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第7章 全魔協の魔女
第1回
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夏休みも残すところあと二日。学校の課題もすっかり終わり、大学の受験勉強に関しても、目標となる大学を定めたことによって、かなり要領を得てきたと思う。そこまで難しい大学ではないし、井口先生の推薦もあるからここまでする必要はないみたいなのだけれど、それでも目指すものに対して手を抜くのも違う気がして、僕は真面目に勉学に勤しむ日々を送っていた。のだけれども。
「――暇です」
当然、いつもの如く真帆は僕の膝に頭を乗せ、ただひたすらに漫画を読み続けていた。
僕の夏課題を全て書き写したあとなのだから、もう僕の家に来る必要なんてないはずなのに、真帆はそれでもなお毎日のようにうちを訪れていたのだった。
……まぁ、嫌な気は全くしないのだけれども。
特に最近は晩ごはんまでうちで食べて帰っていく始末。僕の母さんや父さんともすっかり仲良くなってしまっていて、どうかすると僕よりも両親と話をする機会や時間のほうが多いんじゃないかと思うくらいである。先週の日曜日に至っては、真帆と母さんのふたりだけで買い物に出かけて行き、実に有意義な一日だったとふたりして述べていた。
……これもまた嫌な気は全くしない。
ふたりの仲が良いのは良いことだ。今後のことを考えても。
ただ、毎日毎日遊びに来ることに対してはどうかと思う。
真帆のおばあさんも、どうやら困り果てているらしく、昨夜真帆を家まで送っていった際には、
「そろそろ全魔協の認定試験も近いのに、この子ったら全然それに向けて勉強してないように見えるの。本当に大丈夫なのかしら」
とため息交じりに心配していた。
そもそも真帆がこれから認定試験があることすら僕は聞いていなかったので、思わず真帆に顔を向けてしまった。
すると真帆はいつものふざけたようなへらへら笑いで、
「だいじょーぶですって! なるようにしかなりませんから!」
達観したようなことを口にするばかりだった。
今日も今日とて真帆はいつもの如くただ漫画を読み続けていたのだけれど、さすがにそれにも飽きてしまったらしく、
「遊びに行きましょう、ユウくん」
漫画を自身の胸に下ろし、これもまたいつもの言葉を口にした。
「ダーメ。真帆も認定試験があるんでしょ? 真面目に試験勉強してみたら?」
「え~? かったるいです~」
両足をバタバタさせて、抗議にならない抗議をする。
「そんなんで大丈夫なの? 落ちたらどうするつもり?」
「来年また受ければいい話では? 或いは諦める」
「それだと実家を継げないんじゃなかったの? 認定試験って、要は協会からの営業許可を得るためのものだっておばあさんが言ってたけど」
「それまではおばあちゃんがお店をやるからダイジョーブですって~」
「あのね、そんなんじゃ、受かるものも受からなくなるよ? 将来どうするつもり?」
「私の将来は二択あるんで、心配ないですって~」
「二択? なにそれ」
「そんなの決まってるじゃないですか。実家の魔法堂を継ぎながらユウくんのお嫁さんになること、さもなければ、ただユウくんのお嫁さんになるだけです」
「――ぅぐっ」
そんなあからさまに言われると、非常に恥ずかしくてどう反応していいか解らない。
真帆がすでに僕と結婚するつもりでいることは何となく薄々感じてはいたのだけれど、こうもはっきり口にされると返答できない。
全身が熱を帯びてきて、エアコンをつけているのに暑くてたまらなかった。
「なので、もし家を継げなくても、ユウくんに養ってもらうだけなので、全然問題ありません」
「……なんと他力本願なことを」
「イヤ? ユウくん、私のこと、キライ?」
わざとらしく眼を潤ませながら、いじらしい言い方をされたからといって、僕の心が揺らぐなんて思わないでもらいたい。
実に不本意である。
「もちろん、大好きだよ」
そう言わざるを得ないに決まっている。
真帆はにっこりと微笑むと、「よかった!」と口にして、
「というわけで、遊びに行きましょう!」
「なにが、というわけ、なのか全然わからんのだが?」
いったい、どういう話の流れでそうなった?
