√選びのメランコリー

松平 なま暗

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三学年対抗劇

三年二組「複雑な距離」

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 その時、暗い体育館にナレーターの声が聞こえた。

「彼の名を日間ひま咲軽さがると言った」
 スポットライトに当てられた男が前に出た。再びナレーターが

「彼は両親が遅くまで帰って来ない為、家の近くに住んでいる昔から仲の良い二歳ほど年上の丹羽たんば御崎みさきを家に招き、料理を作ってもらっていたり、勉強も教えてもらっていた。そう、彼女の両親も遅くまで帰って来ないのだ」
 スポットライトは日間から離れて丹羽を当てた。その時、舞台は暗くなり、数秒。そこは、日間の家だった。

「あああ、全然宿題終わんないよー。ほんと英語の田中、宿題多いわー。」
 床に座る日間は、卓上に乗せられた英語のテキストを、頭をガシガシ掻きながら解いていた。すると、日間の隣に、スマホをいじりながらの丹羽がいた。丹羽は、日間の文句を聞くように、話しかけた。

「何々、なんなのよー。手ー止まってるわよ」
 と、スマホから目を離して、丹羽に近づく。薄い服の下からピンク色の下着が透けていて、そちらに目がいくも、すぐにテキストに視線を戻し、

「この問題見てくださいよ!「Wake up」と「Get up」の違いは?とか意味わかんないっすよ!どっちも「起きる」みたいな意味でしょ!?わけわかんないYO!」
 と、持っていたペンを机に置いて、嘆く彼に、呆れた、というような顔をした丹羽は

「ほらほら、いじけない。「Wake up」は「目覚める」で、「get up」は「起きる」って意味で・・・」
 と、言っている途中で「同じじゃん!」と日間は言ったが、「最後まで聞け」と、促して説明に戻る。

「ちょっと違うのよ。「目覚める」。つまり、ベッドに寝てるとするでしょ?朝日とか、目覚ましで起きたときに、「目を開ける」ことだけが「Wake up」。ベッドから出て、起き上がった時点で「get up」なのよ。おーけー?」
 完璧に、馬鹿でもわかるくらい丁寧に教えきった丹羽は「本当に理解できているの?」と、小声で言うも、日間は聞いていない。

「は、はあ。面倒くさいもんなんですね。つらいつらい」
 あのさ、と丹羽はぎろりとした目で、

「その下手くそな敬語辞めてよ。。どう?」
 それに対して、少々焦った様子で

「いいですよ、別に。そんなの俺が小学校時代の時じゃないですか、さすがに年上の人には・・・」
 そうやって、長々、否定している日間に、とうとう怒った丹羽は、のあるものをポケットから取り出す。

「これ!これ見て!英語で言うと look at this !さあさあ、これなーんだ?」
 と、悪ふざけで、小悪魔、という感じの丹羽の持っていたのは、ある人のだった。
 それを知っているのか、とびかかるように日間はその写真を乱暴に取り返そうとするも、ひらりとかわされ

「なんでこれを持っているんですか?!」
 ぜえぜえ、と荒く息をはく彼に対し、丹羽は

「いやー、つい最近?咲軽の部屋はいったら?机の上に?一枚の写真が置いてあって?なんか可愛い娘だなあと?で?誰これ?好きな人?」
 ふふふ、といやらしい顔をする丹羽に、もう理性のかけらも無くなっていた日間は

「ああ!そうですよ!好きな人ですよ!悪いかあああ???」
 頭がおかしくなったのかな、と、そういう感じでキョトンと首をかしげる丹羽。そして

「へぇ、そうなんだ。へぇへぇ、そうなんだ。で、今どんな関係なの?」
 人の恋事情に興味津々の彼女は、にやにやと笑いながら問いかけてくる。それに

「なんでそんなのいわなくちゃいけないんですか?!」
 いやいや、と、

「この写真返してほしくないの?」
 急におとなしくなった日間に、再度問いかけた。

「おーけー?じゃあ、これからいう質問に、で、私のことを「御崎」と呼んで、さらに正確に答える事」
 めらめらと、揺れる怒りを、写真が返してもらえる、という事への安心で塗り替え、抑える。それにうんうん、とうなずき、丹羽は質問をした。

