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第3章
第5回
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5
取り急ぎ私服に着替え、真帆に引っ張られるようにして向かった先は、閑静な住宅街の片隅だった。
ここまで来るのに箒にでも乗るのかな、と思ったのだけれど、真帆曰く、まだおばあさんから箒を取り返していないらしく、電車とバスの利用を余儀なくされた。
予定外の出費に内心涙を流しつつ、僕はまるでドールハウスみたいな家を前にして、思わず驚きの声を漏らす。
「な、なんか、すごい家だね」
すると真帆はふふんと鼻で笑い、
「これから会う人は、もっとすごいですよ」
とインターホンに指を伸ばした。
ジリリリリッ
そんな音がして、
『――はい』
聞こえてきたのは、可愛らしい女性の声だった。
『あれ? 真帆ちゃん?』
「こんにちは、アリスさん」
アリスさん? なんとまぁ、可愛らしい名前で。
『なに? どうかしたの?』
「ちょっとご相談したいことがありまして。なるべく、おばあちゃんやお姉ちゃんには内緒にしたいんです」
インターホンの向こうで、くすりと笑むような声が聞こえて、
『うん、わかった。ちょっと待ってて』
通話の切れる音がして、かちゃり、と目の前の門の向こう、可愛らしい装飾の施された玄関扉が開かれて現れたのは――
「どうぞ、あがって」
袖にひらひらしたリボンのついた白い長袖シャツに、幾重ものフリフリが巻かれたピンクのスカートを穿いた若い女性で、
「ありがとうございます」
白く長い髪に、透き通るような白い肌、薄く青い瞳が美しく、唇には桃色の口紅が差されていて。
「何してんですか、シモフツくん、行きますよ」
「――え、あ、あぁ」
僕はようやく我に返り、真帆の方に顔を向ける。
真帆はそんな僕にニヤリと笑んで、
「ね? すごい可愛い人でしょう?」
どこか自慢するように、そう口にした。
まるでお人形さんのようなその人は、楾アリス、という名前だった。
真帆に勝るとも劣らない美人さんだが、真帆とは違い、どこかふんわりほわほわした、柔らかい雰囲気だ。
妖精か何かを彷彿とさせるその見た目にはただただ感嘆する。
あえて歳は訊ねなかったけれど、たぶん、僕たちとそんなに変わらないんじゃないだろうか。
そんなアリスさんに案内されるように、僕も真帆に続いて玄関をくぐった。
ドールハウスみたいな外観のその家は、内装もまた凝っていて、日本に居ながらまるで海外の邸宅を訪れたかのようだった。
一度神戸の異人館に行ったことがあるけれど、そこに立ち並ぶ家々と似たような雰囲気だ。
やがて応接間?に通されて、僕たちとアリスさんは向かい合うように腰をかけた。
アリスさんのちょこんと座るその姿は、もう本当にお人形さんそのもので。
実は魔法か何かで動いてる、等身大の人形なんじゃないか、と疑わずにはいられなかった。
「えっと――あなたは?」
思わずまじまじと見つめてしまっていた僕に、アリスさんは首を傾げる。
僕ははっと我に返って、しどろもどろになりながら、
「あ、え、あの、シモハライユウっていいます」
「ユウくんね、よろしく」
言ってアリスさんはにっこりと優しく微笑んで、
「もしかして、真帆ちゃんの……」
とそこまで口にして、首を横に振った。
それから真帆の方に改めて顔を向け、
「――それで、今日はどうしたの? もしかして、またおばあさんの魔法道具を壊しちゃったとか?」
また、という単語が気になったが、ここは聞き流す。
真帆は「いいえ」と首を横に振り、
「今日は、ちょっとお借りしたいものがあってお願いに来ました」
「借りたいもの?」
「はい」
真帆は頷き、
「アリスさん、確か魔力磁石をお持ちでしたよね。それを貸していただけませんか」
「魔力磁石?」
アリスさんは首を傾げ、
「確かに持ってるけど…… でも、真帆ちゃんのおばあさんも持ってるんじゃなかったかしら」
真帆はそこでわずかに視線をそらしつつ、
「――今、ちょっと、持ち出せない状況でして」
その言葉に、アリスさんは全てを察したようにくすくす笑った。
「もしかして、また何かやらかしたの?」
再び『また』という単語。
どうやら真帆は、身内の中でも相当問題の多いやつらしい。
真帆は「あはは」と誤魔化すように小さく笑って、
「学校で色々やらかして、それが井口先生からおばあちゃんにバレちゃったんですよ。その所為で私、今、謹慎中なんです。おかげで魔法道具も一切合切隠されちゃって……」
……アレか。僕に死の呪いなんて嘘をついて黙らせようとしたときの、あの件だな。
僕は思わず真帆の方に顔を向ける。
しかしその顔には、反省の色なんてみじんも感じられなかった。
どうかすると、今にも舌打ちしそう雰囲気に見える。
こいつ、反省する気なんてさらさらないな……?
真帆はそんな僕に気づく様子もなく、再びアリスさんの方に向き直ると、
「なので、内緒で貸してほしいんです」
アリスさんはそんな真帆に微笑みを浮かべたまま、
「それはいいけど、いったい何を失くしたの?」
私も手伝うけど、と言うアリスさんに、真帆は首を横に振って、
「いえ、それは大丈夫です。シモフツくんからお借りした本を失くしてしまいまして、それを見つけるために、どうしても魔力磁石が必要なんです」
お願いします、と頭を下げる真帆。
どうやら魔力磁石とやらは、失せ物を見つけるのに使う魔法道具らしい、というのは二人の会話から何となく理解できた。
アリスさんは立ち上がり、
「ちょっと待っててね」
と口にしてトコトコとどこかへ姿を消し、しばらくして戻ってきた時にはその手に小さな方位磁石を持っていた。
「はい、どうぞ」
……これが、魔力磁石?
見た目は方位磁石と何一つ変わらないけど。
あぁ、でも東西南北の代わりにペンタグラムが描かれていて、その中央には小さなダイヤみたいなキラキラ光る石が嵌められている。
「ありがとうございます!」
真帆は嬉しそうに魔力磁石を受け取ると、
「なるべく早めに返しに来ますね」
そんな真帆を眺めながら、アリスさんは困ったように微笑みつつ、
「まぁ、いたずらも、ほどほどにね」
どこか諫めるように、小さく言った。
取り急ぎ私服に着替え、真帆に引っ張られるようにして向かった先は、閑静な住宅街の片隅だった。
ここまで来るのに箒にでも乗るのかな、と思ったのだけれど、真帆曰く、まだおばあさんから箒を取り返していないらしく、電車とバスの利用を余儀なくされた。
予定外の出費に内心涙を流しつつ、僕はまるでドールハウスみたいな家を前にして、思わず驚きの声を漏らす。
「な、なんか、すごい家だね」
すると真帆はふふんと鼻で笑い、
「これから会う人は、もっとすごいですよ」
とインターホンに指を伸ばした。
ジリリリリッ
そんな音がして、
『――はい』
聞こえてきたのは、可愛らしい女性の声だった。
『あれ? 真帆ちゃん?』
「こんにちは、アリスさん」
アリスさん? なんとまぁ、可愛らしい名前で。
『なに? どうかしたの?』
「ちょっとご相談したいことがありまして。なるべく、おばあちゃんやお姉ちゃんには内緒にしたいんです」
インターホンの向こうで、くすりと笑むような声が聞こえて、
『うん、わかった。ちょっと待ってて』
通話の切れる音がして、かちゃり、と目の前の門の向こう、可愛らしい装飾の施された玄関扉が開かれて現れたのは――
「どうぞ、あがって」
袖にひらひらしたリボンのついた白い長袖シャツに、幾重ものフリフリが巻かれたピンクのスカートを穿いた若い女性で、
「ありがとうございます」
白く長い髪に、透き通るような白い肌、薄く青い瞳が美しく、唇には桃色の口紅が差されていて。
「何してんですか、シモフツくん、行きますよ」
「――え、あ、あぁ」
僕はようやく我に返り、真帆の方に顔を向ける。
真帆はそんな僕にニヤリと笑んで、
「ね? すごい可愛い人でしょう?」
どこか自慢するように、そう口にした。
まるでお人形さんのようなその人は、楾アリス、という名前だった。
真帆に勝るとも劣らない美人さんだが、真帆とは違い、どこかふんわりほわほわした、柔らかい雰囲気だ。
妖精か何かを彷彿とさせるその見た目にはただただ感嘆する。
あえて歳は訊ねなかったけれど、たぶん、僕たちとそんなに変わらないんじゃないだろうか。
そんなアリスさんに案内されるように、僕も真帆に続いて玄関をくぐった。
ドールハウスみたいな外観のその家は、内装もまた凝っていて、日本に居ながらまるで海外の邸宅を訪れたかのようだった。
