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銀の魔術師
05 銀の魔術師
しおりを挟む王国パルティアの上空を飛行している竜は都グディを大きく離れ、森や山の多いバラス地方へ突入する。
岩肌の露出した山の一角で竜はスピードを落とした。ゆっくりと下降を始めた竜は山の傾斜に着陸する。
「ありがとう、休んでおいで」
フィーゴは竜から降りると竜の翼をなでながら言った。エデンも竜から降りる。
竜はその場から飛び上がり、二人の上を旋回してどこかへ飛び去ってしまった。
「ついてくるんだ」
エデンは言われるままについて行く。相変わらず体は重く、筋肉や骨は激痛に苦しめられている。
しばらく行くと洞窟が見えた。
フィーゴが手をかざすと彼の手のひらの上に火の玉が現れた。
見覚えのあるそれにエデンは息をのむ。
父親の背中の焼ける匂いが頭の中でフラッシュバックする。炎に包まれたレイピアで刺された母親の顔が頭に浮かぶ。
エデンはその場で倒れこんでしまい胃の中にある少ないものを全て吐いてしまった。
フィーゴは何かを察したのだろう。火の玉を消すと今度は右手に稲妻をやどした。
「これで大丈夫か?」
エデンは無言で頷いた。
二人はさらに歩いた。すると洞窟の行き止まりにあたる。
フィーゴは行き止まりの場所に手をかざす。すると壁となっていた岩は崩れ落ち、なかにはランプのともっている洞窟をくり抜いた部屋があった。
フィーゴは部屋に入りエデンもそれに続く。エデンが入ると同時に崩れたはずの岩が集まってきて塞いでしまった。
「そこに座って、上半身を全て脱ぎなさい」
エデンは言われるがままに椅子に座り、着ていたボロボロになった囚人服を脱いだ。
フィーゴはエデンの両腕の切断された部分を念入りに確認する。
「なるほど。ウィスレムの言った通りだな」
フィーゴはエデンの知っている懐かしい名を口にした。
「ウィスレムを知っているのか?」
「もうしばらくまっていなさい」
フィーゴは微笑んだ。
フィーゴは立ち上がって戸棚へ向かう。戸棚の中を掻き回し重そうになにかの大きな金属の塊を二つ持ってきた。
「今からお前に腕を与える」
「え?!」
エデンは思わず目を見開く。
「お前に腕を取り付けるんだ。お前に腕を取り付けるには相当高度な魔術を行わなければならない。お前はそれに耐えることが出来るか?」
エデンは考えた。腕が使えれば魔術が使える。エデンが魔術を使ってすることはたった一つだった。そう…
-やつらに復讐する。
「もちろん。なんでもやる」
-なんて目をしているんだ。
フィーゴは予想を遥かに上回るエデンの中の闇に驚く。しかし、これも魔術を使う上では好都合だ。魔術は気持ちが強ければ強いほど強力になる。しかし、これを魔術に変換して良い物なのかフィーゴには分からなかった。
「この魔術を使うには星の光を浴びなければならない。私は今日でなくてもいいと思っている。どうする?今は休んで明日の晩にとりおこなっても…」
「やる。今すぐに、だ」
エデンは話を遮った。
-素晴らしい。
「それでは、また外に戻ることになるが行こうか」
* *
エデンは山肌の安定した部分に寝かされている。風が冷たく凍えるようだがエデンは寒さを感じなかった。
フィーゴがエデンの周りに魔法陣を描いている。エデンの寝ている下にはすでに魔法陣が書き上がっている。エデンは巨大な魔法陣の中心に寝ているのだ。
魔法陣が書き上がったらしい。
フィーゴは先ほどの金属を見せた。
「これは銀だ。今からこの銀をお前の両腕に接着する。もちろん本物の腕のようにだ。血は通わないし、痛みも熱さも冷たさも感じない。しかしお前が自由に動かせるように神経を繋がなければならない。今はただの銀の塊だが魔術によって強力で繊細なものとなるのだ。ただし、神経を接続する過程や腕を接着する過程で激痛が発生する。私自身この魔術を使うのは二度目だが、一人目は片足を接着するだけなのに途中で脱落している。覚悟を決めてほしい」
エデンは美しい星空を見上げる。今、自分がこの星空を見上げているだけでも奇跡なのだ。これ以上になにを望めるのか。
「分かった」
エデンは力強く頷いた。
フィーゴは銀をエデンの右と左にそれぞれ置いた。
「準備はいいかい?」
「ああ」
エデンは短く返事をする。エデンは目をつむる。
フィーゴが目をつむり詠唱を始める。十ワード以上だろうか長いスペルを唱え終わると目をパッと見開く。
魔法陣がサッと青く光り出す。フィーゴはさらに呪文を唱える。
『アブネル サガニスタ マラネル…』
徐々にエデンの両脇に置かれた銀が腕へと形を変えていく。指の形ができあがり関節がつくられる。
銀の腕は美しく光りながら回転し、人の腕に近づいていく。
『起動』
フィーゴが魔法陣に向かって両手を突き出した。銀の腕がエデンの切断された部分に押し当てられる。
熱だ。とんでもない熱量で銀を溶かして溶接しているのだ。さらに、脳に響く痛みも感じるんだ。神経をつなげると言っていた。つまり肉体的な痛みのほかにこのような外傷のない痛みもあるのだ。
エデンは歯をくいしばって耐えた。悲鳴はもうださない。あの日のように。自分が豚のように這いつくばって腕をなくしたあの時とは、もう。
「違う!!」
喉の奥から絞り出したその声に気持ちが後押しされる。
「うぉぉおおおおおおおお」
エデンの叫びは痛みによるものではなかった。興奮による叫びだった。額には血管が浮き出し、歯ぎしりの音が聞こえる。
-大したやつだ。エデンになら…
フィーゴはある期待をこめた。
* *
魔法陣から光が失われる。
「はぁ、はぁ、はぁ」
エデンの荒い息遣いがその場を制す。
右手を持ち上げようとしたがその重さに耐えきれない。銀の腕は今のエデンには重すぎた。
それでもエデンはよろよろと右手を持ち上げて手を握る動作をする。おぼつかない動作で持ち上げた右手が動く。
「腕が…、ある」
「おめでとう。魔術は成功した」
フィーゴは額の汗をぬぐった。
「それでは話をしに行こうか。お前がずっと気になっていることの全てを教える」
エデンは起き上がった。体が言うことを聞かないので両手をゴリラのように前に垂らして歩いた。
フィーゴが再び体を軽くする魔術をかけてくれた。
エデンはその軽くなった腕を持ち上げて天にかざす。
『ミストライト』
エデンが忘れもしないそのスペルを唱えると与えられたばかりの銀の手に魔法陣が浮かび上がる。
あたりに霧がたちこめる。
フィーゴはその美しさには神秘的な何かを感じた。
「銀の魔術師…」
フィーゴはその姿を見て思わずそう呟いた。
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