「まず、この娘はクラスメイト?」
「うん」
 ほうほう、と頷いて、次へ

「クラスメイト、という事だけが接点?」
「いや、同じ生徒会で、彼女は生徒会長。俺が副会長の関係だよ」
 へぇへぇ、

「名前は?」
桜ノ宮さくらのみや智代ともよ
 ほうほう、

「どのくらいいってるの?」
「いってるって、よくわからないけど。生徒会のことでよく話すし、帰りは途中まで一緒に帰るし、前に桜ノ宮さんの家に入れてもらったこともあるし・・・」
 はーん、と興味あるのかないのかわからない口調で答えた。

「おっけーあんがとあんがと。ほら、写真返すわ」
 ペラり、と手から放たれ、揺れ堕ちる写真を、痛めつけぬよう、つかんで、

「もう!今日は勉強する気にならないや!ねえ、御崎・・・夕ご飯つくってよ」
 御崎、と呼ばれたことなのか、それとも頼りにされていることからか、彼女は満面の笑みで「うんうん」と、答えて、台所へと消えて行った。
 その時、勉強に戻ろうとも思えなかった日間はふと、部屋をぐるっと見回す。すると、部屋の隅に立てかけるように置かれていた、に目がいった。

「・・・」
 日間は、まるで吸い込まれるかのように、そーっと、そーっと、その鞄に歩みよる。
 そして、大きく息を吸い、吐く。そして、鞄のチャックに手をかけ、見た。そこには、何故かケチャップと一枚の写真があった。暗くて見えないが、写真であることが分かったため、先ほどの恨みを晴らせるのでは?と思ってそれを取る。

「これは!?」
 それは、日間が風呂に入っている時の、全裸の写真だった。
 それに、ゆらりと、手をかけて、携帯ゲームを持つように両手で持つと、

「ふんぬっ!」
 横へと引き裂いた。そして、その写真を粉々に裂いてから、静かに鞄へとしまって、鞄へと手を合わせ、祈りを上げて、何事も無かったかのように机に戻った。



 しばらくして、丹羽が戻ってきた。

「はーい、おまたせ。今日はオムライスね」
 と、目の前に出されたオムライス。とても大きく、食べごたえが有りそうだ。台所に、自分の分のオムライスも取りに行き、机に置いて、食べようとしたとき、日間は気付いた。

「このオムライス。ケチャップがついてないんだけど、あ、そっか、今俺ん家、ケチャップ切らしてたわ」
 しかし、それに対し、にこにことほほ笑む彼女は、

「大丈夫よ。昨日来たときに、あ、ケチャップないじゃん。って思ったから家から持ってきたよー」
 あ、そうなんだ。と日間もニコニコと笑い返す。しかし、彼女のもってきたケチャップは、が!気付いた時にはもう遅い。

「あのー、これはどういう事かしら?」
 と、鞄をひっくり返し、落ちたケチャップの入れ物にまるで落ちる写真が・・・

「いや、あ、それは、あのっ、あ」

 直後、真っ暗になった。


 再び明るくなる時、それはもう丹羽が帰ろうと、玄関で靴を履いているところだった。

「じゃあ、私帰るね?また明日」
 そうやって、軽く手を振り、去ろうとした時に

「あ、忘れ物した、ちょっといい?」
 彼女にしては珍しいなあ、と思いながら

「俺がとってこようか?」
 しかし、彼女は「いい」とだけ言うと

「すぐ済むから」
 そして、日間に近づく彼女。しかしその日間はキョトン、とただ呆然と流れを待っていた。すると

「!?」
 彼女は日間の頬に、軽く、唇で触れたのだ。

「なにやってーーーーーーー」
 るんだ、と言い切る前に
「じゃあね」
 と、彼女は急ぎ駆けてゆく。

「なんなん、だろう・・・か」
 流れについて行けていない日間は、ただ、顔を赤くしながら立ち尽くしていた。

「どうしてだろう、俺は桜ノ宮さんが好きなのに、これじゃあまるでじゃないか・・・はは」

 再び暗転。

 今度は学校のとあるクラス。そう、そこは日間のクラスだった。
 日間は教科書などを整理したりして、カバンをロッカーにしまおうと席を立った時、前の席の女子のうなじに見とれていると、突然走ってくる者がいた。

