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修学旅行
三日目 テーマパーク編
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「はぁっ、ああっ!いいです!まつり!もっと、もっとぉ!」
「ああっ!気持ちいいよっ、まつり!激しくしてぇ!」
「ああっ、そんなにされたら!」
薄暗い空間に肉を打つ音が響く。パンっ、とまるで腕に止まった蚊をつぶすような音だ。
そう、この空間では羽切と平賀、上山の三人が居た。その部屋のデジタル時計は午前一時を表している。もうこの時間になると静寂という言葉が似合うくらい静まっている。そう、ここはホテルの一室。修学旅行で皆で泊まっているホテルだ。
「やっぱり、ホテルの一室を借りておいて正解でしたね。ここの部屋狭いし見晴らしも最悪で、シングルで食事なしにすると三千円で借りられたんですよ?」
と言ったのは上山だった。すると平賀が
「まあ。私達の本来の部屋代はもったいないんだけどね。」
そう、上山たちはこの計画を前から練っていて、ネット予約で申し込んだらしい。この部屋に料金はかかってしまうが割り勘にすればそうでもない。
「うっ!もう・・・限界っ!あああっ」
その行為はこの後何時間も続けられ、ただ肉がぶつかり打ちつけあう音と喘ぎしか聞こえなかった。
朝、六時に羽切は目覚めた。それはあの部屋ではない。ちゃんと修学旅行のために借りられている、高田、新井、狭山のいる部屋だ。不快な目覚まし音は短く二回鳴り、狭山を除いた三人は目覚めている。
「おい羽切。昨日の夜どこ行ってたんだ?あんなに遅く」
・・・高田か。ばれてたのか。ずいぶん遅くに行って、ずいぶん遅くに帰ったっていうのにトイレでも行っていたのか?
「いや、時白の所行ってカードゲームしてた」
大変高田は疑い深い様子で
「じゃあそのお前の首の所にある口吸いマークは時白がつけたのか?」
「!?」
・・・しまった!昨日そのまま眠くてたいして確認もせずにねちまった!
奥にいた新井が口吸いという言葉に反応し、
「お前らそういう関係だったのか!?まあ、無理はないか、時白お前にべたべただもんな。昨日の自由行動中に「お前と奏が付き合っている」ことにスゲー落ち込んでたぜ?」
羽切は奏という固有名詞にぞくっと背筋にこんにゃくを落とされたような感覚に似たものが通る。
・・・「奏」か。
昨日、羽切は音橋を直接的ではなく間接的に拒んだ。それはおそらく音橋には「振られた」と読まれてもおかしくはないだろう。しかし、上山と平賀の傀儡になるといった羽切に今更「彼女」「奏」「好きな人」という単語は音橋へは向けられなくなっていたどころか頭の中からすっきりと消えていた。
ホモ、という言われてうれしくない単語にも笑顔で羽切は返す
「そんなわけないだろ?俺ノンケだし。まあ、時白だって多分本気じゃないさ。性別という壁は相当に大きいからね。」
ふぅーん、と興味なさそうに二人は答えると、コンコン。とドアをノックする音が鳴った。ベルを使わないのは朝だという事への気遣いだろうか。「はーい」と答えた新井はドアの前に立ち、のぞき穴から扉の向こうの人物を見た。「おやおや」と二ヤ付きながら新井は羽切に視線を送り
「音橋さんだぜ?彼氏さん」
・・・音橋か。どうすれば、どのような顔で会話すればいいんだ。
あんなことを昨日やってしまった羽切には到底、彼女(仮)の音橋へ向ける顔はない。
そう、悩み込んでいる羽切を見た新井が「おい、待ってるぞ」と言いドアを開けた。
「!?」と突然あけられたが気持ちの整理ができていない羽切にとってそれは大変寿命を減らされているも同然の行為だった。
ドアを開けた先には俯いた音橋がいた。羽切はその彼女を恐る恐る見ていると、ついに顔を上げた。
・・・怒っているのか絶望しているのかわからない
という不安は次の瞬間裏切られた。
「おはよう、まつり」
と大変すがすがしい、夏に咲くひまわりのような笑顔でこちらを見ていた。それは羽切にとって想定外すぎるもので、しかし一応返してみようと好奇心が勝つ。
「お、おはよう。奏。」
やや不安そうな表情を織り交ぜつつ、不安そうな言葉でいう。今の羽切にとって「奏」というのはやはり深刻な精神的ダメージになる。その言葉に彼女は
「うん!あのね、お願いがあるんだけど。」
「う、うん?」
「私と今日テーマパークを回ってほしいの。」
「あ・・・」
・・・昨日俺のしたこと覚えてないのか?普通なら嫌がって気まずくなって話さなくなるだろ?
これだから現実というのは思い通りにいかない。
だが、このテーマパークで本当にまだ羽切のことが好きなら楽しんで回れるはず。だから、まるで彼女を試すように
「いいよ、俺でいいなら」
「うん!ありがと」
そういって笑顔のまま彼女は去って行った。朝というボケている時間にも関わらず冷や汗が止まらないためすっかり目は覚めていた。
「さて、どうしたもんか」
複雑な気持ちは好奇心というものに変換されてゆくため、今の羽切には罪悪感などまるでなかった。それでも一応自分のことは
「ああ、羽切だなあ。」
と思ってはいた。
昨日のように朝ごはんを食べ、バスに乗り、とあるテーマパークに来ていた。
しばらくバスから歩き、入口につき皆で並んでいた。
学年主任のバカみたいな話は全く皆の頭には入っていない。
「それでは皆さん。怪我にだけは気を付けて楽しんでください」
その言葉を最後に皆は駆け出し、歩きだし、集まりだすなどそれぞれの形でパーク内に入って行った。
羽切はというと。
「よし、じゃあ行こう、まつり」
「う、うん」
音橋の方から恋人つなぎを求め、つなぎながら入って行った。
某所。
「よくあんな態度を取られて音橋さんは耐えられるどころかデートまで申し込めるのでしょうか」
「流石。と言えるかはわからないけど、凄い精神力よね」
「はい、何しろシンデレラですから。自分はヒロインだと思い込んでいるのでしょう。」
上山はポケットからスマホを取り出し、とあるサイトを開いた。その画面を見る上山の目は黒く、ハイライトがなく漆黒。といったようなもの。表情は、無。真顔だ。まるでその顔はクズを見るような蔑んだものだった。そして、その顔のまま、上山は俯いている平賀に淡々とその画面の文章を読んだ。
「物語仮説。一般的、子供向けシンデレラの続きがあったなら。注意。この文は筆者が小さい頃に見たハッピーエンドのシンデレラ(内容はうろおぼえ)の続きを仮説として書いたものです。決してシンデレラへの誹謗中傷ではありません。それでは、
なんやかんやあり、物語は王子が舞踏会で共に踊った人が落としていったガラスの靴を探すところから。
王子は色々な場所へ行き、たくさんの女性に、その靴を履いてみろ、と結婚の約束をつけて舞踏会で共に踊った人を探した。しかし、なかなかその靴のサイズピッタリのものは見つかりません。ほとんど「小さいから入らない」「大きすぎる。かばかば」とそのような者ばかり。少々王子が疲れ果てている時、奇跡は起こった。そう、「ガラスの靴がピッタリと入るものが見つかったのだ」幾人にも渡る大捜査は遂に終焉を迎え、「シンデレラ」と結婚した。それはとても幸せであった。
しかし、それから三年後。シンデレラは元々冴えない女だったため、王族の生活には慣れない。毎日、毎日毎日。立ち振る舞いや勉学などを励んだ。だが、急な身分の昇格はやはり負担があった。「もういっそ王子と別れて自由に暮らしたい、あの頃、掃除ばかりしていた自分が羨ましく思えたのだ」ああ、そうだわそうしましょう。と、心の奥底で一時期真剣に考えた、しかし、そんなシンデレラをまだ王族でいたい。と思わせるものがあった。それは、「金」だ。あまりにも莫大な金が手に入るものなので、思う存分贅沢をした。贅沢をしても王族だから大丈夫。そう思って、そう信じていた。
ある日、金のことを考えるのが怖くなり、夫である王子に甘えた。「王子、私、今心が大変寂しいのでございます。どうか私を抱いて心を埋めてください。」そう言って金から何とか性欲に溺れることで離れられた。
しかし、それはつかの間。例えて、人間は心の支えとして麻薬を飲む馬鹿野郎がいる。飲む量が最初はほんの少しだとしよう。だが、徐々にその少量では足りなくなり、飲む量を増やす。悪魔が作り出したかのようなくらい悪循環なもの。それがシンデレラにも起きた。
ある日、今日も金を使いたくない、考えたくないため王子に抱いてもらおう。そう思って二人で戯れる。しかし、シンデレラはあることに気づく。「物足りない・・・」そう、同じような毎日、すなわち同じ人、同じ動き、同じモノ。うんざり、飽きてしまう。それは性的行為に飽きたわけではない。従来通りの王子のヤリカタに飽きたのだ。
そこでシンデレラは提案した。
「今日は外でヤりませんか?」、王子は肯定し、城の庭の草の茂みでした。王族がやることではないだろう。しかし、要求をお互いのみあい、実現するために夫婦という形はできる。だから、シンデレラが欲しいと思ったものは多少無茶してもOKは出せる。
・・・ああ!いつもしている場所は薄暗く深々して落ち着けるのだけれど、外っていうのは開放感と背徳感がたまらない・・・!
