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何気ない日常
がっこうせいかつ2
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羽切は、平賀に引っ張られ、帰ろうとした時、ふと「自転車」の存在に気付いた。
平賀には「先帰ってて、自転車で追いつくから」といい、幸い学校からあまり離れていない道を一人で突っ走る。汗をかき、制服が暑いと、ワイシャツ姿になる。ひたすら走る。風を切る音が耳に何度も入り、五月蠅く思えた。
しばらく走り、ようやく我が中学の校門へと着く。多少の達成感で、身は安堵しきり、多少の尿意を覚える。自転車を取る前にトイレへ行こうか、そう思い、校庭を、玄関を越え、廊下、階段を駆ける。ワイシャツ姿の身軽になった体は、彼を阻まない。抵抗がまるで無いように、すいすいと進む。二階、男子トイレ。そこから出てきたのは用を足した羽切。すっきりついでに、あ、そういえば英語の課題が出てたんだ。と思いだし、教室へと向かう。
☆
先ほど。眠りから羽切が目覚めた時より、日は落ち、教室がきもち暗くなった気がする。もう自分の席から窓を見ても、眩しい、という事はない。さっさと机の引き出しから(置き勉)英語のテキストを取り出そうとしかし―――――――――――――無い?
否、そんなはずはない。あ、そうだ、掃除のとき、引出しに入りきらないから幾つかロッカーに入れた気がする。そして羽切はロッカーへ。しかしそこには保健体育や家庭科のどうでもよい教科ばかり。何故、そう考え振り向いたとき――――――――――テキストを持つ、音橋が教室へと入ってくる。
なぜ彼女が自分のテキストを持っているかは知らない。しかし自分のものであるものが他人に持たれているという事には流石に看過できない。とりあえず、
「や、やあ。奏。どうしてこんな時間に?もうとっくに下校から時間は過ぎているはずだけど」
彼女は持っていたテキストを握りしめ、
「ちょっと・・・・・確認することが有って」
・・・・・確認すること?それがどうして僕のテキストに結びつくんだ。
だから、手を前に出して、
「なあ、その持ってるテキスト。見せてくれないか?さっきから探してるんだけど、無くて」
「いいよ・・・・・」
彼女は意外とあっさり了承。受け取り、手渡しされた時、彼女の左手に赤のインクがついていた。
まあ、と、羽切はテキストの裏を見ると、ちゃんとそこには「羽切 まつり」と書かれている。
その直後。羽切は、「聞いてはならない」ことに、興味、好奇心がわいてしまい、手を出す――――――――。
「あのさ、なんで僕のテキストを持っていたんだ?」
言った。言ってしまった。そして、その答えは、
「英語の課題が有って、私なくしちゃったみたいで。それで教室を探してかがみながら進んでたら、まつりの引き出しに幾つもの教科書類があって。それで今さっき、教務室で印刷してもらってきたの。私の家、コピー機ないから。ごめん、勝手に使って・・・・・」
そ、そうなのか。普通な回答だ。と思い、
「じゃあな。また明日」
そう言って、この気まずい空気から脱出しよう。そう思った時、背を音橋に向けたとき。不意に後ろから抱きつかれた。
「な、何してるんだ?!」
「私っ」
静寂。
「私、私はまつりのことが好き。否、大好き」
「きゅ、急にどうしたん―――」
羽切が話している途中。割って入る。
「だから、なんで平賀と、笑って、一緒に帰って、手まで握って!私と帰れなかったのは、平賀と帰るため?!それとも何?!修学旅行で「好き」って言ってくれたのに、もう他の女と変な関係は持たないって思って安心して喜んだのにっ」
溜めて、
「どうしてなのっ!」
雷のように、鋭く、体に響く一声。普段のおとなしい彼女からは想像できず、クラスメイトが聴いたら驚くだろう。
叫ぶと同時に彼女は羽切の股間部を右手で柔らかくなぞり、首を左手中指でこするように、スーッ、と通す。耳元に顔を出来るだけ近づけ、背伸びをして、
「だからね、まつり。あの女にしてること。私もしてあげるからっ、ね?」
「っ」
ゾクっと。羽切は寒気を感じた。修学旅行の夜。本来はこのようなことをしようとしていたはず。しかし、今、音橋に言われたことは、
・・・・・つまらない。
羽切には、あの二人のように、もっと強く、もっと激しく、もっと優しく、もっと愛が有って―――――――背徳感が無いといけない。
後ろで音橋が、「気持ち良くするから」「ぜったいあの女たちよりいいから」と、言ってくるが、それが本当に羽切にとって、いいのか。そんなの、やってみなければ、分からないっ!
