魔女と魔法使いの少女たち

ノムラユーリ

文字の大きさ
30 / 70
第6章 大海原の魔女

第5回

しおりを挟む
   5

「このアーティファクト、どうやって動いてるんです?」

 僕らも軽く自己紹介をした後、榎先輩が興味深そうにネッシーの身体を撫でながらそう尋ねた。

 するとサシャさんはニヤリと笑みながら、

「まぁ、例の如くあーしにもよくわかんないんだよね。目的地を入力したら、基本的には自動で運転してくれんの。あーしがやることといえば、進行方向を微調整したり、鯨とか船舶とかにぶつからないようにすることだけ。不思議だよねー。あーしもまだまだコイツのことを勉強中なんだ。一応、虹を燃料にして動く潜水艦って感じさ。百年以上前の科学者が魔法使いと一緒に創り上げた、男の夢と希望で出来あがった奇跡の一台、いや、一匹だね」

 へぇ~、と真帆もネッシーの周囲をぐるりと一周する。ふむふむ、と何度も頷きながら、きょろきょろとサシャさんをチラ見するのは乗せてもらいたいからだろう。口で言えばいいのに。

 ちなみに鐘撞さんと肥田木さんは、少し離れたところからそんな僕らの様子をずっと窺っている。ネッシーが作り物だとしても、それはあまりにもリアルな出来で、本当にここにネッシーが存在していそうなほどの迫力だ。横っ腹の、ネッシーの中に入れる扉さえ開いていなければ、真に迫る恐ろしさがある。

 実際、肥田木さんは鐘撞さんの後ろに隠れるようにして、鐘撞さんの身体を抱きしめながら、なるべくネッシーを見ないように努めていた。

 肥田木さん、思った以上に怖がりのようだ。

「いいなぁ、乗ってみたいなぁ」

 真帆とは違い、正直にそう口にする榎先輩。

 するとサシャさんは「う~ん」と軽く頭を掻いてから、
「乗せてあげたいのはやまやまなんだけど、さっきも言ったけどまだコイツの操縦について勉強中でさ。なんかあったら責任取れないからさぁ。君たち学生でしょ? もうちょっと自分で責任取れるような歳だったら考えてもよかったんだけど……」

「──なら、私が許可を出すわ」

 どこからか聞き覚えのある声がして、僕らはキョロキョロと辺りを見回す。

 僕らが回り込んできた岩場から波打ち際、砂浜の端から端。

 けれど、どこにもその姿は見当たらない。

「あっ、あそこです!」

 真帆が指を指すほう、青々と繁る草木に覆われた高い岩場の上に、仁王立ちする乙守先生の姿がそこにはあった。

 乙守先生は前のチャックを全開にしたラッシュガードの裾を海風にはためかせながら、さっき見たのよりはまだまともな、それでもこぼれんばかりのビキニ姿で、
「凄いじゃない、サシャ! ついに見つけたんだ?」
 ぴょんっと岩場をひと蹴りして、四、五メートル近い高さから浜辺に着地する。

 ……よくあんな高さから飛び降りられたものだと僕は感心してしまう。

 いや、そんなことより、乙守先生はどうしてこんなところに?

 なんて考えてみたのだけれど、そもそも一応僕らの引率として来ているのだから、僕らの姿が見えなくなれば探すに決まっているか。

 それよりも、乙守先生、サシャさんと知り合いだったのか。そこに驚きを隠せなかった。

「あれ、アヤさん! なんでこんな所に?」
 サシャさんは乙守先生のところまで小走りに駆け寄ると、嬉しそうに満面の笑みで、
「もしかして、この子達、アヤさんの新しい弟子ッスか?」

 乙守先生は手をヒラヒラさせながら首を横に振り、
「違う違う! ただの引率! 今は私、この子達の学校の保健室で働いてるのよ」

「へぇ、アヤさんが?」サシャさんは目をパチクリさせながら驚いた様子で、「でも、それじゃぁ、協会の仕事は?」

「他の子に代わりにやってもらってるわ。それより、この子達を是非ネッシーに乗せてあげて。何かあっても、私がサポートしてあげるから」

「そうですか? じゃぁ、安心ッスね!」

 親指を立ててGOOD!を表すサシャさん。

 サシャさんはクルリと僕らに振り向くと、
「んじゃ、誰から乗る? 中が狭いから、どんなに詰め詰めでもMAX定員三人なんだよね。だから、あーしが運転するとして、ふたりずつで分けて乗ろうか」

「はい! はいはいはい! 私、最初に乗りたいです!」

 大きく手を挙げる真帆に、榎先輩は「ズルい!」と声を張り上げて、

「あたしだって一番に乗りたい! 奇跡のアーティファクト! めちゃくちゃ気になる!」

 ふむふむ、とサシャさんは頷き、鐘撞さんと肥田木さんに顔を向けて、
「君たちはどうする? 最初がいい? あとがいい?」

 ところが、そんなサシャさんの質問に、肥田木さんは全力で頭を何度も横に振って、
「わ、私はいいです! 怖いので遠慮しておきます!」

 鐘撞さんも肥田木さんにしがみつかれたまま、
「……わたしも遠慮しておきます。肥田木さんと一緒に待ってます」

「りょーかい!」
 それからサシャさんは僕にも訊ねてくる。
「おにーさんはどうする?」

「あ、じゃぁ、僕も乗ってみたいです。順番は、あとで良いですよ。先に真帆と榎先輩を乗せてあげてください」

「あいよ!」
 親指を立ててウィンクするサシャさん。

 すると、乙守先生もネッシーを見上げながら、
「それじゃぁ、私も乗ってみたいし、シモハライくんと一緒にーー」

「いえ、シモフツくんは私と一緒に乗ります。なので、乙守先生はなっちゃんと先に乗っちゃってください」

 そそそっ、と真帆は僕のところまで足早に寄ってくると、僕の右腕をその胸に強く抱きしめながら、どうぞどうぞと乙守先生に先を譲った。

 ……言わんとすることは僕にだってよくわかる。

 乙守先生のその余りにも余り過ぎる姿に、僕だってちょっと遠慮すべきだることは理解できた。

「あらあら」と乙守先生はくすくす笑んで、「なら、お言葉に甘えて、先に乗らせてもらうわね」

 榎先輩やサシャさんと一緒に、ネッシーの中へと入って行ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編4が完結しました!(2026.2.22)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...