「うわあぁぁ!ぶつかるー!」
「ひらり、と」
 言葉の通り、日間はひらり、と身を翻し、よけた。そして、ぶつかろうとしていた者は、後ろに合った壁にぶつかる。
 壁にあたり、鈍い音とともに、彼は、よろけながらもこちらを振り向き、

「なんでよけんだい!」
「お前がそう毎日ぶつかってくるからだろ!」
 と、急に舞台は暗くなる。そしてスポットライトでぶつかった彼は照らされて、ナレーションが。

「彼女は追川おいかわ 海人かいと。よくわからないの男子である。因みに席は日間の左後ろ」
 そういうと、再び舞台は明るくなり、日間が

「なんで毎日、毎日毎日毎日ぶつかってくるんだ!」
 すると、彼は

「日間くんのことが好きだからに決まっているじゃないか」
 と、なぜか不機嫌になり、自分の席へと戻ってしまった。まあ、近くの席なのだが。

 再び、暗くなり。明るくなり、放課後の場面。
 日間は「生徒会室」とかかれた部屋の前に立っていた。

「よし」
 と、気持ちを切り替え、入る。

「どうもー、遅れましたー」
 悪気がなさそうに遅れたことを謝罪する日間。それに返事をしたのは

「おそいぞ、日間。何分待たせるんだ」
 こちらを見ずに、座っていた彼女は手元の書類とにらめっこしている、生徒会長「桜ノ宮さくらのみや 智代ともよ」。その席の向かいに日間は座る。

「あれ?上矢かみやは?」
 中学の生徒会、といえば「生徒会長」「副会長」「書記」だ。

歩美あゆみは来ていない。なにか用事があって今日は休みだ」
「要するにさぼりか・・・」
 そして、「そんなことより」と桜ノ宮がいい、区切ると

「今回のイベントの件だ」
「ああ、「告白祭」ってやつか・・・。。って、なんであんなのが正式に許可されるんだよ」
 桜ノ宮は「知らん」と、言い。目の前の作業に集中しよう。と言って黙々と仕事を始めた。

 暗くなる。そして明るくなり。
 しかし、そこは薄暗い。校内放送が「下校時刻」だ。と告げたので、玄関に桜ノ宮と日間は靴を履きかえていた。他に、部活帰りの生徒もちらほらといる。
 すると、桜ノ宮が
「今日も一緒に帰らないか?」
「うん、そうしようか」
 しかし、
「雨・・・」
「あちゃー・・・」
 雨が玄関の外を濡らしている。(けなげにも、ブルーシートを下に敷いて上から水を落としていた)
 そして、
「私傘無い・・・」
「お、俺もだ・・・」
 じゃあ、と桜ノ宮は
「走って帰るしかないか・・・」
「ああ、俺の家、遠いのになあ、とことんついてない・・・」
 それなら、

「私の家来るか?結局そんなに近くないけど、日間よりは近いだろう?」
「いや、で、でもこんな雨の時に悪いよ・・・」
 と、即座に
「来て」
 断れなかった。
「わ、わかった」
 二人は雨が作る道をびしょびしょになりながら走り抜けた。


 再び舞台は変わり、桜ノ宮の家の玄関に着いた。

「ちょっとまっててくれ、タオル持ってくるから」
 と、小走りで廊下をかけて、風呂場?と思われる部屋に入り、しばらくしてタオルを自分の頭にのせて、もう一つ手に持ったタオルを日間へと投げた。

「ありがとう」
 ガシガシ、と無造作に髪をこする。次は顔、次は腕、脚、鞄、いろいろな部分をとにかくタオルで拭きとる。その時だった、

「風呂・・・先に入っていいぞ」
「!?」
 風呂、という単語に色々な妄想を抱いてしまった日間は顔を赤くしながら

「わ、悪いよ!先・・・というか俺は入らなくていいから、桜ノ宮入れよ。俺は雨が収まったらとっとと家に帰るから」
 しかし、

「じゃあ、一緒に入るか?」
「ななあななな、何バカなこと言って!?ああ、もう、凍えても知らんぞ!先入るからな!」
 彼女は無言頷き、肯定を示し、風呂へと促した。
 ・・・あれ?なんで風呂がもう湧いていたのだろう。準備良すぎじゃない?
 まあいい、と足を向かわせた。


