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file.2 資産家の死
18.エピローグ
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「慈ちゃん、波野さんも、隠し部屋のこと、本当にありがとうございます」
緩やかな微笑を浮かべつつ、紡が丁寧に頭を下げる。
それに雄は大したことはしていないと慌て、慈もまた気にしないでと穏やかに微笑んで友人を起こさせた。
間近で見た紡の目元は、涙こそ無いもののやはり赤くなっている。
あの隠し部屋から、紡が持ち出したのは写真立てとアルバムだけだった。写真立ては自室に飾る予定らしい。
ではアルバムはといえば、今回の騒動で御用となってしまった叔父叔母に渡すつもりでいるらしい。
というのも、アルバムに収められていたのは紡の父、綉を含めた三兄妹の成長の軌跡だったのだ。
たとえ絶縁しようとも、女傑と謳われた祖母でさえ切り捨てられなかった、家族の証。
叔父叔母が祖母をどう思っているかは知らないが、自分が持つよりは、というのが紡の考えらしい。
隠し部屋の物品たちは、まず何があるのか目録を作った上で公的機関に届け出るそうだ。
それに関しては、雄から刀剣類はなるべく早めに届け出るようにと助言があった。
古い家から刀剣類が出てくることは偶に聞く話だが、登録証の無い物をそのまま所持し続けることは銃砲刀剣類等所持取締法により禁じられている。
万が一を防ぐためにも、とあれこれ指導する彼はいかにも警察官らしく、紡は昨日今日で見てきた印象とのギャップに目を白黒させながらも真剣な顔で聞いていた。
それらが済んでようやく、慈たちは車を停めていたロータリーに移動した。
見送りには紡と、話を聞いたらしい亀山をはじめとした使用人たちまでやってきた。
やはり紡に親身になってくれるのだとわかって、慈は友人を左右から挟む彼らを眩しそうに細めた目で見た。
「じゃあ、また大学で会いましょう」
「うん。本当にありがとう。また大学で」
慈が紡と別れの挨拶を交わす一方で、雄は亀山と二、三言葉を交わしていた。
「…………暮井様もですが、貴方もなかなかに不思議な方でいらっしゃるようだ」
亀山にそう言われて、雄は何のことかと首を傾げた。
しかし、亀山は何も補足せず、腰から丁寧に体を折り曲げ礼を捧げた。
「この度は、誠にありがとうございました」
「いえいえ。市民を守るのは自分の職務ですから」
どうか頭をあげてくださいと、今度は落ち着きを持って対応する。
それでもなんとなくこそばゆさは抜けなくて視線を逸らせば、従妹は友人と熱い抱擁を交わしていた。それを周囲の使用人たちが微笑ましげに見守っている。
「慈、そろそろ乗れ。帰るぞ」
割り込むように声を投げて、自身も車に乗り込む。
一同に見送られながら、車はエンジン音を立てて上条家を後にした。
*****
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「暮井慈の事件簿」、これにて一区切りとさせていただきます。
また新しいお話を思いついたら更新するかもしれません。
その際は何卒よろしくお願い致します。
緩やかな微笑を浮かべつつ、紡が丁寧に頭を下げる。
それに雄は大したことはしていないと慌て、慈もまた気にしないでと穏やかに微笑んで友人を起こさせた。
間近で見た紡の目元は、涙こそ無いもののやはり赤くなっている。
あの隠し部屋から、紡が持ち出したのは写真立てとアルバムだけだった。写真立ては自室に飾る予定らしい。
ではアルバムはといえば、今回の騒動で御用となってしまった叔父叔母に渡すつもりでいるらしい。
というのも、アルバムに収められていたのは紡の父、綉を含めた三兄妹の成長の軌跡だったのだ。
たとえ絶縁しようとも、女傑と謳われた祖母でさえ切り捨てられなかった、家族の証。
叔父叔母が祖母をどう思っているかは知らないが、自分が持つよりは、というのが紡の考えらしい。
隠し部屋の物品たちは、まず何があるのか目録を作った上で公的機関に届け出るそうだ。
それに関しては、雄から刀剣類はなるべく早めに届け出るようにと助言があった。
古い家から刀剣類が出てくることは偶に聞く話だが、登録証の無い物をそのまま所持し続けることは銃砲刀剣類等所持取締法により禁じられている。
万が一を防ぐためにも、とあれこれ指導する彼はいかにも警察官らしく、紡は昨日今日で見てきた印象とのギャップに目を白黒させながらも真剣な顔で聞いていた。
それらが済んでようやく、慈たちは車を停めていたロータリーに移動した。
見送りには紡と、話を聞いたらしい亀山をはじめとした使用人たちまでやってきた。
やはり紡に親身になってくれるのだとわかって、慈は友人を左右から挟む彼らを眩しそうに細めた目で見た。
「じゃあ、また大学で会いましょう」
「うん。本当にありがとう。また大学で」
慈が紡と別れの挨拶を交わす一方で、雄は亀山と二、三言葉を交わしていた。
「…………暮井様もですが、貴方もなかなかに不思議な方でいらっしゃるようだ」
亀山にそう言われて、雄は何のことかと首を傾げた。
しかし、亀山は何も補足せず、腰から丁寧に体を折り曲げ礼を捧げた。
「この度は、誠にありがとうございました」
「いえいえ。市民を守るのは自分の職務ですから」
どうか頭をあげてくださいと、今度は落ち着きを持って対応する。
それでもなんとなくこそばゆさは抜けなくて視線を逸らせば、従妹は友人と熱い抱擁を交わしていた。それを周囲の使用人たちが微笑ましげに見守っている。
「慈、そろそろ乗れ。帰るぞ」
割り込むように声を投げて、自身も車に乗り込む。
一同に見送られながら、車はエンジン音を立てて上条家を後にした。
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ここまで読んでいただきありがとうございます!
「暮井慈の事件簿」、これにて一区切りとさせていただきます。
また新しいお話を思いついたら更新するかもしれません。
その際は何卒よろしくお願い致します。
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