直後、羽切は全身を回転させ、音橋を振りほどく。そして振りほどき、急な反動で、後退した彼女を、そのまま右に在った机に押し倒す。
・・・・・田中。済まない。童貞のお前の席で、やるぞ。
「ちょっ、まつり、痛いっ!」
ああ、痛いに決まっている。彼女の着ていた制服の下、ワイシャツの下から右手を潜らせ、下着に包まれた小ぶりな胸を鷲掴みにし、反対の手で、スカート内部に手を入れ、机と音橋に挟まれながら、強引に尻をこね揉む。
・・・・・そうだっ、そうだそうだそうだっ!これくらいの背徳感。そして相手の痛みを感じてなお、初めてこういう他人に尽くそうとする女は価値がでるっ!
自分でも、抑えきれない、強欲、性欲。しかし、これを鎮めるには、やはり
「強引にっ!お前の望み通りにしてやるぜ!」
引きちぎれんばかりに揉んだ胸を離すと、羽切はスカートを脱がし、下着も剥ぎ取った。
☆
「はあ~、早くまつり来ないかなあ」
平賀宅。既に羽切と別れてから、珈琲豆をミルで擦り、ドリップ用の粉末状にし、クッキーは、明るい配色の大皿に幾つも置かれている。あとは羽切が来てからお湯を沸かし、珈琲を入れるだけだ。
・・・だけど、クッキーには紅茶のほうが良かったかな、
しかし、既に挽いた珈琲豆を見ると、もう手遅れか、まあ良いだろう、と妥協。どうせ、珈琲もクッキーに合うはずだし。
ああ、
早く早くと彼を求めるたび、胸が高鳴り、期待が膨らみ、音橋に悪いか、と、罪悪感も今は感じないどころか、優越にすら感じられる。
☆
薄暗い、赤の色がぼんやりとしか感じられない場所。衣擦れの音、ベルトの金具がぶつかる音。そして興奮からきた、一定でない荒い息。静かだ。まるで山奥に来ているように。
「なあ」
男の声だ。
「どうだったよ・・・・・僕の相手は、」
机の上でうつぶせに倒れている女に向かって言う。また、その女は半裸だ。そして、女の返答は、
「痛・・・・・。き、気持ち、良かったよ、まつりは?」
顔は見えない。しかし、声の震え、小さな声。体の硬直。これらから、彼女は辛そうだ。それにまつりは、
「僕?そうかあ、まあ、まあ良かったよ。あの二人よりはアレ・・・・・だけどな」
直後。その言葉がまるで傷口に消毒液が入ったように、痛みからか、何からか、女は跳ねるように起き上がり、机の上に腰を掛ける。そして、着替え終わった羽切に、
「どうすればっ、どうすれば!あの二人より上に立てるの?!」
彼女の目には涙が溜まり、落ち、机にぶつかり、弾け、飛ぶ。まるでこれは朝の登校時に、ヘルメットに溜まった雨が落ちるのを思い出す。
そんなことはどうでもいい。どうすれば、どうすれば、
・・・・・コイツをより利用できるか。
だから、言ってやった。
「簡単だ。僕に認められる人材になればいい・・・・・」
「具体的に?」
「それを考えるのが宿題だろ?」
「問いかけに問いかけを投げるのは良くない。だから、」
だから、に続く言葉が来る前に、羽切は、
「んなことどうでもいいんだ。どうした?別に奏、君に好かれようが好かれまいがもう僕はどうでもいい。平賀と上山がいるからねえ!じゃあ、」
じゃあ、ここで質問だ、と
「君は何故、ここまでして僕のことを好きに、否、好きでいられるんだ」
彼女は目をみて、答えた。
「まつりが好きだから。ただそれだけ」
「否、そんな答えは認められない。「何故」と聞いているんだ。理由だ、理由」
それは、
「・・・・・」
彼女は口ごもる。よほど何か言いたいことが無いのか。それとも、言うには恥ずかしい、ことでもあるのだろうか。
「言え」
「・・・っ!」
口ごもっているものに対しては、何か「押し出す」きっかけとなる、脅迫が必要だ。そして、正面の彼女は、言った。言いたかったことを、しぶしぶ、吐き出すように、
「まつりが、まつりが告白してくれた時。「猫は好き」って言ってくれたから。おばあちゃん、言ってたの。ああ、私、生まれてすぐにお母さんが亡くなって、お父さんは仕事が忙しくて全然見れないし。それでね、おばあちゃんが家に来て、おばあちゃん、言ってくれたの」
呼吸。
「猫が好きな人に悪い人はいない、って。」
「・・・・・」
彼女は俯きながらも、しかし、うっすら笑って、淡々と、