 二人は、風呂に入り、彼女の部屋で雨がやむのを待っていた。

「雨、やまないな」
「ああ」
 沈黙。

「体、冷えてないか?」
「ああ」
 沈黙。
 ・・・気まずい。
 そうだ!、と桜ノ宮は

「私、お茶入れてくるよ。冷たいのと暖かいのどっちが良い?」
「暖かいので」
 了解、と彼女は部屋を出た。

「はー、それにしても・・・厳しそうな性格と正反対で、ずいぶんと可愛らしいお部屋だこと・・・」
 日間は、テーブルが置かれたカーペットの上に座ってるが、そのカーペットは白とピンクの水玉。白い、気品あるテーブル。しかし、対照的な無機質な学習机。ウサギの抱き枕が置かれたふかふかしてそうなベッド。どれをどう見ても、いや、一部を除いてか、女子の部屋。という感じだった。
 その時、たまたま日間の目に入ったものは学習机におかれた

「なんだ、あれ」
 彼女には悪いと思ったが、すでに立ち、手に紙を持っていた彼はその紙をよく見ると、文章が短く、か細い整った字で書かれた言葉に目を疑った。

「何時も、私の仕事を手伝ってくれてありがとう。私を見てくれていてありがとう。私はそんなあなたと居る時間がとても楽しく、貴重で、もっといたい、もっと深くつながりたい。私はあなたが好」
「何をしているの?」
「ひゃえっ!?」
 日間の背後にはトレーに湯気立つお茶を淹れた茶碗が二つ。それを白いテーブルにおいて、こちらに向かってきた。
 ・・・まずい!
 と、日間はばれないように、そっと元のように置いて、その近くにおいてあった「ウサギの消しゴム」を手に取り、

「いやあっ!この消しゴム可愛いなあ!」
 日間の手に持たれた未使用の消しゴム、それに彼女は

「だろう?可愛くて使えてないんだ、はは」
 で、と話題を切り替えた。
「その、見たんだろう?」
「!?いや、あの、っ、その・・・」
 やばい、殴られるか、けられるか、そんなことが頭をつつく。しかし、

「いいんだ。それはもともと日間に見せるものだったんだ」
「お、おおおおお、俺!?」
「ああ」
 彼女は珍しく照れくさそうにして、頬を赤く染めて、

「私と付き合ってくれないだろうか」
「・・・っ!?」
 動揺するのは当然だろう。好きだった女子から告白されたのだ。しかし、そんな隙を彼女は与えない。悲しそうな目で、下をみて、うつむき、

「やっぱり、私みたいな男口調な女は嫌か?まあ、それ以外にも駄目な点はいくらでもあると思うが・・・」
 そんなに卑下を彼女はするものだから

「もっ、もちろん!よろしく・・・お願いします」
「え、あっああ!ああ!」
 嬉しさのあまりか、飛びついてきた彼女。たちまち支えきれなくカーペットに倒れこむ。彼女は日間に馬乗り状態。しだいに彼女は顔を近づけ、その距離わずか十五センチ。近い、近すぎる。彼女の潤う涙交じりの目が
日間の目をとらえて離さない。離したくても離さない。そして、まだまだ近づく。口と口が交わろうとするとき
-------------------------

 ガチャリ、とこの部屋のドアが開いて、
智代ともちゃんー!おやつ食べ・・・・・ここに置いておくわねっ!」
「ああ!お母さん!ちょっと!」
 彼女の母親は早急にテーブルにおやつ、といわれた大学イモをおいて、去っていた。
 期待に満ち溢れていた日間は
「・・・」
 何かを失った気がした。しかし、

「ははは、悪いな、日間。いざこれから先と同じことをしようとすると勢いが足りずに恥ずかしい。日を改めよう・・・その、私たちはカップルなのだから・・・な?」
 彼女の、親に醜態を見られて、今にも泣きそうな顔をしている彼女。まあ、まだ焦るまい、と日間は

「そうだね、あっ、雨もやんだみたいだ。じゃあ、今日は帰らせてもらうよ
 語尾に彼女はお怒りだった。

「もう、これからはと呼んでくれ」
「ああ、わかった。じゃあ俺のことは咲軽って呼んでよ」
 二人は見詰め合い、様子をうかがいに来た彼女の母親が来るまで、幸せな時間が続いたという。


