銀の魔術師

kaede

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銀の魔術師

25 不安と支え

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 4 months later 

-四ヶ月後
 

 夏が終わり秋が過ぎ、冬になった。
 エデンは十六歳になった。
 アルザスには国中の反王政派の魔術師や竜騎士達が続々と集まってきた。
 西にはエデンとウィスレムが向かったがグレックは国中に組織のメンバーを派遣したようだ。
 秋の終わりになってようやく遠い北に向かっていたバルド達が帰ってきた。
 エデンはもどかしかった。一刻も早くフィーゴを助けに行きたい。しかし、そのために組織全体を巻き込む訳にはいかない。

「エデン、全員招集だって」
 地下室にいたエデンをリディアが呼びに来た。
 アルザス本部は言ってしまえば海岸洞窟を拡張した施設なので屋外も同然だ。つまり結構寒い。
 リディアは黒いモコモコした赤いワンピースのような服にブーツを履いている。彼女は寒いのが苦手らしい。
毎朝エデンを部屋に呼んでは小さな火の玉を作ってもらいそれに一日中当たっていた。
 リディアは魔術が使えない。しかしそのことを皆に知られてはならないので用事があれば厨房のネネかエデンを呼んでいた。
 かつてはネネだけを慕っていたリディアだがエデンが来てからは彼ばかりを頼っていた。
「ああ。なんかあったのか?」
 エデンは捲っていたグレックの蔵書を閉じる。精霊に関するグレックの蔵書をエデンは大量に地下室に持ち込んでいた。敵を倒すにはまずは敵を知らなければならない。
 精霊について学んで分かったことが二つあるある。
 一つ。それは無敵だということだ。奴らを倒すことは人間には不可能だということだ。しかし、精霊はゲートから出ることは出来ない。グレックの作戦はその扉をリディアの力によって閉じてしまえばいいというものだ。
 二つ目。ゲートについてだ。フィーゴはルメールの暗殺者からエデンとアンヌを逃がすために最終手段として門を開いた。これは本当に危ない方法らしい。門はどこにでも開くことが出来る。従って空間と空間を繋ぐことが出来るのだ。簡単に言ってしまうとこうなるがそこまで甘くはない。門は精霊の領域に足を踏み入れる。フィーゴは精霊を掻い潜ってトンネルのような物を作ったのだ。フィーゴが一瞬の判断でここまで冷静な判断が出来たことにエデンは驚いた。流石といった所だろう。

「作戦会議らしいよ。戦力も大体揃ったからグレックのたてた作戦をみんなに伝えるって。私もいて欲しいって言われた」
「分かった、今行く。少し待っててくれ」
 エデンは本を片付けるとリディアと共に会議室へ向かった。

 会議室は秋に新しく出来た巨大な部屋だ。当初は人数がそこまで多くなかったため食堂で会議を行っていたが人数も増えたためグレックが増設した。
 エデンとリディアが会議室に到着すると既に大勢の人が集まっていた。
 円形の会議室は中心に向かってグルリと座れるようになっていた。エデンとリディアは人の少ない後ろの方へ座る。
 しばらくするとグレックが現れた。ゆっくりと歩んで行き、会議室の中心へ向かう。途中エデンの元へ訪れこっそりと耳打ちをした。
「エデンということを皆に明かす。構わないか?」
 エデンは黙って頷いた。
 グレックが中央に立つと総勢百五十名を超えるかという反王政派が歓声をあげて拍手をした。

「諸君。集まってくれてありがとう。こうして多くの魔術師と竜騎士に集まってもらって僕は大変嬉しい。緊張せずにリラックスして聞いて欲しい。大体人数も揃った。我々アルザスのメンバーによって集められた諸君。我々の目的は既に知っていると思う。そう、王政の転覆だ。僕はここで新たな真実を伝えなければならない。この国の真実についてだ」
 グレックが精霊について説明する。ザメの暗殺。ルメールの精霊との繋がり。
「そして!ここには囚われの身となっているフィーゴが救出した真なる王ザメの息子、エデンがいる!エデン、出てきて貰えないか?」
 あちこちから驚きの声が上がるのが聞こえた。
「エデン…」
 リディアがエデンの袖をつかんだ。
「大丈夫だ。少し行ってくるよ」
 リディアの頭を軽く撫で、エデンは立ち上がって中心のグレックの元へ向かって歩き出した。
「なんだよ?パフじゃねぇか。お前、まさか?!」
「どういうことなの?パフ」
 ゆっくりと歩く傍らでウィスレムやヘレナの声が聞こえてきた。
 エデンは中心に立つ。
「俺はザメの息子だ。アルザスの皆には今まで隠していて悪かった。皆、グレックを信用して欲しい。俺は全てをグレックに託す。皆、魔術を信じるんだ!」
 辺りからは歓声が巻き起こる。エデンは一礼して元の席へ戻った。
「ありがとう」
 グレックが帰り際に小さく耳打ちをした。