「その言葉が・・・・私にとって、すごく心の支えになったよ。ああ、私は猫が好きだから、悪い人じゃないんだって。でも、おばあちゃんも・・・・・中学三年になると同時に亡くなって、さ。もう、ダメだと思った。でも、そのおばあちゃんの言葉と、修学旅行でまつりが「猫は好き」って言ってくれたこと、この二つが、今の私を支えて――――――――――
まだ、うれしそうにかなしそうに、語っている音橋の言葉を遮って、言葉というナイフを、音橋に突き刺した。
「僕は猫が、否、動物が大嫌いだ」
☆
上山は、生徒会の仕事がひと段落つき、「十分後に生徒会室集合」という事で、廊下を水飲みがてら、ふらついていた。
彼女は体育館近くにある冷水器まで向かう途中。階段を下りている時。耳に甲高い、引きちぎれるような悲嘆が通過した。
「何事ですか?!」
聞いた音は人から出たもの。そして甲高いことからおそらく女子(声の高い男子もいるかもしれない)か。悲嘆が指すのは「恐怖」「裏切り」からくるような、圧倒的な嫌気。つまり、この階の教室で、泣き叫ぶ女子がいるのかもしれない。こんな時間、部活動や委員会の生徒しかいなく、もしかしたら先ほどの悲嘆は幻聴だったかもしれない。自分も生徒会やら授業やらで疲れている。それにテスト勉強のために夜更かしも続き、体にも負荷がかかっている。面倒くさい、確認するのが面倒くさい。そうだ、さっきも思ったけど幻聴かもしれない。私には関係が無い。
そうやって、無視を選択し、冷水器へと足を向かわせようとした時、
「う」 から始まる悲鳴が、再度、彼女の耳へと入り、神経を震えさせると、
彼女は階段を冷水器とは反対に、声のする廊下へと走った。
☆
「うあああぁぁぁっ!」
「うるさいなあ、なかないでくれよ」
まつりは目の前の泣き叫ぶ女にイライラしていた。
・・・・・ったく、そこまでのことか?
「おいおいおいおいおいおいおいおい、落ち着けって。確かに、あの時は「猫は好き」って言ったけどさ、あるだろ?好きな相手に自分をよく見せようと「嘘」をつくのって。よくある事だろ?」
「違うっ!違うよぉっ!私ぃっ、嘘なんてついてないっ!」
「いやいや、実は薄々、僕のことも嫌いになってるんでしょ?」
「大好きっ、大好きだからあっ!」
「なんで、なんでなんだよっ。なんで心の支えを失った今の君は、僕のことを好きなんて言えるんだ?」
半裸の、彼女のあざと擦り傷のついた体をみて、羽切は
「こんなに、綺麗なキャンパスをっ、穢して、汚して、なんで、どうして好きだと言えるんだよっ!?」
「そんなのっ」
泣き止んだ。廊下から、だいぶ向こうから走ってくる足音が聞こえる。
「私が初めて恋した人、だからに、決まってるじゃんかぁ!」
「っ」
「小学校のころからね、いいと思ってたの。でも、小学校の頃、まつり、彼女いたでしょ?「上山さn――――――――――ん?、んっ!?」
彼女が驚きの表情を浮かべる事となった原因は、
「何、してるんですか。二人とも?」
また、彼女も半裸の音橋と、それに向かい合う羽切。夏間近の蒸し暑い教室にむせ返る、汗及び、体液のにおい。それらに、引くように、上山は、ただ、立ち尽くしていた。
平賀には「先帰ってて、自転車で追いつくから」といい、幸い学校からあまり離れていない道を一人で突っ走る。汗をかき、制服が暑いと、ワイシャツ姿になる。ひたすら走る。風を切る音が耳に何度も入り、五月蠅く思えた。
しばらく走り、ようやく我が中学の校門へと着く。多少の達成感で、身は安堵しきり、多少の尿意を覚える。自転車を取る前にトイレへ行こうか、そう思い、校庭を、玄関を越え、廊下、階段を駆ける。ワイシャツ姿の身軽になった体は、彼を阻まない。抵抗がまるで無いように、すいすいと進む。二階、男子トイレ。そこから出てきたのは用を足した羽切。すっきりついでに、あ、そういえば英語の課題が出てたんだ。と思いだし、教室へと向かう。
☆
先ほど。眠りから羽切が目覚めた時より、日は落ち、教室がきもち暗くなった気がする。もう自分の席から窓を見ても、眩しい、という事はない。さっさと机の引き出しから(置き勉)英語のテキストを取り出そうとしかし―――――――――――――無い?
