銀の魔術師

kaede

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銀の魔術師

24 オアシスの宿

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「なぁ、おっさん、今どこなんだ?」
「おいおい、おっさんたってそんなに歳は変わらないだろ?どこったってまださっきの宿から出発してから四時間もたってないぞ!」
「もういいから次の宿に入ろう。俺は疲れた」
「ンだと?まったく、竜騎士様は馬車に乗ったことがないのかよ?」
「あったりまえだろ?どうしてこんな乗り心地も悪くてのろい乗り物に好き好んで乗らなきゃならないんだよ」
「あぁん?俺ら普通の魔術師はこうやって移動しなきゃならねーんだよ。な、パフ!」
「悪いなウィスレム。俺も本当は魔術で飛んで帰りたい」
「なんだよ、おめぇも特別なのかよ、こん畜生!」
 
 マニラを出て三日目。初めは大人しく座っていたシュベルトは揺れるだの腰が痛いだのと言い出した。もちろんその目は少年さながらに輝いておりウィスレムをいじっているのが目に見えて分かる。 
 シュベルトは約束をしっかりと守ってエデンのことをパフと呼んでくれていた。
 アルザスまではあと推定で二日はかかる。

 男三人で旅をしても良いことは何もなかった。比較的「イイ男」のシュベルトはいく先々の宿で女性からキャーキャー言われている。

「坊や可愛いわね。これ食べる?」
 こんな風にエデンに絡んできた人も実は結構いた。しかしエデンは当然の様に一切取り合わずにスルーしてしまう。そういう訳で誰にも声をかけられずに不貞腐れているウィスレムに「あの子にあげてね」と渡されるのだ。当然ウィスレムはさらに不機嫌になる。エデンはそんなウィスレムを見て密かに楽しんでいるのだった。

 馬車は休憩を挟みながらさらに六時間ほど移動し、今夜泊まる宿に到着した。宿には既に何台もの馬車が止まっていた。
 オアシスのほとりに建てられた宿には酒場と大きなテントで作られた劇場があった。丁度三人で一部屋借りた時、宿はそれで満室になった。

「いやぁ、疲れたな。あと二日も馬車に乗り続けるのか」
 シュベルトは部屋のハンモックで足を伸ばしている。
「おい、シュベルト、せっかくだしあそこいかねぇか?」
 シュベルトとウィスレムは目を合わせてニヤリとする。
「あそこってどこだよ?」
「ああ。劇場のことさ」
「劇場行って何すんだよ、劇でも見るのか?」
「パフ、劇なんかやらないよ。お子様は知らなくていいってことさ」
 シュベルトにお子様と言われてエデンはカチンとくる。
「おいウィスレム。俺も連れていけ」
「はぁ?なんで俺なんだよ。てかマジでお子様は入れないと思うぞ」
「あんたまでお子様扱いかよ。いいよ、俺一人で行ってくる」
 エデンはそう言って部屋から出て行ってしまった。

「おい、おっさん。あのガキ行っちゃったぞ?本当にいいのか?」
「まあな。断られてすごすご帰ってくるのがオチだろう。しかもあいつのことだからマジでなんだか分かってないぞ」
「それもそれで面白いだろ?」
「ま、まぁな」
 いつも仏頂面で笑顔を滅多に見せないエデンが顔を真っ赤にして帰ってくるのを想像しただけでも面白い。もし面白い結果になったら帰ってみんなに言いふらしてやろうとウィスレムは心に決めた。

 十五分後。
「お、帰ってきてかパフ。どうだった?」
「上映は夜だからまだ時間があると言われた」
 エデンはいつもと変わらない声のトーンだ。
「ほぅ、そうか。それじゃ三人で行くか!」
 ウィスレムは顎に手を当ててとんでもないことを提案する。エデンが赤面する過程まで見られたらそれだけで掘り出し物だ。
「お、いいね。パフ、行こうぜ?」
 二人の悪い大人に詰め寄られエデンは思わず小さく頷いてしまった。  

     *      *
 
「三人かい?入場料は一人銅貨三枚だよ」
 入り口では無愛想な男が座っていた。
 ウィスレムが代金を負担し三人で大きなテントの暖簾をくぐった。
「なんだ。男しかいないじゃないか。もっと子供とかがいるのかと思ってた」
 やはりエデンは状況を全く理解していなかった。二人の大人は目配せをしてニヤニヤしている。

 暫くしてテントが客(ほぼ男)でいっぱいになると支配人と思われる男が出てきた。
「みなさん、お待たせいたしました。本日は、このオアシスの劇場にお越しいただき、ありがとうございます。本日も皆さんがご満足いただける素晴らしいを用意しております。是非、最後までお楽しみ下さい!」
 拍手と口笛、さらに野太い歓声があがる。

「おい、ウィスレム。何が始まるんだよ?」
 エデンは小声でウィスレムに聞く。
「ま、始まってからのお楽しみだぜ」
 ウィスレムがたしなめた。

 音楽が流れ出す。不思議なメロディーだった。打楽器が小気味良くリズムを刻んでいる。
 そして、舞台に人影が姿を現した。

「っっっ?!」
 
 隣でエデンが目を丸くしたのを見てシュベルトとウィスレムは笑い転げる。
 舞台に姿を現したのは薄い布を重要なところに身につけただけのくびれのある体をした大人の美しさのある踊り子だった。
 周りから大歓声が起きる。
「っっおい?ウィスレム、これはどういうことだ?!」
 これまでになくエデンが取り乱している。
 舞台では踊り子が音楽に合わせてネットリと体を動かしている。観客は手拍子をしながら騒いでいる。
「だから言っただろ?お子様がくるところじゃないって」
 ウィスレムはおかしさのあまり涙を流しながら答える。
 踊り子が色っぽく腰を振る。体中につけられた装飾品がランプの明かりに照らされて美しく光っている。さらに踊り子の生み出す影も雰囲気を作っている。

「パフ。そういうことだ。始まってしまったんだ。今日だけだ、楽しむんだぞ」
「適当なこと言うなよ!」
 エデンは本当に怒っていた。
 
 入れ替わり立ち代り踊り子たちが中央で踊った。曲はテンポを変え続けた。激しく、時には滑らかに踊り子は踊り続けた。途中、舞台から降りてきて客達の間を通る演出もあった。皆それぞれ際どい衣装を着ていた。

 二時間程の公演が終わり三人はテントから出る。
「で、パフ。どうだったか?」
 シュベルトがニヤニヤしながら尋ねる。
「別に。どうも思わなかった」
 エデンはもう冷静になっていた。というか驚いたのは初めだけですぐに冷静になっていたのだった。
「おい、パフ、どの子が良かったか?」
「青い衣装の子かな?」
 てっきりそっぽを向かれると思っていたウィスレムはエデンから思わぬ返事が聞けてウィスレムは目を丸くする。
「どう良かったんだよ?」
「彼女は一番チップを貰っていた。金を稼げるのが一番だ」
 エデンが淡々と答える。
「期待して損したぜ。相変わらずつまんねーやつだな」
 ウィスレムは肩をすくめた。

「んじゃ、俺らは酒場行ってくるから。お前は部屋で寝てろ。お前に刺激はもう十分だろ?帰っておねんねしてな」
 エデンが何か言い返そうとする前に二人は酒場の中に入って行ってしまった。

 エデンは仏頂面で部屋に帰り一人で魔道書をめくった。
 実は帰り道で先ほどの青の衣装を着ていた踊り子とすれ違って驚き飛び上がったところを二人に見られなかったのは不幸中の幸いだった。


 
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