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第6章 大海原の魔女
第1回
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――夏休み。
僕は進学に向けて日々机に向かい、勉学に勤しんでいた――のだけれども、正直頭に入ってくる情報はそれほど多くはなかった。
これまで勉強らしい勉強をしてこなかったものだから、大学に向けての勉強のしかたなんて全くわからなかったし、井口先生が勧めてくれた大学のどれを目指すかというのも決め切れていなかったこともあって、どこに力を入れたほうがいいのかっていうのも、皆目見当がつかなかったのだ。
でも、何より僕の勉強を邪魔しているのは――
「……真帆、ちょっと頭をどけてもらっていいかな?」
「おかまいなく~」
ぺらり、ページを捲る。
僕の膝の上に頭をのせ、僕とクロスするように仰向けになって寝転びながら、のんびり漫画を読み進める真帆。
僕は座卓に向かって勉強をしているのだけれども、僕と机の間に真帆の横幅分の空間ができてしまっている。そのせいで変に腕を伸ばしながら問題集を解いているものだから、正直邪魔でしかたがない。
「勉強できないだろ? 真帆も課題やりなよ」
「あとでやりますよ~」
ぺらり、ページを捲る。
「また僕の答えを書き写すつもりなんだろ?」
「そうですけど~?」
ぺらり、ページを捲る。
「そんなんじゃ身につかないよ?」
「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ」
ぺらり、ページを捲る。
「頼むからさ、頭だけでもあげてくれない?」
「は~い」
すっと頭をあげて直ぐにおろしてページをぺらり。
ふむ。ダメだ。人の話を聞くつもりがないぞ、この女。いつものことだけれども。
「邪魔するんなら帰ってよ、真帆」
ところがこの言葉に対してはさすがに真帆も頬を膨らませ、胸の上に漫画を下ろしながら、
「ひどいです! せっかく彼女が遊びに来てるのに、それを無視して勉強ばかりしてるのはユウくんのほうじゃないですか!」
「違うよ? 遊びに来てるんじゃないからね? 僕は大学入試の勉強、真帆は夏休みの課題をやるためだからね? おばあさんにもそういう約束で毎日来てるんじゃなかったの?」
「……はて? そうでしたっけ?」
わざとらしくとぼける真帆に、僕は大きくため息を吐いてから、
「別に夏休みの課題はいいよ、僕のを写させてあげるから。ただ、僕の勉強の邪魔はしないでもらえるかな?」
すると真帆は唇を尖らせて「ぶぅ~っ!」と変な声を出し、
「邪魔なんてしてません~! ただユウくんの膝の上でマンガ読んでるだけです~!」
「だから、それが邪魔してるっての! 腕伸ばしすぎて疲れたの!」
「しかたないな~」
真帆はむっくりと上半身を起こすと、漫画を床の上に置き、僕の腕を揉み始める。
「……いや、マッサージしてほしいってわけじゃなくてさ」
「嫌なんですか? 私のマッサージが」
「……嫌じゃないです。気持ちいいです」
「ならよし」
僕はため息をもらし、しばらく真帆にされるがまま腕を揉んでもらう。
「もみもみ、もみもみ」
何故か口に出して揉み続ける真帆。
やれやれ。この調子じゃぁ、まともに勉強もできやしない。
毎日のようにうちに遊びに来る真帆。
嬉しくもあり、煩わしくもあり、なんとも複雑な気分。
これでは今日もまともに勉強できそうにない。
まぁ、夜になってやればいいか――
なんてことを考えていると、ふと真帆が口にした。
「――うみ」
「はい?」
「せっかくですし、海に行きたいです」
「何がせっかくなの?」
訊ねても、真帆はそれを完全に無視するように、
「みんな誘って海に行きましょう」
「だから、どうしたの、突然」
おおかた、もみもみと口にしていたのが頭の中で海(うみ)と音が結びつきでもしただけなんだろうけれども。
「こんなに暑いんですもの。海に泳ぎに行きたいです」
「プールじゃダメ? 去年まではプールに行ってたじゃない」
「海です。海の気分なんです、海」
……気分。そうかぁ、気分かぁ。真帆は気分重視だからなぁ。
「ユウくんだって、こんなに毎日勉強ばかりで疲れませんか? 少しは遊びたいと思いませんか? せっかくの夏休みですよ? もう一週間以上、勉強ばかりじゃないですか。ちょっとくらい気晴らしに行きましょうよ。みんなで!」
目をキラキラさせながら詰め寄ってくる真帆。
それはもう、決定事項であるかのような勢いだった。
ここで絶対に行かない、なんて口にしたら、真帆はいったいどんな顔をするのだろうか。
……ま、そんなこと言わないけどね。