否、そんなはずはない。あ、そうだ、掃除のとき、引出しに入りきらないから幾つかロッカーに入れた気がする。そして羽切はロッカーへ。しかしそこには保健体育や家庭科のどうでもよい教科ばかり。何故、そう考え振り向いたとき――――――――――テキストを持つ、音橋が教室へと入ってくる。
なぜ彼女が自分のテキストを持っているかは知らない。しかし自分のものであるものが他人に持たれているという事には流石に看過できない。とりあえず、
「や、やあ。奏。どうしてこんな時間に?もうとっくに下校から時間は過ぎているはずだけど」
彼女は持っていたテキストを握りしめ、
「ちょっと・・・・・確認することが有って」
・・・・・確認すること?それがどうして僕のテキストに結びつくんだ。
だから、手を前に出して、
「なあ、その持ってるテキスト。見せてくれないか?さっきから探してるんだけど、無くて」
「いいよ・・・・・」
彼女は意外とあっさり了承。受け取り、手渡しされた時、彼女の左手に赤のインクがついていた。
まあ、と、羽切はテキストの裏を見ると、ちゃんとそこには「羽切 まつり」と書かれている。
その直後。羽切は、「聞いてはならない」ことに、興味、好奇心がわいてしまい、手を出す――――――――。
「あのさ、なんで僕のテキストを持っていたんだ?」
言った。言ってしまった。そして、その答えは、
「英語の課題が有って、私なくしちゃったみたいで。それで教室を探してかがみながら進んでたら、まつりの引き出しに幾つもの教科書類があって。それで今さっき、教務室で印刷してもらってきたの。私の家、コピー機ないから。ごめん、勝手に使って・・・・・」
そ、そうなのか。普通な回答だ。と思い、
「じゃあな。また明日」
そう言って、この気まずい空気から脱出しよう。そう思った時、背を音橋に向けたとき。不意に後ろから抱きつかれた。
「な、何してるんだ?!」
「私っ」
静寂。
「私、私はまつりのことが好き。否、大好き」
「きゅ、急にどうしたん―――」
羽切が話している途中。割って入る。
「だから、なんで平賀と、笑って、一緒に帰って、手まで握って!私と帰れなかったのは、平賀と帰るため?!それとも何?!修学旅行で「好き」って言ってくれたのに、もう他の女と変な関係は持たないって思って安心して喜んだのにっ」
溜めて、
「どうしてなのっ!」
雷のように、鋭く、体に響く一声。普段のおとなしい彼女からは想像できず、クラスメイトが聴いたら驚くだろう。
叫ぶと同時に彼女は羽切の股間部を右手で柔らかくなぞり、首を左手中指でこするように、スーッ、と通す。耳元に顔を出来るだけ近づけ、背伸びをして、
「だからね、まつり。あの女にしてること。私もしてあげるからっ、ね?」
「っ」
ゾクっと。羽切は寒気を感じた。修学旅行の夜。本来はこのようなことをしようとしていたはず。しかし、今、音橋に言われたことは、
・・・・・つまらない。
羽切には、あの二人のように、もっと強く、もっと激しく、もっと優しく、もっと愛が有って―――――――背徳感が無いといけない。
後ろで音橋が、「気持ち良くするから」「ぜったいあの女たちよりいいから」と、言ってくるが、それが本当に羽切にとって、いいのか。そんなの、やってみなければ、分からないっ!