 場面は変わる。生徒会室だ。
 そんな場所に、生徒会長はいない。そこには、副会長と、書記の二人が、椅子に座り、向かい合って話をしていた。

「おい、上矢。次の告白祭、お前出場するのか?」
 うーん、と可愛らしく考え込んだあと、指をたてて、

「多分出場しないかな。多分、多分ね」
 へー、とだけ日間は挨拶。そして話題を作ったのは書記だった。

「ねえ、日間」
 なにやらとても恥ずかしそうに照れる、そんな彼女を見た日間はなぜかこっちまで照れてしまった。

「これ見てよ」
 と、彼女は来ていた制服をはだけ、華奢で白い肩がのぞく。
「お、おいっ!何して・・・」
「私ね、日間のことが好きだったのっ!だから!」
 席を立ち、座る日間のもとへと行き、顔を近づけて、唇を重ねる。
「んんっ!?」
 必死で起きた現象に逆らう。そして彼女は離れた。しかし、女子にはだけた姿でキスされたため、気が動転しそうだ。

「どうしたんだよ!?」
「だからぁ、」
 日間を椅子から突き落とす。そのまま受け身もできずに倒れた日間の背中を床は強打した。そして、今。書記はうつぶせに倒れた副会長の背中に乗り、はだけた若い体を引っ付ける。

「好きだっ、て言ってるでしょう?」
「ああ、」
 細い腕で副会長の制服を剥いでゆく。そのとき、日間はちょっとうれしそうだった。


 場面は変わり、日間の家。今日も丹羽は来ていた。しかし、昨日とは打って変わって違うのが。

「ちょっ!御崎!?」
 湯船につかる彼のもとへ丹羽が裸でタオルもまかずに来ていた。

「一緒にお風呂に入ってあ・げ・る」
「はあっ!?何言ってん?!あっ!」
 彼女は恥ずかしがるそぶりも見せず、平然と湯船に入ってくる。

「はあー!いつ振りだっけ?こうやって一緒にお風呂入んの」
「し、しらない・・・」
 特別日間の家の風呂は広いわけではない。ぎゅうぎゅうで、お互いの肌が密着し、暖かい。日間の腕に彼女の腰が当たる。

「あっ、ごめ・・」
「いいよ」
「は?」
 だから、と日間の腕を持って自分の胸に持って行って、

「咲軽なら、どこ触ってもいいよ・・・」
 はじめて恥ずかしがるそぶりを見せた。それにたいして日間は動けない。しかし、

「咲軽の、好きな人だと思って練習していいよ?」
 好きな人、という言葉に日間は思い返す。
 御崎とのキスと現状か。
 桜ノ宮という彼女であるのか。
 上矢と、イイコトをしたことか。
 追川とぶつかって・・・ないな。
 しかし、今、日間にとっての彼女は勿論桜ノ宮だ。しかし、桜ノ宮と過ごしたことより、書記の上矢と御崎との日々。刺激がより強いのは桜ノ宮という彼女ではない。だ。
 そして、動かない日間に対して疑問を浮かべた御崎は、提案を打ち明ける。

「ねぇ、咲軽。もし、今咲軽の好きな人が・・・私なら・・・桜ノ宮さんのことは忘れて私を抱いてくれない?」
 彼女は日間の前にいるが、声が震えているのでおそらく緊張しているのだろう。彼女にしては珍しい。
 そして、日間は昔からの長い付き合いである御崎がほおっておけなくて。桜ノ宮といてもこういうことができないと思って、

「うん」
 そのまま二人は狭い風呂場で体を重ねあった。


 場面は変わって放課後。皆部活も終わり、下校時刻となった時。
 生徒会室にはいつも通り三人いた。
 生徒会長と副会長、書記である。三人は帰ろうと荷物をまとめる。そのとき生徒会長は副会長のもとへ歩み寄り、

「今日、一緒に帰れないだろうか・・・」
 小声で、書記に聞こえないように言う。しかし、その先でワイシャツ姿だった書記の透けた下着に目を奪われ、反応が遅れる。

「あっ!いや、ごめん。今日早く家に帰りたいんだ。だから、また
 今度、という言葉はあてにならない。いつ来るかわからない。 
 その言葉に対して桜ノ宮は少し悲しそうな表情をして、
「ああ、わかった・・・」
 と言って、早々先に帰ってしまった。