「――わかったよ。行こう、海」
「やった!」
真帆は僕の腕から手を離し、小さくガッツポーズをしたのだった。
――夏休み。
僕は進学に向けて日々机に向かい、勉学に勤しんでいた――のだけれども、正直頭に入ってくる情報はそれほど多くはなかった。
これまで勉強らしい勉強をしてこなかったものだから、大学に向けての勉強のしかたなんて全くわからなかったし、井口先生が勧めてくれた大学のどれを目指すかというのも決め切れていなかったこともあって、どこに力を入れたほうがいいのかっていうのも、皆目見当がつかなかったのだ。
でも、何より僕の勉強を邪魔しているのは――
「……真帆、ちょっと頭をどけてもらっていいかな?」
「おかまいなく~」
ぺらり、ページを捲る。
僕の膝の上に頭をのせ、僕とクロスするように仰向けになって寝転びながら、のんびり漫画を読み進める真帆。
僕は座卓に向かって勉強をしているのだけれども、僕と机の間に真帆の横幅分の空間ができてしまっている。そのせいで変に腕を伸ばしながら問題集を解いているものだから、正直邪魔でしかたがない。
「勉強できないだろ? 真帆も課題やりなよ」
「あとでやりますよ~」
ぺらり、ページを捲る。
「また僕の答えを書き写すつもりなんだろ?」
「そうですけど~?」
ぺらり、ページを捲る。
「そんなんじゃ身につかないよ?」
「だいじょ~ぶ、だいじょ~ぶ」
ぺらり、ページを捲る。
「頼むからさ、頭だけでもあげてくれない?」
「は~い」
すっと頭をあげて直ぐにおろしてページをぺらり。
ふむ。ダメだ。人の話を聞くつもりがないぞ、この女。いつものことだけれども。
「邪魔するんなら帰ってよ、真帆」
ところがこの言葉に対してはさすがに真帆も頬を膨らませ、胸の上に漫画を下ろしながら、
「ひどいです! せっかく彼女が遊びに来てるのに、それを無視して勉強ばかりしてるのはユウくんのほうじゃないですか!」
「違うよ? 遊びに来てるんじゃないからね? 僕は大学入試の勉強、真帆は夏休みの課題をやるためだからね? おばあさんにもそういう約束で毎日来てるんじゃなかったの?」
「……はて? そうでしたっけ?」
わざとらしくとぼける真帆に、僕は大きくため息を吐いてから、
「別に夏休みの課題はいいよ、僕のを写させてあげるから。ただ、僕の勉強の邪魔はしないでもらえるかな?」
すると真帆は唇を尖らせて「ぶぅ~っ!」と変な声を出し、
「邪魔なんてしてません~! ただユウくんの膝の上でマンガ読んでるだけです~!」
「だから、それが邪魔してるっての! 腕伸ばしすぎて疲れたの!」
「しかたないな~」
真帆はむっくりと上半身を起こすと、漫画を床の上に置き、僕の腕を揉み始める。
「……いや、マッサージしてほしいってわけじゃなくてさ」
「嫌なんですか? 私のマッサージが」
「……嫌じゃないです。気持ちいいです」
「ならよし」
僕はため息をもらし、しばらく真帆にされるがまま腕を揉んでもらう。
「もみもみ、もみもみ」
何故か口に出して揉み続ける真帆。
やれやれ。この調子じゃぁ、まともに勉強もできやしない。
毎日のようにうちに遊びに来る真帆。
嬉しくもあり、煩わしくもあり、なんとも複雑な気分。
これでは今日もまともに勉強できそうにない。
まぁ、夜になってやればいいか――
なんてことを考えていると、ふと真帆が口にした。
「――うみ」
「はい?」
「せっかくですし、海に行きたいです」
「何がせっかくなの?」
訊ねても、真帆はそれを完全に無視するように、
「みんな誘って海に行きましょう」
「だから、どうしたの、突然」
おおかた、もみもみと口にしていたのが頭の中で海(うみ)と音が結びつきでもしただけなんだろうけれども。
「こんなに暑いんですもの。海に泳ぎに行きたいです」
「プールじゃダメ? 去年まではプールに行ってたじゃない」
「海です。海の気分なんです、海」
……気分。そうかぁ、気分かぁ。真帆は気分重視だからなぁ。
「ユウくんだって、こんなに毎日勉強ばかりで疲れませんか? 少しは遊びたいと思いませんか? せっかくの夏休みですよ? もう一週間以上、勉強ばかりじゃないですか。ちょっとくらい気晴らしに行きましょうよ。みんなで!」
目をキラキラさせながら詰め寄ってくる真帆。
それはもう、決定事項であるかのような勢いだった。
ここで絶対に行かない、なんて口にしたら、真帆はいったいどんな顔をするのだろうか。
……ま、そんなこと言わないけどね。
「――わかったよ。行こう、海」
「やった!」
真帆は僕の腕から手を離し、小さくガッツポーズをしたのだった。
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