すると真帆は手足をばたつかせながら、
「い~じゃないですか~! ひまです~! あそびにいきたいです~!」
全身でわがままを表現してくれる。
「わかった、わかったよ」
僕は問題集とノートをぱたりと閉じる。
結局、こうやっていつもまともに勉強が進まないのだ。
「で、どうするの? これだけ毎日遊びに行ってたら、さすがにもう行くところなんてないと思うんだけど?」
「そうですねぇ」
真帆は折り畳み式の携帯電話を取り出すと、ポチポチと操作して、
「あ、ちょうどいいですね。つむぎちゃんからメールが来てました」
「なんて?」
「キョーカイに行くから、一緒に行かないかって」
「教会? なんかイベントやってんの?」
「イベント? いいえ? イベントなんてしてないですよ?」
「じゃぁ、なんで教会に? お祈りにでも行くの?」
「お祈りに行く? 私の試験の?」
「まぁ、それもアリなんじゃない? 真帆がどれだけ試験勉強しておくかってほうが重要だとは思うけど、もしかしたら一発合格にしてくれるかもしれないし」
「それ、ユウくんからもお願いしてくれるんです?」
「え? うん、僕もするけど」
「はぁ、なるほど。確かにお年寄りが多いですからね。みんなでお願いすれば孫みたいに可愛がってくれて、合格させてくれるかもしれません」
「……お年寄り? んん?」
神父とか牧師のことだろうか? まぁ、確かに年寄りのイメージはあるけど。
「じゃぁ、私たちもつむぎちゃんと一緒に行くってことで返信していいですか?」
「いいよ、暇で仕方がないんでしょ?」
真帆は「いぇい」と口にしてから、ふたたびポチポチ、ボタンを操作したのだった。
夏休みも残すところあと二日。学校の課題もすっかり終わり、大学の受験勉強に関しても、目標となる大学を定めたことによって、かなり要領を得てきたと思う。そこまで難しい大学ではないし、井口先生の推薦もあるからここまでする必要はないみたいなのだけれど、それでも目指すものに対して手を抜くのも違う気がして、僕は真面目に勉学に勤しむ日々を送っていた。のだけれども。
「――暇です」
当然、いつもの如く真帆は僕の膝に頭を乗せ、ただひたすらに漫画を読み続けていた。
僕の夏課題を全て書き写したあとなのだから、もう僕の家に来る必要なんてないはずなのに、真帆はそれでもなお毎日のようにうちを訪れていたのだった。
……まぁ、嫌な気は全くしないのだけれども。
特に最近は晩ごはんまでうちで食べて帰っていく始末。僕の母さんや父さんともすっかり仲良くなってしまっていて、どうかすると僕よりも両親と話をする機会や時間のほうが多いんじゃないかと思うくらいである。先週の日曜日に至っては、真帆と母さんのふたりだけで買い物に出かけて行き、実に有意義な一日だったとふたりして述べていた。
……これもまた嫌な気は全くしない。
ふたりの仲が良いのは良いことだ。今後のことを考えても。
ただ、毎日毎日遊びに来ることに対してはどうかと思う。
真帆のおばあさんも、どうやら困り果てているらしく、昨夜真帆を家まで送っていった際には、
「そろそろ全魔協の認定試験も近いのに、この子ったら全然それに向けて勉強してないように見えるの。本当に大丈夫なのかしら」
とため息交じりに心配していた。
そもそも真帆がこれから認定試験があることすら僕は聞いていなかったので、思わず真帆に顔を向けてしまった。
すると真帆はいつものふざけたようなへらへら笑いで、
「だいじょーぶですって! なるようにしかなりませんから!」
達観したようなことを口にするばかりだった。
今日も今日とて真帆はいつもの如くただ漫画を読み続けていたのだけれど、さすがにそれにも飽きてしまったらしく、
「遊びに行きましょう、ユウくん」
