31 / 70
第6章 大海原の魔女
第6回
しおりを挟む
6
海の中をこんなふうに見られるだなんて、僕は思ってもいなかった。
ネッシー自体のどこにも窓なんてついてなかったのだけれど、どうやら前後左右にカメラが設置されているらしく、中に入るとたくさんのモニターに囲まれていて、そのモニターで海の中を観察することができた。
普段スーパーの鮮魚売り場なんかで見られる魚がたくさん群れを成して泳ぎ回っているだけでなく、海藻類の近くには青や黄色の小さな魚が泳ぎまわり、意外なことに近くを僕らの乗るネッシーが通り過ぎても、まるで逃げようともしなかった。
ちなみに、ネッシーも真帆たちが空を飛ぶときと同じように、魔法によって姿が別の魚に見えるようにしてあるらしい。確かに、こんな形のものが海を泳いでいたら誰もが驚いて大騒ぎになっていることだろう。
深い海の中を、ネッシーはサシャさんの運転によって自由自在に泳ぎ回った。
それでもサシャさん曰く、水深はまだ五メートルから十メートル前後。
ギリギリ光が届くくらいの深さで、竜宮城に向かう浦島太郎はきっとこんな光景を海の中で見たのだろうな、と僕は感心しながらそれらを見ていた。
「おいしそ~!」
とは真帆の言葉である。
「あれ、焼くと美味しいですよね! あ、アレは味噌汁に入れると味に深みが出るんですよ!」
などと微妙に空気を壊してくれる発言をしてくれた。
「真帆、料理できたっけ?」
「私じゃないですよ、お姉ちゃんです」
「あぁ、加奈さんか……」
「私が料理なんてできるわけないじゃないですか~!」
ぷぷっと噴き出すように笑う真帆。できるわけない、の意味が解らないけれど、お世辞にも料理が上手いとは言えないことは僕もちゃんと理解していた。
「もうちょい深いとこまで行くから、ふたりともしっかり掴まってなよ!」
「あ、はい!」
ネッシーの中はサシャさんの言う通り確かに狭くて、操縦席の後ろには人ふたりくらいしか立っていられないほどの隙間しかなかった。
なので、真帆は僕の右腕を胸に抱いたまま、ぴったりと身を寄せるようにくっついている。普段よりも直に肌が接してしまっているためか、どうしても真帆の感触や息遣いを意識せずにはいられなくて、なんとか真帆から意識を逸らすために僕は海の様子を眺めていたのだけれど――
「来てよかったですね! ユウくん!」
満面の笑みで嬉しそうに言うものだから、僕はもうどんな気持ちでいればいいのかもわからないまま、
「え、あ、う、うん、そうだね――」
としか答えられなかった。
「あ、カニですよ、カニ! 凄い! なんだかカニが食べたくなってきました!」
――まったく、真帆は食べることばかりだ。
僕は思わず笑みをもらし、
「……今度、食べに行く?」
「いいですね! 行きましょう行きましょう!」
すっごく楽しみです! と真帆は小さく跳ねたのだった。
それからしばらくして、僕らの乗るネッシーは再びあの小さな浜辺に戻りついた。
ハッチが開き、ネッシーから地面に降り立つ。
なんだか身体がふわふわする感じがするのは、今までネッシーで海の中を泳ぎ回って身体が上下左右に揺られていたからだろう。足元がおぼつかない。
「――あっ」
真帆も小さく声を漏らし、躓いて僕の身体に寄りかかってくる。
「おっと」と僕はそれを受け止め、真帆の身体を支えてあげる。
「大丈夫?」
「す、すみません、ありがとうございます……」
そんな僕らに、乙守先生が、
「海の中、どうだった? すごくキレイだったでしょ?」
「よかったよねー!」榎先輩も嬉しそうに、「サメとか泳いでたでしょ?」
それから鐘撞さんや肥田木さんに顔を向けて、
「ふたりも乗せてもらって見て来ればいいのに」
それに対し、首をぶんぶん横に振る肥田木さん。
「ムリです! ムリムリです!」
