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第4章
第1回
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1
「おう、どうした、今日は土曜だぞ」
職員室に顔を出すと、井口先生がパソコンを前にしてコーヒーを飲んでいた。
それにしても、私服で学校に来るなんて何とも妙な気分だ。
やっぱり制服で来た方が良かったんだろうか?
確か、学校に来るときは制服でって決まりがあったような、なかったような?
けれど井口先生はそんなことに悩んでいる僕なんて気にする様子もなく、
「まさか、学校でデートでもするつもりか?」
「はい、そのつもりです」
真帆も否定なんてする気もなく、井口先生の口に乗っかる。
井口先生は軽く笑うと、
「あまり目立つなよ。ただでさえ奇異の眼で見られてんのに」
「誰に何を思われようと私は気にしませんよ?」
「だろうな」
井口先生は言ってから、さてここからが本題だ、とばかりにパソコンの画面をこちらに向けた。
そこには先日グラウンドに描かれたペンタグラム、それと昨日の火事騒ぎの写真が何枚も表示されている。
「どうせ目的はこれだろ?」
「そうです、そうです」
と真帆は頷き、
「けど、それだけじゃありません」
「なんだ? 他にもまだなんかあったか?」
「昨日の火事騒ぎの時に、シモフツくんから借りた魔術書を盗まれたんです」
「魔術書? どういうことだ?」
井口先生は眉間にしわを寄せる。
真帆は昨日の出来事を手短に説明すると、
「私、グラウンドの魔法陣も昨日の火事騒ぎも、その魔術書と関係があるんじゃないかって思ってるんですよ」
「なるほどね」
と井口先生は腕を組み、
「ところで、なんでシモハライはそんなもんを持ってたんだ? お前、魔法使いの家系かなんかだったのか?」
問われて、「いえいえ」と僕は首を振る。
「両親がどこかから買ってきたんですよ。でも読めなくて。真帆が似たようなのを読んでるのを見たことがあったから、たまたま持ってきただけです」
ふうん? と首を傾げる真帆と井口先生。
何となく疑いの眼差しを向けられているような気がするけど……?
不安に駆られながら二人の顔を交互に見ていると、口を開いたのは真帆だった。
「――本当に、それだけですか?」
「え?」
ぎくり。
「もしこれらが一つに繋がるんだとしたら、シモフツくんが魔術書を持って来ようと思ったきっかけがあると思うんですよね」
「きっかけ……」
不意に脳裏に浮かぶ、夢の真帆。
その顔が、今、目の前に立つ真帆の顔と重なって。
「もしかして、何か隠してます?」
「どうなんだ、シモハライ」
二人に迫られるように睨みつけられて、僕は、
「ゆ、夢で、真帆が、読みたいって、言ったから……」
「それ、どういうことですか?」
途端に真帆の表情が険しくなる。
え、なに? そんなに拙いこと言ったの、僕。
「楸、お前、まさか――」
と真帆に顔を向ける井口先生。
真帆は首を数度横に振り、
「違います、私じゃありません」
え、なに? いったいなに?
