銀の魔術師

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銀の魔術師

13 共闘

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 グレックは都グディの近くの森林に降り立った。数羽の鳥が驚いて鳴きながら木から飛び去った。 

 昼になり日が照りつけている。
あたりには村もなく、街道が伸びていて時折商人の馬車が走っていた。
 グレックがここに降り立ったのは二時間あまりの飛行に疲れていたのもあるが、なによりも人に見つからないようにするためだった。 

 近くに小川があったのでそこでボサボサになった青髪を整える。ふと水面に自身のでない顔が映り込んだ。

-くそッ!僕としたことが。背後を取られたか!

 グレックは水に風魔法を掛け合わせ、相手にぶつけた。正体不明の相手は強力な火属性の魔術で水を一瞬で蒸発して見せた。

「まったく、相変わらず用心深いな」

 長身で黒いローブを着た赤髪の男は首をすくめた。
「なんだ。フィーゴじゃないか。脅かさないでくれよ。どうしてここだと分かったんだ?」
「簡単なことだよ。お前の行動を予測しただけだ。私は街中まで飛んでしまうが慎重なお前はそんなこと絶対にしない。まあ、着陸するとしたらアルザス本部の飛行ルートで都に一番近い森。すなわちここに降り立つのではないかと考えた訳だ」
 グレックは口笛を吹いて首をすくめた。
「まったく、貴方にいつもかなわない。貴方が元気そうでなによりだ。もっと酷い姿を想像していたよ」
「状況が状況だったからな。少し慌てていた。すまない」
 フィーゴはローブをめくった。剥き出しになった足は無残にも焼けただれていた。
「これは酷い。貴方のような魔術師がこんな目に遭うなんて…。どういう事なんだ?」
 
「私は数日前にある噂を耳にした。それを確かめるためにグディへ向かったのだ」
「その噂というのは?」

「王が精霊と対話しているらしいということだ」

 グレックの顔が一瞬で蒼ざめる。
「そんなバカな。ルメールがそんなことを出来るわけ無いじゃないか。あんな腰抜けなんかに出来てたまるか」
「そうだったら良かっただろう」
 フィーゴは静かに述べた。
「私もグレックと同じ考えだった。だから確かめるためにグディへ行き王宮へ潜入した。王宮へ入るのは知っての通り私達にとって容易なことだ。衛兵の一人に化けて入り込んだ。当然あの城の間取りは手に取るように分かっている。私は王の間へ向かった」
「フィーゴ、貴方はいつもそうやって無茶をする」
 フィーゴは苦笑いを浮かべる。
「王の間へ入ると正に王が精霊と対話しているところだったよ。ルメールがゲートを開いていた」
「そうか…それが本当ならとんでもないことだ」 
 精霊が人間界に絡むというのは良いことではない。ましては王という立場の者が精霊を頼るとは。過去に精霊を頼った魔術師は全て欺かれて精霊たちの玩具になってしまった。

「私も丁度ゲートを開いている最中だとは思わなくてね。精霊に一発で見つかってこの有様だ。やつがゲート越しに放った魔術にやられてしまった。私もここまでことが悪化しているとは思っていなかった。だから君を呼んだ。私と君。個人では勝てないがしっかりとした策と魔術師として最強の君の助けがあればルメールを倒し、そしてゲートを閉じられると考えたのだ。そのために今日は至急、お前と話したかったんだ」

-僕のことを最強と言うなんて。貴方こそ最強と呼ばれるのにふさわしき人物であるのに。

 心中でグレックは思った。
「分かった。協力しよう。皆にはこのことはまだ伝えない方が良いのか?」
「そうだな。余計な混乱を招きたくない。時が来たら皆にも協力を仰がなければ」
「それじゃ、行こ…」

 グレックが口を閉じた。
二人はゆっくりと立ち上がった。

「時にグレック。どうやら虫が湧いているようだな」
 フィーゴはゆっくりと言葉を吐いた。
「そのようだ。どうでもにしなければ」
 グレックのコートが一陣の風になびく。

「なるほど。見つかってしまったか」
 木の陰から男が姿を現した。
「久しぶりだな。フィーゴ。貴様に会いたかったぞ。そしてもう一人はなんと、グレックではないか」
「バルバロイ…」
 フィーゴの目が怒りに燃えた。
「まあそんな目をするな。貴様に我輩を倒すことは出来ない。あの日を思い出せ」
 バルバロイが手を叩いた。
 木陰からさらに十五名ほどの魔術師達が現れる。
「我輩も貴様らを相手に一人で挑もうとするほど愚かではない。数や力で押されたらその倍の数で潰すということた」
 グレックは口笛を吹いた。
「僕を倒そうなんてバルバロイ、君はとんでもない家臣だな。お仕置きが必要だ」
「ふっ。ぬかせ小僧。貴様が我輩をそう呼ぶなんて何年ぶりだ」
 バルバロイがレイピアをぬいた。後ろに控えていた魔術師達もそれぞれに武器を構え呪文を唱え始める。
「これは楽しくなってきた」
「グレック、腕試しと行こうか」

 二人は四方から撃たれた魔術を一瞬で相殺し、そのまま敵陣へ飛び込んでいった。
 バルバロイの高笑いが聞こえる。二人の意識は一瞬で心の奥へと入り込んでいく。一切の無駄な感情が消え去りお互いの連携と周りの魔術の流れだけを掴み取る。
 相手の魔術師が一斉に魔術を撃ち込んできた。
 グレックは相手の魔術を吸収して威力を倍にして相手にぶつける。数名の魔術が倒れた。

 フィーゴはゆっくりとバルバロイに向き合う。

「この時を待ち望んでいたよ、かつての同僚よ」

「我輩もだ。再び貴様に敗北という屈辱を味あわせてやろう」
 
 フィーゴが呪文を放つのとバルバロイがレイピアで突進するのは同時だった。バルバロイはフィーゴの放った氷の巨大な刃を左手で相殺し、フィーゴはレイピアを華麗に飛んで避けさらに氷の刃を撃ち込んだ。
「ぐうぉあああ」
 バルバロイに無数の傷跡ができて血が噴き出す。
「どうしたバルバロイ。お前らしくもないな」
 すでにほとんどの魔術師を倒したグレックもその隣に並ぶ。

「バルバロイ。君の負けだよ」
 バルバロイが不敵に笑った。
「それはどうかな?」
 二人とバルバロイの空間の間に歪みができる。
「なに!これはゲートだと」
 二人は目を見開く。
「くっはははははははははははは」
 バルバロイが狂ったように笑い出す。
「すでに貴様らに勝利はない。精霊の前に屈服するのだ!」
「そいつはどうかな?」
 グレックが指をポキポキならす。
「精霊がでてきても君と合わせて二対二。勝負としては丁度いいんじゃないかな?」
 フィーゴもそれを聞いて笑う。
「確かに。平均したら丁度力は同じくらいだ。ハンデでもなんでもない」

-無理だ。今の私達では勝てない。
 フィーゴは咄嗟に考える。精霊の力は強大だ。今すぐにでも二人で脱出したいが精霊の前ではそれは不可能だ。
-どうする。どうしたらいい!
 フィーゴの中に考えが浮かんだ。危険だ。危険すぎる方法だ。しかし、精霊と真っ向勝負して死ぬよりはマシだ。
 
 フィーゴはいつものようにグレックに合図を送る。

-合図をしたら飛び込むぞ。
-分かった!

 グレックは頷いた。

 3、2、1、今だっ!

-グレック、この国を頼んだぞ…!

 二人は精霊のゲートとバルバロイめがけて地面を蹴った。

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