「……まぁ、私はまた次に機会があれば」
苦笑いする鐘撞さんだった。
「さて、それじゃぁ、あーしはそろそろ仕事に戻ろっかな」
サシャさんが腰に手をあてながら口にして、
「あなた、今何を探してるんだっけ」
と乙守先生が訊ねる。
「今ッスか? とりあえず、江戸時代の沈没船に乗せられてたっていう、未来が見える天球儀を探してるッス」
「あぁ、アレね。私も一度だけ見たことがあるけど、どういう構造になってるのか全然わからなかったのよねぇ。見つかったら、いつも通り復元科までお願いね」
「りょーかいッス! あーしに任せてください!」
それじゃぁ! サシャさんはそう言って僕らに大きく両手を振ると、ふたたびネッシーに乗り込んだ。
ズリズリと砂浜を這って、海の中へと消えていくサシャさんの乗るネッシー。
僕らはその姿が見えなくなるまで見送ると、
「――さて、帰りましょうか」
乙守先生がそう口にした。
「井口先生、きっと待ちくたびれてイライラしてる頃合いだろうから」
「そうですね、早く帰りましょう! 私もお腹空きました! 早く戻ってお昼にしましょう!」
「あたしも海の中の魚見てて、何だかお腹空いちゃったんだよね。魚食べたい、魚」
僕から離れて、榎先輩と並んで先を歩き始める真帆。
それを追うように、鐘撞さんと肥田木さんも続いていく。
その後ろを歩き始めた乙守先生に、僕は声をかけた。
「――あの、乙守先生」
「ん? なぁに?」
と振り向く先生。
「さっきの話なんですけど」
「さっきの? 何だっけ?」
「未来の見える天球儀」
「……あぁ」
乙守先生はくすりと笑んで、それから唇の前に人さし指を立てながら、
「――その話はまた、別の機会にしましょう? シモハライくんもお腹空いてるでしょ?」
虹色に輝く先生の瞳に、僕は思わずたじろぎ、ごくりと唾を飲んで、
「……わ、わかりました」
ただ、頷くことしかできなかった。
海の中をこんなふうに見られるだなんて、僕は思ってもいなかった。
ネッシー自体のどこにも窓なんてついてなかったのだけれど、どうやら前後左右にカメラが設置されているらしく、中に入るとたくさんのモニターに囲まれていて、そのモニターで海の中を観察することができた。
普段スーパーの鮮魚売り場なんかで見られる魚がたくさん群れを成して泳ぎ回っているだけでなく、海藻類の近くには青や黄色の小さな魚が泳ぎまわり、意外なことに近くを僕らの乗るネッシーが通り過ぎても、まるで逃げようともしなかった。
ちなみに、ネッシーも真帆たちが空を飛ぶときと同じように、魔法によって姿が別の魚に見えるようにしてあるらしい。確かに、こんな形のものが海を泳いでいたら誰もが驚いて大騒ぎになっていることだろう。
深い海の中を、ネッシーはサシャさんの運転によって自由自在に泳ぎ回った。
それでもサシャさん曰く、水深はまだ五メートルから十メートル前後。
ギリギリ光が届くくらいの深さで、竜宮城に向かう浦島太郎はきっとこんな光景を海の中で見たのだろうな、と僕は感心しながらそれらを見ていた。
「おいしそ~!」
とは真帆の言葉である。
「あれ、焼くと美味しいですよね! あ、アレは味噌汁に入れると味に深みが出るんですよ!」
などと微妙に空気を壊してくれる発言をしてくれた。
「真帆、料理できたっけ?」
「私じゃないですよ、お姉ちゃんです」
「あぁ、加奈さんか……」
「私が料理なんてできるわけないじゃないですか~!」
ぷぷっと噴き出すように笑う真帆。できるわけない、の意味が解らないけれど、お世辞にも料理が上手いとは言えないことは僕もちゃんと理解していた。
「もうちょい深いとこまで行くから、ふたりともしっかり掴まってなよ!」
「あ、はい!」
ネッシーの中はサシャさんの言う通り確かに狭くて、操縦席の後ろには人ふたりくらいしか立っていられないほどの隙間しかなかった。