戸惑う僕に、真帆はずいっと顔を近づけ、
「夢の中で私、何したんです? 何て言ってました?」
「え、だから、あの本を読みながら、これは魔術書だって。魔女文字で書かれてるって。でもこれは僕の夢だから続きが読めない、学校に持ってきてほしい。この夢の事を私は覚えていないだろうから渡すだけでいいって――」
「……それだ」
「ああ! ムカつくっ!」
井口先生のため息と、真帆のこれ見よがしの悪態に僕はただただオロオロしつつ、
「えぇ、な、何だよ? 僕、いったい何をしたの?」
すると井口先生はおもむろに口を開き、
「――夢渡り、という魔法だ」
「夢、渡り?」
「昔の魔法使いの、まぁ言ってみれば、遠くにいる仲間や友人なんかと会って話をするための魔法だよ。今みたいに携帯やパソコンの通信機器が未発達だった時代にはよく使われていたんだ。当然、夢の中だから相手やその持ち物には触れられない」
でも、とそれに続いて真帆が口を開く。
「夢の中の私はその魔術書を読んでいたんですよね?」
「う、うん…… ただ、同じページばかりだった。ページが捲れなかったんだ。だから学校に持ってきてほしいって」
「それ、重要なヒントですよ!」
「え? どういうこと?」
「途中までは本が開けたってことは、たぶん、私の姿をしたその誰かさんは、元々そのページまでは読んだことがあるってことです」
「えっと、つまり?」
首を傾げる僕に、井口先生は、
「もしかしたらお前の夢に現れたのは、その魔術書の元の持ち主かも知れないってことだ」
そこで真帆は僕を問い詰めるような目で、
「夢に私が現れたのは、いつから?」
「え、えっと……真帆に、死の呪いを掛けられた夜に――」
「どうして突然……?」
僕の返答に考え込む真帆。
続いて訊ねてきたのは井口先生だった。
「その魔術書、最初からお前の部屋にあったのか?」
「あ、いえ。真帆から呪いを掛けられて、もしかしたら呪いを解く術が書かれているんじゃないか、と思って両親の書庫から自分の部屋に持ち出した本に紛れてました」
井口先生はふむ、と口元に手をやり、
「ってことは、たぶんこうだな」
と納得したように口にした。
「魔術書は両親の手に渡り、読めないという理由から書庫の肥やしとなっていた。書庫には誰もいない。そのせいで元々マーキングーー紛失した際に見つける手がかりを予め残しておく魔法だなーーを使って本の行方を追っていたにも関わらず、そいつにはきっと、その詳しい場所までは解らなかったんだろう。しかし、お前が魔術書を自分の部屋に持ち込んだことで状況が変わった。そいつは、本のマーキングを介してお前の姿を目にしたんだ。そこでお前の夢と繋がった」
隙間から僕の様子をじろじろうかがっていたのは真帆じゃなかったし、目的は最初からあの本だったってこと?
「で、でも、どうして真帆の姿に?」
「たぶん、その人は私とシモフツくんのことを見たことがあるんだと思います。というより、私とシモフツくんが付き合っていることを知って、それを利用しようとした。だから、私の姿で夢に現れた」
えっと、だから、それは……
「つまり、元の持ち主は――」
井口先生はこくりと頷き、
「もしかしたら、この学校の生徒か教師かもしれないな」
「おう、どうした、今日は土曜だぞ」
職員室に顔を出すと、井口先生がパソコンを前にしてコーヒーを飲んでいた。
それにしても、私服で学校に来るなんて何とも妙な気分だ。
やっぱり制服で来た方が良かったんだろうか?
確か、学校に来るときは制服でって決まりがあったような、なかったような?
けれど井口先生はそんなことに悩んでいる僕なんて気にする様子もなく、
「まさか、学校でデートでもするつもりか?」
「はい、そのつもりです」
真帆も否定なんてする気もなく、井口先生の口に乗っかる。
井口先生は軽く笑うと、
「あまり目立つなよ。ただでさえ奇異の眼で見られてんのに」
「誰に何を思われようと私は気にしませんよ?」
「だろうな」
井口先生は言ってから、さてここからが本題だ、とばかりにパソコンの画面をこちらに向けた。
そこには先日グラウンドに描かれたペンタグラム、それと昨日の火事騒ぎの写真が何枚も表示されている。
「どうせ目的はこれだろ?」
「そうです、そうです」
と真帆は頷き、
「けど、それだけじゃありません」
「なんだ? 他にもまだなんかあったか?」
「昨日の火事騒ぎの時に、シモフツくんから借りた魔術書を盗まれたんです」
「魔術書? どういうことだ?」
井口先生は眉間にしわを寄せる。
真帆は昨日の出来事を手短に説明すると、
「私、グラウンドの魔法陣も昨日の火事騒ぎも、その魔術書と関係があるんじゃないかって思ってるんですよ」
「なるほどね」
と井口先生は腕を組み、
「ところで、なんでシモハライはそんなもんを持ってたんだ? お前、魔法使いの家系かなんかだったのか?」
問われて、「いえいえ」と僕は首を振る。
「両親がどこかから買ってきたんですよ。でも読めなくて。真帆が似たようなのを読んでるのを見たことがあったから、たまたま持ってきただけです」
ふうん? と首を傾げる真帆と井口先生。
何となく疑いの眼差しを向けられているような気がするけど……?