 じゃあ、

歩美書記。頼むよ」
「うん」
 書記は先ほどからなっていたワイシャツ姿からより肌色になったその姿で、歩み寄り、

 日間に抱きしめられた。


 場面は変わって、書記と楽しんだあと、日間宅。リビングで

「咲軽ぅ!今日はこんなのどう?」
 とその姿は小さいスク水。

「どどどどどど、どおって、すごくいいよ」
 しかし、今の日間はまんざらでもなかった。と、その前に彼女はいう。

「そういえば、明後日って告白祭でしょ?ちょっと面白そうだから私も行くわ」
「告白するようなことが有るの?」
「ええ」
 ふーん、と愛想なく返すと、大事なことなんだから、と彼女は言って、スク水姿で日間に倒れこんだ。

 その時、ふわり、とカーテンが浮いた。

「みーちゃった」


 次の日の帰り、告白祭の一日前。

「よし、明日の告白祭の準備も終わりだな。じゃあ帰るか」
 三人の生徒会は変える支度をする。そして、昨日と同じように生徒会長が
「今日、一緒に帰れないか?」
「う、うんいいよ」


 そして、帰り道で

「咲軽。でさ、たとえばの話だ」
「うん?」
 ポケットから写真を取り出す。そしてそれを日間に見せるように持ち

「彼氏が他の女と性的関係を持っていた場合ってさ、どうやって罰せばいいと思う?」
「はっ!?」
 彼女に持たれた写真は「日間と上矢がーーーしているもの」と「日間と御崎がリビングでーーーしているもの
」。彼女は手でそれを仰ぐと。

「どうすればいいと思う?」
 とても、お怒りだった。

 やばいあばあやばいあやばやいあばあいあばやばい!そんな日間によいイベントが脳裏をよぎる。

「いやー!じゃあ明日の告白祭で解決しようじゃないか!」
「・・・すべてはそこで決まるのね。私を選ばなければ咲軽、お前を殺す!」

 日間は逃げた。


 そして、御崎と上矢に「実は俺、桜ノ宮と付き合ってたんだけど、お前と突きあってることばれて、やばいから、明日の告白祭で決めることとなった」と、自分でもなぜこれで逃げられたのかわからず、ただ明日という恐怖に襲われながら事は進んだ。



 そして、その時。
 ステージには桜ノ宮と御崎と上矢、(どこからか嗅ぎつけた)追川がいた。そして、司会が

「えー、ではエントリーナンバー23番。日間 咲軽さん、どうぞ」
 マイクを渡され、日間はたくさんの人の前で言う。

「俺は、桜ノ宮さんと付き合っています。彼女です。しかし、この二人、丹羽さんと上矢さんと性的関係だったことが桜ノ宮さんにばれて、たいへんやばいんです。だから、この場で、はっきり俺の好きな人を一人きめます!」
 あれ?僕は?と追川は言うが気にしない。



 今、ステージには桜ノ宮役の音橋が。御崎役の平賀が。上矢役の上山が、(追川役の時白が)いる。

 現実では、羽切は音橋と付き合っている関係にある。しかし、修学旅行での平賀と上山との関係で、ごちゃごちゃとなっていた。それをはっきりさせるため、劇と現実を混ぜ、ヒロインとして選ばれた人が現実でも羽切の彼女という事となっている。勿論、テーマパークの夜、音橋と誓い合った二人。

「俺は、」
 俺たちは彼女だ。だから、修学旅行の日の夜、あの二人との関係はもう忘れよう。そう思っても彼の頭からあの二人が離れない。思わず、印象の強かった

「智代、済まない、やっぱりお前が好きだ。」
 ・・・どうせこの劇が終わったところで音橋だけと関わる必要はない。なら、今は安全√を

「有難う、やっぱり選んでくれると思ったよ」
 桜ノ宮が。否、音橋がぼろぼろと涙を流し、羽切に抱きついた。しかしー



 劇が終わった。優勝は向こうで、理由はこちらが「性的表現の酷使」という事でそうなった。
 そして、現実。見事、音橋とハッピーエンドを迎えた羽切。
 これで、音橋は「ほかの女に羽切はとられないだろう」という事になるはずだったが、

「あっ!久しぶりっまつりの!」
「は、はやくしてくださいぃっ!」
「ああ待ってろよ、二人ともっ!」

 言葉はやはり表面上でしかないもの。本当に愛すという事はお互いに不足が無い状態でなければならない。

 三年対抗劇。完。
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