直後、羽切は全身を回転させ、音橋を振りほどく。そして振りほどき、急な反動で、後退した彼女を、そのまま右に在った机に押し倒す。
・・・・・田中。済まない。童貞のお前の席で、やるぞ。
「ちょっ、まつり、痛いっ!」
ああ、痛いに決まっている。彼女の着ていた制服の下、ワイシャツの下から右手を潜らせ、下着に包まれた小ぶりな胸を鷲掴みにし、反対の手で、スカート内部に手を入れ、机と音橋に挟まれながら、強引に尻をこね揉む。
・・・・・そうだっ、そうだそうだそうだっ!これくらいの背徳感。そして相手の痛みを感じてなお、初めてこういう他人に尽くそうとする女は価値がでるっ!
自分でも、抑えきれない、強欲、性欲。しかし、これを鎮めるには、やはり
「強引にっ!お前の望み通りにしてやるぜ!」
引きちぎれんばかりに揉んだ胸を離すと、羽切はスカートを脱がし、下着も剥ぎ取った。
☆
「はあ~、早くまつり来ないかなあ」
平賀宅。既に羽切と別れてから、珈琲豆をミルで擦り、ドリップ用の粉末状にし、クッキーは、明るい配色の大皿に幾つも置かれている。あとは羽切が来てからお湯を沸かし、珈琲を入れるだけだ。
・・・だけど、クッキーには紅茶のほうが良かったかな、
しかし、既に挽いた珈琲豆を見ると、もう手遅れか、まあ良いだろう、と妥協。どうせ、珈琲もクッキーに合うはずだし。
ああ、
早く早くと彼を求めるたび、胸が高鳴り、期待が膨らみ、音橋に悪いか、と、罪悪感も今は感じないどころか、優越にすら感じられる。
☆
薄暗い、赤の色がぼんやりとしか感じられない場所。衣擦れの音、ベルトの金具がぶつかる音。そして興奮からきた、一定でない荒い息。静かだ。まるで山奥に来ているように。
「なあ」
男の声だ。
「どうだったよ・・・・・僕の相手は、」
机の上でうつぶせに倒れている女に向かって言う。また、その女は半裸だ。そして、女の返答は、
「痛・・・・・。き、気持ち、良かったよ、まつりは?」
顔は見えない。しかし、声の震え、小さな声。体の硬直。これらから、彼女は辛そうだ。それにまつりは、
「僕?そうかあ、まあ、まあ良かったよ。あの二人よりはアレ・・・・・だけどな」
直後。その言葉がまるで傷口に消毒液が入ったように、痛みからか、何からか、女は跳ねるように起き上がり、机の上に腰を掛ける。そして、着替え終わった羽切に、
「どうすればっ、どうすれば!あの二人より上に立てるの?!」
彼女の目には涙が溜まり、落ち、机にぶつかり、弾け、飛ぶ。まるでこれは朝の登校時に、ヘルメットに溜まった雨が落ちるのを思い出す。
そんなことはどうでもいい。どうすれば、どうすれば、
・・・・・コイツをより利用できるか。
だから、言ってやった。
「簡単だ。僕に認められる人材になればいい・・・・・」
「具体的に?」
「それを考えるのが宿題だろ?」
「問いかけに問いかけを投げるのは良くない。だから、」
だから、に続く言葉が来る前に、羽切は、
「んなことどうでもいいんだ。どうした?別に奏、君に好かれようが好かれまいがもう僕はどうでもいい。平賀と上山がいるからねえ!じゃあ、」
じゃあ、ここで質問だ、と
「君は何故、ここまでして僕のことを好きに、否、好きでいられるんだ」
彼女は目をみて、答えた。
「まつりが好きだから。ただそれだけ」
「否、そんな答えは認められない。「何故」と聞いているんだ。理由だ、理由」
それは、
「・・・・・」
彼女は口ごもる。よほど何か言いたいことが無いのか。それとも、言うには恥ずかしい、ことでもあるのだろうか。
「言え」
「・・・っ!」
口ごもっているものに対しては、何か「押し出す」きっかけとなる、脅迫が必要だ。そして、正面の彼女は、言った。言いたかったことを、しぶしぶ、吐き出すように、
