魔女と魔法使いの少女たち

ノムラユーリ

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第3章 お菓子の魔女

第5回

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 そんなわけで真帆も肥田木さんも本当に遠慮する様子もなく、次から次へとケーキを注文していった。いったいあれだけの数のケーキを、その小さな体のどこに収めていってるのか、本当に不思議でならなかった。

 真帆も身体は小さい方だが、肥田木さんも同じくらいに身体が小さい。そんなふたりがガツガツとケーキを食べるところを眺めながら、僕は遠慮して飲み物しか頼まなかった。

 ――果たして財布の中身は足りるだろうか。

 そんなことを心配しながら。

「美味しかったですね!」
 と真帆が口を紙ナプキンで拭いながら肥田木さんに顔を向けると、
「はい! 最高でした!」
 と肥田木さんもお口を拭き拭き満面の笑顔。

 ふむ、最初あれだけ真帆に振り回されていた肥田木さんだったけれど、もともとの気質が似通っているのだろう、今ではまるで真帆の妹か何かのように気が合っている。

 そう言えばゴールデンウィークのときも、アストロ公園でふたりしてお肉コールをかましていたし、このまま肥田木さんも真帆のようになってしまうんじゃないかと思うと、少々不安になってくるのも仕方のないことだろう。

 さすがにふたりも面倒は見切れないので、もしそうなったら鐘撞さんにも付き合って貰わないと手に負えなくなりそうだ。

 そんなことを漠然と考えていると、
「あらあらあら、まぁまぁまぁ! おばさん、嬉しいわぁ! こんなに美味しく食べてもらえるだなんて! お土産はどう? ご家族にも持って帰ってちょうだい! あぁ、加帆子さんはチョコレートケーキが好きだって言っていたから、アレにしましょう!」
 のそのそと動物たちと一緒に店の奥へと歩いていく順子さん。

 ここが住宅街の片隅でなければ、本当に森の中でケーキ屋さんをやっていそうな雰囲気の魔女だなと、僕は何となくそう思った。

 しばらく楽しそうに談笑している真帆と肥田木さんの横で静かにコーヒーを嗜んでいると、順子さんと動物たちが戻ってきて、箱詰めされたケーキを三人それぞれに渡してくれた。

「はい、どうぞ」
 と僕に小ぢんまりとした箱を手渡してくれたのは誰あろう、熊――ツキノワグマである。

 順子さんに比べればひと回り身体が小さいけれど、僕よりも少しばかり大きくてガタイの良い身体、しかもその口にはずらりと牙が並んでいて、丸く削ってはいるけれども立派な爪がなんとも恐ろしかった。

 いやいや、怖がるだなんて熊さんに失礼だ。爪に引っ掛けられたその箱を僕は受け取りながら、
「あ、ありがとう」

 目を細め、むふぁりと口を緩める熊さん。

 うむむ……可愛いといえば、可愛いかもしれない。

 それから僕は「あっ」とそれに気が付いて、一旦受け取った箱をテーブルに置きながら、尻ポケットの財布を取り出す。

「――お代を」

「あらあらあら! いいのよ! いいの! 今日はたくさん話せて私も楽しかったわ! また来てくれたら、今日はそれでいいわよ!」

「いえ、そんな……」

「うっふふふ! いいから、いいから! それよりも真帆ちゃんのこと、よろしくね!」

 ぱちんっとウィンクして見せる順子さん。星のような、ハートのようなものがその眼もとから一瞬飛び散ったように見えたのは、果たして魔法か、それとも気のせいか。

「あ、もうこんな時間! そろそろ帰らないと晩ごはんに遅れちゃう!」
 そう口にしたのは肥田木さんだった。

 おいおい、あれだけ食べといてまだ食べるだけの余裕があるというのか? いったいどんな胃をしてるんだ、この子は。

「そうですねぇ、私もおじいちゃんとおばあちゃんが待ちわびてるでしょうね」

 さぁ、シモフツくん、帰りますよ! と真帆に急かされて、「あぁ、うん」とテーブルに置いたケーキの箱を手に取ろうとしたところで、

「あ、シモハライくん」
 と順子さんに声をかけられる。
「これ、持って行きなさい」

 そう言って順子さんは僕の右手を取ると、その手のひらに小さなキーホルダー?を握らせた。

 大きさはだいたい縦七センチくらい。丸い木の枠に白い糸が蜘蛛の巣のように張られており、色とりどりの小さな羽根が、その枠の下にプラプラとぶら下げられている。

「お守りよ。きっと、あなたたちを守ってくれるわ」

 ――お守り。どこかで見たことがあるような気がするけれど、魔女がくれるものなのだから、それなりに効果があるのだろう。

「あ、ありがとうございます」

 僕は素直にそれを受け取ると、さっそく通学鞄にぶら下げてみた。

 うんうん、と満足そうに頷く順子さん。

「それじゃぁ、気を付けて帰るのよ!」
 動物たちと手を振る順子さんに、
「はい、それじゃぁ、また」
 僕に続いて、
「ごちそうさまでしたぁ!」
「また来ますね、順子さん!」
 と肥田木さんと真帆がにっこりと微笑んだ。

 三人並んでお店を出ると、空はすっかりオレンジ色に染まっている。

 家に帰りつくころには、もう真っ暗になっているかもしれない。

 僕は何とか財布の中身が減らずにすんだことに安堵しつつ、それと同時に、今度は真帆とふたりきりで来て、ちゃんと自分のお金で『恋人たちの甘いひと時』を注文しなくちゃならないな、と小さく頷いた。

 きっと真帆も、喜んで付き合ってくれるだろう。

 僕は真帆や肥田木さんと帰り道を歩きながら、もう一度お店の方を振り返った。

 けれど、そこに見えたのは、ただ鬱蒼とした、緑の山だけだった。
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