26 / 33
Day6
第4回
しおりを挟む
4
「いやぁ、おっきいですねー」
あははっと楽しそうに笑う真帆さんの横では、
「なにアレなにアレなにアレ!」
と焦りまくる千花と、
「わ、わかんないけど……こ、こわい!」
と身を引くように、陽葵は戸惑いの声を上げていた。
潮見も目をまん丸くして海の中を漂い泳ぐ何かを見つめながら、
「まさか、本当にいたんだ……」
感心したように、そう漏らした。
僕が真帆さんたちを呼びに行ったとき、あろうことか彼女らは、数少ない開いているブランドショップで、服を物色しているところだった。
外を探し回ってもなかなか見つからないものだから、もしかして、と覗いてみたお店の中に、たまたま真帆さんたち四人の姿を見つけたのだ。
「なにやってんだよ、こんなところで! 魔力の穴探しはっ?」
僕が訊ねると、真帆さんはにへらと笑みを浮かべながら、
「すみません、なんか良さげなお店を見つけちゃったので、ついつい皆さんを巻き込んじゃいました」
と、あまり悪びれる様子もなく、ぺろりと舌を出すように答えたのだった。
僕は呆れるやら腹立たしいやら、何とも複雑な感情を抱きつつ、
「そんなの全部終わってからにして下さいよ!」
「は~い」
と真帆さんは手にしていた子供服をハンガー掛けに戻してから、
「それで、何かありましたか?」
気を取り直したように、落ち着いた声で訊ねてきた。
僕はそんな真帆さんに、
「なんかデカい蛇みたいなヤツが海を泳いでます!」
すると真帆さんは、顎に手を当てて「ほうほう、なるほど」と小さく口にしてから、
「案内してください。今回の件に、関係あるかも知れません」
そう答えたのだった。
僕たちが陸のところまで戻ると、そこにはまだあの蛇みたいな何かが悠然と水面を泳いでいて、それを見た真帆さんは改めて、
「なかなか大きく育ってますねー」
と感心するように、海に乗り出してそう口にした。
「育ってるって、結局なんなんですか、アレ。ヘビ?」
僕の問いに、代わりに答えたのは潮見だった。
「――リュウだよ」
「リュウ?」
リュウ、りゅう……竜、龍?
「竜って、つまり、ドラゴンのことか?」
陸が驚いたように問い返して、真帆さんは「そうですね」と頷いた。
「ドラゴンというより、龍です。西洋的な姿ではなく、ご覧の通り、蛇のような長い身体の、古来から日本や中国に伝わる、あの龍ですね」
「龍って、本当にいたの……?」
困惑する陽葵に、千花は、
「ま、まぁ、魔女がいるくらいだから、龍もいるんじゃない……?」
ふたりは抱き合うような形で、恐る恐る海を覗き込んでいた。
龍は海の中を、ただ悠然と、穏やかに、静かに、漂うように、泳ぎ続けている。
あまりにも大きすぎて、頭がどこにあるのかまるで見えないけれど、ちらりと見えたのは、腕だろうか、脚だろうか。
「この龍が、無気力症候群の原因ってこと?」
「さぁ、それはわかりません」
真帆さんはわずかに首を傾げて答えてから、
「ただ、何らかの影響を受けているのは確かだと思います。本来、海にはこの手の龍はいないはずですから。たぶん、山奥にあるどこかの滝あたりから泳いできたんじゃないかと思います。海に流れ出している魔力に惹かれて、ここまでやってきたんじゃないでしょうか。魔力を吸収して、かなり大きく育っちゃってるみたいなので」
本当はもうひと回りかふた回りほど、小さいはずですから。そう真帆さんは口にした。
言われて改めて龍に視線を戻してみたけれど、これがひと回りやふた回り小さかったところで、デカいものはやっぱりデカい。誤差の範疇にしか思えない。
僕の頭に浮かんだのは、あの伝説上の生物であるシーサーペント、或いはゲームとかによく出てくるリヴァイアサンだった。それと全く同じような存在が、今まさに目の前に実在しているのだと思うと、なんだか恐ろしくてしかたがなかった。
「これ、どうするんですか? このまま放っておくんですか?」
すると真帆さんは「いえいえ」と首を横に振って、
「龍がここを泳ぎ続けているということは、やっぱりこの辺りに魔力の穴か何かがあるってことだと思います。皆さん、昔ここに何か祠のようなものがありませんでしたか?」