 戻ってくるとリディアが心配そうにエデンを見た。
「大丈夫。問題ない」
 声をかけるとやっと安心したらしく肩の力を抜いた。

 再びグレックが話し始めた。
「今のこの国の状況は分かって貰えただろうか?皆も知っての通り精霊の侵食には三段階がある。一段階目、人を騙す。二段階目、テリトリーを自分の思い通りに作り上げる。そして最後、作り上げたテリトリーを破壊する。今、二段階目は終わろうとしている。精霊はルメールをそそのかし、この国を思うに作り上げた。しかし、それももう直ぐ終わりだ。僕は一刻も早くこの国から精霊を除外したいと思っている」
 皆が頷いた。
「知っての通り、王宮の守りは非常に強固だ。我々は王を倒し門を閉じなければならない」
「門を閉じる方法はどうするんだ?その門を開いたルメール本人にしか閉じることが出来ない」
 前方の方に座っていた白髪の魔術師が発言した。
「確かにそうだ。しかし、我々には切り札がいる。誰とは言えないが門を強制的に閉じる能力を持った人間がいるんだ」
 辺りが再びどよめく。
「それは信じて良いのだな?」
「もちろんだ。魔術に誓う」
 グレックが硬く頷いた。
 エデンは隣でリディアが硬くなるのを感じ取った。
「それでは作戦を説明する。王宮の守りは強固だ。一筋縄では陥落しない。このメンバーをA、B、Cの三つの部隊に分ける。B隊は市民を避難させながら地上から王宮を攻撃して欲しい。C隊はB隊を援護しながら王宮の兵士や魔術師の相手をして欲しい。敵がB隊とC隊に引きつけられてい間にA隊が空から一気に塔のてっぺんにいる王を叩く」
 確かに、とてもいい作戦だ。単純だが最も効果的だ。
「隊の組み分けは明日発表する。作戦の結構は四日後だ。二日後に各隊に分かれてグディ周辺の森や林に散会して待機してもらう。なにか疑問のある者はいないか?」
 辺りはガヤガヤとしているが誰も手を挙げる者はいなかった。
「それでは各自解散とする。しっかり体を休めといてくれ」

 グレックの話が終わると共にリディアが駆け出した。慌ててエデンもその後を追う。
 リディアは走って行って自分の部屋に飛び込んだ。エデンは少し迷ってからノックをした。返事はなかったがエデンは静かに入って扉を閉めた。
 リディアはベッドに座って俯いていた。部屋の中の空気は冷たく澄んでいた。
 エデンは火の玉を作り出す。
 エデンはリディアの隣に腰掛けた。リディアの肩が小刻みに震えている。しかしそれは寒さが故ではない。

「ね、エデン…私、怖い。私が何も出来なかったどうなるの?私にこんな大役…務まるかな?」
 エデンはリディアの手を握った。
「大丈夫。リディアならできる。俺がついてる。多分俺もグレックと一緒にA隊でリディアの護衛になると思う。何かあったら俺が守るから。リディアが怖くて進めなくなったら俺が後押しをする」
「本当に?」
 リディアはこれまで誰にも相手をされたことはなかった。しかしここに来て突然重要な役目を任されたのだ。
「ああ、本当だ」
 震えるリディアの背中を撫でながらエデンはふと思った。
 エデンはアルザスにきたばかりの時にリディアに慰めて貰って前へ進んだ。
 出来事は巡り巡っているのだ。

 そう、両親の仇を討つ未来もそう遠くないということだ。

 四年前の非力な自分とは違う。
 エデンの目に宿っているのは以前のような憎しみに溢れた光ではない。エデンの目には希望で包まれた復讐の炎が宿っていた。
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