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第6章 大海原の魔女
第5回
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5
「このアーティファクト、どうやって動いてるんです?」
僕らも軽く自己紹介をした後、榎先輩が興味深そうにネッシーの身体を撫でながらそう尋ねた。
するとサシャさんはニヤリと笑みながら、
「まぁ、例の如くあーしにもよくわかんないんだよね。目的地を入力したら、基本的には自動で運転してくれんの。あーしがやることといえば、進行方向を微調整したり、鯨とか船舶とかにぶつからないようにすることだけ。不思議だよねー。あーしもまだまだコイツのことを勉強中なんだ。一応、虹を燃料にして動く潜水艦って感じさ。百年以上前の科学者が魔法使いと一緒に創り上げた、男の夢と希望で出来あがった奇跡の一台、いや、一匹だね」
へぇ~、と真帆もネッシーの周囲をぐるりと一周する。ふむふむ、と何度も頷きながら、きょろきょろとサシャさんをチラ見するのは乗せてもらいたいからだろう。口で言えばいいのに。
ちなみに鐘撞さんと肥田木さんは、少し離れたところからそんな僕らの様子をずっと窺っている。ネッシーが作り物だとしても、それはあまりにもリアルな出来で、本当にここにネッシーが存在していそうなほどの迫力だ。横っ腹の、ネッシーの中に入れる扉さえ開いていなければ、真に迫る恐ろしさがある。
実際、肥田木さんは鐘撞さんの後ろに隠れるようにして、鐘撞さんの身体を抱きしめながら、なるべくネッシーを見ないように努めていた。
肥田木さん、思った以上に怖がりのようだ。
「いいなぁ、乗ってみたいなぁ」
真帆とは違い、正直にそう口にする榎先輩。
するとサシャさんは「う~ん」と軽く頭を掻いてから、
「乗せてあげたいのはやまやまなんだけど、さっきも言ったけどまだコイツの操縦について勉強中でさ。なんかあったら責任取れないからさぁ。君たち学生でしょ? もうちょっと自分で責任取れるような歳だったら考えてもよかったんだけど……」
「──なら、私が許可を出すわ」
どこからか聞き覚えのある声がして、僕らはキョロキョロと辺りを見回す。
僕らが回り込んできた岩場から波打ち際、砂浜の端から端。
けれど、どこにもその姿は見当たらない。
「あっ、あそこです!」
真帆が指を指すほう、青々と繁る草木に覆われた高い岩場の上に、仁王立ちする乙守先生の姿がそこにはあった。
乙守先生は前のチャックを全開にしたラッシュガードの裾を海風にはためかせながら、さっき見たのよりはまだまともな、それでもこぼれんばかりのビキニ姿で、
「凄いじゃない、サシャ! ついに見つけたんだ?」
ぴょんっと岩場をひと蹴りして、四、五メートル近い高さから浜辺に着地する。
……よくあんな高さから飛び降りられたものだと僕は感心してしまう。
いや、そんなことより、乙守先生はどうしてこんなところに?
