銀の魔術師

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銀の魔術師

26 夜明けと共に

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 翌日、隊の組み分けが発表された。
 予想通りエデンはA隊だった。

 リディアの正体はA隊にだけ告げられた。
「チャペル、ギャッツ。君達二人はリディアを乗せたシュベルトの竜を援護するんだ。空には王国の竜騎士達も多くいるだろう。何としてでもリディアを死守するんだ」
 A隊はリディアを除いてグレックの部屋に呼び出されていた。

 手練れの竜騎士二人が頷いた。
「エデン、君は空を飛べる。君はシュベルトの竜にリディアと共に乗って王のところまで連れて行くんだ。僕は二機の竜騎士と共に君達を護衛する。何かあったら君達二人だけでも脱出するんだ」
「え?脱出するのか?そしたら作戦失敗じゃないか」
「当然だ。リディアがいなくなれば王を倒しても精霊を排除することは出来ない。リディアを生かす事が一番重要だ。僕とシュベルトも含めて手練れの竜騎士が三人撃墜される可能性がないとは言えないという事だ。万が一の事も考えなければならない」
「そんなことはないですよ。私達に任せておいて下さいよ」
 三十代ほどの南からやってきた竜騎士チャペルが笑いながら言った。
「このA隊は精鋭を集めた。元王宮二等魔術師、竜騎士隊隊長シュベルト。南で一番の元南パルティア竜騎士、二つ名『嵐』の名を持つチャペル。北で反王政派組織『ゲニス』を率いていた『雷撃』こと四十二歳のベテラン、ギャッツ。王族の血を引き魔道書に選ばれ『銀の魔術師』の二つ名をもつ若干十六歳のエデン。そして『アルザス』のリーダー、僕だ。現存の戦力で最強の五人を集めた。皆も認識しているがB、C隊は囮だ。彼らのためにも我々は必ず作戦を遂行させなければならない。それぞれ心を整えておくんだ」
「了解!」
 部屋に精鋭四人の声が重なった。

     *     *

「ンにしても驚いたぜ。パフ…じゃなくてエデン。お前が王族だなんて。教えてくれれば良かったのによ。ずーっと一緒にいたのに気づかなかったぜ」
「ウィスレムが素直なお陰で助かったよ。隠し通せるか少し心配だったからね」
「物は言い様ね。ただオツムが足りなだけじゃないの」

 エデンはウィスレムとヘレナに地下室へ戻る途中に絡まれていた。
「王族だなんてどうして教えてくれなかったんだ?」
「グレックに口止めされていたんだ」 
 恐らくグレックはエデンが王族だということを告げて皆の士気を高めると共にエデンがグレックを慕っていることを示すためにあの場で公表したのだろう。
 本当に引き出しの多い男だ。
「じゃ、ひょっとしてパ…エデンってお金持ちなの?だったら私、這いつくばってでもエデンについていくわよ?」
「残念ながら暗殺されたことになってるから一文無しに近い」
「あら残念」
 ヘレナは肩をすくめてウインクをした。
 今までガランとしていたアルザス本部の廊下も人通りが多い。皆、それぞれの隊の作戦会議に参加した後なのだ。
「そういえば二人はどこに入ったんだ?」
 エデンを後ろを振り向いた。
「ああ、俺らは二人ともC隊だ。俺は治癒魔術が使えるからな。後衛に徹することになっている。ヘレナは火竜と共にB隊の援護をするらしい」
 良かった。二人はA隊に続いて二番目に危険なB隊ではなかったという事実にエデンはふとホッとしていた自分に驚いた。

 エデンは気付いた。
 自分はヘレナやウィスレム、その他のアルザスの友人達を大切に思っているのだと。
 それは長い間失われていたエデンの心のピースが再びはめられた瞬間でもあった。

「二人とも。生きてくれよ」
 ヘレナとウィスレムがキョトンとする。
「どうしたんだ?お前らしくねぇな?いつもみたいに太々しく『足引っ張るなよ』ぐらいのこと言わねぇのか?」
「うるさい」
 赤面するエデンに背後からヘレナが抱きついた。
「いやーん。パフが私達のこと心配してくれてるわ。もうホント可愛いんだからぁ」
「そうなのか?そうなのかパフ?おっさん嬉しいぞ?」
 二人とも呼び方が元に戻っている。
 ウィスレムもヘレナに便乗してエデンの肩に手を回した。
「はなせっ!このやろっ!どけっ!」
 エデン恥ずかしさのあまり『ミストライト』と唱え霧を出現させ走って脱出した。
 あたりの人々も巻き込まれて右往左往する。
「まったく、あの子も可愛くなるわねぇ。お姉さん嬉しいわよ」
 感嘆の声を漏らすヘレナの隣でウィスレムが風魔法で霧を吹き飛ばした。

     *      *

 翌日。日の出と共に各隊が目的地を目指してアルザスから出陣した。
 A隊は少数精鋭。
 B隊にはバルドや手練れの魔術師達が集められた。 
 C隊には竜騎士や対人魔術の使い手、そして治癒魔術を使えるもの達が集められた。
  
 B隊とC隊が出発した後、A隊が遅れて出発する。
 

「お嬢さんがリディアですか?私はチャペルです。よろしくお願いしますね」
「俺はギャッツだ。よろしく頼む」
「俺はシュベルトだ。リディアは俺の竜にエデンと共に乗ってもらう。振り落とされないように捕まっているんだよ」
 三人の竜騎士達に挨拶をされてしどろもどろになりながらリディアは頭を下げている。
 少し緊張気味のリディアは竜を見るとたちまち元気になった。
「シュベルト、その竜…!」
 リディアと共にシュベルトの竜にまたがったエデンはある事に気づく。
 リディアは初めての竜に目を輝かせていた。
「この竜かい?フィーゴのとこに預けておいた子だよ。乗ったことがあるのかい?」
 牢獄から助け出された時、そしてアルザスへやって来た時に乗った竜だった。
「この子の名はフィルって言うんだ。チャペルの竜は小型で急旋回が得意な小回りの利く種。ギャッツのはスピードは劣るものの氷のブレスを吐くことができる種。俺のフィルは知能の高い種なんだ。操らなくても自分で考えて行動できる」
 リディアがフィルの翼をなでている。

「総員、飛び立つぞ!」
 先頭にはグレックが立っている。
「行くぞ!我々A隊の目的地はバラス地方だ!」
 グレックが足を踏み鳴らすと体が一気に上昇する。

 それを合図に三人の竜騎士が操る竜三機も夜明けの空へ飛び上がった。
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