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修学旅行
二・五日目 俺と奏とラブレター
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・・・俺はふと目覚めた。
それはまるで深い眠りから覚めるように、ゆっくりと目を開ける。
するとそこは薄暗く、不気味に小さい明りが照らしている。そしてそこには二つのピンク色と黒色がある。なんだ?と、思い、ぼんやりした視界をはっきりさせようと目をぱちぱちさせる。それをしたことによりぼんやりと歪んで見えていた物体は、鮮明にくっきりと見ることができた。
それは
「上山さんと平賀ぁ!?なんで二人とも水着なんだ?!あとなんで二人がいるんだ?!」
すると黒いスクール水着の平賀は
「もう、平賀じゃなくて美緒って呼んでよ」
そういって赤く照れた平賀を割って入るように上山が
「ねぇ、羽切君いいえまつり。私の彼氏になってくれませんか?」
「なんなんだよ!二人とも!どうしたんだ!?」
そんなおかしな、水着姿の女子二人が誘惑してくる状況からとりあえず距離を置こうと、いつの間にかベッドに横たわった体を起こそうとする。しかし
「えっ!?なんだよこれ!」
そう、手足がベッドに拘束されていて動けないのだ。そして、ベッドの横にはデジタルの時計があり、九時を示していた。
するとにこにこと笑みを浮かべた上山が
「無駄ですよ?私たちから逃げるなんて。」
「そうよ。もう抵抗せずに私たちの傀儡になりなさい。」
「なんなんだ!ぐっ!この!外れろ!」
薄暗い部屋に金属の拘束具がベッドの金属の脚に当たり冷たい音がただ鳴り響く。その音は実に「朝、幸せに眠っているときになる目覚まし時計のアラーム」のような不快な音の大音量は強い彼の示す抵抗だ。
「やめてよ。」と冷酷な声の平賀。そのまま一瞬の沈黙が起きるも平賀は続けた
「まつりがそうやって抵抗して騒音を出すとこの場所がばれる。ばれたら大変よ?何しろクラス委員と生徒会長が性的接触をしていたなんて言ったら。」
「おい!平賀!上山さん!外してくれよ!」
と、平賀のいうことには耳を貸さず今も抵抗として金属音を響かせている羽切はパッと、覚醒するようにあることを思い出す。
・・・そうだ、奏が部屋で待っているんだ!
その羽切にとって大事なことの重要性を説いてこの場を脱出したい、奏に会いたい。そう思って二人に理解してもらえるよう必死で説いてみる。
「ねぇ、二人とも。俺にはいかなければいけない場所があるんだ!」
その言葉に上山は即答だった。
「音橋さん。ですよね?」
「なぜそれを!」
「わかりますよ。だって、さっき女子の階に向かおうとしてましたね?それが彼女のもとへ行くということ以外にどうあり得るんですか?」
すると、平賀は不敵に、否、不気味に笑うと
「わかるわ、だって私たち、まつりと音橋さんの縁を切るキューピットだから。」
「は?」何を言っているんだこいつは、と思うと、平賀はあるものをビキニと尻の間から出す。
それは今日羽切が探していたもの。そう「ラブレター」だった。
「な、なんでそれを!」
「さっきね、担任のところに色仕掛け使ってちょこちょこっと「まつりについての情報」を聞き出したら、「これが羽切のバッグの中に入ってたんだ」と差し出してくれたの「ラブレター」を」
そして、さらに先ほどより崩れた笑みを浮かべた平賀は大変悲しんだように
「私たち、ずいぶんと落ち込んだわ。このラブレターの中身を読んで」
すると修学旅行前に何度も、何度も何度も書き直した文章を見せつけられた
~音橋さんへ~
俺は音橋さんのことが前から好きでした。
よければ返事を下さい。いやならそのラブレターはごみ箱に捨ててください。
でも、俺、本気だから。音橋さんと一緒にいたいんだ。
お願いします。
羽切より。
「ずいぶんまあ、変な文ね。」
「悪かったな!」
「でさ、今日の神社のこと、覚えてる?」
「あのおみくじのことか?」
「そう。でさ、私、「まつりと音橋さんの縁を切る」ものなのよ。そうしたら私とまつりは恋人同士になって、音橋さんとはさよならよ」
「お前何言って!」
「だからさ、」
平賀は大変真剣なまなざしでこちらを見下ろしてくる。若干の恐怖を感じながらも、平賀の顔を見返す。だがその真剣な顔はわずかな時間で距離を詰め、羽切の顔へととんだ。
「あらあら」と上山はそれを見ながらにやにやと笑っている。
「んっ!?やめっ!んんっ!?」
それは先ほどやられたものと同じキス、であった。しかし今度は先ほどより舌を絡ませ、否、強引に入れてきた。
そのキスを各班に与えられたカメラで上山は激写している。
羽切は顔を強引に横に振り、平賀の唇を振りほどく。
「さっきからなんなんだよ!俺と奏の縁を切るだの、彼氏になれだの。頭どこかにぶつけちまったのか!?」
と、叫んだ直後だった。羽切の視界は歪む、というよりか、ぼやけてきた。意識も朦朧としてきて、先ほどのように拘束具をぶつけて抵抗をすることもできなくなる。そんな弱弱しい状態でも羽切は言葉で抵抗した
「・・・おいっ!なんかの薬か?」
すると上山が
「いいえ。確かに確かに先ほど眠らせるためには使いましたが、今の平賀さんのキスに薬は使っていません。ですよね?平賀さん?」
ええ。と平賀は肯定した。
・・・じゃあこのボーっとする、どうでもいいや、と思えてくるこの状態はなんなんだ?
たぶん、と平賀が
「私達とシタイんじゃないの?それで、もう私たちに心を許して音橋さんのことをどうでもいいって思ったんじゃない?」
違う!と言ったつもりだった。しかしその声は実は心の中だけで叫ばれており、平賀と上山には聞こえていなかった。そんな自分に羽切は
・・・そうか、俺。もう奏のことどうでもいいなんて思ってたのか。通りで。先ほどからこの二人への意識が高まるばかりなのかなあ。
以前、否、ここへ来る前までの自分なら、「こんなこと間違ってる!」「俺には奏がいる!」とかすんなり言えるだろう。しかし今、平賀のキスで羽切の心はせき止めきれなくなっていた。
・・・ああ哀れだ。なんて情けないんだ。こんな俺に付き合わせた奏。否、音橋さんも可哀想だ。
だから。
もう俺はクズらしく、クズなことをしよう。ああそれがいい。流されるままに流されて、いつの間にか悲劇が起きたとしても、それは「クズだから」で済ませばいいじゃないか。もう嫌なんだ、人に気を使って、好感度を上げて。その例が時白だ。俺が少しの心の隙間を埋めただけであれだ。否、あれは心の隙間なんて埋めていない。隙間を埋めたのは表面だけで中身はスカスカだ。
もう気づくと羽切の頬には大粒の涙が小さな明かりに反射して、幾粒も流れる。
そして、言った。ちゃんと言えない、まるで不安定な足場に立つようにぐらぐらとした気持ちをそのままに
「・・・二人とも。俺の化けの皮を剥いでくれないか。そのために・・・」
振り絞る。
「俺は二人の傀儡になるからっ!」
涙を流して!
「俺を楽に溺れさせてくれはしないか・・・っ!」
二人、上山と平賀はまるで小さい子供のように泣きじゃくる羽切を見て、二人目を合わせた後、言った
「あなたがそれを望むなら」「叶えてあげるというのが」
「「私達の、私達としての役目だから」」
水着姿の二人は拘束されている羽切に身を重ね始めた。
ある部屋。そこには薄暗い明かりがベッドを照らしている部屋だった。そしてここには四人ほどのバッグが有る。つまりこの部屋は四人部屋だろう。しかし、中学生という年代と女子という高い声でこの部屋はうるさくなっている、と思いきや、この部屋は静かで、一人の女子が照らされたベッドに腰掛けており、その女子は大変悲しい、といった表情を浮かべている。
「はぁ・・・」と一つため息をついた女子はベッドに寝転びゴロゴロとしてみた。しばらく続けていると疲れ、一旦この動きを止める。そして、落ち着こうとしたとき、ふと、部屋の隅に置いてある自分のバッグに目が行く。
ベッドから降り、そのバッグからあるものを取り出す。それは
プリクラ、彼氏のように見える長身の男とこの女子の写っているもの。
それを女子は抱きしめ、もう一度それを見る。そのプリクラには猫のスタンプやペンで書いた猫が囲むように、二人の男女のピースと笑顔を輝かせている。そして、この女子しかいないところでその女子は言った。それは大変幸せそうに、まるで大事な人との関係がこれからもずっと続くように
「大好き、まつり」
その声は夜という時間で静寂に包まれている空間に、まるでどこかの劇場のように、響いたように女子には聞こえた。
あれから一時間ほどたった。大体今は十時近い。この時間になると、他の部屋に遊びに行っていた生徒たちは自室に戻るよう教師に促され、「今日で修学旅行の最後の夜が終わる」という言葉にすこし寂しささえも感じていた。
結局、音橋の部屋には羽切は来なかった。彼女は泣かなかった。それは表ではの話。心の中では、雨の日に傘を差し、はじいて地面にぼとぼとと落とすように。「私の何が悪かったのだろうか」「まつりは何処で何をしているんだろう」という不安が一度心に引っかかってから、もんもんと消えていく。まさに天気は曇天。どこに進んでも同じ景色しか見れないよう。
・・・ああ。私は付き合って一日目で何かまつりから嫌がられる事をしてしまったのだろうか。
そんなことを思っていると、教師が廊下に来て生徒に自室に帰れ、という声が聞こえ、音橋はルームメイトが返ってくることを考えると、観念し、掛け布団にもぐり、うずくまった。
しかし、そんな彼女を突き動かすあるものが、廊下から聞こえてくる。
それは大変小さいが、はっきりと、まるで耳元でささやかれたかのように聞こえた。
「まつり。あのさ、十一時くらいになったらまた女子階への階段に来てくれない?・・・さっきは、時間が少なかったから。」
「お願いです。まつり。私、まだ満足できてないんです。」
「はは、いいよ。俺は二人の傀儡だから・・・さ」
そして、「まつり」という言葉と最後の声は、まさしく「羽切 まつり」を差している。この声はまつりのだ。と、確定しているかのように、期待、不安、怒りなどを糧として全身の神経、筋肉が震え、呼応した。
そんな彼女の体はアヤツラレタように大雑把に掛け布団を払い、立ち上がり、走り、ドアノブをひねり手前に引く。
引くと、そこには廊下がある。その廊下は赤い絨毯のようなものでおおわれており、それを踏みしめる三人がいた。
それはドアの延長線上、音橋の目の前に、欲しかった、愛している「まつり」がいる。その姿に安堵し、全身の力が抜け・・・なかった。それはその愛している人の両腕に、わざとらしく胸を押し付け上目遣いで誘惑している女狐。否、上山と平賀がいたからだ。
「?!」
その光景を目にした音橋は言葉にならない音を発した。それに気づく三人は大変驚き、しかし、堂々とまつり以外はそこにいた。
すると平賀が
「あら、音橋さん。どうしたの?もうそろそろ部屋に戻った方がいいんじゃない?」
それに便乗した上山が
「そうですね。皆それぞれ早く戻りましょう。では、音橋さん、おやすみなさい。」
と、音橋の目の前にいた女らはまるで普通のことだ、と言うように颯爽と去って行った。
音橋は「このままではまつりとの距離が離れて行ってしまう」と考え、筋肉に電気を走らせ自分の今出せる力を本気で出す。そう、全力で走った。走ってとりあえずあの女狐の腕をまつりから払おうと、まるで穢れを落とすように、だ。
そして時はきた。音橋は両腕を胸の前で交差させた。それは交差させた腕を展開することで力を加えるレールが長くなり、当たるときに大きな力が加わるからだ。例えば、ボールを投げる時。狭い範囲でしか振られていない腕でボールを投げてもたいした記録は出ないが、思い切り後ろに体をひねり、腕を大きく振ることで、ボールの加速する時間が増えて、良い結果が出る。というようなことだ。
その力を加えた両腕を展開した。その先はしがみついている女狐の二の腕あたりだ。
当たる。
直後、ぱあん、と肉を打つ音が聞こえる。そう思った音橋に、想定外のことが起こる。
それは、
「ごめんなさい、音橋さん」
当たる直前。上山は身をのけぞらせ、イナバウアーのように音橋の腕を回避し、女狐を打つために重心が前に出ていた音橋の足元を蹴り、音橋のうなじを平手で打つ。そうすることで、前に重心がかかっていた音橋が浮き、一瞬空中で床と水平になった。そのまま落ち、音橋は倒れた。それに別れを告げるように、愛した人は
「ごめんよ音橋さん。」
と、大変他人行儀に誤り去って行った。
廊下には去りゆく三人の背中。床にうつぶせに倒れて動かない女子が、夜であり、静かな廊下の中で酷く哀れに見えた。
「なんでっ・・・。まつりっ・・・っ!ううぅ・・・。」
「あ、」から始まった泣きは、夜の帳に落ちてゆく。
やはり、この世は残酷だ。報われるもの、報われないもの、というのは出てくる。今の私は報われないものの方なのだなあ。そうやって自分は心の奥底でシンデレラのようにハッピーエンドになれるはずと思う。しかし、本来シンデレラだって、「もしあの時ガラスの靴を落とさなかったら?」王子は他の女性と結ばれていたかもしれない。そして「ガラスの靴の入らなかった人の気持ちは?」もちろん、ガラスの靴が入ったシンデレラを妬ましく思っただろう。そんなシンデレラだってもとは一人の女だ。だからこうやってシンデレラが結ばれたのは、「いくつもの、膨大な√の中から当たったもの」。
今回、羽切の彼女に選ばれたのはその√の中から選ばれたシンデレラ、まさしく音橋。つまり「そのシンデレラを妬むものが上山と平賀」
ああ、軌跡でも起きないかなあ。という希望は、彼氏に見捨てられたという絶望に「軌跡は起きないから軌跡と呼べるもの。その現象が仮にすごいからと言ってそれは奇跡ではない。条件がそろっただけ。つまり証明できるものは奇跡ではない」という冷静な判断がメルヘンな気持ちをばらばらに崩す。
音橋はふらふら立ち上がり、部屋へと向かった。それは羽切の部屋でなく「自分」の部屋であった。
それはまるで深い眠りから覚めるように、ゆっくりと目を開ける。
するとそこは薄暗く、不気味に小さい明りが照らしている。そしてそこには二つのピンク色と黒色がある。なんだ?と、思い、ぼんやりした視界をはっきりさせようと目をぱちぱちさせる。それをしたことによりぼんやりと歪んで見えていた物体は、鮮明にくっきりと見ることができた。
それは
「上山さんと平賀ぁ!?なんで二人とも水着なんだ?!あとなんで二人がいるんだ?!」
すると黒いスクール水着の平賀は
「もう、平賀じゃなくて美緒って呼んでよ」
そういって赤く照れた平賀を割って入るように上山が
「ねぇ、羽切君いいえまつり。私の彼氏になってくれませんか?」
「なんなんだよ!二人とも!どうしたんだ!?」
そんなおかしな、水着姿の女子二人が誘惑してくる状況からとりあえず距離を置こうと、いつの間にかベッドに横たわった体を起こそうとする。しかし
「えっ!?なんだよこれ!」
そう、手足がベッドに拘束されていて動けないのだ。そして、ベッドの横にはデジタルの時計があり、九時を示していた。
するとにこにこと笑みを浮かべた上山が
「無駄ですよ?私たちから逃げるなんて。」
「そうよ。もう抵抗せずに私たちの傀儡になりなさい。」
「なんなんだ!ぐっ!この!外れろ!」
薄暗い部屋に金属の拘束具がベッドの金属の脚に当たり冷たい音がただ鳴り響く。その音は実に「朝、幸せに眠っているときになる目覚まし時計のアラーム」のような不快な音の大音量は強い彼の示す抵抗だ。
「やめてよ。」と冷酷な声の平賀。そのまま一瞬の沈黙が起きるも平賀は続けた
「まつりがそうやって抵抗して騒音を出すとこの場所がばれる。ばれたら大変よ?何しろクラス委員と生徒会長が性的接触をしていたなんて言ったら。」
「おい!平賀!上山さん!外してくれよ!」
と、平賀のいうことには耳を貸さず今も抵抗として金属音を響かせている羽切はパッと、覚醒するようにあることを思い出す。
・・・そうだ、奏が部屋で待っているんだ!
その羽切にとって大事なことの重要性を説いてこの場を脱出したい、奏に会いたい。そう思って二人に理解してもらえるよう必死で説いてみる。
「ねぇ、二人とも。俺にはいかなければいけない場所があるんだ!」
その言葉に上山は即答だった。
「音橋さん。ですよね?」
「なぜそれを!」
「わかりますよ。だって、さっき女子の階に向かおうとしてましたね?それが彼女のもとへ行くということ以外にどうあり得るんですか?」
すると、平賀は不敵に、否、不気味に笑うと
「わかるわ、だって私たち、まつりと音橋さんの縁を切るキューピットだから。」
「は?」何を言っているんだこいつは、と思うと、平賀はあるものをビキニと尻の間から出す。
それは今日羽切が探していたもの。そう「ラブレター」だった。
「な、なんでそれを!」
「さっきね、担任のところに色仕掛け使ってちょこちょこっと「まつりについての情報」を聞き出したら、「これが羽切のバッグの中に入ってたんだ」と差し出してくれたの「ラブレター」を」
そして、さらに先ほどより崩れた笑みを浮かべた平賀は大変悲しんだように
「私たち、ずいぶんと落ち込んだわ。このラブレターの中身を読んで」
すると修学旅行前に何度も、何度も何度も書き直した文章を見せつけられた
~音橋さんへ~
俺は音橋さんのことが前から好きでした。
よければ返事を下さい。いやならそのラブレターはごみ箱に捨ててください。
でも、俺、本気だから。音橋さんと一緒にいたいんだ。
お願いします。
羽切より。
「ずいぶんまあ、変な文ね。」
「悪かったな!」
「でさ、今日の神社のこと、覚えてる?」
「あのおみくじのことか?」
「そう。でさ、私、「まつりと音橋さんの縁を切る」ものなのよ。そうしたら私とまつりは恋人同士になって、音橋さんとはさよならよ」
「お前何言って!」
「だからさ、」
平賀は大変真剣なまなざしでこちらを見下ろしてくる。若干の恐怖を感じながらも、平賀の顔を見返す。だがその真剣な顔はわずかな時間で距離を詰め、羽切の顔へととんだ。
「あらあら」と上山はそれを見ながらにやにやと笑っている。
「んっ!?やめっ!んんっ!?」
それは先ほどやられたものと同じキス、であった。しかし今度は先ほどより舌を絡ませ、否、強引に入れてきた。
そのキスを各班に与えられたカメラで上山は激写している。
羽切は顔を強引に横に振り、平賀の唇を振りほどく。
「さっきからなんなんだよ!俺と奏の縁を切るだの、彼氏になれだの。頭どこかにぶつけちまったのか!?」
と、叫んだ直後だった。羽切の視界は歪む、というよりか、ぼやけてきた。意識も朦朧としてきて、先ほどのように拘束具をぶつけて抵抗をすることもできなくなる。そんな弱弱しい状態でも羽切は言葉で抵抗した
「・・・おいっ!なんかの薬か?」
すると上山が
「いいえ。確かに確かに先ほど眠らせるためには使いましたが、今の平賀さんのキスに薬は使っていません。ですよね?平賀さん?」
ええ。と平賀は肯定した。
・・・じゃあこのボーっとする、どうでもいいや、と思えてくるこの状態はなんなんだ?
たぶん、と平賀が
「私達とシタイんじゃないの?それで、もう私たちに心を許して音橋さんのことをどうでもいいって思ったんじゃない?」
違う!と言ったつもりだった。しかしその声は実は心の中だけで叫ばれており、平賀と上山には聞こえていなかった。そんな自分に羽切は
・・・そうか、俺。もう奏のことどうでもいいなんて思ってたのか。通りで。先ほどからこの二人への意識が高まるばかりなのかなあ。
以前、否、ここへ来る前までの自分なら、「こんなこと間違ってる!」「俺には奏がいる!」とかすんなり言えるだろう。しかし今、平賀のキスで羽切の心はせき止めきれなくなっていた。
・・・ああ哀れだ。なんて情けないんだ。こんな俺に付き合わせた奏。否、音橋さんも可哀想だ。
だから。
もう俺はクズらしく、クズなことをしよう。ああそれがいい。流されるままに流されて、いつの間にか悲劇が起きたとしても、それは「クズだから」で済ませばいいじゃないか。もう嫌なんだ、人に気を使って、好感度を上げて。その例が時白だ。俺が少しの心の隙間を埋めただけであれだ。否、あれは心の隙間なんて埋めていない。隙間を埋めたのは表面だけで中身はスカスカだ。
もう気づくと羽切の頬には大粒の涙が小さな明かりに反射して、幾粒も流れる。
そして、言った。ちゃんと言えない、まるで不安定な足場に立つようにぐらぐらとした気持ちをそのままに
「・・・二人とも。俺の化けの皮を剥いでくれないか。そのために・・・」
振り絞る。
「俺は二人の傀儡になるからっ!」
涙を流して!
「俺を楽に溺れさせてくれはしないか・・・っ!」
二人、上山と平賀はまるで小さい子供のように泣きじゃくる羽切を見て、二人目を合わせた後、言った
「あなたがそれを望むなら」「叶えてあげるというのが」
「「私達の、私達としての役目だから」」
水着姿の二人は拘束されている羽切に身を重ね始めた。
ある部屋。そこには薄暗い明かりがベッドを照らしている部屋だった。そしてここには四人ほどのバッグが有る。つまりこの部屋は四人部屋だろう。しかし、中学生という年代と女子という高い声でこの部屋はうるさくなっている、と思いきや、この部屋は静かで、一人の女子が照らされたベッドに腰掛けており、その女子は大変悲しい、といった表情を浮かべている。
「はぁ・・・」と一つため息をついた女子はベッドに寝転びゴロゴロとしてみた。しばらく続けていると疲れ、一旦この動きを止める。そして、落ち着こうとしたとき、ふと、部屋の隅に置いてある自分のバッグに目が行く。
ベッドから降り、そのバッグからあるものを取り出す。それは
プリクラ、彼氏のように見える長身の男とこの女子の写っているもの。
それを女子は抱きしめ、もう一度それを見る。そのプリクラには猫のスタンプやペンで書いた猫が囲むように、二人の男女のピースと笑顔を輝かせている。そして、この女子しかいないところでその女子は言った。それは大変幸せそうに、まるで大事な人との関係がこれからもずっと続くように
「大好き、まつり」
その声は夜という時間で静寂に包まれている空間に、まるでどこかの劇場のように、響いたように女子には聞こえた。
あれから一時間ほどたった。大体今は十時近い。この時間になると、他の部屋に遊びに行っていた生徒たちは自室に戻るよう教師に促され、「今日で修学旅行の最後の夜が終わる」という言葉にすこし寂しささえも感じていた。
結局、音橋の部屋には羽切は来なかった。彼女は泣かなかった。それは表ではの話。心の中では、雨の日に傘を差し、はじいて地面にぼとぼとと落とすように。「私の何が悪かったのだろうか」「まつりは何処で何をしているんだろう」という不安が一度心に引っかかってから、もんもんと消えていく。まさに天気は曇天。どこに進んでも同じ景色しか見れないよう。
・・・ああ。私は付き合って一日目で何かまつりから嫌がられる事をしてしまったのだろうか。
そんなことを思っていると、教師が廊下に来て生徒に自室に帰れ、という声が聞こえ、音橋はルームメイトが返ってくることを考えると、観念し、掛け布団にもぐり、うずくまった。
しかし、そんな彼女を突き動かすあるものが、廊下から聞こえてくる。
それは大変小さいが、はっきりと、まるで耳元でささやかれたかのように聞こえた。
「まつり。あのさ、十一時くらいになったらまた女子階への階段に来てくれない?・・・さっきは、時間が少なかったから。」
「お願いです。まつり。私、まだ満足できてないんです。」
「はは、いいよ。俺は二人の傀儡だから・・・さ」
そして、「まつり」という言葉と最後の声は、まさしく「羽切 まつり」を差している。この声はまつりのだ。と、確定しているかのように、期待、不安、怒りなどを糧として全身の神経、筋肉が震え、呼応した。
そんな彼女の体はアヤツラレタように大雑把に掛け布団を払い、立ち上がり、走り、ドアノブをひねり手前に引く。
引くと、そこには廊下がある。その廊下は赤い絨毯のようなものでおおわれており、それを踏みしめる三人がいた。
それはドアの延長線上、音橋の目の前に、欲しかった、愛している「まつり」がいる。その姿に安堵し、全身の力が抜け・・・なかった。それはその愛している人の両腕に、わざとらしく胸を押し付け上目遣いで誘惑している女狐。否、上山と平賀がいたからだ。
「?!」
その光景を目にした音橋は言葉にならない音を発した。それに気づく三人は大変驚き、しかし、堂々とまつり以外はそこにいた。
すると平賀が
「あら、音橋さん。どうしたの?もうそろそろ部屋に戻った方がいいんじゃない?」
それに便乗した上山が
「そうですね。皆それぞれ早く戻りましょう。では、音橋さん、おやすみなさい。」
と、音橋の目の前にいた女らはまるで普通のことだ、と言うように颯爽と去って行った。
音橋は「このままではまつりとの距離が離れて行ってしまう」と考え、筋肉に電気を走らせ自分の今出せる力を本気で出す。そう、全力で走った。走ってとりあえずあの女狐の腕をまつりから払おうと、まるで穢れを落とすように、だ。
そして時はきた。音橋は両腕を胸の前で交差させた。それは交差させた腕を展開することで力を加えるレールが長くなり、当たるときに大きな力が加わるからだ。例えば、ボールを投げる時。狭い範囲でしか振られていない腕でボールを投げてもたいした記録は出ないが、思い切り後ろに体をひねり、腕を大きく振ることで、ボールの加速する時間が増えて、良い結果が出る。というようなことだ。
その力を加えた両腕を展開した。その先はしがみついている女狐の二の腕あたりだ。
当たる。
直後、ぱあん、と肉を打つ音が聞こえる。そう思った音橋に、想定外のことが起こる。
それは、
「ごめんなさい、音橋さん」
当たる直前。上山は身をのけぞらせ、イナバウアーのように音橋の腕を回避し、女狐を打つために重心が前に出ていた音橋の足元を蹴り、音橋のうなじを平手で打つ。そうすることで、前に重心がかかっていた音橋が浮き、一瞬空中で床と水平になった。そのまま落ち、音橋は倒れた。それに別れを告げるように、愛した人は
「ごめんよ音橋さん。」
と、大変他人行儀に誤り去って行った。
廊下には去りゆく三人の背中。床にうつぶせに倒れて動かない女子が、夜であり、静かな廊下の中で酷く哀れに見えた。
「なんでっ・・・。まつりっ・・・っ!ううぅ・・・。」
「あ、」から始まった泣きは、夜の帳に落ちてゆく。
やはり、この世は残酷だ。報われるもの、報われないもの、というのは出てくる。今の私は報われないものの方なのだなあ。そうやって自分は心の奥底でシンデレラのようにハッピーエンドになれるはずと思う。しかし、本来シンデレラだって、「もしあの時ガラスの靴を落とさなかったら?」王子は他の女性と結ばれていたかもしれない。そして「ガラスの靴の入らなかった人の気持ちは?」もちろん、ガラスの靴が入ったシンデレラを妬ましく思っただろう。そんなシンデレラだってもとは一人の女だ。だからこうやってシンデレラが結ばれたのは、「いくつもの、膨大な√の中から当たったもの」。
今回、羽切の彼女に選ばれたのはその√の中から選ばれたシンデレラ、まさしく音橋。つまり「そのシンデレラを妬むものが上山と平賀」
ああ、軌跡でも起きないかなあ。という希望は、彼氏に見捨てられたという絶望に「軌跡は起きないから軌跡と呼べるもの。その現象が仮にすごいからと言ってそれは奇跡ではない。条件がそろっただけ。つまり証明できるものは奇跡ではない」という冷静な判断がメルヘンな気持ちをばらばらに崩す。
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