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銀の魔術師
22 砂漠の協力者
しおりを挟む「ンにしてもよ、あちーし砂漠だし。どんだけ行けば気がすむんだよ」
「そんな顔するなよウィスレム。俺だってお前みたいなおっさんと出かけるなんてそれだけですごく残念なんだ」
馬車の後ろにふんぞり返っているエデンは面倒臭そうに答えた。
馬を操っているウィスレムがジロッと後ろを見る。
「なんだよパフ。かわいい女の子とでも行きたかったのか?」
「バカなこというなよ。俺はてっきり一人でくるものだと思っていたよ」
「まったく。お前も連れないな」
ウィスレムの冗談にエデンは声のトーンを全く変えない。
果てしなく砂漠が続いている。もう馬車を走らせて四日目だ。毎日街道沿いの宿に泊まって代わる代わる馬を操っているが疲れはたまってくる。
一人で来ることになっていれば空を飛んで時間を短縮出来たのにとエデンは何度思ったか分からない。
* *
「そうそう。エデン、ちょっと待ってくれ」
話が終わりを部屋から出て行こうとするとグレックに呼び止められた。
「マニラにはウィスレムも連れて行くんだ」
「ウィスレムを連れて行く?俺一人で十分だ」
ウィスレムは飛ぶことができない。連れて行くとなれば馬車で行くことになる。
「ウィスレムは社交的だ。エデン、君には力がある。だが人を説得することはできるか?」
グレックにそう言われてエデンは黙ってしまう。
グレックは大きく欠伸をする。
「そういう訳でよろしく頼む。僕はもう寝るよ。君も部屋で休むといい。出発は明日だ。備えておくんだ。それじゃ、おやすみ」
再びグレックは大きく口を開けて欠伸をした。
* *
という訳で二人でマニラへ向かっているのだった。
アルザス本部のあった海があるシャマン地方とは打って変わった殺風景な砂漠の中の街道を走っている。
ところどころに宿や馬を休めるところがあり二人は休憩をはさみながら遠い西の街を目指していたのだった。
「おい、パフ。そろそろ着くぞ」
「やっとかよ」
辺りは相変わらず何もない荒れた土地だが少し先に街が見える。
やっと着いたのか。この埃っぽい道を進んで五日間。
本当に長かった。
「それじゃウィスレム、美味いものでも食いに行くか」
「おあ?うん」
突然のエデンの申し出にウィスレムは首をかしげつつ同意した。
街の中心にある料理店に二人は入っていった。広い店内は中々賑わっている。
手前にはテーブルが並んでおりたくさんの客が美味しそうに飲み食いしている。店の奥には廊下が続いている。扉が等間隔についているのを見ると小さな個室になっているようだ。
「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」
店内にはいるとすぐにウエイトレスがやってきた。
「いや、三人だ。後から一人くる。グレックという男が来たら通してくれ」
ウィスレムが何か言う前にエデンが答えた。
かしこまりました、と言ってウエイトレスが二人を店の奥の個室に案内する。
「おい。グレックなんてこねーぞ?何言ってんだ?」
ウィスレムが先を行くエデンに耳打ちする。
「こちらへどうぞ」
二人が個室に入ると扉が閉められる。完全な個室になった。
ウィスレムとエデンは椅子に座った。
「どーすんだよ?三人なんて言っちまって」
「まあ、ちょっと待ってろよ」
エデンはウィスレムをなだめた。
「お待ちしておりました。アルザスのお方、お待ちしておりました」
暫くして扉を開けて入ってきたのはコック帽をかぶった男性だった。
「誰だ?てかなんでアルザスのこと知ってるんだ?」
「どうも。アルザスのバルドです。こちらがウィスレム。フライスさん、グレックから話は伺っております」
状況を全く把握していないウィスレムを無視して話を続ける。
「どうも、バルドさん。どこかでお会いしたことはないですか?お若いようですが私は以前あなたに会ったことがある気がします」
「いえ、何かの間違いじゃないですか?」
「そうですか、すみません。何かの勘違いのようです」
ダイアナの父親はそう言った。
バルドと名乗ったのもわざとだ。バルドの名を借りたのはふと思い当たったからである。
ウィスレムもようやく状況を理解したらしい。しかしまだ疑問を浮かべた顔をしている。
「早速ですが、こちらがグレックに頼まれて作ったリストです。私の知る限りの魔術師と竜騎士を記載しています。このリストの端に印をつけておきました。この印がついているのが協力してくれるかもしれない人物です」
エデンは紙を受け取りざっと目を通す。交渉に行くのは総勢十五人ほどだろうか。
「ありがとうございます。協力に感謝いたします」
エデンは頭を下げる。
「いえいえ、グレックには頭が上がらないですから。彼は私の恩人なんです。私は彼のことは決して忘れませんよ」
「なにか、あったんですか?」
エデンは思わず訪ねた。
「はい。私がこの町にやってくると決まっていない頃、私がこの街へ旅行に来たことがあったのです。私は元々グディに住んでいたのですがあそこ兵士が多いため一般の客がどうしても入りませんでした。そのためここに店を構えようというのはだいぶ前から決めていたことなんです。そのための下見を含めての訪問でもありました。あなたも通ってきたと思いますがあの街道は今こそ安全ですが六年ほど前はあそこを盗賊が絶好の狩場としていたのです。私の乗っていた共同馬車も盗賊に襲われました。馬車の護衛の傭兵達もあっけなくやられ次は我が身という時です。赤いローブを身につけたグレックが空から現れました。あの時の神々しさといったら、今でも忘れることができません。あの方がたったお一人でこの一帯の盗賊を倒して下さったお陰であの街道は安全なんです。彼が王宮から出たとしても私は彼を助けるつもりです」
なるほど。そういえばアルザスの魔術師達はウィスレムのように王宮を辞めた者達が多いと以前に聞いた。
グレックも王宮の魔術師だったのだろうか。
「なるほど、そういうことなんですね」
ウィスレムも隣で頷いてた。
「せっかくきたし、料理も食わないか?」
「そうだな。なにか頼むか」
* *
「また御用がありましたら力になりますのでいらしてください」
「いや、本当に美味かったな。料理人としても一流だな」
「ああ。そうだな」
ウィスレムが腹をさすっている。
たしかに美味しかった。
昔はダイアナと一緒にこんな美味しいを食べていたのかと思うとなんとも言えなくなる。
「あぁ、そうだ。お前自分のことバルドって名乗っただろ?どうしてわざわざ偽名なんか使ったんだ?」
「昔の知り合いだったんだ。知られたくなかった」
あの場で一度もパフと呼ばなかったウィスレムの対応力にも感謝だ。
「ああ、なるほどな。びっくりしたぜ。そんじゃっ、リストの人物を探すか!」
「今度はお前の出番だからな。ついてきたんだからその辺よろしく」
「もちろんだ。まかせときな!」
二人は砂漠の真ん中にある人で賑わう都市の中でゆっくりと馬車を走らせていた。
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