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見られていたのか
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スタッフルームからアルバムを出してきた水木先生に、写真を見せてもらう。殊更に鳥に興味があるわけでなくとも、きょとんとした顔や丸い胸は可愛いものだ。
「榎本さん、校庭でよく花の写真撮ってたでしょう」
水木先生が言う。校内なので当然目にしたことはあるだろうし、別に後ろ暗いわけじゃない。にもかかわらず、和香の思考は斜めに走った。
バレてた! スマートフォンでこっそり撮ってたのに、仕事中に遊んでたって思われてる! 下を向いてしまった和香を気にしたのは、水木先生のほうだ。
「何か禁止されていましたか。誰にも言ってませんから」
「いえ、会社からは禁止されてないです。でも仕事中ですから」
くすっと笑う声が聞こえた。
「生真面目ですね、榎本さん。ヘビをぶら下げて校舎内を歩いた人だとは思えない」
ヘビをぶら下げて校舎内を歩いた。その事件は、前年の九月に遡る。
昇降口から繋がる渡り廊下で、中学生たちが大騒ぎしながら何かを囲んでいた。
「殺せ! 踏んづけろ!」
なんだか物騒な声が聞こえて、和香が覗き込んだ和の真ん中に、体長二十センチかそこらの小さくて細いヘビがいた。モップで潰そうとする男子の腕を、咄嗟に掴んだ。
「何してるの! 生きてるのに、かわいそうでしょう!」
頭は三角じゃないから、マムシじゃない。頭の部分を指で摘んで持ち上げると、生徒たちは悲鳴を上げた。校内で見つけたものだから、副校長に処分を仰がなくてはならない。あまりにも小さくて細いので、ビニール袋に入れるのもなんだかな気がして、その形のまま職員室まで持っていった。腰が引けた副校長に、植え込みに逃がしてやってくれと指示され、またそのまま校舎内を歩いた。ただそれだけだ。
植え込みに小さなヘビを置き、身体をくねらせながら隠れるのを見送ったらそこまでである。都市部の学校にヘビがいたのは驚きだが、花壇いじりをしていればカナヘビやミミズとはお馴染みなので、手を洗えばおしまい。なんていうヘビだったんだろう、写真撮っといて調べれば良かったかな、程度にしか和香は考えなかった。だから言われるまでは、思い出しもしなかった。
「不思議な人だなってずっと思ってたんです。生きてるヘビは掴めるのに、校庭の隅でカラスが死んでた時は大騒ぎしてましたよね。僕、両方とも職員室に居合わせたんです」
リアクションに困る。裏方の用務員を気に留める人がいるなんて、想像外だ。覚えてくれるのなら、もう少し良いところを覚えていて欲しい。
「夏前にアンズの木に梯子かけて、綺麗な実を収穫して職員室に届けてくれたでしょう。それまで腐って落ちるだけのものだったのに、職員室で冷やして食べました。先生たち、感動してましたよ」
「あ、ありがとうございます」
「仕事熱心だし控えめだし、なんで用務員してるんだろうって」
もう、どう返事して良いかわからない。自分の知らない自分の話をしないで欲しい。先生たちが気がついているのかどうか、自分は佐藤さんの未来の姿だ。なんでという疑問は、自分の中では返答ができる。けれど今は、そんな話をしているんじゃない。
「作業服姿しか知らなかったから、なんだか新鮮ですね」
水木先生が照れ臭そうに言う。
「私も学校以外の水木先生を、はじめて見ました」
和香は真っ赤である。自分のコミュ障が恨めしい。何故ここで、明るい会話ができないのか。
大きな展示会場ではないし、水木先生の写真を見てしまえば残っている理由がなくなる。
「来ていただいて、嬉しかったです。そろそろヒマワリは種まきして良いんでしょうか。質問の電話しますね」
南文化センターの入り口で別れて、和香は帰りのバスの中で大きく息をした。屈託なく見えた佐藤さんの笑顔に、中学生だった自分が重なる。大人になるころには馴染むことを覚えると、水木先生は言った。覚えたい、と強く思う。