なんて考えてみたのだけれど、そもそも一応僕らの引率として来ているのだから、僕らの姿が見えなくなれば探すに決まっているか。
それよりも、乙守先生、サシャさんと知り合いだったのか。そこに驚きを隠せなかった。
「あれ、アヤさん! なんでこんな所に?」
サシャさんは乙守先生のところまで小走りに駆け寄ると、嬉しそうに満面の笑みで、
「もしかして、この子達、アヤさんの新しい弟子ッスか?」
乙守先生は手をヒラヒラさせながら首を横に振り、
「違う違う! ただの引率! 今は私、この子達の学校の保健室で働いてるのよ」
「へぇ、アヤさんが?」サシャさんは目をパチクリさせながら驚いた様子で、「でも、それじゃぁ、協会の仕事は?」
「他の子に代わりにやってもらってるわ。それより、この子達を是非ネッシーに乗せてあげて。何かあっても、私がサポートしてあげるから」
「そうですか? じゃぁ、安心ッスね!」
親指を立ててGOOD!を表すサシャさん。
サシャさんはクルリと僕らに振り向くと、
「んじゃ、誰から乗る? 中が狭いから、どんなに詰め詰めでもMAX定員三人なんだよね。だから、あーしが運転するとして、ふたりずつで分けて乗ろうか」
「はい! はいはいはい! 私、最初に乗りたいです!」
大きく手を挙げる真帆に、榎先輩は「ズルい!」と声を張り上げて、
「あたしだって一番に乗りたい! 奇跡のアーティファクト! めちゃくちゃ気になる!」
ふむふむ、とサシャさんは頷き、鐘撞さんと肥田木さんに顔を向けて、
「君たちはどうする? 最初がいい? あとがいい?」
ところが、そんなサシャさんの質問に、肥田木さんは全力で頭を何度も横に振って、
「わ、私はいいです! 怖いので遠慮しておきます!」
鐘撞さんも肥田木さんにしがみつかれたまま、
「……わたしも遠慮しておきます。肥田木さんと一緒に待ってます」
「りょーかい!」
それからサシャさんは僕にも訊ねてくる。
「おにーさんはどうする?」
「あ、じゃぁ、僕も乗ってみたいです。順番は、あとで良いですよ。先に真帆と榎先輩を乗せてあげてください」
「あいよ!」
親指を立ててウィンクするサシャさん。
すると、乙守先生もネッシーを見上げながら、
「それじゃぁ、私も乗ってみたいし、シモハライくんと一緒にーー」
「いえ、シモフツくんは私と一緒に乗ります。なので、乙守先生はなっちゃんと先に乗っちゃってください」
そそそっ、と真帆は僕のところまで足早に寄ってくると、僕の右腕をその胸に強く抱きしめながら、どうぞどうぞと乙守先生に先を譲った。
……言わんとすることは僕にだってよくわかる。
乙守先生のその余りにも余り過ぎる姿に、僕だってちょっと遠慮すべきだることは理解できた。
「あらあら」と乙守先生はくすくす笑んで、「なら、お言葉に甘えて、先に乗らせてもらうわね」
榎先輩やサシャさんと一緒に、ネッシーの中へと入って行ったのだった。
「このアーティファクト、どうやって動いてるんです?」
僕らも軽く自己紹介をした後、榎先輩が興味深そうにネッシーの身体を撫でながらそう尋ねた。
するとサシャさんはニヤリと笑みながら、
「まぁ、例の如くあーしにもよくわかんないんだよね。目的地を入力したら、基本的には自動で運転してくれんの。あーしがやることといえば、進行方向を微調整したり、鯨とか船舶とかにぶつからないようにすることだけ。不思議だよねー。あーしもまだまだコイツのことを勉強中なんだ。一応、虹を燃料にして動く潜水艦って感じさ。百年以上前の科学者が魔法使いと一緒に創り上げた、男の夢と希望で出来あがった奇跡の一台、いや、一匹だね」
へぇ~、と真帆もネッシーの周囲をぐるりと一周する。ふむふむ、と何度も頷きながら、きょろきょろとサシャさんをチラ見するのは乗せてもらいたいからだろう。口で言えばいいのに。
ちなみに鐘撞さんと肥田木さんは、少し離れたところからそんな僕らの様子をずっと窺っている。ネッシーが作り物だとしても、それはあまりにもリアルな出来で、本当にここにネッシーが存在していそうなほどの迫力だ。横っ腹の、ネッシーの中に入れる扉さえ開いていなければ、真に迫る恐ろしさがある。
実際、肥田木さんは鐘撞さんの後ろに隠れるようにして、鐘撞さんの身体を抱きしめながら、なるべくネッシーを見ないように努めていた。
肥田木さん、思った以上に怖がりのようだ。
「いいなぁ、乗ってみたいなぁ」
真帆とは違い、正直にそう口にする榎先輩。
するとサシャさんは「う~ん」と軽く頭を掻いてから、
「乗せてあげたいのはやまやまなんだけど、さっきも言ったけどまだコイツの操縦について勉強中でさ。なんかあったら責任取れないからさぁ。君たち学生でしょ? もうちょっと自分で責任取れるような歳だったら考えてもよかったんだけど……」
「──なら、私が許可を出すわ」
どこからか聞き覚えのある声がして、僕らはキョロキョロと辺りを見回す。
僕らが回り込んできた岩場から波打ち際、砂浜の端から端。
けれど、どこにもその姿は見当たらない。
「あっ、あそこです!」
真帆が指を指すほう、青々と繁る草木に覆われた高い岩場の上に、仁王立ちする乙守先生の姿がそこにはあった。
乙守先生は前のチャックを全開にしたラッシュガードの裾を海風にはためかせながら、さっき見たのよりはまだまともな、それでもこぼれんばかりのビキニ姿で、
「凄いじゃない、サシャ! ついに見つけたんだ?」
ぴょんっと岩場をひと蹴りして、四、五メートル近い高さから浜辺に着地する。
……よくあんな高さから飛び降りられたものだと僕は感心してしまう。
いや、そんなことより、乙守先生はどうしてこんなところに?