不安に駆られながら二人の顔を交互に見ていると、口を開いたのは真帆だった。
「――本当に、それだけですか?」
「え?」
ぎくり。
「もしこれらが一つに繋がるんだとしたら、シモフツくんが魔術書を持って来ようと思ったきっかけがあると思うんですよね」
「きっかけ……」
不意に脳裏に浮かぶ、夢の真帆。
その顔が、今、目の前に立つ真帆の顔と重なって。
「もしかして、何か隠してます?」
「どうなんだ、シモハライ」
二人に迫られるように睨みつけられて、僕は、
「ゆ、夢で、真帆が、読みたいって、言ったから……」
「それ、どういうことですか?」
途端に真帆の表情が険しくなる。
え、なに? そんなに拙いこと言ったの、僕。
「楸、お前、まさか――」
と真帆に顔を向ける井口先生。
真帆は首を数度横に振り、
「違います、私じゃありません」
え、なに? いったいなに?
戸惑う僕に、真帆はずいっと顔を近づけ、
「夢の中で私、何したんです? 何て言ってました?」
「え、だから、あの本を読みながら、これは魔術書だって。魔女文字で書かれてるって。でもこれは僕の夢だから続きが読めない、学校に持ってきてほしい。この夢の事を私は覚えていないだろうから渡すだけでいいって――」
「……それだ」
「ああ! ムカつくっ!」
井口先生のため息と、真帆のこれ見よがしの悪態に僕はただただオロオロしつつ、
「えぇ、な、何だよ? 僕、いったい何をしたの?」
すると井口先生はおもむろに口を開き、
「――夢渡り、という魔法だ」
「夢、渡り?」
「昔の魔法使いの、まぁ言ってみれば、遠くにいる仲間や友人なんかと会って話をするための魔法だよ。今みたいに携帯やパソコンの通信機器が未発達だった時代にはよく使われていたんだ。当然、夢の中だから相手やその持ち物には触れられない」
でも、とそれに続いて真帆が口を開く。
「夢の中の私はその魔術書を読んでいたんですよね?」
「う、うん…… ただ、同じページばかりだった。ページが捲れなかったんだ。だから学校に持ってきてほしいって」
「それ、重要なヒントですよ!」
「え? どういうこと?」
「途中までは本が開けたってことは、たぶん、私の姿をしたその誰かさんは、元々そのページまでは読んだことがあるってことです」
「えっと、つまり?」
首を傾げる僕に、井口先生は、
「もしかしたらお前の夢に現れたのは、その魔術書の元の持ち主かも知れないってことだ」
そこで真帆は僕を問い詰めるような目で、
「夢に私が現れたのは、いつから?」
「え、えっと……真帆に、死の呪いを掛けられた夜に――」
「どうして突然……?」
僕の返答に考え込む真帆。
続いて訊ねてきたのは井口先生だった。
「その魔術書、最初からお前の部屋にあったのか?」
「あ、いえ。真帆から呪いを掛けられて、もしかしたら呪いを解く術が書かれているんじゃないか、と思って両親の書庫から自分の部屋に持ち出した本に紛れてました」
井口先生はふむ、と口元に手をやり、
「ってことは、たぶんこうだな」
と納得したように口にした。
「魔術書は両親の手に渡り、読めないという理由から書庫の肥やしとなっていた。書庫には誰もいない。そのせいで元々マーキングーー紛失した際に見つける手がかりを予め残しておく魔法だなーーを使って本の行方を追っていたにも関わらず、そいつにはきっと、その詳しい場所までは解らなかったんだろう。しかし、お前が魔術書を自分の部屋に持ち込んだことで状況が変わった。そいつは、本のマーキングを介してお前の姿を目にしたんだ。そこでお前の夢と繋がった」
隙間から僕の様子をじろじろうかがっていたのは真帆じゃなかったし、目的は最初からあの本だったってこと?
「で、でも、どうして真帆の姿に?」
「たぶん、その人は私とシモフツくんのことを見たことがあるんだと思います。というより、私とシモフツくんが付き合っていることを知って、それを利用しようとした。だから、私の姿で夢に現れた」
えっと、だから、それは……
「つまり、元の持ち主は――」
井口先生はこくりと頷き、
「もしかしたら、この学校の生徒か教師かもしれないな」
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