漫画を自身の胸に下ろし、これもまたいつもの言葉を口にした。
「ダーメ。真帆も認定試験があるんでしょ? 真面目に試験勉強してみたら?」
「え~? かったるいです~」
両足をバタバタさせて、抗議にならない抗議をする。
「そんなんで大丈夫なの? 落ちたらどうするつもり?」
「来年また受ければいい話では? 或いは諦める」
「それだと実家を継げないんじゃなかったの? 認定試験って、要は協会からの営業許可を得るためのものだっておばあさんが言ってたけど」
「それまではおばあちゃんがお店をやるからダイジョーブですって~」
「あのね、そんなんじゃ、受かるものも受からなくなるよ? 将来どうするつもり?」
「私の将来は二択あるんで、心配ないですって~」
「二択? なにそれ」
「そんなの決まってるじゃないですか。実家の魔法堂を継ぎながらユウくんのお嫁さんになること、さもなければ、ただユウくんのお嫁さんになるだけです」
「――ぅぐっ」
そんなあからさまに言われると、非常に恥ずかしくてどう反応していいか解らない。
真帆がすでに僕と結婚するつもりでいることは何となく薄々感じてはいたのだけれど、こうもはっきり口にされると返答できない。
全身が熱を帯びてきて、エアコンをつけているのに暑くてたまらなかった。
「なので、もし家を継げなくても、ユウくんに養ってもらうだけなので、全然問題ありません」
「……なんと他力本願なことを」
「イヤ? ユウくん、私のこと、キライ?」
わざとらしく眼を潤ませながら、いじらしい言い方をされたからといって、僕の心が揺らぐなんて思わないでもらいたい。
実に不本意である。
「もちろん、大好きだよ」
そう言わざるを得ないに決まっている。
真帆はにっこりと微笑むと、「よかった!」と口にして、
「というわけで、遊びに行きましょう!」
「なにが、というわけ、なのか全然わからんのだが?」
いったい、どういう話の流れでそうなった?
すると真帆は手足をばたつかせながら、
「い~じゃないですか~! ひまです~! あそびにいきたいです~!」
全身でわがままを表現してくれる。
「わかった、わかったよ」
僕は問題集とノートをぱたりと閉じる。
結局、こうやっていつもまともに勉強が進まないのだ。
「で、どうするの? これだけ毎日遊びに行ってたら、さすがにもう行くところなんてないと思うんだけど?」
「そうですねぇ」
真帆は折り畳み式の携帯電話を取り出すと、ポチポチと操作して、
「あ、ちょうどいいですね。つむぎちゃんからメールが来てました」
「なんて?」
「キョーカイに行くから、一緒に行かないかって」
「教会? なんかイベントやってんの?」
「イベント? いいえ? イベントなんてしてないですよ?」
「じゃぁ、なんで教会に? お祈りにでも行くの?」
「お祈りに行く? 私の試験の?」
「まぁ、それもアリなんじゃない? 真帆がどれだけ試験勉強しておくかってほうが重要だとは思うけど、もしかしたら一発合格にしてくれるかもしれないし」
「それ、ユウくんからもお願いしてくれるんです?」
「え? うん、僕もするけど」
「はぁ、なるほど。確かにお年寄りが多いですからね。みんなでお願いすれば孫みたいに可愛がってくれて、合格させてくれるかもしれません」
「……お年寄り? んん?」
神父とか牧師のことだろうか? まぁ、確かに年寄りのイメージはあるけど。
「じゃぁ、私たちもつむぎちゃんと一緒に行くってことで返信していいですか?」
「いいよ、暇で仕方がないんでしょ?」
真帆は「いぇい」と口にしてから、ふたたびポチポチ、ボタンを操作したのだった。
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