このように工夫を繰り返し、ぐるぐるぐるぐると周回するループを抜けた。しかし、事件は起きた。
いくら金遣いが荒かったシンデレラが少し使わなくなったといっても、やはり、王族が民からとっている税は多い。食料もまともになく、ただ毎日一人一つの硬い長いパンが支給されるだけ。あとは自分たちで働いたり、作ったりしろという状況なのだ。
そんな時、シンデレラはまたいつものようにやろうとしていた、が、また外でやるという事だけでは飽きてしまった。だからと言うように王子は遊び心で有るものを差し出し、どう使うか説明してきた。
「ラディッシュ(ここでは細長い大根)とこの縄を使えと?」そうだ、と王子は頷く。どうやら縄で体を縛り、動くたび縄が擦れ快感が来るというものと、ラディッシュに関しては入れろという事なのだろう。食べ物をそんな使い方(食料は貴重であるし、とくにラディッシュは貴重だとして)するのは気が引けたが、性欲が収まらなかった。人間の三代欲求だ。仕方ない。と前向きに考えたシンデレラはラディッシュを入れ、王子に縄を縛ってもらい、それがバレないように分厚い生地の服を着た。下は長めのスカートである(もちろんノーパン)。「そしたらどうするんだ?」という質問に対し、王子はこういった。「そのまま民のところへ行き、挨拶でもして来い」と。
税をがっぽり持っていってる王族が民のもとに行けば文句の嵐だろう。しかし、この国の民はほとんど皆優しかった。こんな悪い状況にも関わらず、王族を歓迎し、精一杯の、とか言って不味い(民では最高級)紅茶を出してくる。だからせめて皆に食料が行き渡るのを願っているとそう伝えようか。と考えた。しかし、こんな彼女の一番の目的は民に会うことでなく、我が身の性欲処理だった。
そして、あの装備のまま民の元へとやってきた。とても狭い道ばかりの街だ。
「みなさんこんにちわ。」
シンデレラがそう言うだけ、道を歩くだけで民はそれを崇め、道を開ける。すると一人の男が
「すいません!失礼ながら要望があります!」
「はい?」
こんな時でも快楽を感じ、羞恥という感情をもろに受けていた。
「私たち民は国の安定のため、一生懸命食料を生産しています。しかし、一度作った野菜などの食べ物はできてすぐ王のもとへと運ばれてゆくのです。それがかえってくるころには元あった量の一割にも満たなく、大変私たち民が食べるには少なすぎるのです。」
「・・・」
「あの食べ物はどうなっているのですか?」
「それは・・・」
知っている。おいしく食べられ、なお形のいいものは王や偉い人。おいしく食べられ、あまり形の良くないものが兵士や執事、メイドたち。残りのまずく、虫が食ったようなものを民にかえしている。もちろんシンデレラはいいものだ。そして、多くの民が食べるものなのでその食べ物の量は膨大。とてもこれらの人々で、「おいしく食べられる食べ物」が食べきれるはずがない。しかし、その食べきれないものは民へは戻らない。それは
遊びや観賞用、家畜の餌になるのだ。
王は「こうやって食料の約九割を取れば、少ない量しか民には届かない。飢えたくないのならばもっと食べ物を作れ、ということだ。」
もちろん、遊びや観賞用はすぐにダメになる。すぐにポイだ。家畜は餌(民からとったもの)を与えているが、その餌を民のものだとばれないように粉々のペースト状にするのは、王の雑用を担う、メイドや執事などだ。(王に近いものにやらせるのは、民に「お前らからとった食べ物が使われている」と悟られないため。)
本当にひどいやり方だ。とシンデレラは思う。気分を害したシンデレラはこの場から去ろうとする。
・・・早く性的興奮を高め、気分を良くしましょう。
と、家と家の影にとりあえず潜もうと走る。しかし
「きゃあっ!」
シンデレラの長いスカートに、農業用の鎌が引っかかる。そのまま壮大に転んだ。
「ううっ。痛いですの。」
すると、その声に気づいた民が大勢やってきて、口を大きく開けた。
「おい!あれって!」
民は、鎌でスカートが大きく切り裂かれて、よろよろ四つん這いで起き上がると民のほうへ尻を向けてたシンデレラの二穴が見えた。
「ラディッシュじゃないか!あんな高級なものを上の口で食べずに下の口でたべるなんて!」
「おい、なんなんだよ。俺たちのつくった食べ物ってのは、王族には性欲処理に使われてるのか?ふざけるな!」
こうして民の怒りの原因をつくったシンデレラはその場で強姦され殺された。それに気づいた王は民に総攻撃を仕掛ける。そう食料を作る者がいなくなることを考えずに。
この民対王の戦い「姫敵王軍勢の戦い」となずけられた戦いは、圧倒的人数の不利が王軍勢にはあったが、大量の兵器を使ったため、もちろん王の勝ちだ。
しかし。
食料が底をつき、民のいないこの国は王に従えた雑務などが食べ物を作ることとなるが、作っている期間はさびしく、長期保存が可能な堅いパンのみだった。民の大切さに気付いた王は嘆き、毎晩寝るたびなつかしき民の顔を思いだすのだ。
ああ、哀れだ。」
全てを読みをわった上山に俯いていた平賀は
「ずいぶんとまあ長いわね。」
「ええ。まあ、仮説に過ぎませんから。」
「でもいんじゃない?そういうの。もうすぐ三学年対抗劇が開催されるしね。」
「ええ。」
ある時、音橋と羽切はジェットコースターに来ていた。羽切は
「ねぇ、こ、これに乗るの?」
「うん。そうだけどどうかした?」
「いや・・・なんでもない。」
そう、羽切は絶叫系の乗り物に弱いのだ。だから地元の小さいジェットコースターでも厳しいのに、
・・・これヤバすぎるだろ。
こんな大きな、しかも急なコースの物に乗るなどだいぶ厳しい。しかし、手をつないでる先に大変楽しみだ、という顔の音橋がいるため羽切は断りずらく、結局乗ることとなる。
大体二十分ほどの時間を列に並んで待ち、ついに登場口付近の身長確認パネルに来た。
「ね、ねぇ。俺身長足りないかもしんないから乗れないかも・・・」
「何言ってるの?百八十もあるでしょ?」
「身長が高すぎてダメかも・・・」
「二メートルが最高だって。」
「・・・」
断りきれなかった。
羽切はようやくジェットコースターから解放され、近くにあったベンチに音橋と座っていた。
「うあぁ、気持ち悪い・・・」
「大丈夫?これ、」
と、音橋はペットボトルに入ったお茶を渡してきた。
「あ、ありがと。でも、今飲むと全部吐きそう・・・」
うぅっ、と吐き気がこみ上げてくる羽切は足元を見るように俯きながらしばらく黙っていた。
すると音橋が
「ねぇ、ホントに大丈夫?」
「正直ヤバい・・・」
その時羽切の腹はまるでベルトに強く絞められたような感覚を覚え、吐き気と腹痛がこみ上げてきた。
「うぉっ!ちょ、ちょと悪いけどトイレ行ってくるよ・・・」
「うん」
羽切はベンチから立ち上がり、ナイフで腹を疲れたようにかがみながらトイレへ全速力で向かった。
トイレからでた羽切。
「ああ、やっぱりジェットコースターなんてのるもんじゃないなあ」
あきれ返りながら洗った手をハンカチで適当に拭く。そして、ゆっくりとおさまった吐き気と腹痛を刺激しないように歩く。すると、目の前に知っている者がいた。
「やあ、羽切君。どうしたの?腹痛?」
時白だった。
「おお、時白。まあな。ちょっとジェットコースターによってな。」
「成程。じゃあそこのお店でも入ってゆっくりしてく?」
「いや、奏を待たせているんだ。体調が少しすぐれないからって行かないわけには・・・」
「それなら大丈夫。さっき音橋さんに会って「小一時間ほどトイレに行ってくるって言われた」って言ったから。」
「え?ああそなの?」
・・・正直奏と居ても気まずいんだよなあ。だったらいっそここは流されてみるか?
こうやって簡単に流されるのが自分の悪い癖だなあ。そう思いながら羽切は
「わかった。それなら行こうかそこの店。」
「うん!」
時白は羽切をエスコートするようにしてそこの店に入って行った。
羽切と別れてから十五分が経った音橋。
「・・・まつり、遅いなぁ。」
心配している彼女の脳裏には二人の女狐が浮かび上がっていた。
羽切と時白。inカフェ。二人は店員がおいていった水をちびちびと飲みながら、
「ねぇねぇ、どれがいいかなあ」
と、なぜか嬉しそうにメニューを見せる時白。
「うーん、どれがいいかなあ」
と、腹の調子が良くないが、愛想笑いで返す羽切。
「じゃあ、僕はチョコレットショコラショコラ―デチャオコーリーショコラ―ダパフェにしようかな。」
「ようするにチョコパフェだろ?」
・・・チョコレットとショコラでもうチョコってわかるわ!長々しい!
