銀の魔術師

kaede

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銀の魔術師

14 傷跡

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 カンカンに日が照りつけている。
 ウィスレムの肌はしっとりと汗が滲んでいた。

「ンにしてもグレックも俺にこんな仕事押し付けるなんてひどいもんだぜ」
「そんなことを言うなよ。これだって重要なことなんだから」
 ウィスレムは民間人の服を着て同じく民間人の服装をしているスクロールと一緒に畑仕事をしていた。
 スクロールもアルザスの魔術師だ。ぽっちゃりとしていてちょび髭を生やしている。
 スクロールはすでに息が上がっていて鍬を地面に突き立て休んでいた。
 この畑はアルザスが偽名で所有している土地だ。しかし当然なのかもしれないが本部からそこそこ遠い。野菜や果物を持ち帰るために荷馬車を使うが普通にとことこと走らせると半日ほどもかかる。
「こんなことならパフのやつも連れて来ればよかったぜ」
「ああ。あの新入りのやつか。銀の魔術師、とか言ったっけな」
 スクロールは大きな頭をポリポリとかいた。
 
 アルザス本部は水産資源が豊富だ。しかしビタミン源が不足している。というわけで野菜を作っているのだ。
 畑には小屋がありそこで組織のメンバーが住み込んで野菜の世話をしている。今日は野菜を受け取りにくるだけのはずだったのだが畑に着いてみると収穫が終わっておらず、ついでにと畑仕事に駆り出されているということだ。

「こんなの魔法を使えれば一瞬なのによ。全く、平民は苦労してるんだとしみじみ感じるぜ」
「魔術師さまさまだな」
 くわで地面をほじくり返す。
 二人はまただ帰れそうになかった。

 突然爆発音と共に二人が耕したばかりの畑に何かが落下してきた。 
 巨大な土煙が辺りを舞う。

「なんだなんだ?いったいどうしたってんだ」
 二人は目を白黒させる。
 幸いにもここは人のあまり住んでいない田舎の地方なので誰も見ている人はいなかった。
「おい。これはどういうことだ?」
 農業を営んでいる魔術師のベンも駆け寄る。
 砂埃が止んだ。
 何かが落下した所は地面が大きくえぐれ、その中心でボロボロになった人が倒れていた。
 コートだったものを体にま纏っているその人は傷だらけのグレックだった。
「おい!どうした!しっかりしろ!」
 グレックは額から血を流し、右肩が外れていた。この分だと肋骨が二、三本折れていても不思議はないだろう。
「とにかく小屋へ運ぶぞ!スクロール!誰も来ないか見張っといてくれ。ベンは小屋のベッドを整えておけ!俺がグレックを運ぶ!」
 スクロールが誰も辺りにないことをもう一度確認している間にウィスレムは荷車の荷台にグレックを乗せて小屋へ向かった。
 小屋に着くとベンが用意したベッドにグレックを寝かせる。ボロボロに引き裂かれているグレックのコートを脱がせるとその体は無残にも大量の切り傷があった。
 ウィスレムは治癒魔法をかける。ベッドに魔法陣が現れ少しずつ傷口が塞がって行く。しかしそれ以上に出血が多い。あっという間にベッドが血に染まる。
「くそっ。お前らも手伝え!」
「でも俺は治癒魔法は…」
 スクロールとベンはおどおどする。治癒魔法は意外と高度な魔術だ。ウィスレムが使えるのは王宮の魔術師として働く際に修得されたからだ。
「いいからやらなきゃいけねぇんだよ!」
 ベンとスクロールは手をかざして『リ、リペア』とぎこちなく唱えた。
 少しづつだが血が止まっていく。
 三十分ほど三人は集中力の全てを注いで治癒魔法をかけ続けた。スクロールが貧血で倒れた頃、ようやく全ての傷がなんとか薄く塞がった。

「とりあえず本部に連絡を入れたほうがいいのか?」
 スクロールが椅子に座り込みながら言った。ウィスレムが答えようとしたその時。

「ここは…どこだ?」

 グレックが苦しそうに口を開いた。
「グレック!大丈夫か!?」
「ここは農園だ!分かるか?」
 ウィスレムが水を飲ませるとグレックは貪るようにゴクゴクと飲んだ。グレックは自身の青い髪を掻き毟る。
「本当に大丈夫か?あんまり動くんじゃねぇよ。骨はなんとかくっついてるだけだ」
 ウィスレムはがグレックを止める。
「ああ…。このくらい…なんでもない…」
 ヨロヨロと体を起こそうとしたグレックをウィスレムが再び静かに押さえる。
「グレック。あんたの容態は良くない。あと三日は起きちゃいけねぇ」
 グレックが唇を強く噛んだ。唇から血が流れる。

「何も聞かねえから黙って寝てるんだな」
 ウィスレムはそう言ったがグレックは聞かなかった。
「スクロール…、ベン…。席を…外して貰えないか」
「了解」
 スクロールとベンは部屋から出て行った。
「エデンを…呼んでくれ。…至急だ」
 グレックはそう言うとグッタリと意識を失ってしまった。束の間の静寂がその場を支配する。
 ウィスレムはあることに気づいた。
 グレックはパフではなく、エデンと呼んだ。
 これはただアルザスだけの話ではない。とんでもないことに足を突っ込んだのかもしれない。

-くそっタレ。どうなってんだよ…。

 ウィスレムは小屋を飛び出すと馬車から馬を外して馬の背にまたがった。
「スクロール!ベン!お守りたのんだぜっ!」
 スクロール達は慌てて頷いた。
 ウィスレムは荷馬車から馬を外して跨った。

「ハイヤッ!!!」
 ウィスレムは馬に鞭を当て、勢い良く田舎の荒れた道を駆け出した。
 
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