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第3章
第6回
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「アリスさんは、おねえちゃんの高校時代からのお友達なんですよ」
アリスさんの家をあとにして、真帆がおもむろに口を開いた。
僕らはアリスさんから借りた魔力磁石を持って、休みにも関わらず学校へ向かって歩いているところだった。
休み明けじゃダメなの、と僕は訊ねたのだが、真帆曰く、こういうのは早い方が良いという。
真帆は手にした魔力磁石を眺めながら、話を続けた。
「修復魔法が得意で、よくいたずらして壊した魔法道具なんかを直してもらっているんです」
「……いたずら」
そんな僕の呟きを無視するように、真帆は、
「あ、でもおねえちゃんはアリスさんが魔女だってことを知りません。もし私のおねえちゃんに会っても、絶対に秘密でお願いします。おねえちゃん、あんまり魔法が好きじゃないみたいなんですよね」
「う、うん、わかった」
というよりも、
「真帆、おねえさんがいたんだ?」
「言ってませんでしたっけ?」
真帆は小首を傾げつつ、
「五つ違いの姉がいます。うちはそのおねえちゃんと私、おばあちゃんとおじいちゃんの四人家族なんです」
と訊いてもいない家族構成まで教えてくれる。
「……ご両親は?」
「私が二歳の頃に亡くなりました」
なんてことないふうに答える真帆に、僕は二の句が継げなかった。
そんなふうにあっさり言われて、僕はなんて声を掛ければいい?
可愛そうだね、悲しいね、寂しいよね……
違う。どれも違う。
でも、適切な言葉なんて思い浮かばなくて。
父さんも母さんも健在な僕に、真帆の気持ちなんて……
「あ、気にしないでください」
妙な間を作ってしまった僕に、真帆はへらへら笑いながら、
「正直、父親の事も母親の事も全然覚えてないんですよね。写真で見てもピンときませんし、どんなふうに接してくれていたかも記憶にありません。それが当たり前だったので、特に悲しいとか寂しいとか、思ったこともありませんから」
「――あ、うん」
なにが「あ、うん」だ。
追い抜いて先を歩き始めた真帆の後ろ姿をぼんやり眺めながら、僕は自責の念に駆られる。
もっと何か、他にいい言葉は思いつかなかったのか。
逆に真帆に気を使われて、情けなくはないのか。
仮にも僕は、真帆の彼氏だぞ?
何かそれらしいことをしてあげた方が良いんじゃないだろうか、と思っていたころで、
――ぽつり、ぽつり。
小さな雨が降り始めたのだ。
けれど見上げた空は快晴と言って良いほどに青く、どこにも雲は見えなかった。
狐の嫁入り――お天気雨だ。
「あ、雨」
小さく呟く真帆の声が耳に入り、僕は顔を前へ戻した。
真帆は両手を上に掲げ、その小さな身体を精一杯に伸ばしながら、僕に振り向く。
「シモフツくん! お天気雨ですよ!」
満面の笑みで、楽しそうに口にする真帆。
真帆は僕の返答など待たずして、
「ふ~ん、ふっふ、ふふ~ん」
鼻歌なんて歌い始めて、軽くステップしながら歩き出した。
まるで小さな子供のように、真帆はくるりと一回転して見せる。
ふわりと広がる紺色のスカートが、なんだかとても様になっていて。
そんな真帆を見ていると、先ほどまで抱いていた僕の感情が、不思議と消え去っていくのを感じた。
僕が何を考えていようと、何を感じていようと、それは真帆には関係ない。
今、目の前で、お天気雨の中で踊る真帆は、なんだかとても楽しそうで。
真帆はひとしきり僕に踊りを見せてくれると、雨が止むのと同時にはたりとステップを踏むのをやめた。
それから僕に駆け寄ってくると、