「まつりが、まつりが告白してくれた時。「猫は好き」って言ってくれたから。おばあちゃん、言ってたの。ああ、私、生まれてすぐにお母さんが亡くなって、お父さんは仕事が忙しくて全然見れないし。それでね、おばあちゃんが家に来て、おばあちゃん、言ってくれたの」
呼吸。
「猫が好きな人に悪い人はいない、って。」
「・・・・・」
彼女は俯きながらも、しかし、うっすら笑って、淡々と、
「その言葉が・・・・私にとって、すごく心の支えになったよ。ああ、私は猫が好きだから、悪い人じゃないんだって。でも、おばあちゃんも・・・・・中学三年になると同時に亡くなって、さ。もう、ダメだと思った。でも、そのおばあちゃんの言葉と、修学旅行でまつりが「猫は好き」って言ってくれたこと、この二つが、今の私を支えて――――――――――
まだ、うれしそうにかなしそうに、語っている音橋の言葉を遮って、言葉というナイフを、音橋に突き刺した。
「僕は猫が、否、動物が大嫌いだ」
☆
上山は、生徒会の仕事がひと段落つき、「十分後に生徒会室集合」という事で、廊下を水飲みがてら、ふらついていた。
彼女は体育館近くにある冷水器まで向かう途中。階段を下りている時。耳に甲高い、引きちぎれるような悲嘆が通過した。
「何事ですか?!」
聞いた音は人から出たもの。そして甲高いことからおそらく女子(声の高い男子もいるかもしれない)か。悲嘆が指すのは「恐怖」「裏切り」からくるような、圧倒的な嫌気。つまり、この階の教室で、泣き叫ぶ女子がいるのかもしれない。こんな時間、部活動や委員会の生徒しかいなく、もしかしたら先ほどの悲嘆は幻聴だったかもしれない。自分も生徒会やら授業やらで疲れている。それにテスト勉強のために夜更かしも続き、体にも負荷がかかっている。面倒くさい、確認するのが面倒くさい。そうだ、さっきも思ったけど幻聴かもしれない。私には関係が無い。
そうやって、無視を選択し、冷水器へと足を向かわせようとした時、
「う」 から始まる悲鳴が、再度、彼女の耳へと入り、神経を震えさせると、
彼女は階段を冷水器とは反対に、声のする廊下へと走った。
☆
「うあああぁぁぁっ!」
「うるさいなあ、なかないでくれよ」
まつりは目の前の泣き叫ぶ女にイライラしていた。
・・・・・ったく、そこまでのことか?
「おいおいおいおいおいおいおいおい、落ち着けって。確かに、あの時は「猫は好き」って言ったけどさ、あるだろ?好きな相手に自分をよく見せようと「嘘」をつくのって。よくある事だろ?」
「違うっ!違うよぉっ!私ぃっ、嘘なんてついてないっ!」
「いやいや、実は薄々、僕のことも嫌いになってるんでしょ?」
「大好きっ、大好きだからあっ!」
「なんで、なんでなんだよっ。なんで心の支えを失った今の君は、僕のことを好きなんて言えるんだ?」
半裸の、彼女のあざと擦り傷のついた体をみて、羽切は
「こんなに、綺麗なキャンパスをっ、穢して、汚して、なんで、どうして好きだと言えるんだよっ!?」
「そんなのっ」
泣き止んだ。廊下から、だいぶ向こうから走ってくる足音が聞こえる。
「私が初めて恋した人、だからに、決まってるじゃんかぁ!」
「っ」
「小学校のころからね、いいと思ってたの。でも、小学校の頃、まつり、彼女いたでしょ?「上山さn――――――――――ん?、んっ!?」
彼女が驚きの表情を浮かべる事となった原因は、
「何、してるんですか。二人とも?」
また、彼女も半裸の音橋と、それに向かい合う羽切。夏間近の蒸し暑い教室にむせ返る、汗及び、体液のにおい。それらに、引くように、上山は、ただ、立ち尽くしていた。
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