なんて考えてみたのだけれど、そもそも一応僕らの引率として来ているのだから、僕らの姿が見えなくなれば探すに決まっているか。
それよりも、乙守先生、サシャさんと知り合いだったのか。そこに驚きを隠せなかった。
「あれ、アヤさん! なんでこんな所に?」
サシャさんは乙守先生のところまで小走りに駆け寄ると、嬉しそうに満面の笑みで、
「もしかして、この子達、アヤさんの新しい弟子ッスか?」
乙守先生は手をヒラヒラさせながら首を横に振り、
「違う違う! ただの引率! 今は私、この子達の学校の保健室で働いてるのよ」
「へぇ、アヤさんが?」サシャさんは目をパチクリさせながら驚いた様子で、「でも、それじゃぁ、協会の仕事は?」
「他の子に代わりにやってもらってるわ。それより、この子達を是非ネッシーに乗せてあげて。何かあっても、私がサポートしてあげるから」
「そうですか? じゃぁ、安心ッスね!」
親指を立ててGOOD!を表すサシャさん。
サシャさんはクルリと僕らに振り向くと、
「んじゃ、誰から乗る? 中が狭いから、どんなに詰め詰めでもMAX定員三人なんだよね。だから、あーしが運転するとして、ふたりずつで分けて乗ろうか」
「はい! はいはいはい! 私、最初に乗りたいです!」
大きく手を挙げる真帆に、榎先輩は「ズルい!」と声を張り上げて、
「あたしだって一番に乗りたい! 奇跡のアーティファクト! めちゃくちゃ気になる!」
ふむふむ、とサシャさんは頷き、鐘撞さんと肥田木さんに顔を向けて、
「君たちはどうする? 最初がいい? あとがいい?」
ところが、そんなサシャさんの質問に、肥田木さんは全力で頭を何度も横に振って、
「わ、私はいいです! 怖いので遠慮しておきます!」
鐘撞さんも肥田木さんにしがみつかれたまま、
「……わたしも遠慮しておきます。肥田木さんと一緒に待ってます」
「りょーかい!」
それからサシャさんは僕にも訊ねてくる。
「おにーさんはどうする?」
「あ、じゃぁ、僕も乗ってみたいです。順番は、あとで良いですよ。先に真帆と榎先輩を乗せてあげてください」
「あいよ!」
親指を立ててウィンクするサシャさん。
すると、乙守先生もネッシーを見上げながら、
「それじゃぁ、私も乗ってみたいし、シモハライくんと一緒にーー」
「いえ、シモフツくんは私と一緒に乗ります。なので、乙守先生はなっちゃんと先に乗っちゃってください」
そそそっ、と真帆は僕のところまで足早に寄ってくると、僕の右腕をその胸に強く抱きしめながら、どうぞどうぞと乙守先生に先を譲った。
……言わんとすることは僕にだってよくわかる。
乙守先生のその余りにも余り過ぎる姿に、僕だってちょっと遠慮すべきだることは理解できた。
「あらあら」と乙守先生はくすくす笑んで、「なら、お言葉に甘えて、先に乗らせてもらうわね」
榎先輩やサシャさんと一緒に、ネッシーの中へと入って行ったのだった。
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