因みに「チョコレイト」は「英」。「ショコラ」は「仏」。「ショコラ―デ」は「独」。「チャオコーリー」は「中」。「チョコラーダ」は「チェコ」。どれも日本で言う「チョコレート」だ。そして、「パフェ」は仏で「完全な」という意味の「パルフェ」からきている。どうでもいいか。
「じゃあ俺はオレンジジュースにしようかな」
時白がベルを鳴らし店員を呼ぶ。
「お待たせいたしました。ご注文を伺います。」
「オレンジジュースとチョコレットショコラショコラ―デチャオコーリーショコラ―ダパフェで」
わざわざフルネームで言う時白はまじめだな、と羽切は思った。すると店員が
「オレンジジュースとチョコパフェですね?ご注文有難うございます。」
そういって店員は厨房の方へ行き、
「オレンジジュースとチョコパフェお願いしまーす」
すると奥にいた調理員が
「オレンジジュースとチョコパフェね。OK!」
チョコパフェに解せない羽切であった。
なんやかんや三十分ほど経ち、羽切の体調は元通り快調となった。
羽切は最初に店員がおいていった水をまたちびちびと飲む。すると席の向かいに座っていた時白が
「よかった。大丈夫そうだね。」
「ああ、おかげでな」
「でさ・・・質問していいかな?」
「質問?なんだ?」
軽い気持ちで相談に乗ってやろう。そういう感じで、へらへらと時白の言葉を待ったが、なんだかすごく時白がかしこまっているので、なぜかこちらも真剣になった。
・・・どうしたんだ?こんなに真剣に
店内には、テーマパーク内とは思えないほど静まり返っており、二人の声がとても店内に響いていたことに羽切は気付く。真剣な空気に耐え切れず、とりあえず飲んでいた水を一気に流し込む。
そして、真剣な表情のまま、淡々と時白は告げた
「僕と付き合ってくれないかい?」
「ぶっ」←羽切が水を噴出した音
「わぁっ!大丈夫かい羽切君?!」
「だ、大丈夫。と、とりあえずそこのティッシュ取って・・・」
「はい」と何枚か重ねてこちらにティッシュを渡してきた。それでとりあえず口を拭いてから、落ち着いて
「付き合うって、突きあうってことか?悪いけど俺そんな趣味ないんだ。」
「?。?。」
疑問を受かべる時白を無視して
「で、付きあう?俺と時白が?」
と、冗談かまして、笑いながら言った。それと対照的に時白は
「そうだよ。つまり僕と羽切君はカップルになるんだ」
「いやいやいや。まて、とりあえず待て。順を追って一つずつ解決していくから。」
「うん?」
ふぅーっ、と深く深呼吸をしてから羽切は
「まず、なんで俺に告白なんてしたんだ?」
「それは、りりしくて、つよくて、かっこよくて、でもかわいくて、しんちょうたかくて、ほそみで、きれいなはだで・・・」
「ああ、もういい!」
正直、ここまで他人から、他人からの視点でみた自分の長所を連呼されるのは恥ずかしいを通り越して辛い。
「要するに、俺のことが・・・好き。なんだな?」
これは照れているのではないぞ。俺はゲイじゃないんだ。と羽切は思いながら。
「そうなるね。だって羽切君かっこいいから」
「あーあーあ。もういいもういい。」
・・・ったく。一応音橋と付き合っているんだぜ?
「じゃあ次。俺と奏は付き合っているんだぜ?それを昨日知ったはずだ。なぜ、俺に彼女がいる事を知っていて告白しに来たんだ?」
「それは・・・」
一瞬の静寂が、羽切を焦らせる。
「正直。音橋さんがうらやましかったからだよ。」
「は?」
「うらやましかったんだ。ああやって手をつないで、二人きりになりたいから他の奴は来るな、とかカップル占いとかさ。すべてそれを羽切君と実行できている音橋さんがうらやましい・・・否、妬ましかったんだ」
「・・・」
「だから、僕は神社で引いたおみくじで覚悟を決めたんだ。」
時白がポケットから見覚えのあるピンク色の紙を取り出す
「あなたはもっと好きな人に積極的に愛情表現をするべきです。それはとても積極的に、まるで性別というような大きな壁を乗り越えるように。これに背中を押されたんだ。」
「っ!?」
正直。羽切はこのおみくじのことを気持ち悪い。気味が悪い。と思った。
・・・もう、なんなんだよ!皆このおみくじを理由に俺を狂わせてくるんだ!
すると、そのおみくじを大切そうにポケットにしまった時白は
「ねぇ、ちょっとトイレ行っていくからさあ。その間に、返事考えておいてよ。」
「えっ、ちょっ!」
駆け足をするかのような早歩きでトイレに行ってしまった。そんな取り残されてしまった羽切は、もうここにいたくない。と、急いでオレンジジュース代の三百円をテーブルに置き、去った。
「はぁっ。はあぁっ。なんなんだよ。もう!」
急いで音橋の元へと行こう。そう思って走ろうとした直後。
「あら、まつりじゃないですか~」
「一人?だったら私達と周りましょう?」
「上山さんと平賀!」
「ええそうですよ。それではまいりましょうか?」
「え?!ちょっと!どこへ行くのさ!」
「楽しい場所よ」
「待ってくれ!俺は奏を待たせているんだ!だから!」
直後。胸倉を強くつかまれた。その先に身長の関係で上目遣いみたいになっている平賀がいる。
「はぁ?あんたは私たちの傀儡。だから私たちのいう事を聞いていればいいのよ!」
と、強く言葉を浴びせた平賀だったが、打って変わってその怒りのようなものは消え、にっこりと笑い
「さあ、行きましょう?」
「っ・・・」
・・・悪い。音橋さん。
二人の女子に腕にしがみつかれたままどこかへ連れて行かれた。
最初にトイレに行く。と言ってから一時間くらい経った音橋。
しかし、先ほどのベンチ周辺にはいない。あたりにもいない。どこかへ行ってしまったのだろうか。
先ほど二人が座っていたベンチの下に、パーク内の地図があった。
しかしその地図は赤ペンでたくさんの文字が書き込まれており幾つものアトラクションや飲食店にお土産や建物と建物の間にまで赤く染められている。そして、その赤ペンの描く文字には「%」という記号と数字が書いており、各場所に対しての何かの確立を差している。
その地図の裏には、題名が書かれており
「まつりが居そうな場所」
と、赤黒い文字で書いてあった。
二人にしがみつかれた羽切はどうにかこの状況からの逃げ道を探す。
「あのー、トイレに行きたいんだけど・・・」
「あらあら、わかりました。いってらっしゃい。トイレの前でずっと待ってますから」
「うん。急にトイレに行かなくても良くなってきたなあ!」
・・・どうすれば。 そうだ!
「あのーー二人とも」
「「?」」
「これから俺自家発電してくるからちょっといいかな!」
しばらくの沈黙が続き、平賀が
「それって私たちに「手伝え」って遠まわしに言っているのね?もう、世話が焼けるんだから。」
「ちげぇよ!」
と、勢いで両腕を強く振る。それは羽切が予想したものとは違いいとも簡単に二人は腕から離れた。
・・・?多少何か引っかかるがいいか。
「ご、ごめん。とりあえず行く場所が有るから」
「・・・」
その言葉に二人は反応しなかった。
二人を背後に羽切は走る。
その二人の顔に笑みがあったことに羽切は気付かない。
「くそっ!どいつもこいつも!」
あの二人から、時白からも逃げ、計三人から逃げている羽切は音橋という逃げ道を探していた。
「どこだ!どこにいるんだ!」
四方八方走り回りながら見渡す。
・・・のどが渇いたなあ。どこかに自販機がーーーあった!
すぐそこに自販機があったため、適当にお茶を買う。
渇いたのどに潤いが流れ込み、体が冷えて落ち着く。うまいなあ、そうおもっていい気分で後ろを振り向くと、
そこには探していた音橋がいた。なぜかポケットに手を入れて。
「おとb・・・奏!」
「もう、探したんだから・・・」
そんな彼女の表情は曇っているが、すぐに笑顔になり、
「待たせた分、しっかり楽しもうね」
にこっと。そんな彼女の笑みがとても安心して見る事が出来た。
「奏は何処に行きたい?」
「私は・・・高いところかな」
「もうジェットコースターはこりごりだあ・・・」
「じゃああれ」
と、彼女が指差す方向に観覧車があった。とても大きく、あれなら高いところとしての条件は満たしているな、と「よし、じゃあ観覧車に乗ろうか」
「うん」
今度は羽切から手をつなごう、と催促してみる。それに嬉しそうに反応した彼女はポケットに入れてないほうの手で取った。
ああ、他の女と居るところを見られたのになぜこの女はこうも冷静なのか。
観覧車へと幸せを感じながら進む。
「やっぱり来てみると大きいなあ」
「うん」
羽切と音橋は観覧車の搭乗口に来ていた。だいぶ混んでいるようで、それでもここまで来た、ということもあって長い列の最後尾に並んだ。
ついに二人の番が来た。それはあれから二時間ほど経ち、夕方という時刻だった。
「よし、やっとだね」
「うん」
先ほどから「うん」としか答えてない彼女でもやはり楽しみ、という表情をしている。案外、子供みたいだなあ、と羽切は自分も子供であることを棚に上げて優越感に浸っていた。
向かい合わせで座った小部屋はとても小さく、なんだかとても窮屈に感じた。今はゆっくり、ゆっくりと最高の高さに向かっている途中。さんざん?周って疲れたテーマパークのいろいろなものが見えてくる。窓から差してくる夕日がとても綺麗で、とても赤く部屋を染めている。
その赤に照らされた部屋の向いに座る音橋も赤く、まるでとても照れたように輝いている。
・・・ああ、俺はやっぱりバカだったんだ。こんなに可愛くて、自分のことを好きだというのに、他の女に流されてしまうなんて。時が戻せるなら戻したい。
そんな幻想を考えていると、声がかかる。勿論、音橋だ
「ねぇ、もうちょっとで一番高いところだよ・・・」
「そうだね・・・」
それだけで会話が途切れる。もっと何か話さなければ、と適当な話題を羽切は振ってみる
「今日一日の疲れがこの景色を見てさらに感じられたよ。」
「・・・」
「ほらみろよ!一番高いところだ!」
「そうだね、とても・・・きれい!」
ただ今、羽切と音橋を乗せた観覧車は一番高い位置にあった。そこから見える、夕焼け色になったパーク内。夕焼けの色が赤く見えるくらいに眩しい狭いこの観覧車の一室は、この修学旅行終盤でのとてもいい思い出になった、と羽切は思う。
しかし、そんな有頂天だった二人は、徐々に一番高いところから遠ざかってゆく寂しさに言葉を失い、静まり返っていた。
その時、不意に音橋が声をかけた
「ねえ、まつり。」
「?」
「この修学旅行、楽しかった?」
「うん、楽しかったよ」
「どんなところが楽しかった?」
「う~ん」
と、悩む。羽切にとって、一番印象に残っているのが「おみくじ」だ。あのおみくじは何故か羽切に対して起こることを最初から知っていたかのように、ズバリと当てた。
・・・おかげで散々な目にあったなぁ
しかし、楽しいと言われて一番楽しい?楽しいと言われれば変かもしれないが、やはり、上山と平賀と三人で過ごした夜が良かった。だがこんなところで素直に「上山さんと平賀と夜にヤったことかな」なんて言えるほど羽切のキモは座っていない。だから
「二日目。奏と猫カフェに行った時が一番楽しかったよ」
嘘をついても、これが彼女に対して嬉しいと思ってもらえるようなら良い。
「そっか・・・。」
と、切なそうに彼女は俯くと、俯いたまま
「じゃあ、なんで昨日の夜。来なかったの・・・」
「っ・・・」
羽切は完全に忘れていた。昨日は単に自分から二人を求めたのではなく、二人から襲われたのだ。しかし、そんな自分も後に「音橋なんてもういいや」と考え、二人に身を委ねたのだ。
・・・どう返せばいい。どう返せばいいんだ!?
そんな羽切の脳裏には自分の逃げ道が浮かんでいた。しかし、それは大変最低のクズみたいな逃げ道だ。だけれど、今の羽切には自分を棚に上げて他の人のせいにするしかなかった、否、それくらい焦っていた
だから
「昨日の夜行けなかったのは、上山さんと平賀が、奏の部屋に向かおうとする俺を襲って・・・。それでそのまま気を失って、起きたときにはもう皆部屋に戻っていたんだ。」
「・・・そうなの」
彼女はいまだ俯いたまま
「じゃあ、なんであの場で私を見捨てたの?」
「そ、それは・・・」
「わたしあのあとすごくおちこんだあのあとすごいかなしかったあのあとすごくむりょくかんにおそわれたあのあとまつりのことがきらいになった」
そして、俯いていた顔を上げ、弱弱しい眼光を羽切にあてる。その目には涙が、これでもか、というほど流れていた。泣きじゃくった声で、
「それでもっ!わたし、、まつりの事がすきでわすれられないの!」
「奏・・・」
「だから、こんどから、浮気なんてせずに私だけをみてよ・・・」
「・・・」
羽切は悩んだ。それは浮気がどうのこうのではない。ただ単純に「あの二人とヤれなくなる」という事だけを考えていた。昨日の夜、あの二人にヤる悦びを教えられた羽切に、「浮気を絶対しない」という答えは「もうあの二人とはヤれなくなる」となり、それは大変辛い。それでも一度好きになった、否、好きかもしれない音橋のことを考えると、その彼女の流している涙を見ると、
・・・正直になんて言えっこない
だから羽切は嘘をついた
「ああ、もちろんだ。もうあの二人とはクラスメイトというだけで変な関係は持たないさ。そして奏だけを見るさ」
・・・まあ、目が見える時点で他の人も見えてしまっているけど
音橋は羽切からの言葉を聞き、
「しんじていいの、かな」
「ああ、信じろ」
「もう私、見捨てられたりしないかな」
「ああ、見捨てたりはしない」
「私・・・」
歯を強くくいしばってから、強く音橋は言った
「まつりの彼女として大好きと思ってもらえるかな・・・」
「・・・」
その強い言葉と内容に圧倒され言葉が出なかった。そう、今の羽切に彼女や大好きなどと、音橋を愛でる言葉はでないのだ。それでも、
「ああ、大好きと思っているさ」
「そ、そっか、そうなんだね、ほんとうにしんじていいんだね」
「ああ、」
と、しつこいなあ、そう羽切は思いながらも、とりあえずこの場から逃げることに成功した羽切は安堵、という余韻に浸っていた。
・・・ああ、言葉って薄っぺらいなあ
相対的?な意見を持つ二人を乗せた観覧車は、一番下、下りるところまで、ゆっくりと向かっていた。
二人は観覧者から降りていた。もうすっかり夜だ。その二人は男女で手をつないでいる。しかし、男のほうの手は、女のほうの手に、覆いかぶさるように握られている。おそらく、男のほうは不本意で、女のほうは本意で、女のほうが手を無理やりに掴んだのだろう。
その二人は、歩いていた時に、「綿あめ」の屋台を見つけたので、一つだけ買い、近くのベンチに腰を掛け、手でつまみながら食べていた。
すると男が
「綿あめってなんかすごい損してる気分にならねぇか」
「そうかな?甘くておいしいけど」
「そうだよ、そこなんだよ」
と、男は女のほうに指をさし、まるで知っているちょっと難しい知識を雄弁に語るかのように、つまんでいる綿菓子への問いかけを女にぶつけた
「美味しいのはわかる。甘くておいしいのもわかる。この独特なふわふわ感もいい」
「何?すごいうれしそうに長所しか語らないけど」
「これからが短所だ。というか、ふつうあるものを批評するときは、長所を先に言ってから短所を言うものだろ?そっちのほうがあるものに対して、客観的に悪く聞こえる」
と、長々しく前置きをした男はつまんでいた綿菓子を口に放り込み、
「ほらみろ、すぐ溶けちまう。そして、甘さを感じたと思うと、甘味には満足するけど腹にはたまらない。いつもお茶碗に入れると多いと思う白米がおにぎりにすると少なく感じるみたいなもんだな」
「それは詭弁だよ・・・。たとえるなら、飴とかチョコレートとかでしょ?仮に百円のチョコレートを買ったとして、「ああ、おにぎり一個のほうが多く感じるなあ」ってことでしょ?」
女に詭弁と言われ、たとえも完璧に答えられた男は、謎の空しさに襲われたため、とりあえず無視して新しい問いを振る。
「そしてだな、奏。この綿あめを直接、口で食ってみろ」
「え?いいの?まつりも食べるのに」
「俺たちは彼氏彼女の関係。すなわち、間接キスイベントくらいあってもいいだろう。さあ!」
「う、うん」
音橋は「先に、これから間接キスしますよー」と言われて、「こういうのは、どっちかが飲んでいたりしたものを気づかずに飲んで「あっ、それさっき飲んだ・・・」「えっ?」となって照れるのが良いものだろう」と想像しながら綿菓子にかぶりつく。
「ん。食べた・・・普通においしいけど?」
彼女はこれから羽切もかぶりつき間接キスが起こることにドキドキしながら聞いていた。
そして、彼はかぶりつかれた部分を一度見て、頷き、音橋のほうへ向け指をさす。
「ほら、ここ!よく見てよ。奏が食べた部分がちょっとずつ褐色になっていってるだろう?」
「うん」
「ここな、唾液がつくと、ザラメが原料だから溶けるんだ。そしてこの部分・・・」
彼は持っていた綿菓子を高速で振る。
「空気に触れるとがちがちになって美味くなくなる」
これはな、
「湿気に弱いし、溶けた部分が固まるからこうなって。結局・・・」
彼は音橋が口をつけた部分をちぎり、近くにあったごみ箱に捨てる。
「ああぁっ!」
「ん?どした?奏」
「ばかぁっ!わかれよ!」
間接キスへの期待が消え去り、怒った音橋は羽切の右頬に口、キスを・・・・・せずに拳をぶち込んだ
「へぶっ!」
そんな他愛もない綿あめの会話は終わり、いよいよバスが出てしまうということで、二人は手をつなぎながら(今度は羽切が意図的に)パーク内の湖にきて、ぼんやりと眺めていた。すると音橋が
「もうあと一分後にはバスにむかわないといけないんだね・・・」
「そうだなあ・・・」
長かった。と羽切は思うが短くも感じられた。本当に楽しいときは時間がたつのが早い。ほんのわずかにしか感じられないが、あとからくるものすごい疲れにやはり長い時間楽しんでいたのだなあ。と気づかされるものだ。
「奏はどうだった?この修学旅行。」
「いやー、どっかの大ばか者が私を一度見捨てたときは本当に悲しかったなあ(棒)」
と、じろりと隣にいた羽切に視線を向けるので、必然的に羽切は目をそらす。すると音橋は
「こらー。ちゃんとこっち向けー!」
強引にこちらの顔を手繰り寄せる。ちなみに身長差の関係で彼女は背伸びをし、限界まで腕を伸ばしている。それにわざとあっけなく引っ張られ、同じ目の高さになる。そして彼女は大変にっこりして、
「罰ゲーム」
「へ?」
「私を見捨てた件についての罰ゲームの請求をします」
「え、ちょっと」
「格好いいこと言って、私を幸せにしてくれたら許してあげる」
「は?何言って・・・」
「もう時間ないんだよなー」
「くっ・・・」
こうなりゃヤケだ、と、目を真剣に見て
「好きだ。」
「くさいね・・・」
「うるさい」
羽切は音橋のうるさい口を口で封じた。
背景にあった湖は月の光に照らされ、まるで二人の道を作っているかのよう。ようやく口を離した二人は、照れながらも、手をつなぎながらバスのところまで駆けた。
湖の近くには人が三人いた。
一人は新聞に穴をあけ、そこから目を覗かせてい上山。
一人は双眼鏡をもち建物の影に身をひそめた平賀。
一人は何故かかぼちゃのお面をかぶっていた時白だった。
三日目 テーマパーク編 修学旅行編 完。
「ああっ!気持ちいいよっ、まつり!激しくしてぇ!」
「ああっ、そんなにされたら!」
薄暗い空間に肉を打つ音が響く。パンっ、とまるで腕に止まった蚊をつぶすような音だ。
そう、この空間では羽切と平賀、上山の三人が居た。その部屋のデジタル時計は午前一時を表している。もうこの時間になると静寂という言葉が似合うくらい静まっている。そう、ここはホテルの一室。修学旅行で皆で泊まっているホテルだ。
「やっぱり、ホテルの一室を借りておいて正解でしたね。ここの部屋狭いし見晴らしも最悪で、シングルで食事なしにすると三千円で借りられたんですよ?」
と言ったのは上山だった。すると平賀が
「まあ。私達の本来の部屋代はもったいないんだけどね。」
そう、上山たちはこの計画を前から練っていて、ネット予約で申し込んだらしい。この部屋に料金はかかってしまうが割り勘にすればそうでもない。
「うっ!もう・・・限界っ!あああっ」
その行為はこの後何時間も続けられ、ただ肉がぶつかり打ちつけあう音と喘ぎしか聞こえなかった。
朝、六時に羽切は目覚めた。それはあの部屋ではない。ちゃんと修学旅行のために借りられている、高田、新井、狭山のいる部屋だ。不快な目覚まし音は短く二回鳴り、狭山を除いた三人は目覚めている。
「おい羽切。昨日の夜どこ行ってたんだ?あんなに遅く」
・・・高田か。ばれてたのか。ずいぶん遅くに行って、ずいぶん遅くに帰ったっていうのにトイレでも行っていたのか?
「いや、時白の所行ってカードゲームしてた」
大変高田は疑い深い様子で
「じゃあそのお前の首の所にある口吸いマークは時白がつけたのか?」
「!?」
・・・しまった!昨日そのまま眠くてたいして確認もせずにねちまった!
奥にいた新井が口吸いという言葉に反応し、
「お前らそういう関係だったのか!?まあ、無理はないか、時白お前にべたべただもんな。昨日の自由行動中に「お前と奏が付き合っている」ことにスゲー落ち込んでたぜ?」
羽切は奏という固有名詞にぞくっと背筋にこんにゃくを落とされたような感覚に似たものが通る。
・・・「奏」か。
昨日、羽切は音橋を直接的ではなく間接的に拒んだ。それはおそらく音橋には「振られた」と読まれてもおかしくはないだろう。しかし、上山と平賀の傀儡になるといった羽切に今更「彼女」「奏」「好きな人」という単語は音橋へは向けられなくなっていたどころか頭の中からすっきりと消えていた。
ホモ、という言われてうれしくない単語にも笑顔で羽切は返す
「そんなわけないだろ?俺ノンケだし。まあ、時白だって多分本気じゃないさ。性別という壁は相当に大きいからね。」
ふぅーん、と興味なさそうに二人は答えると、コンコン。とドアをノックする音が鳴った。ベルを使わないのは朝だという事への気遣いだろうか。「はーい」と答えた新井はドアの前に立ち、のぞき穴から扉の向こうの人物を見た。「おやおや」と二ヤ付きながら新井は羽切に視線を送り
「音橋さんだぜ?彼氏さん」
・・・音橋か。どうすれば、どのような顔で会話すればいいんだ。
あんなことを昨日やってしまった羽切には到底、彼女(仮)の音橋へ向ける顔はない。
そう、悩み込んでいる羽切を見た新井が「おい、待ってるぞ」と言いドアを開けた。
「!?」と突然あけられたが気持ちの整理ができていない羽切にとってそれは大変寿命を減らされているも同然の行為だった。
ドアを開けた先には俯いた音橋がいた。羽切はその彼女を恐る恐る見ていると、ついに顔を上げた。
・・・怒っているのか絶望しているのかわからない
という不安は次の瞬間裏切られた。
「おはよう、まつり」
と大変すがすがしい、夏に咲くひまわりのような笑顔でこちらを見ていた。それは羽切にとって想定外すぎるもので、しかし一応返してみようと好奇心が勝つ。
「お、おはよう。奏。」
やや不安そうな表情を織り交ぜつつ、不安そうな言葉でいう。今の羽切にとって「奏」というのはやはり深刻な精神的ダメージになる。その言葉に彼女は
「うん!あのね、お願いがあるんだけど。」
「う、うん?」
「私と今日テーマパークを回ってほしいの。」
「あ・・・」
・・・昨日俺のしたこと覚えてないのか?普通なら嫌がって気まずくなって話さなくなるだろ?
これだから現実というのは思い通りにいかない。
だが、このテーマパークで本当にまだ羽切のことが好きなら楽しんで回れるはず。だから、まるで彼女を試すように
「いいよ、俺でいいなら」
「うん!ありがと」
そういって笑顔のまま彼女は去って行った。朝というボケている時間にも関わらず冷や汗が止まらないためすっかり目は覚めていた。
「さて、どうしたもんか」
複雑な気持ちは好奇心というものに変換されてゆくため、今の羽切には罪悪感などまるでなかった。それでも一応自分のことは
「ああ、羽切だなあ。」
と思ってはいた。
昨日のように朝ごはんを食べ、バスに乗り、とあるテーマパークに来ていた。
しばらくバスから歩き、入口につき皆で並んでいた。
学年主任のバカみたいな話は全く皆の頭には入っていない。
「それでは皆さん。怪我にだけは気を付けて楽しんでください」
その言葉を最後に皆は駆け出し、歩きだし、集まりだすなどそれぞれの形でパーク内に入って行った。
羽切はというと。
「よし、じゃあ行こう、まつり」
「う、うん」
音橋の方から恋人つなぎを求め、つなぎながら入って行った。
某所。
「よくあんな態度を取られて音橋さんは耐えられるどころかデートまで申し込めるのでしょうか」
「流石。と言えるかはわからないけど、凄い精神力よね」
「はい、何しろシンデレラですから。自分はヒロインだと思い込んでいるのでしょう。」
上山はポケットからスマホを取り出し、とあるサイトを開いた。その画面を見る上山の目は黒く、ハイライトがなく漆黒。といったようなもの。表情は、無。真顔だ。まるでその顔はクズを見るような蔑んだものだった。そして、その顔のまま、上山は俯いている平賀に淡々とその画面の文章を読んだ。
「物語仮説。一般的、子供向けシンデレラの続きがあったなら。注意。この文は筆者が小さい頃に見たハッピーエンドのシンデレラ(内容はうろおぼえ)の続きを仮説として書いたものです。決してシンデレラへの誹謗中傷ではありません。それでは、
なんやかんやあり、物語は王子が舞踏会で共に踊った人が落としていったガラスの靴を探すところから。
王子は色々な場所へ行き、たくさんの女性に、その靴を履いてみろ、と結婚の約束をつけて舞踏会で共に踊った人を探した。しかし、なかなかその靴のサイズピッタリのものは見つかりません。ほとんど「小さいから入らない」「大きすぎる。かばかば」とそのような者ばかり。少々王子が疲れ果てている時、奇跡は起こった。そう、「ガラスの靴がピッタリと入るものが見つかったのだ」幾人にも渡る大捜査は遂に終焉を迎え、「シンデレラ」と結婚した。それはとても幸せであった。
しかし、それから三年後。シンデレラは元々冴えない女だったため、王族の生活には慣れない。毎日、毎日毎日。立ち振る舞いや勉学などを励んだ。だが、急な身分の昇格はやはり負担があった。「もういっそ王子と別れて自由に暮らしたい、あの頃、掃除ばかりしていた自分が羨ましく思えたのだ」ああ、そうだわそうしましょう。と、心の奥底で一時期真剣に考えた、しかし、そんなシンデレラをまだ王族でいたい。と思わせるものがあった。それは、「金」だ。あまりにも莫大な金が手に入るものなので、思う存分贅沢をした。贅沢をしても王族だから大丈夫。そう思って、そう信じていた。
ある日、金のことを考えるのが怖くなり、夫である王子に甘えた。「王子、私、今心が大変寂しいのでございます。どうか私を抱いて心を埋めてください。」そう言って金から何とか性欲に溺れることで離れられた。
しかし、それはつかの間。例えて、人間は心の支えとして麻薬を飲む馬鹿野郎がいる。飲む量が最初はほんの少しだとしよう。だが、徐々にその少量では足りなくなり、飲む量を増やす。悪魔が作り出したかのようなくらい悪循環なもの。それがシンデレラにも起きた。
ある日、今日も金を使いたくない、考えたくないため王子に抱いてもらおう。そう思って二人で戯れる。しかし、シンデレラはあることに気づく。「物足りない・・・」そう、同じような毎日、すなわち同じ人、同じ動き、同じモノ。うんざり、飽きてしまう。それは性的行為に飽きたわけではない。従来通りの王子のヤリカタに飽きたのだ。
そこでシンデレラは提案した。
「今日は外でヤりませんか?」、王子は肯定し、城の庭の草の茂みでした。王族がやることではないだろう。しかし、要求をお互いのみあい、実現するために夫婦という形はできる。だから、シンデレラが欲しいと思ったものは多少無茶してもOKは出せる。
・・・ああ!いつもしている場所は薄暗く深々して落ち着けるのだけれど、外っていうのは開放感と背徳感がたまらない・・・!
このように工夫を繰り返し、ぐるぐるぐるぐると周回するループを抜けた。しかし、事件は起きた。
いくら金遣いが荒かったシンデレラが少し使わなくなったといっても、やはり、王族が民からとっている税は多い。食料もまともになく、ただ毎日一人一つの硬い長いパンが支給されるだけ。あとは自分たちで働いたり、作ったりしろという状況なのだ。
そんな時、シンデレラはまたいつものようにやろうとしていた、が、また外でやるという事だけでは飽きてしまった。だからと言うように王子は遊び心で有るものを差し出し、どう使うか説明してきた。
「ラディッシュ(ここでは細長い大根)とこの縄を使えと?」そうだ、と王子は頷く。どうやら縄で体を縛り、動くたび縄が擦れ快感が来るというものと、ラディッシュに関しては入れろという事なのだろう。食べ物をそんな使い方(食料は貴重であるし、とくにラディッシュは貴重だとして)するのは気が引けたが、性欲が収まらなかった。人間の三代欲求だ。仕方ない。と前向きに考えたシンデレラはラディッシュを入れ、王子に縄を縛ってもらい、それがバレないように分厚い生地の服を着た。下は長めのスカートである(もちろんノーパン)。「そしたらどうするんだ?」という質問に対し、王子はこういった。「そのまま民のところへ行き、挨拶でもして来い」と。
税をがっぽり持っていってる王族が民のもとに行けば文句の嵐だろう。しかし、この国の民はほとんど皆優しかった。こんな悪い状況にも関わらず、王族を歓迎し、精一杯の、とか言って不味い(民では最高級)紅茶を出してくる。だからせめて皆に食料が行き渡るのを願っているとそう伝えようか。と考えた。しかし、こんな彼女の一番の目的は民に会うことでなく、我が身の性欲処理だった。
そして、あの装備のまま民の元へとやってきた。とても狭い道ばかりの街だ。
「みなさんこんにちわ。」
シンデレラがそう言うだけ、道を歩くだけで民はそれを崇め、道を開ける。すると一人の男が
「すいません!失礼ながら要望があります!」
「はい?」
こんな時でも快楽を感じ、羞恥という感情をもろに受けていた。
「私たち民は国の安定のため、一生懸命食料を生産しています。しかし、一度作った野菜などの食べ物はできてすぐ王のもとへと運ばれてゆくのです。それがかえってくるころには元あった量の一割にも満たなく、大変私たち民が食べるには少なすぎるのです。」
「・・・」
「あの食べ物はどうなっているのですか?」
「それは・・・」
知っている。おいしく食べられ、なお形のいいものは王や偉い人。おいしく食べられ、あまり形の良くないものが兵士や執事、メイドたち。残りのまずく、虫が食ったようなものを民にかえしている。もちろんシンデレラはいいものだ。そして、多くの民が食べるものなのでその食べ物の量は膨大。とてもこれらの人々で、「おいしく食べられる食べ物」が食べきれるはずがない。しかし、その食べきれないものは民へは戻らない。それは
遊びや観賞用、家畜の餌になるのだ。
王は「こうやって食料の約九割を取れば、少ない量しか民には届かない。飢えたくないのならばもっと食べ物を作れ、ということだ。」
もちろん、遊びや観賞用はすぐにダメになる。すぐにポイだ。家畜は餌(民からとったもの)を与えているが、その餌を民のものだとばれないように粉々のペースト状にするのは、王の雑用を担う、メイドや執事などだ。(王に近いものにやらせるのは、民に「お前らからとった食べ物が使われている」と悟られないため。)
本当にひどいやり方だ。とシンデレラは思う。気分を害したシンデレラはこの場から去ろうとする。
・・・早く性的興奮を高め、気分を良くしましょう。
と、家と家の影にとりあえず潜もうと走る。しかし
「きゃあっ!」
シンデレラの長いスカートに、農業用の鎌が引っかかる。そのまま壮大に転んだ。
「ううっ。痛いですの。」
すると、その声に気づいた民が大勢やってきて、口を大きく開けた。
「おい!あれって!」
民は、鎌でスカートが大きく切り裂かれて、よろよろ四つん這いで起き上がると民のほうへ尻を向けてたシンデレラの二穴が見えた。
「ラディッシュじゃないか!あんな高級なものを上の口で食べずに下の口でたべるなんて!」
「おい、なんなんだよ。俺たちのつくった食べ物ってのは、王族には性欲処理に使われてるのか?ふざけるな!」
こうして民の怒りの原因をつくったシンデレラはその場で強姦され殺された。それに気づいた王は民に総攻撃を仕掛ける。そう食料を作る者がいなくなることを考えずに。
この民対王の戦い「姫敵王軍勢の戦い」となずけられた戦いは、圧倒的人数の不利が王軍勢にはあったが、大量の兵器を使ったため、もちろん王の勝ちだ。
しかし。
食料が底をつき、民のいないこの国は王に従えた雑務などが食べ物を作ることとなるが、作っている期間はさびしく、長期保存が可能な堅いパンのみだった。民の大切さに気付いた王は嘆き、毎晩寝るたびなつかしき民の顔を思いだすのだ。
ああ、哀れだ。」
全てを読みをわった上山に俯いていた平賀は
「ずいぶんとまあ長いわね。」
「ええ。まあ、仮説に過ぎませんから。」
「でもいんじゃない?そういうの。もうすぐ三学年対抗劇が開催されるしね。」
「ええ。」
ある時、音橋と羽切はジェットコースターに来ていた。羽切は
「ねぇ、こ、これに乗るの?」
「うん。そうだけどどうかした?」
「いや・・・なんでもない。」
そう、羽切は絶叫系の乗り物に弱いのだ。だから地元の小さいジェットコースターでも厳しいのに、
・・・これヤバすぎるだろ。
こんな大きな、しかも急なコースの物に乗るなどだいぶ厳しい。しかし、手をつないでる先に大変楽しみだ、という顔の音橋がいるため羽切は断りずらく、結局乗ることとなる。
大体二十分ほどの時間を列に並んで待ち、ついに登場口付近の身長確認パネルに来た。
「ね、ねぇ。俺身長足りないかもしんないから乗れないかも・・・」
「何言ってるの?百八十もあるでしょ?」
「身長が高すぎてダメかも・・・」
「二メートルが最高だって。」
「・・・」
断りきれなかった。
羽切はようやくジェットコースターから解放され、近くにあったベンチに音橋と座っていた。
「うあぁ、気持ち悪い・・・」
「大丈夫?これ、」
と、音橋はペットボトルに入ったお茶を渡してきた。
「あ、ありがと。でも、今飲むと全部吐きそう・・・」
うぅっ、と吐き気がこみ上げてくる羽切は足元を見るように俯きながらしばらく黙っていた。
すると音橋が
「ねぇ、ホントに大丈夫?」
「正直ヤバい・・・」
その時羽切の腹はまるでベルトに強く絞められたような感覚を覚え、吐き気と腹痛がこみ上げてきた。
「うぉっ!ちょ、ちょと悪いけどトイレ行ってくるよ・・・」
「うん」
羽切はベンチから立ち上がり、ナイフで腹を疲れたようにかがみながらトイレへ全速力で向かった。
トイレからでた羽切。
「ああ、やっぱりジェットコースターなんてのるもんじゃないなあ」
あきれ返りながら洗った手をハンカチで適当に拭く。そして、ゆっくりとおさまった吐き気と腹痛を刺激しないように歩く。すると、目の前に知っている者がいた。
「やあ、羽切君。どうしたの?腹痛?」
時白だった。
「おお、時白。まあな。ちょっとジェットコースターによってな。」
「成程。じゃあそこのお店でも入ってゆっくりしてく?」
「いや、奏を待たせているんだ。体調が少しすぐれないからって行かないわけには・・・」
「それなら大丈夫。さっき音橋さんに会って「小一時間ほどトイレに行ってくるって言われた」って言ったから。」
「え?ああそなの?」
・・・正直奏と居ても気まずいんだよなあ。だったらいっそここは流されてみるか?
こうやって簡単に流されるのが自分の悪い癖だなあ。そう思いながら羽切は
「わかった。それなら行こうかそこの店。」
「うん!」
時白は羽切をエスコートするようにしてそこの店に入って行った。
羽切と別れてから十五分が経った音橋。
「・・・まつり、遅いなぁ。」
心配している彼女の脳裏には二人の女狐が浮かび上がっていた。
羽切と時白。inカフェ。二人は店員がおいていった水をちびちびと飲みながら、
「ねぇねぇ、どれがいいかなあ」
と、なぜか嬉しそうにメニューを見せる時白。
「うーん、どれがいいかなあ」
と、腹の調子が良くないが、愛想笑いで返す羽切。
「じゃあ、僕はチョコレットショコラショコラ―デチャオコーリーショコラ―ダパフェにしようかな。」
「ようするにチョコパフェだろ?」
・・・チョコレットとショコラでもうチョコってわかるわ!長々しい!
因みに「チョコレイト」は「英」。「ショコラ」は「仏」。「ショコラ―デ」は「独」。「チャオコーリー」は「中」。「チョコラーダ」は「チェコ」。どれも日本で言う「チョコレート」だ。そして、「パフェ」は仏で「完全な」という意味の「パルフェ」からきている。どうでもいいか。
「じゃあ俺はオレンジジュースにしようかな」
時白がベルを鳴らし店員を呼ぶ。
「お待たせいたしました。ご注文を伺います。」
「オレンジジュースとチョコレットショコラショコラ―デチャオコーリーショコラ―ダパフェで」
わざわざフルネームで言う時白はまじめだな、と羽切は思った。すると店員が
「オレンジジュースとチョコパフェですね?ご注文有難うございます。」
そういって店員は厨房の方へ行き、
「オレンジジュースとチョコパフェお願いしまーす」
すると奥にいた調理員が
「オレンジジュースとチョコパフェね。OK!」
チョコパフェに解せない羽切であった。
なんやかんや三十分ほど経ち、羽切の体調は元通り快調となった。
羽切は最初に店員がおいていった水をまたちびちびと飲む。すると席の向かいに座っていた時白が
「よかった。大丈夫そうだね。」
「ああ、おかげでな」
「でさ・・・質問していいかな?」
「質問?なんだ?」
軽い気持ちで相談に乗ってやろう。そういう感じで、へらへらと時白の言葉を待ったが、なんだかすごく時白がかしこまっているので、なぜかこちらも真剣になった。
・・・どうしたんだ?こんなに真剣に
店内には、テーマパーク内とは思えないほど静まり返っており、二人の声がとても店内に響いていたことに羽切は気付く。真剣な空気に耐え切れず、とりあえず飲んでいた水を一気に流し込む。
そして、真剣な表情のまま、淡々と時白は告げた
「僕と付き合ってくれないかい?」
「ぶっ」←羽切が水を噴出した音
「わぁっ!大丈夫かい羽切君?!」
「だ、大丈夫。と、とりあえずそこのティッシュ取って・・・」
「はい」と何枚か重ねてこちらにティッシュを渡してきた。それでとりあえず口を拭いてから、落ち着いて
「付き合うって、突きあうってことか?悪いけど俺そんな趣味ないんだ。」
「?。?。」
疑問を受かべる時白を無視して
「で、付きあう?俺と時白が?」
と、冗談かまして、笑いながら言った。それと対照的に時白は
「そうだよ。つまり僕と羽切君はカップルになるんだ」
「いやいやいや。まて、とりあえず待て。順を追って一つずつ解決していくから。」
「うん?」
ふぅーっ、と深く深呼吸をしてから羽切は
「まず、なんで俺に告白なんてしたんだ?」
「それは、りりしくて、つよくて、かっこよくて、でもかわいくて、しんちょうたかくて、ほそみで、きれいなはだで・・・」
「ああ、もういい!」
正直、ここまで他人から、他人からの視点でみた自分の長所を連呼されるのは恥ずかしいを通り越して辛い。
「要するに、俺のことが・・・好き。なんだな?」
これは照れているのではないぞ。俺はゲイじゃないんだ。と羽切は思いながら。
「そうなるね。だって羽切君かっこいいから」
「あーあーあ。もういいもういい。」
・・・ったく。一応音橋と付き合っているんだぜ?
「じゃあ次。俺と奏は付き合っているんだぜ?それを昨日知ったはずだ。なぜ、俺に彼女がいる事を知っていて告白しに来たんだ?」
「それは・・・」
一瞬の静寂が、羽切を焦らせる。
「正直。音橋さんがうらやましかったからだよ。」
「は?」
「うらやましかったんだ。ああやって手をつないで、二人きりになりたいから他の奴は来るな、とかカップル占いとかさ。すべてそれを羽切君と実行できている音橋さんがうらやましい・・・否、妬ましかったんだ」
「・・・」
「だから、僕は神社で引いたおみくじで覚悟を決めたんだ。」
時白がポケットから見覚えのあるピンク色の紙を取り出す
「あなたはもっと好きな人に積極的に愛情表現をするべきです。それはとても積極的に、まるで性別というような大きな壁を乗り越えるように。これに背中を押されたんだ。」
「っ!?」
正直。羽切はこのおみくじのことを気持ち悪い。気味が悪い。と思った。
・・・もう、なんなんだよ!皆このおみくじを理由に俺を狂わせてくるんだ!
すると、そのおみくじを大切そうにポケットにしまった時白は
「ねぇ、ちょっとトイレ行っていくからさあ。その間に、返事考えておいてよ。」
「えっ、ちょっ!」
駆け足をするかのような早歩きでトイレに行ってしまった。そんな取り残されてしまった羽切は、もうここにいたくない。と、急いでオレンジジュース代の三百円をテーブルに置き、去った。
「はぁっ。はあぁっ。なんなんだよ。もう!」
急いで音橋の元へと行こう。そう思って走ろうとした直後。
「あら、まつりじゃないですか~」
「一人?だったら私達と周りましょう?」
「上山さんと平賀!」
「ええそうですよ。それではまいりましょうか?」
「え?!ちょっと!どこへ行くのさ!」
「楽しい場所よ」
「待ってくれ!俺は奏を待たせているんだ!だから!」
直後。胸倉を強くつかまれた。その先に身長の関係で上目遣いみたいになっている平賀がいる。
「はぁ?あんたは私たちの傀儡。だから私たちのいう事を聞いていればいいのよ!」
と、強く言葉を浴びせた平賀だったが、打って変わってその怒りのようなものは消え、にっこりと笑い
「さあ、行きましょう?」
「っ・・・」
・・・悪い。音橋さん。
二人の女子に腕にしがみつかれたままどこかへ連れて行かれた。
最初にトイレに行く。と言ってから一時間くらい経った音橋。
しかし、先ほどのベンチ周辺にはいない。あたりにもいない。どこかへ行ってしまったのだろうか。
先ほど二人が座っていたベンチの下に、パーク内の地図があった。
しかしその地図は赤ペンでたくさんの文字が書き込まれており幾つものアトラクションや飲食店にお土産や建物と建物の間にまで赤く染められている。そして、その赤ペンの描く文字には「%」という記号と数字が書いており、各場所に対しての何かの確立を差している。
その地図の裏には、題名が書かれており
「まつりが居そうな場所」
と、赤黒い文字で書いてあった。
二人にしがみつかれた羽切はどうにかこの状況からの逃げ道を探す。
「あのー、トイレに行きたいんだけど・・・」
「あらあら、わかりました。いってらっしゃい。トイレの前でずっと待ってますから」
「うん。急にトイレに行かなくても良くなってきたなあ!」
・・・どうすれば。 そうだ!
「あのーー二人とも」
「「?」」
「これから俺自家発電してくるからちょっといいかな!」
しばらくの沈黙が続き、平賀が
「それって私たちに「手伝え」って遠まわしに言っているのね?もう、世話が焼けるんだから。」
「ちげぇよ!」
と、勢いで両腕を強く振る。それは羽切が予想したものとは違いいとも簡単に二人は腕から離れた。
・・・?多少何か引っかかるがいいか。
「ご、ごめん。とりあえず行く場所が有るから」
「・・・」
その言葉に二人は反応しなかった。
二人を背後に羽切は走る。
その二人の顔に笑みがあったことに羽切は気付かない。
「くそっ!どいつもこいつも!」
あの二人から、時白からも逃げ、計三人から逃げている羽切は音橋という逃げ道を探していた。
「どこだ!どこにいるんだ!」
四方八方走り回りながら見渡す。
・・・のどが渇いたなあ。どこかに自販機がーーーあった!
すぐそこに自販機があったため、適当にお茶を買う。
渇いたのどに潤いが流れ込み、体が冷えて落ち着く。うまいなあ、そうおもっていい気分で後ろを振り向くと、
そこには探していた音橋がいた。なぜかポケットに手を入れて。
「おとb・・・奏!」
「もう、探したんだから・・・」
そんな彼女の表情は曇っているが、すぐに笑顔になり、
「待たせた分、しっかり楽しもうね」
にこっと。そんな彼女の笑みがとても安心して見る事が出来た。
「奏は何処に行きたい?」
「私は・・・高いところかな」
「もうジェットコースターはこりごりだあ・・・」
「じゃああれ」
と、彼女が指差す方向に観覧車があった。とても大きく、あれなら高いところとしての条件は満たしているな、と「よし、じゃあ観覧車に乗ろうか」
「うん」
今度は羽切から手をつなごう、と催促してみる。それに嬉しそうに反応した彼女はポケットに入れてないほうの手で取った。
ああ、他の女と居るところを見られたのになぜこの女はこうも冷静なのか。
観覧車へと幸せを感じながら進む。
「やっぱり来てみると大きいなあ」
「うん」
羽切と音橋は観覧車の搭乗口に来ていた。だいぶ混んでいるようで、それでもここまで来た、ということもあって長い列の最後尾に並んだ。
ついに二人の番が来た。それはあれから二時間ほど経ち、夕方という時刻だった。
「よし、やっとだね」
「うん」
先ほどから「うん」としか答えてない彼女でもやはり楽しみ、という表情をしている。案外、子供みたいだなあ、と羽切は自分も子供であることを棚に上げて優越感に浸っていた。
向かい合わせで座った小部屋はとても小さく、なんだかとても窮屈に感じた。今はゆっくり、ゆっくりと最高の高さに向かっている途中。さんざん?周って疲れたテーマパークのいろいろなものが見えてくる。窓から差してくる夕日がとても綺麗で、とても赤く部屋を染めている。
その赤に照らされた部屋の向いに座る音橋も赤く、まるでとても照れたように輝いている。
・・・ああ、俺はやっぱりバカだったんだ。こんなに可愛くて、自分のことを好きだというのに、他の女に流されてしまうなんて。時が戻せるなら戻したい。
そんな幻想を考えていると、声がかかる。勿論、音橋だ
「ねぇ、もうちょっとで一番高いところだよ・・・」
「そうだね・・・」
それだけで会話が途切れる。もっと何か話さなければ、と適当な話題を羽切は振ってみる
「今日一日の疲れがこの景色を見てさらに感じられたよ。」
「・・・」
「ほらみろよ!一番高いところだ!」
「そうだね、とても・・・きれい!」
ただ今、羽切と音橋を乗せた観覧車は一番高い位置にあった。そこから見える、夕焼け色になったパーク内。夕焼けの色が赤く見えるくらいに眩しい狭いこの観覧車の一室は、この修学旅行終盤でのとてもいい思い出になった、と羽切は思う。
しかし、そんな有頂天だった二人は、徐々に一番高いところから遠ざかってゆく寂しさに言葉を失い、静まり返っていた。
その時、不意に音橋が声をかけた
「ねえ、まつり。」
「?」
「この修学旅行、楽しかった?」
「うん、楽しかったよ」
「どんなところが楽しかった?」
「う~ん」
と、悩む。羽切にとって、一番印象に残っているのが「おみくじ」だ。あのおみくじは何故か羽切に対して起こることを最初から知っていたかのように、ズバリと当てた。
・・・おかげで散々な目にあったなぁ
しかし、楽しいと言われて一番楽しい?楽しいと言われれば変かもしれないが、やはり、上山と平賀と三人で過ごした夜が良かった。だがこんなところで素直に「上山さんと平賀と夜にヤったことかな」なんて言えるほど羽切のキモは座っていない。だから
「二日目。奏と猫カフェに行った時が一番楽しかったよ」
嘘をついても、これが彼女に対して嬉しいと思ってもらえるようなら良い。
「そっか・・・。」
と、切なそうに彼女は俯くと、俯いたまま
「じゃあ、なんで昨日の夜。来なかったの・・・」
「っ・・・」
羽切は完全に忘れていた。昨日は単に自分から二人を求めたのではなく、二人から襲われたのだ。しかし、そんな自分も後に「音橋なんてもういいや」と考え、二人に身を委ねたのだ。
・・・どう返せばいい。どう返せばいいんだ!?