祠のようなもの――僕は記憶を辿ってみる。
昔、友達や爺さんと釣りに来ていたころ、この辺りにはいったい何があっただろうか。
古い防波堤、コンクリートむき出しの細い道。今は芝生となっているイベント広場と、先ほどまで真帆さんたちがいたお店の建ち並んでいる辺りには、昔は古い民家が何棟も並んでいて、その中に埋もれるようにして、確か……
「そうだよ、あったよ」
口にしたのは、陸だった。
陸は、遠くに見える山の上の城、ちらりと見える駅舎、イベント広場の向こう側に建つ真新しいビル、とグルグルと辺りを見回してから、
「確か――そう、ここだよ、ここ!」
と少し離れたところの枯れた花壇を指さしてから、
「ほら、ここにやたらと古い、小さい祠があっただろ?」
言われて僕も、「あぁ」とその祠のことを思い出した。
確かに、いつからあるのかもわからない、ボロボロの祠があった気がする。
その祠の中にはよくわからない木片が祀られていて、ただ漠然とお地蔵さん的な何かかな、と思っていたことを思い出した。
「そういえば、そんなもの、あったね」
千花も思い出したように頷いて、
「そうだったっけ……?」
と陽葵は首を傾げる。
「あったよ!」
潮見もうんうん頷いて、
「すっかり忘れてたけど、小さいころ、確かにここにはボロボロの祠が建ってたよ!」
真帆さんはそんな僕らの会話を聞き、「ふんふん」と何度も頷いてから、
「では、確かめてみましょうか」
言って、その花壇のすぐ下のアスファルトに右手を伸ばし、眼を瞑った。
真帆さんの手のひらがアスファルトに触れた瞬間、わずかにその手が淡い光に包まれた。
たぶん、魔法的な何かで魔力の流れを確かめているんだと思う。
真帆さんはしばらくアスファルトに手を触れていたのだけれど、やがて静かに瞼を開き、潮見に顔を向け、
「メイさんも、確かめてみてください」
「え、うん……」
潮見も真帆さんと同じようにアスファルトに手を伸ばし、触れ、そして。
「――あっ」
口にして目を見開き、真帆さんと視線を合わせ、頷いた。
それからふたりして僕らに顔を向けて、
「間違いありません。ここです」
真帆さんは、そう言った。
「いやぁ、おっきいですねー」
あははっと楽しそうに笑う真帆さんの横では、
「なにアレなにアレなにアレ!」
と焦りまくる千花と、
「わ、わかんないけど……こ、こわい!」
と身を引くように、陽葵は戸惑いの声を上げていた。
潮見も目をまん丸くして海の中を漂い泳ぐ何かを見つめながら、
「まさか、本当にいたんだ……」
感心したように、そう漏らした。
僕が真帆さんたちを呼びに行ったとき、あろうことか彼女らは、数少ない開いているブランドショップで、服を物色しているところだった。
外を探し回ってもなかなか見つからないものだから、もしかして、と覗いてみたお店の中に、たまたま真帆さんたち四人の姿を見つけたのだ。
「なにやってんだよ、こんなところで! 魔力の穴探しはっ?」
僕が訊ねると、真帆さんはにへらと笑みを浮かべながら、
「すみません、なんか良さげなお店を見つけちゃったので、ついつい皆さんを巻き込んじゃいました」
と、あまり悪びれる様子もなく、ぺろりと舌を出すように答えたのだった。
僕は呆れるやら腹立たしいやら、何とも複雑な感情を抱きつつ、
「そんなの全部終わってからにして下さいよ!」
「は~い」
と真帆さんは手にしていた子供服をハンガー掛けに戻してから、
「それで、何かありましたか?」
気を取り直したように、落ち着いた声で訊ねてきた。
僕はそんな真帆さんに、
「なんかデカい蛇みたいなヤツが海を泳いでます!」
すると真帆さんは、顎に手を当てて「ほうほう、なるほど」と小さく口にしてから、
「案内してください。今回の件に、関係あるかも知れません」
そう答えたのだった。
僕たちが陸のところまで戻ると、そこにはまだあの蛇みたいな何かが悠然と水面を泳いでいて、それを見た真帆さんは改めて、
「なかなか大きく育ってますねー」
と感心するように、海に乗り出してそう口にした。
「育ってるって、結局なんなんですか、アレ。ヘビ?」
僕の問いに、代わりに答えたのは潮見だった。
「――リュウだよ」
「リュウ?」
リュウ、りゅう……竜、龍?
