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銀の魔術師
21 葛藤
しおりを挟む「そーれーで!君はエデンのなんなの?」
二人出て行ってしばらくするとリディアが突然立ち上がってダイアナを指差した。
その目には大人気なく敵意が満ち溢れている。
年齢的には年下にあたるダイアナは突然お姉さんであるリディアに詰め寄られてあたふたする。
「なにって…んーと、幼馴染みですよ!」
「幼馴染みって…その…キスするの?」
リディアは真っ赤になった顔を横にそらす。
ダイアナの顔も一瞬で赤くなった。
「み、見てたんですか?!」
「べっ、別に!見てないもん!」
リディアは必死にダイアナから目を逸らした。
昨晩リディアは窓から頭を覗かせてずっと二人を観察していたのだった。
何を話しているのかは聞こえなかったがダイアナがエデンを引き寄せた時はビックリして思わず立ち上がってしまい思い切り足をぶつけた。
「絶対見てましたよね?」
目を細めるダイアナにリディアは必死に首をブンブンと振って否定する。
ダイアナは溜息をついた。その様子を見てリディアは堪忍しろとばかりに身構えている。
「実は私、パフはもう三年も前に死んでしまったと思ってたんです」
「え?」
予想に反した暗い声のトーンに驚く。
蝋燭の火に照らされてダイアナの顔がより一層暗く見える。
「パフがいなくなる前日に私は一緒に遊びました。私はパフが魔道書を見つけた瞬間に一緒にいました。私はパフが魔術を初めて使った現場にいました。その次の日の事です。パフの家は火事が起きました。焼け後からは三人分の遺体が出てきました。私はずっと悩んできました。私には何か出来なかったのかって。私が何も出来なかったからパフは、パフとおじさんとおばさんは死んじゃったんだって」
ダイアナの手は震えていた。
リディアはゆっくりと近づいてダイアナの手に自分の手を重ねた。
「私はずっと私を責めていました。私がパフが魔術を使うのを止めていれば…。私があの日アヒルを動かさなければ…。私があの日パフと遊ばなければ…。私が…パフと出会わなければ」
ダイアナの目から涙がこぼれ落ちた。小さな肩を震わせて嗚咽を堪える。
「それでもパフは帰ってきてくれました。少し大人っぽくなっちゃったしあの頃みたいにたくさん笑ってはくれないです。それでも帰ってきてくれた。私にはそれで十分なんです。私はパフにお願いしました。もうどこにも行かないで…死なないでって」
リディアはぎゅっとダイアナを抱きしめた。
「ダイアナがどんな苦しみを背負ってきたのか私には分からない。そんな簡単に分かったらいけないものだとも思う。偉そうに割り込んじゃってごめんね」
ダイアナが照れくさそうに笑った。
「あなたはパフが好きなんですか?」
「君はエデンが好きなの?」
二人の声が重なった。
顔を見合わせてしかめ面。その後笑い合う。
「私はパフが心配なんです。どこにも行かないでって思ってます。それだけなんです」
「私はエデンが心配なの。これ以上悲しい思いも闇も抱えてほしくない。それだけだよ」
灯りの消えた小さな家からは少女達の意地を張り有った話し声と笑い声が響いていた。
* *
「それでは世話になったね」
「いえ、グレックさん。また何かあったらいらして下さいね」
「エデンもあんまり無茶しないでね」
「ダイアナ元気で」
挨拶を済ませたダイアナはリディアは固く抱き合った。
「君達、いつの間に仲良くなったのかい?」
グレックが驚いているとリディアが恥ずかしそうにそっぽを向いた。
翌日、三人はダイアナに別れを告げてアルザスへ向かった。
ダイアナは小さくなっていく三人に手を振り続けた。その間、エデンは一度も俯いた顔を上げなかった。
昨日の晩、帰ってきた時からグレックとエデンの雰囲気は明らかに違っていた。
リディアとダイアナは空気を読んで二人をそっとしておいた。一夜明けてグレックはいつもと同じように振舞っていたがエデンは暗いままだった。
-パフ、どうしちゃったのかな。
ダイアナは何も出来ない自分に歯痒い思いをしながら雑踏に消えていくエデンを見送っていた。
-パフは魔術師だ。グレックもリディアも魔術師だ。それでも私は…ただの人間でしかない…。
外の明るい日差しとは真逆にダイアナの顔は暗い影が落ちていた。
「リディア、抜け駆けはダメだからね…」
ポツンと呟いた小さな小さな呟きはグディの雑踏の中へあっという間に吸い込まれてしまった。
* *
「私さ、来る意味あったのかな?」
エデンに抱きかかえられてアルザスまでの道程を飛びながらリディアは尋ねてきた。
「今回はなかったな。ま、ちょっとした遠足だと思えばいいんじゃない?友達も出来たみたいだし」
グレックがそう言うとリディアはむすっとしてしまった。
「あら?グレックじゃない!久しぶりね!ちょっとまってね。みんな連れてくるわ」
アルザスへ帰ってくるとグレックは早速ヘレナに捕まった。
ヘレナはグレックの制止を振り切って駆け出してしまった。
「まったく。たったの一ヶ月くらいなのに」
グレックは頭をかいている。
「リディア、君は部屋で休んでくれ。パフ。後から行くから僕の部屋で待っていてもらえないかな?」
「分かった」
じきにウィスレムやバルドや残っている魔術師達がここへやってくるだろう。グレックはリーダーとして彼らにしっかりと帰還した姿を見せなければならないのだ。
エデンも飛び続けたので疲れていた。
欠伸をしつつグレックの部屋へのろのろと向かった。
* *
「いやぁ。ごめんごめん。ついつい話してたら遅くなってしまってね」
グレックは三十分程してようやくやってきた。エデンはその間に部屋に戻ってベッドに入りたいと何度思ったことだろうか。
エデンはいくつかある椅子の一つに座って待っていた。銀の腕を覆っていたグローブは外して机の上に置いてある。
グレックは椅子に座ると手を組んでエデンと向かい合った。
「さて。君も待ちかねていたと思うがなぜあの時フィーゴを助けなかったか説明したいと思う」
グレックはエデンにフィーゴからのメッセージを伝えた。
王のこと、精霊のこと、この国のこと。そして、フィーゴの意思を。
「そうか。話は分かったよ。それであんたの見解はどうなんだ?」
エデンの飲み込みが予想以上に早くてグレックは驚いた。グレックは一呼吸おく。
「僕は総力戦になると思っている。アルザスと王政の真っ向勝負になるだろう。形だけの王政が既にある以上、精霊に滅ぼされる前に王政を倒さなければならない」
「戦争、だな」
エデンがポツリと呟いた。
『戦争』この単語が一瞬で部屋の空気を変えたことは間違いがない。
「確かに、戦争になるだろう。僕はこれからそれを想定して作戦を考えなければならない。なるべく犠牲を少なくして王を倒せる方法をだ」
「難しそうだな」
「一筋縄には行かないだろう。今は圧倒的に戦力が足りない。そこで君には西へ向かって欲しいんだ。西でダイアナの両親に会って協力してくれそうな魔術師や騎士達のリストを貰って彼らに接触してほしいんだ。この前西に訪れた際にダイアナの父親に会って頼んでおいた。他のメンバーも国中に派遣して勢力を集めようと思う」
エデンは頷いた。
「それからもう一つ」
グレックは遠慮しがちに付け足した。
「西には知り合いの竜騎士がいるんだ」
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