そんな羽切の脳裏には自分の逃げ道が浮かんでいた。しかし、それは大変最低のクズみたいな逃げ道だ。だけれど、今の羽切には自分を棚に上げて他の人のせいにするしかなかった、否、それくらい焦っていた
だから
「昨日の夜行けなかったのは、上山さんと平賀が、奏の部屋に向かおうとする俺を襲って・・・。それでそのまま気を失って、起きたときにはもう皆部屋に戻っていたんだ。」
「・・・そうなの」
彼女はいまだ俯いたまま
「じゃあ、なんであの場で私を見捨てたの?」
「そ、それは・・・」
「わたしあのあとすごくおちこんだあのあとすごいかなしかったあのあとすごくむりょくかんにおそわれたあのあとまつりのことがきらいになった」
そして、俯いていた顔を上げ、弱弱しい眼光を羽切にあてる。その目には涙が、これでもか、というほど流れていた。泣きじゃくった声で、
「それでもっ!わたし、、まつりの事がすきでわすれられないの!」
「奏・・・」
「だから、こんどから、浮気なんてせずに私だけをみてよ・・・」
「・・・」
羽切は悩んだ。それは浮気がどうのこうのではない。ただ単純に「あの二人とヤれなくなる」という事だけを考えていた。昨日の夜、あの二人にヤる悦びを教えられた羽切に、「浮気を絶対しない」という答えは「もうあの二人とはヤれなくなる」となり、それは大変辛い。それでも一度好きになった、否、好きかもしれない音橋のことを考えると、その彼女の流している涙を見ると、
・・・正直になんて言えっこない
だから羽切は嘘をついた
「ああ、もちろんだ。もうあの二人とはクラスメイトというだけで変な関係は持たないさ。そして奏だけを見るさ」
・・・まあ、目が見える時点で他の人も見えてしまっているけど
音橋は羽切からの言葉を聞き、
「しんじていいの、かな」
「ああ、信じろ」
「もう私、見捨てられたりしないかな」
「ああ、見捨てたりはしない」
「私・・・」
歯を強くくいしばってから、強く音橋は言った
「まつりの彼女として大好きと思ってもらえるかな・・・」
「・・・」
その強い言葉と内容に圧倒され言葉が出なかった。そう、今の羽切に彼女や大好きなどと、音橋を愛でる言葉はでないのだ。それでも、
「ああ、大好きと思っているさ」
「そ、そっか、そうなんだね、ほんとうにしんじていいんだね」
「ああ、」
と、しつこいなあ、そう羽切は思いながらも、とりあえずこの場から逃げることに成功した羽切は安堵、という余韻に浸っていた。
・・・ああ、言葉って薄っぺらいなあ
相対的?な意見を持つ二人を乗せた観覧車は、一番下、下りるところまで、ゆっくりと向かっていた。
二人は観覧者から降りていた。もうすっかり夜だ。その二人は男女で手をつないでいる。しかし、男のほうの手は、女のほうの手に、覆いかぶさるように握られている。おそらく、男のほうは不本意で、女のほうは本意で、女のほうが手を無理やりに掴んだのだろう。
その二人は、歩いていた時に、「綿あめ」の屋台を見つけたので、一つだけ買い、近くのベンチに腰を掛け、手でつまみながら食べていた。
すると男が
「綿あめってなんかすごい損してる気分にならねぇか」
「そうかな?甘くておいしいけど」
「そうだよ、そこなんだよ」
と、男は女のほうに指をさし、まるで知っているちょっと難しい知識を雄弁に語るかのように、つまんでいる綿菓子への問いかけを女にぶつけた
「美味しいのはわかる。甘くておいしいのもわかる。この独特なふわふわ感もいい」
「何?すごいうれしそうに長所しか語らないけど」
「これからが短所だ。というか、ふつうあるものを批評するときは、長所を先に言ってから短所を言うものだろ?そっちのほうがあるものに対して、客観的に悪く聞こえる」
と、長々しく前置きをした男はつまんでいた綿菓子を口に放り込み、
「ほらみろ、すぐ溶けちまう。そして、甘さを感じたと思うと、甘味には満足するけど腹にはたまらない。いつもお茶碗に入れると多いと思う白米がおにぎりにすると少なく感じるみたいなもんだな」
「それは詭弁だよ・・・。たとえるなら、飴とかチョコレートとかでしょ?仮に百円のチョコレートを買ったとして、「ああ、おにぎり一個のほうが多く感じるなあ」ってことでしょ?」
女に詭弁と言われ、たとえも完璧に答えられた男は、謎の空しさに襲われたため、とりあえず無視して新しい問いを振る。
「そしてだな、奏。この綿あめを直接、口で食ってみろ」
「え?いいの?まつりも食べるのに」
「俺たちは彼氏彼女の関係。すなわち、間接キスイベントくらいあってもいいだろう。さあ!」
「う、うん」
音橋は「先に、これから間接キスしますよー」と言われて、「こういうのは、どっちかが飲んでいたりしたものを気づかずに飲んで「あっ、それさっき飲んだ・・・」「えっ?」となって照れるのが良いものだろう」と想像しながら綿菓子にかぶりつく。
「ん。食べた・・・普通においしいけど?」
彼女はこれから羽切もかぶりつき間接キスが起こることにドキドキしながら聞いていた。
そして、彼はかぶりつかれた部分を一度見て、頷き、音橋のほうへ向け指をさす。
「ほら、ここ!よく見てよ。奏が食べた部分がちょっとずつ褐色になっていってるだろう?」
「うん」
「ここな、唾液がつくと、ザラメが原料だから溶けるんだ。そしてこの部分・・・」
彼は持っていた綿菓子を高速で振る。
「空気に触れるとがちがちになって美味くなくなる」
これはな、
「湿気に弱いし、溶けた部分が固まるからこうなって。結局・・・」
彼は音橋が口をつけた部分をちぎり、近くにあったごみ箱に捨てる。
「ああぁっ!」
「ん?どした?奏」
「ばかぁっ!わかれよ!」
間接キスへの期待が消え去り、怒った音橋は羽切の右頬に口、キスを・・・・・せずに拳をぶち込んだ
「へぶっ!」
そんな他愛もない綿あめの会話は終わり、いよいよバスが出てしまうということで、二人は手をつなぎながら(今度は羽切が意図的に)パーク内の湖にきて、ぼんやりと眺めていた。すると音橋が
「もうあと一分後にはバスにむかわないといけないんだね・・・」
「そうだなあ・・・」
長かった。と羽切は思うが短くも感じられた。本当に楽しいときは時間がたつのが早い。ほんのわずかにしか感じられないが、あとからくるものすごい疲れにやはり長い時間楽しんでいたのだなあ。と気づかされるものだ。
「奏はどうだった?この修学旅行。」
「いやー、どっかの大ばか者が私を一度見捨てたときは本当に悲しかったなあ(棒)」
と、じろりと隣にいた羽切に視線を向けるので、必然的に羽切は目をそらす。すると音橋は
「こらー。ちゃんとこっち向けー!」
強引にこちらの顔を手繰り寄せる。ちなみに身長差の関係で彼女は背伸びをし、限界まで腕を伸ばしている。それにわざとあっけなく引っ張られ、同じ目の高さになる。そして彼女は大変にっこりして、
「罰ゲーム」
「へ?」
「私を見捨てた件についての罰ゲームの請求をします」
「え、ちょっと」
「格好いいこと言って、私を幸せにしてくれたら許してあげる」
「は?何言って・・・」
「もう時間ないんだよなー」
「くっ・・・」
こうなりゃヤケだ、と、目を真剣に見て
「好きだ。」
「くさいね・・・」
「うるさい」
羽切は音橋のうるさい口を口で封じた。
背景にあった湖は月の光に照らされ、まるで二人の道を作っているかのよう。ようやく口を離した二人は、照れながらも、手をつなぎながらバスのところまで駆けた。
湖の近くには人が三人いた。
一人は新聞に穴をあけ、そこから目を覗かせてい上山。
一人は双眼鏡をもち建物の影に身をひそめた平賀。
一人は何故かかぼちゃのお面をかぶっていた時白だった。
三日目 テーマパーク編 修学旅行編 完。
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