一度神戸の異人館に行ったことがあるけれど、そこに立ち並ぶ家々と似たような雰囲気だ。
やがて応接間?に通されて、僕たちとアリスさんは向かい合うように腰をかけた。
アリスさんのちょこんと座るその姿は、もう本当にお人形さんそのもので。
実は魔法か何かで動いてる、等身大の人形なんじゃないか、と疑わずにはいられなかった。
「えっと――あなたは?」
思わずまじまじと見つめてしまっていた僕に、アリスさんは首を傾げる。
僕ははっと我に返って、しどろもどろになりながら、
「あ、え、あの、シモハライユウっていいます」
「ユウくんね、よろしく」
言ってアリスさんはにっこりと優しく微笑んで、
「もしかして、真帆ちゃんの……」
とそこまで口にして、首を横に振った。
それから真帆の方に改めて顔を向け、
「――それで、今日はどうしたの? もしかして、またおばあさんの魔法道具を壊しちゃったとか?」
また、という単語が気になったが、ここは聞き流す。
真帆は「いいえ」と首を横に振り、
「今日は、ちょっとお借りしたいものがあってお願いに来ました」
「借りたいもの?」
「はい」
真帆は頷き、
「アリスさん、確か魔力磁石をお持ちでしたよね。それを貸していただけませんか」
「魔力磁石?」
アリスさんは首を傾げ、
「確かに持ってるけど…… でも、真帆ちゃんのおばあさんも持ってるんじゃなかったかしら」
真帆はそこでわずかに視線をそらしつつ、
「――今、ちょっと、持ち出せない状況でして」
その言葉に、アリスさんは全てを察したようにくすくす笑った。
「もしかして、また何かやらかしたの?」
再び『また』という単語。
どうやら真帆は、身内の中でも相当問題の多いやつらしい。
真帆は「あはは」と誤魔化すように小さく笑って、
「学校で色々やらかして、それが井口先生からおばあちゃんにバレちゃったんですよ。その所為で私、今、謹慎中なんです。おかげで魔法道具も一切合切隠されちゃって……」
……アレか。僕に死の呪いなんて嘘をついて黙らせようとしたときの、あの件だな。
僕は思わず真帆の方に顔を向ける。
しかしその顔には、反省の色なんてみじんも感じられなかった。
どうかすると、今にも舌打ちしそう雰囲気に見える。
こいつ、反省する気なんてさらさらないな……?
真帆はそんな僕に気づく様子もなく、再びアリスさんの方に向き直ると、
「なので、内緒で貸してほしいんです」
アリスさんはそんな真帆に微笑みを浮かべたまま、
「それはいいけど、いったい何を失くしたの?」
私も手伝うけど、と言うアリスさんに、真帆は首を横に振って、
「いえ、それは大丈夫です。シモフツくんからお借りした本を失くしてしまいまして、それを見つけるために、どうしても魔力磁石が必要なんです」
お願いします、と頭を下げる真帆。
どうやら魔力磁石とやらは、失せ物を見つけるのに使う魔法道具らしい、というのは二人の会話から何となく理解できた。
アリスさんは立ち上がり、
「ちょっと待っててね」
と口にしてトコトコとどこかへ姿を消し、しばらくして戻ってきた時にはその手に小さな方位磁石を持っていた。
「はい、どうぞ」
……これが、魔力磁石?
見た目は方位磁石と何一つ変わらないけど。
あぁ、でも東西南北の代わりにペンタグラムが描かれていて、その中央には小さなダイヤみたいなキラキラ光る石が嵌められている。
「ありがとうございます!」
真帆は嬉しそうに魔力磁石を受け取ると、
「なるべく早めに返しに来ますね」
そんな真帆を眺めながら、アリスさんは困ったように微笑みつつ、
「まぁ、いたずらも、ほどほどにね」
どこか諫めるように、小さく言った。
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