トクソウ最前線

蒲公英

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そういうことかな

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 やはり早めに解散したので、先日会った友達にSNSで連絡を取ってみた。慣れない他人との時間に疲れてはいたが、気分に収まりがつかない気がして、家に帰るのが億劫だ。
 家に帰るのが億劫なことなんて、なかった。いつだって疲れたら、早く家に帰って気に入ったお茶でも淹れようと、それが気分転換のつもりだった。自分の気分を変えるのは自分自身でしかなくて、持ち越したり未消化だったりの感情をイジイジウジウジと抱えていた。他人との会話でヒントをもらうことができると知った今、頼りたくなるのは当然だろう。
 夜は予定があるから今なら大丈夫だと返事をもらい、駅近くのカフェで待ち合わせした。和香から声が掛かるなんて珍しい、傘を持って行くなんてメッセージがあった。

 先に到着したカフェで、じっくりとメニューを検討してパンケーキに生クリームを追加してオーダーしてから、ふうっと身体から力を抜いた。紅茶専門店の勘定は、結局水木先生が払った。そして、僕はやっぱり違いがわからないです、と笑顔で言われた。ファミレスの紅茶で良かったと暗に言われた気になって、大好きな店を否定された気分だ。まだよく知らない人に、好みを押しつけてしまったんだろうか。相手の誘導通りに我儘と言われないように、そうすれば嫌われなくて済むのに。
 パンケーキとコーヒーが目の前に置かれ、崩れ落ちそうなベリー類と山盛りの生クリームを眺める。ああ綺麗、これが目の前にあって幸せ、と思わず写真を撮ってSNSにアップしたところで、友達が到着した。
「なんかすっごい高カロリーなもの頼んでるね。ダイエット中の私への当てつけか?」
「冷暖房のない場所で肉体労働してるんだもん、エネルギー大事。エリちゃん、ダイエットの必要ないじゃない。腕細いし」
「見えてない場所がヤバいの。これから夏になるのに」
「私、一年中作業着だもん」
 店員さんを呼んで友達がコーヒーを頼んだので、もう一本フォークを持って来てもらった。少しおすそ分けするつもりだ。
「和香ってそういうとこ、人が好いよね。ウチの会社のヒトクチさんにターゲットにされそう」
 聞けば、自分で持っているものは絶対人に渡さないのに、他人のものは全部『ヒトクチ頂戴』って手を出す人がいると言う。そんな人がいるのかと驚くと、いろいろな人がいるのよと笑う。癖が強い人も悪意のある人もいるけど、仕事中のつきあいだから指摘なんかしない。関わらなければ良いのだから、余程腹に据えかねなければ放っておいて近寄らせないだけだと。

「で、今日は何かあったんじゃないの。和香から誘いなんて、ビックリよ」
 それでも来てくれたんだから、この友達は自分を遠ざけようとはしていないのだと安心して、和香はやっと話すことができる。学生のころはもう少し、打ち解けた性格だったような気がする。
「えっとね、月に一回くらいの割で一緒に出掛ける人がいるんだけど」
 相談するにしては大した悩み事があるわけでもなく、ただ妙に泡立っている心を鎮めたいだけ。まだ恋愛になっているわけでもないが、これから進展する可能性のひとつとして期待している分、不安になる。ぼちぼちと話す和香を頷いたり促したり、ときどきは冷やかしたりしながら聞いていた友人は、結局和香のパンケーキを半分食べたあとに、言いにくいけどねと結論を出した。
「そのアラサーの先生、嫁探ししてるんじゃない? 和香、ぴったりじゃん。よく働いて余計なこと言わなくて、贅沢もしない。化粧しなくてもブスじゃないし、礼儀もちゃんとしてる。しかも特技は清掃。言うことないね、私が嫁に欲しい」
「……エリちゃん、もらって。尽くすから」
 言われた言葉に反射的に出た冗談に、友達が笑った。
「ほら、和香ってそうやって切り返せるじゃん。私ならアラサーの嫁探しにつきあう気はないけど、和香がその先生を気に入ってるんならそれもアリかとは思う。条件は悪くなさそうだもんね、和香次第じゃない?」
 和香がうすぼんやりと恋愛がーとか思っているうちに、世間様は和香を嫁探しの対象の年齢として見ている。前回この友達に会ったときに聞いた知り合いの動向の中には、結婚や婚約の話題があったというのに、自分にはちっとも結びついていなかった。
「和香、固まっちゃってる?」
 いけないいけない、目を開いて寝てちゃダメ! 

 あんまり時間がなくてごめんね、近いうち何人かで飲みに行こうねと言いながら、友達は駅へ向かう。本屋に寄ってから帰ろうと思い、そろそろ夕暮れの道を歩く。情報は更新しないと、古くなって腐る。コミュ障ですと逃げていた期間に、どれだけの情報をアップデートしそびれたことか。
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