「――お天気雨って、妙に心がウキウキしませんか?」
そう言って、輝くように微笑んだ。
「アリスさんは、おねえちゃんの高校時代からのお友達なんですよ」
アリスさんの家をあとにして、真帆がおもむろに口を開いた。
僕らはアリスさんから借りた魔力磁石を持って、休みにも関わらず学校へ向かって歩いているところだった。
休み明けじゃダメなの、と僕は訊ねたのだが、真帆曰く、こういうのは早い方が良いという。
真帆は手にした魔力磁石を眺めながら、話を続けた。
「修復魔法が得意で、よくいたずらして壊した魔法道具なんかを直してもらっているんです」
「……いたずら」
そんな僕の呟きを無視するように、真帆は、
「あ、でもおねえちゃんはアリスさんが魔女だってことを知りません。もし私のおねえちゃんに会っても、絶対に秘密でお願いします。おねえちゃん、あんまり魔法が好きじゃないみたいなんですよね」
「う、うん、わかった」
というよりも、
「真帆、おねえさんがいたんだ?」
「言ってませんでしたっけ?」
真帆は小首を傾げつつ、
「五つ違いの姉がいます。うちはそのおねえちゃんと私、おばあちゃんとおじいちゃんの四人家族なんです」
と訊いてもいない家族構成まで教えてくれる。
「……ご両親は?」
「私が二歳の頃に亡くなりました」
なんてことないふうに答える真帆に、僕は二の句が継げなかった。
そんなふうにあっさり言われて、僕はなんて声を掛ければいい?
可愛そうだね、悲しいね、寂しいよね……
違う。どれも違う。
でも、適切な言葉なんて思い浮かばなくて。
父さんも母さんも健在な僕に、真帆の気持ちなんて……
「あ、気にしないでください」
妙な間を作ってしまった僕に、真帆はへらへら笑いながら、
「正直、父親の事も母親の事も全然覚えてないんですよね。写真で見てもピンときませんし、どんなふうに接してくれていたかも記憶にありません。それが当たり前だったので、特に悲しいとか寂しいとか、思ったこともありませんから」
「――あ、うん」
なにが「あ、うん」だ。
追い抜いて先を歩き始めた真帆の後ろ姿をぼんやり眺めながら、僕は自責の念に駆られる。
もっと何か、他にいい言葉は思いつかなかったのか。
逆に真帆に気を使われて、情けなくはないのか。
仮にも僕は、真帆の彼氏だぞ?
何かそれらしいことをしてあげた方が良いんじゃないだろうか、と思っていたころで、
――ぽつり、ぽつり。
小さな雨が降り始めたのだ。
けれど見上げた空は快晴と言って良いほどに青く、どこにも雲は見えなかった。
狐の嫁入り――お天気雨だ。
「あ、雨」
小さく呟く真帆の声が耳に入り、僕は顔を前へ戻した。
真帆は両手を上に掲げ、その小さな身体を精一杯に伸ばしながら、僕に振り向く。
「シモフツくん! お天気雨ですよ!」
満面の笑みで、楽しそうに口にする真帆。
真帆は僕の返答など待たずして、
「ふ~ん、ふっふ、ふふ~ん」
鼻歌なんて歌い始めて、軽くステップしながら歩き出した。
まるで小さな子供のように、真帆はくるりと一回転して見せる。
ふわりと広がる紺色のスカートが、なんだかとても様になっていて。
そんな真帆を見ていると、先ほどまで抱いていた僕の感情が、不思議と消え去っていくのを感じた。
僕が何を考えていようと、何を感じていようと、それは真帆には関係ない。
今、目の前で、お天気雨の中で踊る真帆は、なんだかとても楽しそうで。
真帆はひとしきり僕に踊りを見せてくれると、雨が止むのと同時にはたりとステップを踏むのをやめた。
それから僕に駆け寄ってくると、
「――お天気雨って、妙に心がウキウキしませんか?」
そう言って、輝くように微笑んだ。
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