何をどうしたら、覚えることができるのだろう。
「榎本さん、校庭でよく花の写真撮ってたでしょう」
水木先生が言う。校内なので当然目にしたことはあるだろうし、別に後ろ暗いわけじゃない。にもかかわらず、和香の思考は斜めに走った。
バレてた! スマートフォンでこっそり撮ってたのに、仕事中に遊んでたって思われてる! 下を向いてしまった和香を気にしたのは、水木先生のほうだ。
「何か禁止されていましたか。誰にも言ってませんから」
「いえ、会社からは禁止されてないです。でも仕事中ですから」
くすっと笑う声が聞こえた。
「生真面目ですね、榎本さん。ヘビをぶら下げて校舎内を歩いた人だとは思えない」
ヘビをぶら下げて校舎内を歩いた。その事件は、前年の九月に遡る。
昇降口から繋がる渡り廊下で、中学生たちが大騒ぎしながら何かを囲んでいた。
「殺せ! 踏んづけろ!」
なんだか物騒な声が聞こえて、和香が覗き込んだ和の真ん中に、体長二十センチかそこらの小さくて細いヘビがいた。モップで潰そうとする男子の腕を、咄嗟に掴んだ。
「何してるの! 生きてるのに、かわいそうでしょう!」
頭は三角じゃないから、マムシじゃない。頭の部分を指で摘んで持ち上げると、生徒たちは悲鳴を上げた。校内で見つけたものだから、副校長に処分を仰がなくてはならない。あまりにも小さくて細いので、ビニール袋に入れるのもなんだかな気がして、その形のまま職員室まで持っていった。腰が引けた副校長に、植え込みに逃がしてやってくれと指示され、またそのまま校舎内を歩いた。ただそれだけだ。
植え込みに小さなヘビを置き、身体をくねらせながら隠れるのを見送ったらそこまでである。都市部の学校にヘビがいたのは驚きだが、花壇いじりをしていればカナヘビやミミズとはお馴染みなので、手を洗えばおしまい。なんていうヘビだったんだろう、写真撮っといて調べれば良かったかな、程度にしか和香は考えなかった。だから言われるまでは、思い出しもしなかった。
「不思議な人だなってずっと思ってたんです。生きてるヘビは掴めるのに、校庭の隅でカラスが死んでた時は大騒ぎしてましたよね。僕、両方とも職員室に居合わせたんです」
リアクションに困る。裏方の用務員を気に留める人がいるなんて、想像外だ。覚えてくれるのなら、もう少し良いところを覚えていて欲しい。
「夏前にアンズの木に梯子かけて、綺麗な実を収穫して職員室に届けてくれたでしょう。それまで腐って落ちるだけのものだったのに、職員室で冷やして食べました。先生たち、感動してましたよ」
「あ、ありがとうございます」
「仕事熱心だし控えめだし、なんで用務員してるんだろうって」
もう、どう返事して良いかわからない。自分の知らない自分の話をしないで欲しい。先生たちが気がついているのかどうか、自分は佐藤さんの未来の姿だ。なんでという疑問は、自分の中では返答ができる。けれど今は、そんな話をしているんじゃない。
「作業服姿しか知らなかったから、なんだか新鮮ですね」
水木先生が照れ臭そうに言う。
「私も学校以外の水木先生を、はじめて見ました」
和香は真っ赤である。自分のコミュ障が恨めしい。何故ここで、明るい会話ができないのか。
大きな展示会場ではないし、水木先生の写真を見てしまえば残っている理由がなくなる。
「来ていただいて、嬉しかったです。そろそろヒマワリは種まきして良いんでしょうか。質問の電話しますね」
南文化センターの入り口で別れて、和香は帰りのバスの中で大きく息をした。屈託なく見えた佐藤さんの笑顔に、中学生だった自分が重なる。大人になるころには馴染むことを覚えると、水木先生は言った。覚えたい、と強く思う。
何をどうしたら、覚えることができるのだろう。
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