なので、真帆は僕の右腕を胸に抱いたまま、ぴったりと身を寄せるようにくっついている。普段よりも直に肌が接してしまっているためか、どうしても真帆の感触や息遣いを意識せずにはいられなくて、なんとか真帆から意識を逸らすために僕は海の様子を眺めていたのだけれど――
「来てよかったですね! ユウくん!」
満面の笑みで嬉しそうに言うものだから、僕はもうどんな気持ちでいればいいのかもわからないまま、
「え、あ、う、うん、そうだね――」
としか答えられなかった。
「あ、カニですよ、カニ! 凄い! なんだかカニが食べたくなってきました!」
――まったく、真帆は食べることばかりだ。
僕は思わず笑みをもらし、
「……今度、食べに行く?」
「いいですね! 行きましょう行きましょう!」
すっごく楽しみです! と真帆は小さく跳ねたのだった。
それからしばらくして、僕らの乗るネッシーは再びあの小さな浜辺に戻りついた。
ハッチが開き、ネッシーから地面に降り立つ。
なんだか身体がふわふわする感じがするのは、今までネッシーで海の中を泳ぎ回って身体が上下左右に揺られていたからだろう。足元がおぼつかない。
「――あっ」
真帆も小さく声を漏らし、躓いて僕の身体に寄りかかってくる。
「おっと」と僕はそれを受け止め、真帆の身体を支えてあげる。
「大丈夫?」
「す、すみません、ありがとうございます……」
そんな僕らに、乙守先生が、
「海の中、どうだった? すごくキレイだったでしょ?」
「よかったよねー!」榎先輩も嬉しそうに、「サメとか泳いでたでしょ?」
それから鐘撞さんや肥田木さんに顔を向けて、
「ふたりも乗せてもらって見て来ればいいのに」
それに対し、首をぶんぶん横に振る肥田木さん。
「ムリです! ムリムリです!」
「……まぁ、私はまた次に機会があれば」
苦笑いする鐘撞さんだった。
「さて、それじゃぁ、あーしはそろそろ仕事に戻ろっかな」
サシャさんが腰に手をあてながら口にして、
「あなた、今何を探してるんだっけ」
と乙守先生が訊ねる。
「今ッスか? とりあえず、江戸時代の沈没船に乗せられてたっていう、未来が見える天球儀を探してるッス」
「あぁ、アレね。私も一度だけ見たことがあるけど、どういう構造になってるのか全然わからなかったのよねぇ。見つかったら、いつも通り復元科までお願いね」
「りょーかいッス! あーしに任せてください!」
それじゃぁ! サシャさんはそう言って僕らに大きく両手を振ると、ふたたびネッシーに乗り込んだ。
ズリズリと砂浜を這って、海の中へと消えていくサシャさんの乗るネッシー。
僕らはその姿が見えなくなるまで見送ると、
「――さて、帰りましょうか」
乙守先生がそう口にした。
「井口先生、きっと待ちくたびれてイライラしてる頃合いだろうから」
「そうですね、早く帰りましょう! 私もお腹空きました! 早く戻ってお昼にしましょう!」
「あたしも海の中の魚見てて、何だかお腹空いちゃったんだよね。魚食べたい、魚」
僕から離れて、榎先輩と並んで先を歩き始める真帆。
それを追うように、鐘撞さんと肥田木さんも続いていく。
その後ろを歩き始めた乙守先生に、僕は声をかけた。
「――あの、乙守先生」
「ん? なぁに?」
と振り向く先生。
「さっきの話なんですけど」
「さっきの? 何だっけ?」
「未来の見える天球儀」
「……あぁ」
乙守先生はくすりと笑んで、それから唇の前に人さし指を立てながら、
「――その話はまた、別の機会にしましょう? シモハライくんもお腹空いてるでしょ?」
虹色に輝く先生の瞳に、僕は思わずたじろぎ、ごくりと唾を飲んで、
「……わ、わかりました」
ただ、頷くことしかできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる