銀の魔術師

kaede

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銀の魔術師

31 闇の中へ

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 エデンはリディアを抱きしめたまま固まっていた。

 エデンの感情は全てが凍結し、深い谷底へ落ちていった。
 バルバロイは眉をひそめる。先程までとは別人のオーラを感じた。
 突然、エデンは声にならない絶叫を上げた。心の底からの叫びだ。それは眠っていたエデンの真の力を引き出していた。
 エデンの体から怒りと絶望と悲しみによって増幅された魔術が青い光となって体から溢れ出す。
 エデンの体を青い光が覆っていった。
 バルバロイは精霊の手を操ってエデンの体を再び拘束しようとするが触れるか触れないかのうちに弾かれる。

-愚かだった----

 エデンはリディアを優しくその場に寝かせた。自分のコートを脱いでそっとリディアの上に被せる。

-俺は変われなかった----

 魔術が更に強まるにつれてエデンの髪がゆっくりと銀色に染まっていく。
 エデンの体では支えきれなくなった魔術のエネルギーが体中を駆け巡っている。銀の腕を中心に魔術が放出されているのだろうか。

-何かが出来ると思っていた-----

 エデンは一歩ずつ前へ歩んでいった。バルバロイが後ずさりをする。エデンの動きを止めようと精霊の力を借りるがエデンに触れることはできない。

--過信していた-----

 エデンはバルバロイに詰め寄った。バルバロイはレイピアでエデンを刺した。しかしエデンは表情一つ変えなかった。エデンに出来た傷はその場で塞がっていった。

---愛する人達を-----

 エデンはバルバロイをひと睨みした。バルバロイの足元に魔法陣が現れる。次の瞬間、体が砂になって崩れていった。バルバロイは体を掻きむしったが体を動かせば動かすほど砂となり崩れていく。残ったのは小さな砂の山だった。

 エデンはゆっくりと後ろを振り返った。
 シュベルトはとっくにやられて血を流して倒れていた。
 グレックが一人で戦っている。しかし、彼も左腕をだらりと垂らし、足を引きずっている。
 外を見る。ギャッツは堀に落ちたようだ。竜騎士達は下の戦場へ向かったらしい。外には誰もいなかった。

----父さんと母さんを------

 エデンはグレックの元へ歩いて行った。魔術師達がエデンの存在に気付く。数名がエデンの元へ駆け寄っていったがエデンの目を見た瞬間砂となって崩れていった。
「小癪な!」
 ルメールは精霊の手を伸ばしたがエデンに触れることは出来ない。
「やつを倒すのだ!魔術を撃ち込むのだ!」
 ルメールは金切り声をあげる。

----シュベルトを…ギャッツを…チャペルを----

 魔術師達が一斉に魔術を撃ち込んでくる。
 しかし磁石のように魔術はエデンから逸れていってしまった。
 エデンはゆっくりと歩いて行ってルメールの目の前に立った。

----アルザスのみんなを----

 エデンはルメールの顔面を掴んだ。周りの魔術師達はその様子を見て逃げ出した。
 グレックは目を見張ってその様子を見ている。
 エデンは破壊された壁の方へ歩いて行った。

------リディアを------

 エデンはルメールの顔面を掴んだまま塔から飛び降りた。アルザスと王宮の交戦が行われている王宮の正面に着地する。
 大きな砂埃をあげて着地してきたエデンにあたりは騒然として戦いの手を止める。
 エデンはゆっくりとあたりを見回した。たくさんの死体が転がっていた。
「…もう、いいよな」
 エデンはポツンと呟いた。

--------守れなかった!!----

 エデンの体からエネルギーが迸る。
 エデンの近くにいた人は一瞬で燃え尽きた。エデンが掴んでいたルメールは跡形もなく消滅した。
 慌てて両陣営が退却する。
 
 エデンは自身の感情に体を預けてしまった。
 
 王宮の陣営に飛び込むとたった一つの強力すぎる魔術で何人もの人を文字通り「消して」しまった。悲鳴をあげて兵士達は逃げ出した。エデンは追い打ちをかけるように魔術を放った。魔術師達が魔術を打ち消そうとするがその強力さに手も足もでない。エデンの魔術に触れた瞬間体が燃え尽きてしまう。

「エデン!もういいんだ!」
 エデンが振り返ると汚れと汗にまみれたウィスレムがいた。
「お前も…俺を邪魔するのか?」
「ああ?どういうことだよ?決着はついた。ルメールは死んだ、だからいいんだよ」
「そっか」
 エデンはポツリと言った。
「危ない!避けて!!」
 ヘレナが飛び込んできてウィスレムと地面に倒れこんだ。
 ウィスレムが驚いて見ると先程まで自分が立っていた所の空気が燻っている。
「逃げるわよ、ウィスレム!パフはあんたを殺ろうとしたのよ!わかる?!」
 ヘレナはウィスレムを起こし駆け出した。
 エデンは何も考えていなかった。自分を邪魔するの奴がいる。そいつは生きていていいのか?もちろんいいわけがない。また自分の大切な人を奪うかもしれない。
 エデンはウィスレムやヘレナが自分の大切な人だったという事実すら忘れてしまっていた。
 ヘレナとウィスレム半壊した建物の陰に隠れた。エデンは片手をかざす。一瞬で建物が吹き飛んだ。
 ヘレナとウィスレムを捉える。

-俺に逆らわなきゃよかったのに-

 ヘレナの相棒の火竜のスニークが間に割り込んできた。主人を守ろうと息を荒くしながらエデンを睨みつけている。
「スニーク!だめえぇぇぇ!!!」
 ヘレナが悲鳴をあげた。
 エデンが銀の腕で宙を切る。
 スニークの首が落ちた。大きな音がしてスニークの残された体がその場に崩れ落ちる。  

 ヘレナはその場で動けなくなってしまった。
 ゆっくりとエデンは近づいていく。ウィスレムはその場でエデンと戦うことを決意した。
「くそっ。どうしてこうなるんだよ。エデン!帰ってこいよ!」
 ウィスレムはその場で倒れてしまったヘレナをかばうように立ち上がった。
-マジでこえーよ。どうなんだよ。
 ウィスレムは祈った。

-五月蝿い-

 ウィスレムに魔術を放とうと掌をかざした。
 
「パフ!!!!」
 
 炎と死体が蔓延はびこる戦場に少女の声がこだました。

 エデンの瞳が大きく開かれる。
 エデンはゆっくりと振り返った。
 
 戦場に降り立った彼女は一人だけ場違いな雰囲気を出していた。普通の少女ならば卒倒してしまうような中で彼女は強く、美しく立っていた。
 一つに縛った栗色の髪が風に揺れる。
 
 ダイアナだ。

「どうして…ここにいるんだ?…ダイアナ?」
 
 ダイアナは優しく、手を差し伸べた。

「パフ、一緒に帰ろう」

 そして、いつも通り無邪気に微笑んだ。
 
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