雨の踊り子 〜魔法百貨堂〜

野村勇輔(ノムラユーリ)

文字の大きさ
11 / 27
魔法使いの少年

第6回

しおりを挟む
   ***

「おはよう、那由多さん」
 そう言って神楽君は私の席まで来ると、げっそりした表情で、
「これ、うちのばあちゃんから」
 私の目の前に、透明のビニールに入れられた、可愛らしい小さなクッキーを差し出した。

 付き合い始めて二日目の朝。

 昨日の夜は神楽君を想うだけで胸がドキドキしたものだが――飲み物もないのに朝からクッキーを食べろって言うのか、この男は。

「ありがとう、神楽君」

 それでも私は笑顔で礼を述べた。好きな男子のおばあちゃんからのプレゼントな訳だし、やっぱり断るわけにはいかない。

 でも飲み物なしに食べるのはきついような気がして、
「それじゃぁ、お昼にでも食べるね」
 だけど神楽君は首を横に振った。

「今、食べて欲しいんだ」

「えっと――飲み物もなしに?」

「あ、じゃぁ」
 と言って神楽君は自分の席に戻ると鞄から水筒を取り出し、お茶を入れてくれた。そのお茶は、昨日神楽君の家で飲んだハーブティーだった。
「これなら、大丈夫だろ?」

 なんて用意周到な奴!

 私はクッキーに手を伸ばすと、それを一口齧ってみた。

 うん、さすがおばあちゃんのクッキーだ。なんだか心に染みる甘さだ。

 そう思っていたら、何だか一瞬、体がふらついたような気がした。

「ん?」
 私は首を傾げる。

「どう、那由多さん」 

「どうって、おいしいよ、うん」
 そう言って私は神楽君に目を向けた。

 ――あれ?

 なんだろう、今日は神楽君を見ても、昨日みたいな感じはしない。もっと神楽君を見ていたいとか、可愛らしいなぁとか思っていた自分の感情が、まるで風船から空気が抜けたようにしぼんでしまっている様だった。だからと言って、神楽君のことが嫌いになっているわけじゃないし、やっぱり好きなままだったけれど。

 そう、積極的だった感情が少し消極的になってきた感じだ。

「ねぇ、那由多さん」

「ん、なに?」
 私は言いながら、もう一口クッキーを齧る。

「僕のこと、どう思う?」

「どうって言われてもなぁ……」

 それこそ、どう答えりゃいいのよ。昨日、あれだけの事をしておいて今更「好きだよ」と答えるのも何だか無駄な事のように思えて、私は意地悪のつもりでこう答えた。

「男らしくない」

 だけど、神楽君はその言葉を真に受けてしまったらしく、泣き出しそうな顔になると大きなため息を一つ吐いて、自分の席に戻っていってしまった。

「ちょ、ちょっと、神楽君。ごめん、冗談よ」

 私は慌てて謝ったけれど、神楽君はまるで聞いていないようだった。

 おいおい、たったあれだけの事でそんなに傷つかなくてもいいじゃない。

 仕方がない、昼休みにでも慰めてやるか。訊きたい事も沢山あるし。

 私は思いながら、もう一つ、おばあちゃんのクッキーに手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...