「竜って、つまり、ドラゴンのことか?」
陸が驚いたように問い返して、真帆さんは「そうですね」と頷いた。
「ドラゴンというより、龍です。西洋的な姿ではなく、ご覧の通り、蛇のような長い身体の、古来から日本や中国に伝わる、あの龍ですね」
「龍って、本当にいたの……?」
困惑する陽葵に、千花は、
「ま、まぁ、魔女がいるくらいだから、龍もいるんじゃない……?」
ふたりは抱き合うような形で、恐る恐る海を覗き込んでいた。
龍は海の中を、ただ悠然と、穏やかに、静かに、漂うように、泳ぎ続けている。
あまりにも大きすぎて、頭がどこにあるのかまるで見えないけれど、ちらりと見えたのは、腕だろうか、脚だろうか。
「この龍が、無気力症候群の原因ってこと?」
「さぁ、それはわかりません」
真帆さんはわずかに首を傾げて答えてから、
「ただ、何らかの影響を受けているのは確かだと思います。本来、海にはこの手の龍はいないはずですから。たぶん、山奥にあるどこかの滝あたりから泳いできたんじゃないかと思います。海に流れ出している魔力に惹かれて、ここまでやってきたんじゃないでしょうか。魔力を吸収して、かなり大きく育っちゃってるみたいなので」
本当はもうひと回りかふた回りほど、小さいはずですから。そう真帆さんは口にした。
言われて改めて龍に視線を戻してみたけれど、これがひと回りやふた回り小さかったところで、デカいものはやっぱりデカい。誤差の範疇にしか思えない。
僕の頭に浮かんだのは、あの伝説上の生物であるシーサーペント、或いはゲームとかによく出てくるリヴァイアサンだった。それと全く同じような存在が、今まさに目の前に実在しているのだと思うと、なんだか恐ろしくてしかたがなかった。
「これ、どうするんですか? このまま放っておくんですか?」
すると真帆さんは「いえいえ」と首を横に振って、
「龍がここを泳ぎ続けているということは、やっぱりこの辺りに魔力の穴か何かがあるってことだと思います。皆さん、昔ここに何か祠のようなものがありませんでしたか?」
祠のようなもの――僕は記憶を辿ってみる。
昔、友達や爺さんと釣りに来ていたころ、この辺りにはいったい何があっただろうか。
古い防波堤、コンクリートむき出しの細い道。今は芝生となっているイベント広場と、先ほどまで真帆さんたちがいたお店の建ち並んでいる辺りには、昔は古い民家が何棟も並んでいて、その中に埋もれるようにして、確か……
「そうだよ、あったよ」
口にしたのは、陸だった。
陸は、遠くに見える山の上の城、ちらりと見える駅舎、イベント広場の向こう側に建つ真新しいビル、とグルグルと辺りを見回してから、
「確か――そう、ここだよ、ここ!」
と少し離れたところの枯れた花壇を指さしてから、
「ほら、ここにやたらと古い、小さい祠があっただろ?」
言われて僕も、「あぁ」とその祠のことを思い出した。
確かに、いつからあるのかもわからない、ボロボロの祠があった気がする。
その祠の中にはよくわからない木片が祀られていて、ただ漠然とお地蔵さん的な何かかな、と思っていたことを思い出した。
「そういえば、そんなもの、あったね」
千花も思い出したように頷いて、
「そうだったっけ……?」
と陽葵は首を傾げる。
「あったよ!」
潮見もうんうん頷いて、
「すっかり忘れてたけど、小さいころ、確かにここにはボロボロの祠が建ってたよ!」
真帆さんはそんな僕らの会話を聞き、「ふんふん」と何度も頷いてから、
「では、確かめてみましょうか」
言って、その花壇のすぐ下のアスファルトに右手を伸ばし、眼を瞑った。
真帆さんの手のひらがアスファルトに触れた瞬間、わずかにその手が淡い光に包まれた。
たぶん、魔法的な何かで魔力の流れを確かめているんだと思う。
真帆さんはしばらくアスファルトに手を触れていたのだけれど、やがて静かに瞼を開き、潮見に顔を向け、
「メイさんも、確かめてみてください」
「え、うん……」
潮見も真帆さんと同じようにアスファルトに手を伸ばし、触れ、そして。
「――あっ」
口にして目を見開き、真帆さんと視線を合わせ、頷いた。
それからふたりして僕らに顔を向けて、
「間違いありません。ここです」
真帆さんは、そう言った。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います
こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。
※「小説家になろう」にも投稿しています
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる